異世界の剣聖女子 外伝集

みくもっち

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5 《覇王》黄武迅(ウォン・ウーシン)

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 王都まであと2、3キロといったところか。
 ようやくデカブツの姿を捉えた。

 ミリアムが押さえていたおかげだろう。よく超級魔物相手に一人で持ちこたえたもんだ。
 いや、あえて一人で挑んだのだろう。超級には数で対抗しても意味がない。無駄な犠牲が増えるだけだ。
 
 ギガオーガ。デケェ、背丈はマジで王城ぐらいある。まさに巨人だ。灰色の肌にボサボサの髪。手には極太の棍棒。

 ミリアムが遠距離から攻撃をしかけている。
 お、いま使ったのはレオニードの技か。移動しながら高速で矢を射かけている。

 ギガオーガは知能が低いのが弱点だ。ミリアムをバカ正直に追い回している。
 ある地点でヤツの右足が地面に埋まった。これもある願望者デザイアの能力か、それともミリアムが仕掛けた罠か。どちらにしろチャンスだ。

 ミリアムが接近して攻撃を加えようとしている。
 おいおい、俺が行くまで待ってろよな。
 ミリアムが持っている本の1ページを引き破り、手には長剣が入れ替わるように現れる。

 ギガオーガが足を引き抜こうともがいているところに、跳躍して斬りつける。
 なんだ、あいつらしくない。不用意に近づきすぎだ。

 ギガオーガには大してダメージを与えていないようだ。当然だ、あんな棒切れみたいな剣で倒せるほど超級魔物は甘くない。

「仕方ねぇな。あ、やべ」

 背に手を伸ばすが、いつもの槍がない。あれは鋼竜との戦いでぶん投げたまま、どっかいってしまった。
 あれは特注の槍に、ある程度時間をかけて願望の力を込めて作った代物だ。
 いくら俺が超越者リミットブレイカーでも、ほいほい出せるもんじゃない。
 
「ぶん殴るしかねぇな」

 ある程度近づいたところで馬から飛び降りた。
 そこからは自分の脚で駆ける。

「おい、こっちだ! デケェの!」

 ミリアムからこちらに注意を向けるため、叫ぶ。
 ギガオーガが虚ろな目でゆっくりと見た。

「王! 遅いですよ!」

  ミリアムが本をめくりながら叱責。まったく、あいつの前では王の威厳もなにもあったもんじゃない。

「お前はあぶねぇから下がってろ! あとは俺がやる!」

 ギガオーガの棍棒が振り下ろされる。回り込みながらかわす。ズン、と地面が揺れた。

 跳躍し、埋まってないヤツの左足の膝の上へ。そこからさらに飛び上がる。
 攻撃一つするにもこれだ。デカイヤツはマジで面倒くせぇ。
 

 ちょうど顔面の位置。五発の拳打を放った。
 ゴッ、ゴゴゴッ、グシャッ。 
 確かな手応え。鼻の骨を砕いたようだ。
 鼻血を吹き出しながら倒れるギガオーガ。倒れた勢いで、右足が抜けた。

 俺の基本的な能力は、願望の力をとにかく純粋な攻撃力に変えてぶちかますものだ。
 単純だが、威力は見ての通り。超級魔物相手にも十分なダメージを与えられる。

 さて、ここからどうするか。手っ取り早くこの地に封印するか。
 あれ、封印ってどうやるんだっけか? 随分久しぶりだから記憶があいまいだ。

 考えている間にギガオーガが動き出す。ああ、面倒くせぇから、このまま倒すことに決めた。

 ギュイイイ、と機械音。なんだ、と目を向けると、ミリアムが回転式多銃身機関銃ガトリングガンを構えて射撃態勢。おいおい、待て待て。
  
 ズギャギャギャギャギャ、と凶悪な銃弾の雨がギガオーガを貫いていく。
 デカブツは叫びながら左手でガードしたが、たちまち無惨な肉片となって飛び散った。
 うお、えげつねえ。こりゃ俺の出番はないか?

 連射が終わり、辺りには硝煙と土煙が立ち込め、ギガオーガの姿が見えなくなった。

 気を抜いたのか、ミリアムがトドメを刺しに近づく。
 
「バカッ、まだだ!」

 頭上から巨大な影。間に合うか。
──ドンッ。
 右腕一本で棍棒の一撃を受け止めた。だが、超いてぇ。右腕は完全にイカれた。

 ミリアムは無事だ。俺の足元で倒れているが、怪我はない。
 
 グアアオオッ。
 片手を失い、全身血まみれのギガオーガが棍棒を振り上げる。

 うるせぇよ。黙って──死んどけ。

 願望の力を一気に高める。身体に負荷がかかり過ぎるから何度も使えないが、喰らわせてやる。
 願望の力を極限まで高め闘気の塊にした。それを左拳に乗せて放つ。

「ぅおらあぁっ!」
 
 放った闘気は振り下ろされた棍棒を打ち砕き、ギガオーガの胸板をぶち抜いた。

 ゆっくりと前のめりに倒れる巨人。おお、このままだと下敷きになっちまう。
 ミリアムを担ぎ上げて離脱。大きな地響きを立て、ギガオーガは完全に沈黙した。

「手間取らせやがって。昔の俺と一緒にすんなよ」

 まだ修行中の頃、仲間とともにシエラ=イデアル中の危険な魔物どもを狩りまくった。
 中でもコイツら超級は、多くの仲間を失いながらも倒しきれず、当時は封印するのでやっとだった。

「王、そろそろ降ろして下さいませんか……」

 そうだった。ミリアムを担いだままだった。
 降ろしてやると、ミリアムは不機嫌な顔で俺に詰め寄る。

「王、あなたは……御自身の事を第一に考えなければらぬ身……それなのにこんな無茶を! わたくしなんかを助けるなんて!」

 おいおい、助けてまで怒られるのかよ、俺は。
 苦笑しながら口笛を吹き、馬を呼び寄せた。
 
 

 
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