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34 イェリングへ
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クヌーズ先生から手紙という時点でもう嫌な予感がしていたのだけど。
何気に人使い荒いんだよね、あの人。
今回も自分や仲間たちが動けないからわたしに色々行動してほしいって内容。
こっちとしてもどう行動していいか分からなかったから、指示を出してくれるのは助かるんだけどさ。
大雑把に言うとイェリングに向かえと書いてあった。
わたしを支援してくれる人物がそこにいるというのだが、その人物の詳しいことは何ひとつ書かれていない。この離宮からイェリングまでの合流地点の地図、日時のみが記されている。
どうにも不思議なのはクヌーズ先生へむこうのほうからコンタクトを取ってきたというのだ。
おかしな話だ。帝国の属国ともいえるイェリングの人物からこのタイミングで。
王位にも就けず、ほとんど味方もいないわたしを助けたってなんの得にもならないのに。
これって罠なんじゃないの? って疑ってしまいそうになるけど、あのクヌーズ先生の言う事なら間違いはないか。
幸い、離宮からイェリングまでの国境はそう遠くない。
国境の警備は帝国領ほどではないだろうし、追っ手もまさかわたしたちがイェリングへ行くとは思わないだろう。
早速わたしは諜報兵たちに伝え、イェリングへ向けて出発した。
✳ ✳ ✳
3日ほどでイェリングとの国境へ到着。この間、帝国や宰相からの追っ手はなかった。やはりこの方面はあまり警戒されてない。
とはいえ、追われている身であるわたしが堂々と街道を通り、国境を越えるわけにもいかない。
ここはクヌーズ先生の手紙に書いてある地図に従って迂回したルートからイェリングへと入る。
地元の人間しか知らないような山間の道を通る。これはイェリングで合流する予定の協力者からの情報だろう。
道中、なんの危険もなしにイェリング国内へ入ることができた。クヌーズ先生が協力者というだけあって信頼できる相手のようだ。
山間部にひっそりと建つ家屋。そこが合流地点だ。
穏やかな風景。放牧された牛がのんびりと草を食んでいる。
諜報兵に辺りを警戒してもらいつつ、わたしは時間どうりに家屋の中へ。
家屋の中はこざっぱりとした農家のもの。中心のテーブルにはこの場にはふさわしくない正装の老紳士がひとり。
老紳士は立ち上がると帽子を取ってお辞儀。わたしもつられるように頭を下げた。
テーブルの上にはティーセットが並べられ、カップにはすでに良い香りのする紅茶が注がれていた。
老紳士は無言で席につくよう促す。
わたしは席に座り、勧められた紅茶を一口。
独特な渋みと上品な香りが口の中に広がる。老紳士はじっとその様子を見ていた。
なんだか緊張する……待ち合わせ場所ってここで間違いないよな。この人なんで何もしゃべらないんだろ。協力者ってこのお爺さん? まさかひとりってことはないよね。
わたしはどう切り出していいのかわからず無言で待っていると、老紳士は突然その場にひざまずき、床につくほど頭を下げた。
わたしが驚いて席を立つと、老紳士は今までの沈黙が噓だったかのように喋りだす。
「アネリーゼ姫……よくぞ我らの願いを聞き届けて頂き、このような所まで。あなた自身、安全な身ではないというのに。このカルステン、感動に打ち震えております」
え……このお爺さん、泣いてる。
なんかおかしいな。感動してるとこあれだけど、助けてもらうのはこっちなんだから。
わたしは老紳士カルステンを助け起こすように手を取り、わけを聞いてみる。
「いえ、わたしはすでに祖国を追放されたも同然の身。継承するはずだった王位も王女としての地位も無いのですよ。あなたがクヌーズ先生に連絡してわたしの力になってくれると申し出たのでは?」
するとカルステンは首を振り、わたしの手を押し頂くようにしてから離す。
「我らに恩を着せまいとして、そのように謙遜していらっしゃるのですね。噂に聞く以上に温情の厚い御方だ。我が主の言われていた通りだ」
ここでギシギシと右奥の2階へ続く階段のほうから足音。
下りてきたのはわたしに似たような軽鎧を身に着けた少女。歳はアネリーゼ姫より2、3下だろうか。身長も小柄だし、随分幼い印象だ。
軽鎧の下に履いているスカートの裾を持ち上げ、長いピンク髪の少女は頭を下げる。
「遠路はるばるお越しくださり、恐縮至極に存じます。本来ならこちらから出向かねばならぬところに身勝手なお願いまで……。この非礼は目的が達成したのちにいかなる罰でもお受けしましょう」
少女は大きな瞳に涙を溜めながら小さく震えている。カルステンがすぐに駆け寄り、ハンカチを差し出している。
「いえ、お嬢様。罰ならばこのカルステンひとりが受けましょう。アネリーゼ姫に助けを乞うよう進言したのはわたしなのですから」
いやいや、ふたりだけで会話を進めないでくれ。
わたしはカルステンと少女を席につかせ、改めてここまでのいきさつを簡単に話した。
ふたりもクヌーズ先生からの使いから大まかな事は聞いていたようだ。
ただ食い違っていたのは、わたしが助けられる立場でなくて、逆に頼られている……つまりはこのふたりを助けるためにここへ来たことになっているのだ。
これはクヌーズ先生にしてやられた。
庇護してくれる強い味方がいると思ったからこんなとこまで来たのに。いたのはお爺さんと頼りない少女のふたり。
自分のことだけでも精一杯なのに人助けなんてする余裕なんてないんですけど。
でも今にも泣きだしそうな少女……名前はアウネータだって。
こんないたいけな子を放っておくわけにはいかないよね……って、よくよく話を聞けば、このアウネータはアネリーゼ姫と同じ16歳なんだと。
しかもこのロリ属性を持つお嬢様の正体は、なんとセヴェリン王子の婚約者だというのだ。
もしかしてこのふたりの頼みって……。
さらに詳しく話を聞くと、わたしの予想通り。
父王の怒りを買ったセヴェリン王子はとある場所に幽閉されており、それを救出したいが為にクヌーズ先生に連絡を取ったというのだ。
いくら頼れる相手がいないからって、他国の人間をよくそこまで信用できるものだ。たしかにセヴェリン王子自身はロスキレに肩入れしてたけどさ。
しかも幽閉された原因作ったのって、わたしにもあるってのに。
なんか複雑……。まあ、このロリお嬢様の表情見てれば相当切羽詰まってるってのは分かるけど。
よっぽどセヴェリン王子のことが好きなんだね。
改めて深々と頭を下げるふたりを前に、わたしはぐぬぬぬと唸りながらセヴェリン王子救出作戦に手を貸す約束をしてしまった。
何気に人使い荒いんだよね、あの人。
今回も自分や仲間たちが動けないからわたしに色々行動してほしいって内容。
こっちとしてもどう行動していいか分からなかったから、指示を出してくれるのは助かるんだけどさ。
大雑把に言うとイェリングに向かえと書いてあった。
わたしを支援してくれる人物がそこにいるというのだが、その人物の詳しいことは何ひとつ書かれていない。この離宮からイェリングまでの合流地点の地図、日時のみが記されている。
どうにも不思議なのはクヌーズ先生へむこうのほうからコンタクトを取ってきたというのだ。
おかしな話だ。帝国の属国ともいえるイェリングの人物からこのタイミングで。
王位にも就けず、ほとんど味方もいないわたしを助けたってなんの得にもならないのに。
これって罠なんじゃないの? って疑ってしまいそうになるけど、あのクヌーズ先生の言う事なら間違いはないか。
幸い、離宮からイェリングまでの国境はそう遠くない。
国境の警備は帝国領ほどではないだろうし、追っ手もまさかわたしたちがイェリングへ行くとは思わないだろう。
早速わたしは諜報兵たちに伝え、イェリングへ向けて出発した。
✳ ✳ ✳
3日ほどでイェリングとの国境へ到着。この間、帝国や宰相からの追っ手はなかった。やはりこの方面はあまり警戒されてない。
とはいえ、追われている身であるわたしが堂々と街道を通り、国境を越えるわけにもいかない。
ここはクヌーズ先生の手紙に書いてある地図に従って迂回したルートからイェリングへと入る。
地元の人間しか知らないような山間の道を通る。これはイェリングで合流する予定の協力者からの情報だろう。
道中、なんの危険もなしにイェリング国内へ入ることができた。クヌーズ先生が協力者というだけあって信頼できる相手のようだ。
山間部にひっそりと建つ家屋。そこが合流地点だ。
穏やかな風景。放牧された牛がのんびりと草を食んでいる。
諜報兵に辺りを警戒してもらいつつ、わたしは時間どうりに家屋の中へ。
家屋の中はこざっぱりとした農家のもの。中心のテーブルにはこの場にはふさわしくない正装の老紳士がひとり。
老紳士は立ち上がると帽子を取ってお辞儀。わたしもつられるように頭を下げた。
テーブルの上にはティーセットが並べられ、カップにはすでに良い香りのする紅茶が注がれていた。
老紳士は無言で席につくよう促す。
わたしは席に座り、勧められた紅茶を一口。
独特な渋みと上品な香りが口の中に広がる。老紳士はじっとその様子を見ていた。
なんだか緊張する……待ち合わせ場所ってここで間違いないよな。この人なんで何もしゃべらないんだろ。協力者ってこのお爺さん? まさかひとりってことはないよね。
わたしはどう切り出していいのかわからず無言で待っていると、老紳士は突然その場にひざまずき、床につくほど頭を下げた。
わたしが驚いて席を立つと、老紳士は今までの沈黙が噓だったかのように喋りだす。
「アネリーゼ姫……よくぞ我らの願いを聞き届けて頂き、このような所まで。あなた自身、安全な身ではないというのに。このカルステン、感動に打ち震えております」
え……このお爺さん、泣いてる。
なんかおかしいな。感動してるとこあれだけど、助けてもらうのはこっちなんだから。
わたしは老紳士カルステンを助け起こすように手を取り、わけを聞いてみる。
「いえ、わたしはすでに祖国を追放されたも同然の身。継承するはずだった王位も王女としての地位も無いのですよ。あなたがクヌーズ先生に連絡してわたしの力になってくれると申し出たのでは?」
するとカルステンは首を振り、わたしの手を押し頂くようにしてから離す。
「我らに恩を着せまいとして、そのように謙遜していらっしゃるのですね。噂に聞く以上に温情の厚い御方だ。我が主の言われていた通りだ」
ここでギシギシと右奥の2階へ続く階段のほうから足音。
下りてきたのはわたしに似たような軽鎧を身に着けた少女。歳はアネリーゼ姫より2、3下だろうか。身長も小柄だし、随分幼い印象だ。
軽鎧の下に履いているスカートの裾を持ち上げ、長いピンク髪の少女は頭を下げる。
「遠路はるばるお越しくださり、恐縮至極に存じます。本来ならこちらから出向かねばならぬところに身勝手なお願いまで……。この非礼は目的が達成したのちにいかなる罰でもお受けしましょう」
少女は大きな瞳に涙を溜めながら小さく震えている。カルステンがすぐに駆け寄り、ハンカチを差し出している。
「いえ、お嬢様。罰ならばこのカルステンひとりが受けましょう。アネリーゼ姫に助けを乞うよう進言したのはわたしなのですから」
いやいや、ふたりだけで会話を進めないでくれ。
わたしはカルステンと少女を席につかせ、改めてここまでのいきさつを簡単に話した。
ふたりもクヌーズ先生からの使いから大まかな事は聞いていたようだ。
ただ食い違っていたのは、わたしが助けられる立場でなくて、逆に頼られている……つまりはこのふたりを助けるためにここへ来たことになっているのだ。
これはクヌーズ先生にしてやられた。
庇護してくれる強い味方がいると思ったからこんなとこまで来たのに。いたのはお爺さんと頼りない少女のふたり。
自分のことだけでも精一杯なのに人助けなんてする余裕なんてないんですけど。
でも今にも泣きだしそうな少女……名前はアウネータだって。
こんないたいけな子を放っておくわけにはいかないよね……って、よくよく話を聞けば、このアウネータはアネリーゼ姫と同じ16歳なんだと。
しかもこのロリ属性を持つお嬢様の正体は、なんとセヴェリン王子の婚約者だというのだ。
もしかしてこのふたりの頼みって……。
さらに詳しく話を聞くと、わたしの予想通り。
父王の怒りを買ったセヴェリン王子はとある場所に幽閉されており、それを救出したいが為にクヌーズ先生に連絡を取ったというのだ。
いくら頼れる相手がいないからって、他国の人間をよくそこまで信用できるものだ。たしかにセヴェリン王子自身はロスキレに肩入れしてたけどさ。
しかも幽閉された原因作ったのって、わたしにもあるってのに。
なんか複雑……。まあ、このロリお嬢様の表情見てれば相当切羽詰まってるってのは分かるけど。
よっぽどセヴェリン王子のことが好きなんだね。
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