異世界の剣聖女子 外伝集

みくもっち

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4 《アライグマッスル》御手洗剛志(みたらいつよし)

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 正義とは何か。
 わたしは常に己に問いただしてきた。

 いつの時代にもヒーローはいる。
 姿かたちは違えど、人々がそれを求めているからだ。
 
 今の時代には、すでに新しいヒーローがいる。
 わたしに夢中になった世代は大人となり、結婚し、子供もいるかもしれない。
 
 彼らが自分の子供に見せるTVヒーローは、もちろんわたしではない。最新の特撮技術やCGを駆使した、クールでスタイリッシュなヒーローなのだ。

 わたしのような時代遅れの熱血ヒーローの役目は終わった。そしてわたしの特撮俳優としての役目も──終わったはずだった。

 しかし今、わたしは再び必要とされている。この異世界、シエラ=イデアルで。

「早く逃げろ! あとはわたしに任せるのだ!」

 村人達を逃がし、わたしは魔物どもの前に立つ。

「魔物どもめ、このわたしが相手だ」

 相手の魔物はゴブリンとかいう下級魔物だが、集団で行動する厄介な相手だ。
 近頃、魔物の出没頻度が増している。村を襲うなど滅多になかったはずだ。

 ギィギィ言いながらゴブリンどもが周りを取り囲む。わたしは身構えながら叫んだ。

「こい! この御手洗剛志みたらいつよしが相手だ!」

 正面のゴブリンが棍棒を振りかざして襲ってきた。かわしながら膝蹴りのカウンター。

「ぬぅん、なんのっ」

 次は左からのゴブリン。強烈な左フックを醜悪な横っ面に叩き込んでやった。
 
「どうした、そんなものか!」

 しかし、背後から二匹のゴブリンに掴まれた。振りほどこうと暴れるが、ダメだ。
 コイツらはいったん相手が怯むと、かさにかかって襲いかかる。
 次々と飛びかかられ、わたしは膝をつく。

「ぬう、こうなったら……」

 力を振り絞り、両手の拘束だけは解けた。すかさず革ジャンの中からある物を取り出す。

 空からナレーションが降ってきた。

「すでに本編を見た方は知っているだろう! 御手洗剛志は神秘の仮面、ラクーンマスクを被ると正義と筋肉の味方、《アライグマッスル》へと変身するのだ! さあ、今だ、御手洗剛志!」

「そぉぉうちゃあぁーーくっ!(装着)」

 叫び、取り出したマスクを被る。
 ほとばしる閃光、巻き起こる爆発。
 ゴブリンどもを吹き飛ばしながらポーズを決めた。

 我ながら美しく、雄々しい姿だ。
 アライグマをモチーフにした流線形フォルムのマスク。ムキムキのマッスルボディに、可愛らしい縞模様シッポ。こういう愛らしさも人気には必要だ。

 ゴブリンどもは戸惑いながらもギャワギャワと再び攻撃を開始。
 わたしは拳を握り締め、叫んだ。

「くらえ、必殺ラクーンパンチ!」

 派手な炸裂音。一撃でゴブリン数体を宙に舞わせた。

 油断はできない、次がくる。ジャンプして攻撃をかわす。
 そこから──。

「ラクーンキック!」

 伝説のアライグマスター直伝の蹴り。
 この地をも揺るがす蹴りの威力に、ゴブリンどもは恐慌をきたして逃げ去っていく。

 いや、逃げないヤツがまだ三匹残っていた。
 今までのヤツらよりひとまわり大きい。名はたしかホブゴブリンとかいう魔物だ。

 不恰好なつぎはぎの鎧兜や錆びた剣を装備している。
 少し手強そうだ。ならば──。
 わたしはおもむろに縞模様のシッポを引き抜く。
 初めて見る者は驚くかもしないが、このシッポは脱着可能である。そしてわたしがこれにむむむと力を込めたならば、必殺武器アライグマッシャーと化すのだ。

 ホブゴブリンがゴフッ、ゴフッ、とヨダレを垂らしながら武器を振り回す。
 アライグマッシャーで受け止める。  
 受け止めながら、アライグマッシャーはズズズ、と巨大化していく。

 「機は熟した。いくぞ! ラァスカァーーッル!」

 これも初めて聞く者は驚くが、わたしの感情がたかぶった時に発する、気合いのかけ声である。
 尊敬するわが師、アライグマスターから教わった慈愛と勇気の意味がこもった言葉なのだ。

 アライグマッシャーを一閃。
 まとめて三匹、ホブゴブリンを村の外まで吹っ飛ばした。 

 遠巻きに見ていた村人から喝采が巻き起こった。子供たちが手を振っている。

 そう、この世界ではわたしはまだ必要とされている。
 わたしは──《アライグマッスル》は戦い続ける。この新たな地で。
 こちらも手を振りながら固く心に誓った。
 
 魔物達は退けたが、近くの洞窟が発生源らしい。ヤツらが再び来る前に、こちらから乗り込んでやる。

 一人で敵のアジトに乗り込むのは現役時代に慣れっこだ。
 久々ではあるが、腕が鳴る。

 変身を解き、いつもの姿に戻る。
 村人達の声援を背に受けながら、わたしは一人向かう。敵のアジトへと。

 哀愁漂うBGMが流れる。
 ル~ルルル~。おお~、アライグマッスルー、マッスル~、マッスル~、正義の仮面~。

 そしてラストには次回予告のナレーション。空から大音量で降ってくる。

「戦え、《アライグマッスル》! 負けるな、《アライグマッスル》! 良い子のみんな! 次回、魔物の巣窟、御手洗剛志危機一髪。忘れずに見てくれ! そして本編も忘れるな! 彼の更なる活躍が見られるぞっ」
 
 
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