葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

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第1章 留学生

3 わたしのために小説を

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「どういうことだよ! 父さん! 母さん!」

 夕食を囲むテーブルの上であおいは両親に向かって疑問をぶつける。

 今日来たばかりの海外の留学生がいきなり自分の家にホームステイだなんてどう考えてもおかしい。
 シノは素知らぬ顔でハンバーグを頬ばり、はあ、美味しいデス~と満面の笑み。
 
 母はおかわりもあるからね~、となんら違和感なく対応。
 まあ落ち着けと父が口を開いた。

「前から言ってただろう。海外からの留学生がうちに来るって。今さら何を慌ててるんだ」

「聞いてねえし……! おかしいんじゃないのか、ふたりとも。大体、泊まる部屋だって──」

「お前の隣の部屋。物置になってたのを片付けたじゃないか、先週一緒に。お前こそ何言ってるんだ」

「隣の部屋?」

 葵は席を立ち、あわただしく2階へ駆け上がる。
 自室の隣。父の趣味の釣り道具や母の通販で買った数々の健康器具が押し込まれていたはずだ。
 だが、ドアを開けた先には──。

 パステルピンクに彩られた壁、天井。床。
 壁際に白のコンソールデスク。同じく白のフリル付きカバーのベッド。
 照明やタンス、カーテン。その他のインテリアもすべてカワイイで統一されている。

「そんな……こんなことが」

 葵には父と一緒に片付けた記憶などない。こんな家具類も今日はじめて見たものだ。

「葵サン、ダメですよ。勝手に女の子の部屋を覗いテハ」

 シノがまた急にうしろから話しかけてきた。葵は振り向きながら尻もちをつく。

「おかしい……! なんなんだ、お前は!? 一体なんでこんな事が……!」

 理解できない。自分がおかしくなってしまったのか。学校から不可思議なことが続いている。
 シノがしゃがみ、小声でこう言った。

「だから、運命だって言ったでショウ? あなたとわたしが出会うために人の記憶も歴史も変わってしまったのでスヨ。わたしがこっちに来た反動デ」

「……どういう意味だ? お前のせいだっていうのか? このおかしな現象は」

「受け入れるしかないでスヨ、葵サン。そうじゃないとこの世界まで滅びてしマウ」

「やめてくれ、変なことを言うのは。本当におかしくなりそうだ──」

 葵は逃げるように下の階へ。
 リビングでは父がのんきにテレビを見ており、母は夕食の片付けをしている。
 テレビを見ながら父は思いだしたように言った。

「ああ、葵。そういや言うの忘れていた。わたしと母さんは明日から海外へ旅行に行くから。あとのことは任せたぞ」

「は……はあっ!? 旅行!? なんで急に? 頭おかしいんじゃないのか、こんなときに! それに仕事はっ」

「そのために長期休暇取ったんじゃないか。ここのところずっと忙しかったからな。たまにはいいだろ、夫婦水いらずで」

「どうかしてるよ……頭痛くなってきた。ほら、ニュースでもやってるだろ、海外で行方不明者が多発してるって。バケモノ見たって噂もあるし……旅行も自粛しろっていってなかったっけ」

 これには母がフフフと笑い、反論してきた。

「あら、わたしたちの心配するなんてめずらしいわね。大丈夫よ、その事件も都市部で起きてるんでしょ? わたしたちが行く所はのんびりした田舎のほうだから」

 ここで葵の背後をシノが通りすぎる。

「おフロ、いただいてきマス~」

 父と母がどうぞ~、と返事をし、その話題はそこで終わってしまった。

 
 📖 📖 📖


「くそっ、どうなってる! おかしなことだらけだ! 旅行ってなんだよ、俺はあの女とふたりきりで生活しろってのか、これから……」

 葵はベッドにうつ伏せになり、頭を抱えた。

 しばらくしてコンコンとノックの音。葵が無言で無視すると、ガチャリと勝手に開けて誰かが入ってきた。

 父さんか母さんか。なんの用だよ、まったく──。

 葵は起き上がって文句を言おうとしたが、驚きのあまり声が出せなかった。

 目の前にはバスタオル1枚だけのシノの姿。
 きわどい……上も下も。葵は枕を盾のようにしてやっとのことで声をしぼり出す。

「な、なにやってんだ、そんなカッコで。おい、親に見られたら勘違いされるだろ、服を着ろ、服を……」

「着替えを部屋に忘れてたのデス。その前にお願いしたいことがあるのを思いだシテ」

「な、なんだよ。お願いって」

「あなたの小説のことなのデス。webで投稿している8作品の主人公たちが勢揃いしてあなたを守る、という新作を書いてほしいのでスガ」

「は? な、なんで? なんで俺がそんなこと……」

「お願いなのデス。そうすれば、あなたはもっと面白い作品が書ケル。わたしはあなたの作品がもっと読みタイ……ダメでスカ? わたしのためニ……」

 ギシィッ、とベッドのきしむ音。
 枕の横からのぞいてみると、シノが四つんばいになって顔を近づけている。
 豊満な胸の谷間が……それに今にもタオルがはだけそうだ。

 葵はのぼせそうになりながらわかった、わかったと返事をする。

「わかったから──はなれてくれ! か、書けばいいんだろ。ちょうど新作を書こうとしてたところだし。その……俺が今まで書いた小説のキャラクターが出てくる話。オールスターってことだろ」

「そうデス。それと、もうひとつお願いガ。このお話はwebでは投稿しないでくだサイ」

「ど、どういうことだよ。じゃあどうやって書けっていうんだ」

 聞くと、シノの両手の上にいつの間にか一冊の本があった。

 分厚い革の装丁の立派な本だ。アンティークブックというヤツか。本の表紙には魔法陣のような模様が型押しされている。

「この本は中は白紙デス。この本に手書きで書いてほしいのデス」

「手書きって、そんな……メチャ大変そうじゃないか。ヤダよ、そんなの」

「この本はわたしの宝物。これにはわたしの好きな物語を書いてもらって、好きなときに読めるようにしたいのデス。わたしのために……どうかお願いしマス」

 シノがさらに顔を近づけ、耳元でささやく。
 葵はふわわ、とベッドから落ちながら了承せざるを得なかった。

 シノが礼を言って部屋を出ていったあと、葵はため息をつきながら机に座り、本を開く。

「はあ……手書きで小説書くなんていつ以来だよ。なんで俺がこんなこと……」

 
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