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23 狂気の女司祭
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わたしは魔法弾が飛び交う中、河の向こう側に目を凝らす。
橋を渡った先にすでにセヴェリン王子が到達しているはず。
敵指揮官の説得には成功したのだろうか。
早くしてくれないとこっちが持たない。
セヴェリン王子の姿。見えた。
派手な女司祭と向かい合っている。
まだ説得途中なのだろうか。
司祭ミアは手にした杖に頬ずりしたり腰をくねらせたりとセヴェリン王子相手に媚びを売ってるような様子だけど……まだ軍を止める命令は下してない。
あれ、なんか急に怒り出したみたい。
セヴェリン王子相手に神聖魔法撃ち始めたよ。これは完全に説得失敗か。
「姫様っ、我々もセヴェリン王子の元に向かいましょう! 説得が失敗したなら敵指揮官を倒すほかありません!」
聖騎士ウルリクが馬を走らせながら手を伸ばす。
考えてるヒマはない。やっぱり予想外な事態が起きた。
最悪ミアを犠牲にすることになるかもしれないけど、ここで全滅するわけにはいかない。
わたしはウルリクの手をつかみ、力強く馬上へと引き上げられる。
ウルリクとわたしを乗せた馬は一直線に敵兵の間を駆け抜けていく。
一斉に敵兵の標的になるわたしたちだが、そこは仲間たちが支援してくれた。
敵が魔法を放つ前に矢を射かけたり投石したりと注意を引きつけてくれる。
多少の魔法は被弾したけど、さすがは聖騎士の騎馬。下位魔法程度じゃ止めることはできないし、わたしがすぐに回復させる。
魔法部隊の中を突っ切り、目指す指揮官の元へ。
みんな頑張って。なんとか耐えきって。わたしたちがなんとかするから。
ミアが怒りの形相で攻撃系の神聖魔法を繰り出している。
対するセヴェリン王子は反撃せず、回避に徹している。
説得に失敗したにしろ、自国の王子を攻撃するなんてどうしちゃったんだろう。フツーに考えておかしい。
ふたりの元へたどり着き、わたしは馬から降りてまずはセヴェリン王子へ呼びかける。
「セヴェリン王子、説得が無理なら反撃を! 指揮官を倒して兵を退かせないと!」
だけどセヴェリン王子は首を横に振る。
「いえ、ミアは何か誤解をしているだけのようです。その誤解さえ解ければ」
いやいや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃない。
味方は魔法部隊の猛攻にさらされているし、目の前のナイスバディ女はわたしを仇でも見るような目で睨んでいる。
「殿下……陛下の帰還命令を無視してまで亡国に手を貸す理由が今はっきりとわかりました。その女が原因なのですね! 婚約者がいると知ってて殿下に近づいたのでしょう。なんてイヤらしい! 殿下を負傷させてまで連れ帰るつもりでしたが気が変わりました。まずはその女……王女の皮を被った売女を仕留めることにします!」
早口でまくしたてながらヒドイこと言ってる。
王女の皮を被った、てとこはドキッとしたね。中身が権現崎かなめだとバレちゃったかと思ったよ。
でもそんなことわかるわけない。
こんなこと言われたらさすがに温厚なわたしも怒っちゃうもんね。いや、その前に忠実な騎士ウルリクが黙っちゃいない。
案の定、すでにウルリクが槍を構えて突進。これは決まった。
魔法防御が高く、機動力のある聖騎士は魔導士系ユニットの天敵。
だがその槍が届く前にウルリクがどさりと落馬した。
気を失って──いや、眠らされている。
このミアという女司祭、睡眠を使いやがったか。しかも聖騎士を眠らせるなんて相当な魔力の持ち主……。
感心してる場合じゃない。ミアの杖の先はわたしに向けられている。
そこから放たれたのは聖光矢。
わたしは杖を盾がわりにして光の魔法弾をなんとか弾く。かなりの威力だ。杖が吹っ飛ばされなかったのが不思議なくらい。つぎ同じのを撃たれたら防げるかどうか。
この女、マジでわたしを殺す気だ。信じらんない。
国は滅びてしまったとはいえ、元同盟国の王女様に攻撃魔法ブッ放つなんて。
セヴェリン王子が呼びかけているけど止まりそうにない。
ミアは憤怒の形相で杖を掲げ、魔法力を集中。げ、ウソでしょ。あの魔法は──。
極大聖光線。攻撃系神聖魔法の最上級のやつじゃん。
あんなん喰らったらいくら魔法防御高くても一発で消滅させられちゃうよ。
相手が魔法力高めてる間にわたしは閃光や睡眠をかけてみるけど……ダメだ、全然効かない!
ブゥゥン、と巨大な魔力の塊が杖先に形成される。あとはあれをわたしに向けるだけだ。ゲームではでっかいか〇はめ波みたいなのが飛んでいって相手を飲み込んでしまう恐ろしいものだった。
いやだ、あんなの喰らいたくない! 死にたくない! せっかく美少女に転生したってのにまだロクにイケメンとイチャイチャしてない! 百合に巻き込まれたりゴリラのケツを間近に見ただけだ。誰か、誰か助けてっ!
杖の先が下ろされ、ミアの歪んだ笑みが魔法の光によって青白く照らされる。
あんなのがわたしが見る最後の光景なのか。わたしは覚悟して目を閉じる。
「あっ、なにをっ!」
突然のミアの声。わたしは目を開ける。魔法はまだ発動していない。
いや、魔力自体完全に消失している。ミアが手にしていた杖はセヴェリン王子によって真っ二つに斬られていた。
「ミア、すまない」
そう言い、セヴェリン王子は剣先をミアの首筋に突きつける。
ミアはよろよろと下がり、その場にへたり込む。
「くっ……正気ですか、殿下。我々を裏切るつもりなのですか。そこまでしてそんな女のために」
「そうじゃない。何度言ったら分かるんだ、ミア。ここでアネリーゼ姫を殺してしまっては帝国の思うツボだぞ」
「いいえ、我が国が生き残るには帝国に従うほかない。そしてその女を消さなければあなたの目は覚めない!」
ミアは座り込んだ姿勢のまま新しい杖を取り出す。
新たな攻撃魔法か、とわたしとセヴェリン王子が身構える。
だがその杖を振り上げた瞬間、彼女の周囲に魔法陣が現れ、手品のように消えた。どうやら瞬間移動の魔法を使って逃げたようだ。
あれも高位の神聖魔法。恐ろしい女だ。ゲームでの初登場時ってあんなに強かったっけ?
ミアが逃げたことで配下の魔法部隊も攻撃を止め、そのまま投降した。
あぶない所だった。味方の体力も回復アイテムもギリギリの状態だった。
橋を渡った先にすでにセヴェリン王子が到達しているはず。
敵指揮官の説得には成功したのだろうか。
早くしてくれないとこっちが持たない。
セヴェリン王子の姿。見えた。
派手な女司祭と向かい合っている。
まだ説得途中なのだろうか。
司祭ミアは手にした杖に頬ずりしたり腰をくねらせたりとセヴェリン王子相手に媚びを売ってるような様子だけど……まだ軍を止める命令は下してない。
あれ、なんか急に怒り出したみたい。
セヴェリン王子相手に神聖魔法撃ち始めたよ。これは完全に説得失敗か。
「姫様っ、我々もセヴェリン王子の元に向かいましょう! 説得が失敗したなら敵指揮官を倒すほかありません!」
聖騎士ウルリクが馬を走らせながら手を伸ばす。
考えてるヒマはない。やっぱり予想外な事態が起きた。
最悪ミアを犠牲にすることになるかもしれないけど、ここで全滅するわけにはいかない。
わたしはウルリクの手をつかみ、力強く馬上へと引き上げられる。
ウルリクとわたしを乗せた馬は一直線に敵兵の間を駆け抜けていく。
一斉に敵兵の標的になるわたしたちだが、そこは仲間たちが支援してくれた。
敵が魔法を放つ前に矢を射かけたり投石したりと注意を引きつけてくれる。
多少の魔法は被弾したけど、さすがは聖騎士の騎馬。下位魔法程度じゃ止めることはできないし、わたしがすぐに回復させる。
魔法部隊の中を突っ切り、目指す指揮官の元へ。
みんな頑張って。なんとか耐えきって。わたしたちがなんとかするから。
ミアが怒りの形相で攻撃系の神聖魔法を繰り出している。
対するセヴェリン王子は反撃せず、回避に徹している。
説得に失敗したにしろ、自国の王子を攻撃するなんてどうしちゃったんだろう。フツーに考えておかしい。
ふたりの元へたどり着き、わたしは馬から降りてまずはセヴェリン王子へ呼びかける。
「セヴェリン王子、説得が無理なら反撃を! 指揮官を倒して兵を退かせないと!」
だけどセヴェリン王子は首を横に振る。
「いえ、ミアは何か誤解をしているだけのようです。その誤解さえ解ければ」
いやいや、そんな悠長なこと言ってる場合じゃない。
味方は魔法部隊の猛攻にさらされているし、目の前のナイスバディ女はわたしを仇でも見るような目で睨んでいる。
「殿下……陛下の帰還命令を無視してまで亡国に手を貸す理由が今はっきりとわかりました。その女が原因なのですね! 婚約者がいると知ってて殿下に近づいたのでしょう。なんてイヤらしい! 殿下を負傷させてまで連れ帰るつもりでしたが気が変わりました。まずはその女……王女の皮を被った売女を仕留めることにします!」
早口でまくしたてながらヒドイこと言ってる。
王女の皮を被った、てとこはドキッとしたね。中身が権現崎かなめだとバレちゃったかと思ったよ。
でもそんなことわかるわけない。
こんなこと言われたらさすがに温厚なわたしも怒っちゃうもんね。いや、その前に忠実な騎士ウルリクが黙っちゃいない。
案の定、すでにウルリクが槍を構えて突進。これは決まった。
魔法防御が高く、機動力のある聖騎士は魔導士系ユニットの天敵。
だがその槍が届く前にウルリクがどさりと落馬した。
気を失って──いや、眠らされている。
このミアという女司祭、睡眠を使いやがったか。しかも聖騎士を眠らせるなんて相当な魔力の持ち主……。
感心してる場合じゃない。ミアの杖の先はわたしに向けられている。
そこから放たれたのは聖光矢。
わたしは杖を盾がわりにして光の魔法弾をなんとか弾く。かなりの威力だ。杖が吹っ飛ばされなかったのが不思議なくらい。つぎ同じのを撃たれたら防げるかどうか。
この女、マジでわたしを殺す気だ。信じらんない。
国は滅びてしまったとはいえ、元同盟国の王女様に攻撃魔法ブッ放つなんて。
セヴェリン王子が呼びかけているけど止まりそうにない。
ミアは憤怒の形相で杖を掲げ、魔法力を集中。げ、ウソでしょ。あの魔法は──。
極大聖光線。攻撃系神聖魔法の最上級のやつじゃん。
あんなん喰らったらいくら魔法防御高くても一発で消滅させられちゃうよ。
相手が魔法力高めてる間にわたしは閃光や睡眠をかけてみるけど……ダメだ、全然効かない!
ブゥゥン、と巨大な魔力の塊が杖先に形成される。あとはあれをわたしに向けるだけだ。ゲームではでっかいか〇はめ波みたいなのが飛んでいって相手を飲み込んでしまう恐ろしいものだった。
いやだ、あんなの喰らいたくない! 死にたくない! せっかく美少女に転生したってのにまだロクにイケメンとイチャイチャしてない! 百合に巻き込まれたりゴリラのケツを間近に見ただけだ。誰か、誰か助けてっ!
杖の先が下ろされ、ミアの歪んだ笑みが魔法の光によって青白く照らされる。
あんなのがわたしが見る最後の光景なのか。わたしは覚悟して目を閉じる。
「あっ、なにをっ!」
突然のミアの声。わたしは目を開ける。魔法はまだ発動していない。
いや、魔力自体完全に消失している。ミアが手にしていた杖はセヴェリン王子によって真っ二つに斬られていた。
「ミア、すまない」
そう言い、セヴェリン王子は剣先をミアの首筋に突きつける。
ミアはよろよろと下がり、その場にへたり込む。
「くっ……正気ですか、殿下。我々を裏切るつもりなのですか。そこまでしてそんな女のために」
「そうじゃない。何度言ったら分かるんだ、ミア。ここでアネリーゼ姫を殺してしまっては帝国の思うツボだぞ」
「いいえ、我が国が生き残るには帝国に従うほかない。そしてその女を消さなければあなたの目は覚めない!」
ミアは座り込んだ姿勢のまま新しい杖を取り出す。
新たな攻撃魔法か、とわたしとセヴェリン王子が身構える。
だがその杖を振り上げた瞬間、彼女の周囲に魔法陣が現れ、手品のように消えた。どうやら瞬間移動の魔法を使って逃げたようだ。
あれも高位の神聖魔法。恐ろしい女だ。ゲームでの初登場時ってあんなに強かったっけ?
ミアが逃げたことで配下の魔法部隊も攻撃を止め、そのまま投降した。
あぶない所だった。味方の体力も回復アイテムもギリギリの状態だった。
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