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7 夜営
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帝国本国からの追撃を撃退。だけど駐屯軍も動き出してるだろうし、こっちでもわたしたちの首には懸賞金がかけられている。
一刻も早くレジスタンス軍に合流したいとこなんだけど、むこうもなかなか動きがとれないみたい。
わたしたちは大きな街道を避け、できるだけ山や森の中を選んで進んだ。
森の中でみつけた小さな廃城でその日は夜営をすることになったんだけど。
夜営をするための準備。わたしも何か手伝おうとしたんだけど、ウルリクに強く止められてしまった。姫様は城の中で休んでおいてくださいってさ。
こんなボロ城で休むっていってもね。それにみんな働いてるのにわたしだけじっとしているのも気が引ける。
ウルリクとセヴェリン王子、アグナーは敵が近づいてこないか周囲の見回りに行ってしまった。
エイナルは食料確保のために狩猟へ。クラーアは山菜と薬草採り。ヴィリは薪を拾いに。
廃城で留守番になったのはわたしことアネリーゼ姫。そして護衛のゴリ……いや、ホルガーだ。
これはマズイ。非常にマズイ。
これ、親密度が上がった時のイベントじゃん。
その時点で親密度がトップなキャラとアネリーゼ姫がふたりきりになるってやつ。
なんでセヴェリン王子やウルリクじゃなくてこのゴリラなんだ。
そもそも親密度って、お互いを想う気持ちじゃないの? わたし、この類人猿に1ミリも好感を抱いてないんだけど。
やはりアレか。アレがマズかったのか。
マップ6でずっと隣同士でいたこと。
そして敵ユニットとの戦闘で共闘……すなわちコンビネーションアタックが発動してたっぽい。
なんだコレ……客観的に仲良さそうだなって見えると親密度が上がったとみなされるのか? ゲームみたいに数値化されないからホントに分かりにくい。
わたしが廃城の石段に腰かけている目の前をホルガーはウロウロしている。
なんだ、鼻の穴ふくらませて頬を赤らめやがって。ふたりきりだからって何を期待してるんだ。わたし、王女様だよ? お前みたいなゴリラが気安く声かけたり手を握ったり……いや、近づいたり視線を向けたりするのも本来許されないのに。
「姫様。皆がいなくて不安でしょうが、このホルガーがいれば安心です。どんな敵が来ても姫様を守り抜いてみせましょう」
どうだろうか。今は敵の襲撃よりもゴリラとふたりきりのほうが危険な気がする。
このホルガー、ゲームでもアネリーゼ姫にぞっこんだって設定なんだよね。元は農民だったけど、騎士団に入ったのもレジスタンスに加わったのもアネリーゼ姫を慕ってるからなんだって。
このホルガーとも結婚できてしまうのだが、その攻略の難易度はとにかく低い。
ちょろっと隣接したり、回復魔法かけてやると簡単に親密度が上がってしまうのだ。百合ルートも恐ろしいが、このゴリラルートも絶対に避けたい。
そのホルガーは、立ち止まって熱い視線をこちらに向けてくる。
「ただ身体が頑丈で打たれ強いだけの俺が騎士団に入れただけでも光栄なことだったのに。今はこうして姫様の護衛ができるなんて感激です。帝国の侵攻で国も騎士団も崩壊してしまいましたが……姫様ならきっと再興できると信じています。俺も今はまだ重歩兵ですが、いつかは鉄甲兵にクラスチェンジしてさらなる活躍をしてみせます」
はいはい、がんばってねー。ゲームじゃ便利な壁役とか囮役で敵中に突っ込ませてたけど。
クラスチェンジしようがレベルアップしようがゴリラはゴリラ。人類に到達することはない。アネリーゼ姫と結婚しようだなんて無謀な夢を抱くんじゃないぞ?
突然ガサガサと前方の木々の枝が揺れた。わたしは立ち上がり、ホルガーは振り返って槍を身構える。
「誰だっ!」
ホルガーの鋭い声。おお、こんなときに敵の出現か。このゴリラを囮にしてわたしは逃げてしまおう。
ふたりで敵と戦うなんて危険だし、これ以上親密度が上がるのも困る。
わたしがゴリラを置き去りにトンズラしようとしたとき、木々の間から姿を現したのは──腰に何羽もの野鳥をぶら下げた、弓兵のエイナルだった。
「……獲物、たくさん獲れた。晩飯の用意しよう」
この普段はボーッとしてて何考えてるかわかんない灰髪の青年。戦闘のときはビシッと決めるんだけど、その前髪で両目が完全に隠れてる髪型……目隠れキャラってやつ? それ弓使う人にどーなのよ? って突っ込みたくなる。
ともかくホルガーとのふたりきりの状況は避けられた。
続いて薪を拾いに行っていたヴィリと野草、薬草を採りに行っていたクラーアも戻ってくる。
見回りに行った者たちが戻ってくる前に夕食の準備を済ませておこうという話になった。
「姫様は不器用なんだから食材切るのも味付けも出来ないでしょ。料理はわたしたちに任せといて。あ、水汲みくらいは出来るか。んー、でもさすがに姫様にやらせるわけにはいかないよね。ジャマだからあっち座ってて」
クラーアに言われ、わたしは内心ムカつきながら言われたとおりにする。
ナメやがって。たしかにわたしは料理できないけども。家庭科の成績2だけども。
こんにゃろう……アネリーゼ姫の幼なじみだかなんだか知らないが随分な言いぐさじゃないか。わたし自身はお前みたいな女に親しみの欠片も持ってないんだからな。いつか無礼討ちにしてやる。
外見上はニコニコしながら殺気を込めてクラーアに視線を送る。
悔しいがクラーアはさすがに手際がいい。エイナルとともに野鳥をさばいているが、あんなのとてもわたしには出来ない。
さばいた鳥肉をヴィリとホルガーが火で炙る。
おい、火はしっかりと通せよ。野鳥なんて寄生虫とか病原菌とかいそうだ。デリケートな現代人のわたしに生焼けの肉なんて渡すんじゃあないぞ。
一刻も早くレジスタンス軍に合流したいとこなんだけど、むこうもなかなか動きがとれないみたい。
わたしたちは大きな街道を避け、できるだけ山や森の中を選んで進んだ。
森の中でみつけた小さな廃城でその日は夜営をすることになったんだけど。
夜営をするための準備。わたしも何か手伝おうとしたんだけど、ウルリクに強く止められてしまった。姫様は城の中で休んでおいてくださいってさ。
こんなボロ城で休むっていってもね。それにみんな働いてるのにわたしだけじっとしているのも気が引ける。
ウルリクとセヴェリン王子、アグナーは敵が近づいてこないか周囲の見回りに行ってしまった。
エイナルは食料確保のために狩猟へ。クラーアは山菜と薬草採り。ヴィリは薪を拾いに。
廃城で留守番になったのはわたしことアネリーゼ姫。そして護衛のゴリ……いや、ホルガーだ。
これはマズイ。非常にマズイ。
これ、親密度が上がった時のイベントじゃん。
その時点で親密度がトップなキャラとアネリーゼ姫がふたりきりになるってやつ。
なんでセヴェリン王子やウルリクじゃなくてこのゴリラなんだ。
そもそも親密度って、お互いを想う気持ちじゃないの? わたし、この類人猿に1ミリも好感を抱いてないんだけど。
やはりアレか。アレがマズかったのか。
マップ6でずっと隣同士でいたこと。
そして敵ユニットとの戦闘で共闘……すなわちコンビネーションアタックが発動してたっぽい。
なんだコレ……客観的に仲良さそうだなって見えると親密度が上がったとみなされるのか? ゲームみたいに数値化されないからホントに分かりにくい。
わたしが廃城の石段に腰かけている目の前をホルガーはウロウロしている。
なんだ、鼻の穴ふくらませて頬を赤らめやがって。ふたりきりだからって何を期待してるんだ。わたし、王女様だよ? お前みたいなゴリラが気安く声かけたり手を握ったり……いや、近づいたり視線を向けたりするのも本来許されないのに。
「姫様。皆がいなくて不安でしょうが、このホルガーがいれば安心です。どんな敵が来ても姫様を守り抜いてみせましょう」
どうだろうか。今は敵の襲撃よりもゴリラとふたりきりのほうが危険な気がする。
このホルガー、ゲームでもアネリーゼ姫にぞっこんだって設定なんだよね。元は農民だったけど、騎士団に入ったのもレジスタンスに加わったのもアネリーゼ姫を慕ってるからなんだって。
このホルガーとも結婚できてしまうのだが、その攻略の難易度はとにかく低い。
ちょろっと隣接したり、回復魔法かけてやると簡単に親密度が上がってしまうのだ。百合ルートも恐ろしいが、このゴリラルートも絶対に避けたい。
そのホルガーは、立ち止まって熱い視線をこちらに向けてくる。
「ただ身体が頑丈で打たれ強いだけの俺が騎士団に入れただけでも光栄なことだったのに。今はこうして姫様の護衛ができるなんて感激です。帝国の侵攻で国も騎士団も崩壊してしまいましたが……姫様ならきっと再興できると信じています。俺も今はまだ重歩兵ですが、いつかは鉄甲兵にクラスチェンジしてさらなる活躍をしてみせます」
はいはい、がんばってねー。ゲームじゃ便利な壁役とか囮役で敵中に突っ込ませてたけど。
クラスチェンジしようがレベルアップしようがゴリラはゴリラ。人類に到達することはない。アネリーゼ姫と結婚しようだなんて無謀な夢を抱くんじゃないぞ?
突然ガサガサと前方の木々の枝が揺れた。わたしは立ち上がり、ホルガーは振り返って槍を身構える。
「誰だっ!」
ホルガーの鋭い声。おお、こんなときに敵の出現か。このゴリラを囮にしてわたしは逃げてしまおう。
ふたりで敵と戦うなんて危険だし、これ以上親密度が上がるのも困る。
わたしがゴリラを置き去りにトンズラしようとしたとき、木々の間から姿を現したのは──腰に何羽もの野鳥をぶら下げた、弓兵のエイナルだった。
「……獲物、たくさん獲れた。晩飯の用意しよう」
この普段はボーッとしてて何考えてるかわかんない灰髪の青年。戦闘のときはビシッと決めるんだけど、その前髪で両目が完全に隠れてる髪型……目隠れキャラってやつ? それ弓使う人にどーなのよ? って突っ込みたくなる。
ともかくホルガーとのふたりきりの状況は避けられた。
続いて薪を拾いに行っていたヴィリと野草、薬草を採りに行っていたクラーアも戻ってくる。
見回りに行った者たちが戻ってくる前に夕食の準備を済ませておこうという話になった。
「姫様は不器用なんだから食材切るのも味付けも出来ないでしょ。料理はわたしたちに任せといて。あ、水汲みくらいは出来るか。んー、でもさすがに姫様にやらせるわけにはいかないよね。ジャマだからあっち座ってて」
クラーアに言われ、わたしは内心ムカつきながら言われたとおりにする。
ナメやがって。たしかにわたしは料理できないけども。家庭科の成績2だけども。
こんにゃろう……アネリーゼ姫の幼なじみだかなんだか知らないが随分な言いぐさじゃないか。わたし自身はお前みたいな女に親しみの欠片も持ってないんだからな。いつか無礼討ちにしてやる。
外見上はニコニコしながら殺気を込めてクラーアに視線を送る。
悔しいがクラーアはさすがに手際がいい。エイナルとともに野鳥をさばいているが、あんなのとてもわたしには出来ない。
さばいた鳥肉をヴィリとホルガーが火で炙る。
おい、火はしっかりと通せよ。野鳥なんて寄生虫とか病原菌とかいそうだ。デリケートな現代人のわたしに生焼けの肉なんて渡すんじゃあないぞ。
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