SRPG転生王女 〜お気に入りキャラの中から結婚相手を選びます~

みくもっち

文字の大きさ
7 / 50

7 夜営

しおりを挟む
 帝国本国からの追撃を撃退。だけど駐屯軍も動き出してるだろうし、こっちでもわたしたちの首には懸賞金がかけられている。
 一刻も早くレジスタンス軍に合流したいとこなんだけど、むこうもなかなか動きがとれないみたい。

 わたしたちは大きな街道を避け、できるだけ山や森の中を選んで進んだ。
 森の中でみつけた小さな廃城でその日は夜営をすることになったんだけど。

 夜営をするための準備。わたしも何か手伝おうとしたんだけど、ウルリクに強く止められてしまった。姫様は城の中で休んでおいてくださいってさ。
 こんなボロ城で休むっていってもね。それにみんな働いてるのにわたしだけじっとしているのも気が引ける。
 ウルリクとセヴェリン王子、アグナーは敵が近づいてこないか周囲の見回りに行ってしまった。
 
 エイナルは食料確保のために狩猟へ。クラーアは山菜と薬草採り。ヴィリは薪を拾いに。
 廃城で留守番になったのはわたしことアネリーゼ姫。そして護衛のゴリ……いや、ホルガーだ。

 これはマズイ。非常にマズイ。
 これ、親密度が上がった時のイベントじゃん。

 その時点で親密度がトップなキャラとアネリーゼ姫がふたりきりになるってやつ。
 なんでセヴェリン王子やウルリクじゃなくてこのゴリラなんだ。

 そもそも親密度って、お互いを想う気持ちじゃないの? わたし、この類人猿に1ミリも好感を抱いてないんだけど。
 やはりアレか。アレがマズかったのか。

 マップ6でずっと隣同士でいたこと。
 そして敵ユニットとの戦闘で共闘……すなわちコンビネーションアタックが発動してたっぽい。

 なんだコレ……客観的に仲良さそうだなって見えると親密度が上がったとみなされるのか? ゲームみたいに数値化されないからホントに分かりにくい。

 わたしが廃城の石段に腰かけている目の前をホルガーはウロウロしている。
 なんだ、鼻の穴ふくらませて頬を赤らめやがって。ふたりきりだからって何を期待してるんだ。わたし、王女様だよ? お前みたいなゴリラが気安く声かけたり手を握ったり……いや、近づいたり視線を向けたりするのも本来許されないのに。

「姫様。皆がいなくて不安でしょうが、このホルガーがいれば安心です。どんな敵が来ても姫様を守り抜いてみせましょう」

 どうだろうか。今は敵の襲撃よりもゴリラとふたりきりのほうが危険な気がする。
 このホルガー、ゲームでもアネリーゼ姫にぞっこんだって設定なんだよね。元は農民だったけど、騎士団に入ったのもレジスタンスに加わったのもアネリーゼ姫を慕ってるからなんだって。

 このホルガーとも結婚できてしまうのだが、その攻略の難易度はとにかく低い。
 ちょろっと隣接したり、回復魔法かけてやると簡単に親密度が上がってしまうのだ。百合ルートも恐ろしいが、このゴリラルートも絶対に避けたい。

 そのホルガーは、立ち止まって熱い視線をこちらに向けてくる。

「ただ身体が頑丈で打たれ強いだけの俺が騎士団に入れただけでも光栄なことだったのに。今はこうして姫様の護衛ができるなんて感激です。帝国の侵攻で国も騎士団も崩壊してしまいましたが……姫様ならきっと再興できると信じています。俺も今はまだ重歩兵ファランクスですが、いつかは鉄甲兵カタフラクトにクラスチェンジしてさらなる活躍をしてみせます」

 はいはい、がんばってねー。ゲームじゃ便利な壁役とか囮役で敵中に突っ込ませてたけど。
 クラスチェンジしようがレベルアップしようがゴリラはゴリラ。人類に到達することはない。アネリーゼ姫と結婚しようだなんて無謀な夢を抱くんじゃないぞ? 
 
 突然ガサガサと前方の木々の枝が揺れた。わたしは立ち上がり、ホルガーは振り返って槍を身構える。

「誰だっ!」

 ホルガーの鋭い声。おお、こんなときに敵の出現か。このゴリラを囮にしてわたしは逃げてしまおう。
 ふたりで敵と戦うなんて危険だし、これ以上親密度が上がるのも困る。

 わたしがゴリラを置き去りにトンズラしようとしたとき、木々の間から姿を現したのは──腰に何羽もの野鳥をぶら下げた、弓兵アーチャーのエイナルだった。

「……獲物、たくさん獲れた。晩飯の用意しよう」

 この普段はボーッとしてて何考えてるかわかんない灰髪の青年。戦闘のときはビシッと決めるんだけど、その前髪で両目が完全に隠れてる髪型……目隠れキャラってやつ? それ弓使う人にどーなのよ? って突っ込みたくなる。

 ともかくホルガーとのふたりきりの状況は避けられた。
 続いて薪を拾いに行っていたヴィリと野草、薬草を採りに行っていたクラーアも戻ってくる。

 見回りに行った者たちが戻ってくる前に夕食の準備を済ませておこうという話になった。

「姫様は不器用なんだから食材切るのも味付けも出来ないでしょ。料理はわたしたちに任せといて。あ、水汲みくらいは出来るか。んー、でもさすがに姫様にやらせるわけにはいかないよね。ジャマだからあっち座ってて」

 クラーアに言われ、わたしは内心ムカつきながら言われたとおりにする。

 ナメやがって。たしかにわたしは料理できないけども。家庭科の成績2だけども。
 こんにゃろう……アネリーゼ姫の幼なじみだかなんだか知らないが随分な言いぐさじゃないか。わたし自身はお前みたいな女に親しみの欠片も持ってないんだからな。いつか無礼討ちにしてやる。

 外見上はニコニコしながら殺気を込めてクラーアに視線を送る。
 悔しいがクラーアはさすがに手際がいい。エイナルとともに野鳥をさばいているが、あんなのとてもわたしには出来ない。

 さばいた鳥肉をヴィリとホルガーが火で炙る。
 おい、火はしっかりと通せよ。野鳥なんて寄生虫とか病原菌とかいそうだ。デリケートな現代人のわたしに生焼けの肉なんて渡すんじゃあないぞ。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...