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第2章 壊れていく世界
12 マルグリット・ベルリオーズ
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「静かになりましタネ。あれだけいた周辺の魔族は全滅したようデス。魔結界も消えていマス」
教室の窓から身を乗り出すようにシノが確認する。
「助かった……みたいだな。さすがみさきだ。強力な闇属性に耐えられるのは彼女しかいないと思っていた」
鴫野みさき。歳は14。
両手足と胴体に悪魔の力を宿した不死人。
強力な戦姫だが、彼女には問題がある。
今回の召喚、シノはあまり乗り気でなかったのもそれが理由だった。
だが葵はそれについてはすでに対抗策を講じていた。
「!……みさきだ。帰ってきた」
魔族を殲滅し、校門から入ってくる鴫野みさき。
だがその両腕はいまだ異形のまま。戦闘モードを解いていない。
ゆらりゆらりと近づきながら、左腕のマーナガルムを校舎のほうへ向けた。
「学校なんてキライ。いい思い出なんかひとつもない。見ているだけでイライラするなぁ……ブッ壊す!」
ギュオオオ、と球体のエネルギーが収束。
ハウリングキャノン。あんなものが命中すれば教室、いや校舎ごと吹っ飛ばされてしまう。
魔狼の咆哮とともに球体が発射された。
大気をビリビリと震わせながらそれが校舎へと向かう。
「頼むぞ、マルグリット!」
叫ぶ葵。校舎玄関から黄金色の光線が飛び出してハウリングキャノンとぶつかる。
まばゆい光と耳をつんざく轟音。校舎全体がガタガタと震え、生存者たちが悲鳴をあげる。
運動場に爆煙が立ち込め、なにも見えなくなる。
だがそれは校舎玄関のほうから次第に晴れていく。
煙を断ち割るように中から現れたのは──ガシャ、ガシャン、と黄金の甲冑の上に青いシスターふうの衣装をまとった金髪の少女。
聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
歳は12。手にはその身長には不釣り合いな大きさの槍。
穂先が十字の形をした黄金の槍──十字聖槍マルグリット。
自らと同じ名の槍を正面に突き出しながら構え、マルグリットは凛とした声でまだ煙に包まれている前方に呼びかけた。
「鴫野みさき。呪われし身体を持つ不死人よ。お前が人を恨むのはわかる。でもその力は人に向けるべきものではない。神の前にひざまずき、祈るのだ。これからは人のため、神のために尽くすのだと。そうすればお前の魂もいずれは──」
ギュバアッ、と煙を突っ切ってみさきが飛びかかってきた。
デッドエンドチェーンソーをマルグリットの脳天めがけ振り下ろす。
槍で受け止め、弾き飛ばしながらマルグリットは叫ぶ。
「神の執行代理人である我に刃を向けるか。万死に値する行為……いや、すでに死んでいる貴様は魂の消滅しか救われる方法はない」
みさきは首をゴキゴキ鳴らしながら、はぁー? と挑発的な態度を取る。
「神なんているわけないじゃん。あいかわらずキラッキラしやがって……ボク、お前大キライ。マーナガルムのエサになっちゃえよ」
左腕の魔狼を突き出し、その牙がマルグリットの小柄な身体を狙う。
マルグリットはガチィ、ガチンッ、と槍で防ぎながら後退。みさきはさらに踏み込む──が、それを狙っていたマルグリットが槍を回転させながら突進。
ボンッ、とみさきの左腕が斬り飛ばされ、地面に転がった。魔狼マーナガルムはガチガチと牙を鳴らしながら泡を吹いている。
「!──このガキッッ」
「ガキではない。不敬が過ぎるぞ、不死人!」
マルグリットの連続刺突。
みさきはチェーンソーで防ぐが、最後の一発が胴体を深く刺し貫いた。
がはっ、と血を吐き、右腕のチェーンソーは普通の腕に戻る。
槍に貫かれたまま力なくうなだれるみさき。マルグリットは勝利を確信し、静かに語りかける。
「神に対する冒涜、我に対する非礼……。勇者様に頼まれていなければすぐにでも消滅させるところだが……勇者葵様に感謝するのだな」
マルグリットの言葉に、みさきはうなだれながらククク、と笑う。
「バァーカ。ボクがこの程度でやられるかっての」
「ぬっ!」
マルグリットの右足に先ほど斬り飛ばしたマーナガルムが牙を突き立てていた。
さらにみさきは右手で槍をつかみながら右脚を変化──デストラクションホッパー。緑色の硬そうな皮膚。トゲが生え、折れ曲がった形。まるで昆虫の脚のような形に。
「コイツは効くよ~」
ギギギ、と力を溜めた状態から前蹴り。反動で地面が抉れるほどの速度と威力。
マルグリットのみぞおちへ入り、甲冑がメキメキとひしゃげる。
「うぐぅっ……!」
血を吐きながら吹っ飛ぶマルグリット。
槍は手放さず、それを地面に突き立てて体勢を立て直した。
「へぇ、やるね。でも今の手応え……骨と内臓、イッちゃったんじゃないの~?」
ニコニコ笑いながらみさきは失った左腕にマーナガルムを戻し、通常の腕へ。
対するマルグリットは口の血を拭い、槍の石突きを地面につけ、目を閉じて集中。
「葵サン、大丈夫なのでしょうか、あのふたり……。結とリッカの時と同じようにどちらかが死ぬまで戦いをヤメそうにありませンガ」
「みさきが魔族を倒したあとに暴走するのはわかっていた。あの人間に対する憎悪をまともに受け止めて浄化できるのはマルグリットだけだと思ったんだけど……」
「そうなんでスカ? あのマルグリット自身、みさきを敵視しているようにも見えまスガ」
「……ああ見えても彼女は聖王女。神の前にはいかなる者も平等で救われるべき存在だと信じている。きっとみさきにだって……」
ふたりの戦いを見守る葵とシノの前で、みさきはギギギギ、と右脚の力を溜める。
さらにドルン、ドドドドと右腕をチェーンソーに変え、ボッ、と一蹴りで距離を詰める。
凶悪な回転刃がマルグリットの胸元へ迫る──。
教室の窓から身を乗り出すようにシノが確認する。
「助かった……みたいだな。さすがみさきだ。強力な闇属性に耐えられるのは彼女しかいないと思っていた」
鴫野みさき。歳は14。
両手足と胴体に悪魔の力を宿した不死人。
強力な戦姫だが、彼女には問題がある。
今回の召喚、シノはあまり乗り気でなかったのもそれが理由だった。
だが葵はそれについてはすでに対抗策を講じていた。
「!……みさきだ。帰ってきた」
魔族を殲滅し、校門から入ってくる鴫野みさき。
だがその両腕はいまだ異形のまま。戦闘モードを解いていない。
ゆらりゆらりと近づきながら、左腕のマーナガルムを校舎のほうへ向けた。
「学校なんてキライ。いい思い出なんかひとつもない。見ているだけでイライラするなぁ……ブッ壊す!」
ギュオオオ、と球体のエネルギーが収束。
ハウリングキャノン。あんなものが命中すれば教室、いや校舎ごと吹っ飛ばされてしまう。
魔狼の咆哮とともに球体が発射された。
大気をビリビリと震わせながらそれが校舎へと向かう。
「頼むぞ、マルグリット!」
叫ぶ葵。校舎玄関から黄金色の光線が飛び出してハウリングキャノンとぶつかる。
まばゆい光と耳をつんざく轟音。校舎全体がガタガタと震え、生存者たちが悲鳴をあげる。
運動場に爆煙が立ち込め、なにも見えなくなる。
だがそれは校舎玄関のほうから次第に晴れていく。
煙を断ち割るように中から現れたのは──ガシャ、ガシャン、と黄金の甲冑の上に青いシスターふうの衣装をまとった金髪の少女。
聖王女、マルグリット・ベルリオーズ。
歳は12。手にはその身長には不釣り合いな大きさの槍。
穂先が十字の形をした黄金の槍──十字聖槍マルグリット。
自らと同じ名の槍を正面に突き出しながら構え、マルグリットは凛とした声でまだ煙に包まれている前方に呼びかけた。
「鴫野みさき。呪われし身体を持つ不死人よ。お前が人を恨むのはわかる。でもその力は人に向けるべきものではない。神の前にひざまずき、祈るのだ。これからは人のため、神のために尽くすのだと。そうすればお前の魂もいずれは──」
ギュバアッ、と煙を突っ切ってみさきが飛びかかってきた。
デッドエンドチェーンソーをマルグリットの脳天めがけ振り下ろす。
槍で受け止め、弾き飛ばしながらマルグリットは叫ぶ。
「神の執行代理人である我に刃を向けるか。万死に値する行為……いや、すでに死んでいる貴様は魂の消滅しか救われる方法はない」
みさきは首をゴキゴキ鳴らしながら、はぁー? と挑発的な態度を取る。
「神なんているわけないじゃん。あいかわらずキラッキラしやがって……ボク、お前大キライ。マーナガルムのエサになっちゃえよ」
左腕の魔狼を突き出し、その牙がマルグリットの小柄な身体を狙う。
マルグリットはガチィ、ガチンッ、と槍で防ぎながら後退。みさきはさらに踏み込む──が、それを狙っていたマルグリットが槍を回転させながら突進。
ボンッ、とみさきの左腕が斬り飛ばされ、地面に転がった。魔狼マーナガルムはガチガチと牙を鳴らしながら泡を吹いている。
「!──このガキッッ」
「ガキではない。不敬が過ぎるぞ、不死人!」
マルグリットの連続刺突。
みさきはチェーンソーで防ぐが、最後の一発が胴体を深く刺し貫いた。
がはっ、と血を吐き、右腕のチェーンソーは普通の腕に戻る。
槍に貫かれたまま力なくうなだれるみさき。マルグリットは勝利を確信し、静かに語りかける。
「神に対する冒涜、我に対する非礼……。勇者様に頼まれていなければすぐにでも消滅させるところだが……勇者葵様に感謝するのだな」
マルグリットの言葉に、みさきはうなだれながらククク、と笑う。
「バァーカ。ボクがこの程度でやられるかっての」
「ぬっ!」
マルグリットの右足に先ほど斬り飛ばしたマーナガルムが牙を突き立てていた。
さらにみさきは右手で槍をつかみながら右脚を変化──デストラクションホッパー。緑色の硬そうな皮膚。トゲが生え、折れ曲がった形。まるで昆虫の脚のような形に。
「コイツは効くよ~」
ギギギ、と力を溜めた状態から前蹴り。反動で地面が抉れるほどの速度と威力。
マルグリットのみぞおちへ入り、甲冑がメキメキとひしゃげる。
「うぐぅっ……!」
血を吐きながら吹っ飛ぶマルグリット。
槍は手放さず、それを地面に突き立てて体勢を立て直した。
「へぇ、やるね。でも今の手応え……骨と内臓、イッちゃったんじゃないの~?」
ニコニコ笑いながらみさきは失った左腕にマーナガルムを戻し、通常の腕へ。
対するマルグリットは口の血を拭い、槍の石突きを地面につけ、目を閉じて集中。
「葵サン、大丈夫なのでしょうか、あのふたり……。結とリッカの時と同じようにどちらかが死ぬまで戦いをヤメそうにありませンガ」
「みさきが魔族を倒したあとに暴走するのはわかっていた。あの人間に対する憎悪をまともに受け止めて浄化できるのはマルグリットだけだと思ったんだけど……」
「そうなんでスカ? あのマルグリット自身、みさきを敵視しているようにも見えまスガ」
「……ああ見えても彼女は聖王女。神の前にはいかなる者も平等で救われるべき存在だと信じている。きっとみさきにだって……」
ふたりの戦いを見守る葵とシノの前で、みさきはギギギギ、と右脚の力を溜める。
さらにドルン、ドドドドと右腕をチェーンソーに変え、ボッ、と一蹴りで距離を詰める。
凶悪な回転刃がマルグリットの胸元へ迫る──。
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