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12 グラッドサクセ奪還作戦

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 わたしが街での休息を期待して上機嫌になっているところ、セヴェリン王子が慌ただしく駆け寄ってきてこう告げた。
 
「街で休息したいところですが、先程クヌーズ先生から報せが届きました。グラッドサクセ解放のための別動隊が準備を終え、すでに向かっているそうです。我々も遅れないように急がないと」

 え~、すぐに出発ってこと? 温かいご馳走もフカフカベッドもすぐそこにあるのに。たった1日……いんや、数時間だけでもいいじゃん、それぐらい。

 わたしがふくれっ面で無言の抗議してたけどダメだった。
 他のメンバーは早々に荷物をまとめて出発しようとしている。この軍隊みたいに慣れた動き……いや、軍隊なんだけどね。わたしがのんびりしすぎなのかなあ。

 ともかくもわたしたちはろくに休憩もせずに出発。ここからまた数日かけてグラッドサクセを目指さなきゃいけないんだと。

 また野宿したり風雨にさらされながら行軍しないといけないのか。いや、わたしは平地なら馬車の中だからまだいいけど。
 お姫様じゃなかったらもっとしんどい思いしたはず。セヴェリン王子をはじめ、他のメンバーにはホント頭が下がる思いだよ。

 ゲームじゃあマップクリアしたら次のマップまで瞬間移動だからなー。この現実がごっちゃになった世界だとリアルな移動時間やらを考えないといけない。

 グラッドサクセは大きい街だからいくら強いっていってもこのメンバーだけじゃ解放は無理だ。他のレジスタンス軍と連携して敵軍をうまく分散しないと勝ち目はないってことらしい。

 こっちがお姫様率いる主力軍だからこっちのペースに合わせてほしいよー。まあ、わたしがどうのこうの思ったところでこの世界じゃなんとも出来ないみたいだけど。


 * * *


 3日かけてグラッドサクセに到着。
 まだ街の入口からは離れている場所だけど、さすがに敵兵の数が多いのはここからでもはっきりわかる。

 敵はまだこっちに気付いていない。クヌーズ先生の指示を受けたレジスタンス軍別動隊が狼煙を上げるのが攻撃の合図だ。
 わたしたちを含めたレジスタンス軍が3方向から一気に攻め込む作戦。正面はもちろんわたしたちだ。

 あっ、狼煙が上がった。
 セヴェリン王子が号令を出し、皆が喊声をあげながら走り出す。もう、号令はわたしがやる役目だってのに。

 別動隊ふたつがうまく陽動になって正面の敵が薄くなっている。チャンスだ。
 敵騎兵トルーパーなどの先制を受けることなく、こちらのウルリクとフリーダが真っ先に敵陣へ乗り込んだ。

 もちろん矢や魔法の迎撃もない。奇襲は成功だ。
 敵の対応は遅い。セヴェリン王子たち歩兵ユニットも到着し、本格的な市街戦が開始された。

 厄介な弓兵アーチャー弓猟兵ボウマスターは真っ先に倒した。
 こうなれば高所からフリーダが遮蔽物に隠れている敵を見つけ出すのは容易だ。

 フリーダの指示通りに味方ユニットが動いていく。
 確実に敵を撃破していくが、街の中心部に近づくにつれて数は多くなってくるし、強くなっている。

 後方から敵の増援! 挟み撃ちにならないよう、ホルガーとエイナル、ウルリクがその対応に向かう。

 わたしの回復の杖がついに壊れた。味方の武器も連戦に次ぐ連戦でもうボロボロだ。そして街の中心で待ち構えているボスのクラスは鉄甲兵カタフラクト
 重歩兵ファランクスの上位クラスで、ゴツイ鎧に大盾まで装備している。
 
 素早さは皆無だが、並みの物理攻撃では傷ひとつ入れられないだろう。弱点は重歩兵ファランクスと同じく魔法防御力の低さ。

 ボスの鉄甲兵カタフラクトの周りには護衛の戦士ウォーリア剣士ソードファイターが4人。

 セヴェリン王子やフリーダがその護衛を引き受けている間に魔術士ウィザードクラーアが一気に近づき、敵ボスへ先制攻撃。
 炎の塊が直撃し、煙がもうもうと立ち込める。これはやったか──。と思ったのもつかの間、煙の中からボヒュンと槍が飛んできた。

 槍はクラーアの足元に突き刺さり、石畳がバカァッと割れた。あっぶな、忘れてた。ここのボスが装備している武器は投げ槍ジャベリン。間接攻撃可能な武器だ。

 いくら防御力が高くても離れたところから魔法攻撃しとけばオッケーと思ってたけどこれは計算外。
 あんな攻撃喰らったらツインテ魔法少女は一発でおだぶつだ。生意気でジャマな女ではあるが数少ない魔術士ではあるし、目の前で串刺しになるとこなんてさすがに見たくない。

 なおも果敢に魔法を放とうとしているクラーアをわたしは退がらせる。
 ガシャンガシャンと敵ボスが近づいてくる。魔法によるダメージはあるようだが、敵の体力は多い。クヌーズ先生の上位魔法なら一撃で倒せてたかもしれないけど……。

 護衛を仕留めたセヴェリン王子とフリーダが同時に攻撃を仕掛けた。
 まずはフリーダの投げ斧トマホーク。ふたつみっつと連続で投げつけるが、全て大盾で防がれた。そして敵の投げ槍ジャベリンの反撃。

 グリフォンを操り、空中へ逃れたフリーダ。だけど投げ槍ジャベリンの穂先はグリフォンの右翼を貫く。
 あえなく落下し、地面に叩きつけられるグリフォン。フリーダも衝撃で立ち上がれない。

 敵ボスの投げ槍ジャベリンがフリーダに向けられる。お前その槍どっから取り出してんだとツッコみたくなるが、そんな場合じゃない。
 わたしがルクスで敵の気を逸らす前にセヴェリン王子が飛び出していた。
 投げられた槍を剣で叩き落とす。おお、カッコいい。

 さらに飛んできた槍をかいくぐり、突き出された大盾をもかわす。
 懐に潜り込んでの斬り上げ。これは決まったか。ありゃ、硬い鎧に防がれて剣のほうが折れちゃったよ。

「どいてろっ! 俺がやる!」

 セヴェリン王子が退き、代わりに飛び込んできたのは剣士アグナー。
 迎え撃つ敵ボスの投げ槍ジャベリンが間に合わない程の速度。敵ボスは重量級の大盾を構えながら突進してきた。
 なんとアグナーは衝突する瞬間に大盾を足場がわりにして跳躍。

 空中から振り下ろされるアグナーの長剣。
 だがこれも甲高い音とともに折れてしまった。敵ボスの兜もへこんでよろめいているが、アグナーにもう武器はない。

「アグナー! これを使って!」

 盗賊シーフのヴィリの声。
 一振りの剣を投げてよこし、アグナーがそれを受け取る。
 あの剣先のほうが広がった独特の形状の剣は……。

 近距離から投げ槍ジャベリンが突き出される。アグナーも新たな剣で一閃。
 ふたりの体が交差し、ゆっくりと倒れたのは……敵ボスのほうだった。

 敵ボスの強固な鎧は大きな亀裂が入り、そこから血が流れていた。
 ヴィリの渡した武器は重歩兵ファランクス鉄甲兵カタフラクトに特功効果のある剣、アーマースレイヤーだったようだ。
 
 そういやゲームでもマップの隅っこにある宝箱に入ってたんだった。この激戦の中、よく見つけてくれたもんだ。

 敵ボスを倒したことでこのマップはクリア。残っていた敵兵も投降した。
 苦労した甲斐あって重要な都市、グラッドサクセを解放することができたぞ。
 別方向から敵を引きつけてくれたレジスタンス軍別動隊とも合流し、セヴェリン王子が隊長格の人間と何やら話し込んでいる。

 どうやらこの街はその別動隊が中心になって防衛してくれるという話だ。帝国軍の反撃も十分考えられるからこれは頼もしい。
 そして何よりわたしたちはやっと休息らしい休息が取れる。おいしいゴハンにポカポカお風呂。あったかい布団……いやさ、ベッドで寝られるんだ! 

 大きい街だからショッピングも楽しみだよね。みんなの武器も壊れたりしてるからさー。まあよくここまで初期のアイアンソードとかアイアンランスで戦ってこれたもんだ。
 これからは資金面でも余裕ができそうだし、ここでバチッと装備補強しとかないとね。
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