葵の戦神八姫~アンカルネ・イストワール~

みくもっち

文字の大きさ
32 / 66
第3章 奪還

10 第2隊

しおりを挟む
 あおいたち第1隊が国道を進み、S級魔族グリデモウステネスリードに遭遇している頃──。

 シノを中心とした第2隊は旧国道をまっすぐ進み、ビジネスホテルまではあと1キロほどという地点まできていた。

 隊の先頭にはリッカ・ステアボルト。後方にはマルグリット・ベルリオーズが護衛としてついている。

「出てこねーな、魔族のヤツら……つまんねー。オレもS級魔族ってヤツと戦いてーのに」

「今回は無事に生存者を送り届けることが重要……魔族に遭遇しないことに越したことはありまセン。それにS級魔族の力を侮ってはいけませンヨ。戦姫せんき3人がかりでやっと撃退できたのですカラ」

 リッカがあくびしながらぼやくのをシノがたしなめる。 
 その時、いきなりの轟音と地面の揺れ。
 ゴゴゴゴ、と20メートルほど先の地面から大小の岩石が掘り起こされるように飛び出し、音と揺れが収まるとひとつの影が現れた。

 4本の腕を持つ巨漢。バンダナを巻き、袖無しのジャケットを身にまとっている。
 
「きたきたぁ~っ! やっっと俺の出番がよっ! 戦神八姫せんじんはっきとかいう小娘ども、まとめてかかってこいよ。この俺が8人全員ブッ潰してやるからよ!」

 4本腕をぐるぐる回しながら挑発する魔族。
 まっさきに噛みついたのはリッカだ。

「まだ8人揃ってねーし。ここにはふたりしかいねーよ、バカかよコイツ。ていうか、オレひとりで十分だよ!」

 ガシャッ、と脚部装甲の下から車輪を出し、シノが止める間もなくリッカはローラーダッシュで突っ込んでいった。

「ひとりだとぅ~! このS級魔族のシャバ様もナメられたもんだぜ。けどよ、タイマン勝負ってのも悪くねぇなあ!」
 
 衝突したふたり。拳同士がぶつかり、ゴッ、と大気が震え、道路に地割れが走る。生存者たちから悲鳴があがった。

「ちょうどいい。あのバカふたりは放っておいて、このまま我らは目的地に急ぐとしよう」

 シノにそう言ってきたのは聖王女マルグリット。シノがでも、とためらっている間にもリッカとシャバの攻防であたりの地形が変化しつつある。

「このままでは巻き込まれるか、先へ進めなくなる。生存者の移送が第一優先事項だろう」

 その言葉にシノはうなずき、先頭に立って生存者を誘導。なんとか巻き込まれずにふたりの横を通り過ぎた。

「おっ、誰が勝手に通っていいっつった! 待てよ──んごっっ!」

 シノたちを追おうとしたシャバの上半身が勢いよく地面にめり込む。リッカが上から両手を組んで叩きつけた攻撃がヒットしたのだ。

「よそ見してんじゃねーよ、バカじゃねーのかお前。そろそろ終らせるぜ、くたばれっ」

 上半身を引き出そうとしているシャバめがけ、至近距離から双鉄拳飛環烈迅砲ダブルロケットパンチ
 ゴバアッ、と土煙が舞い上がる。発射された手甲ガントレットはすぐにリッカの両腕に戻る。そしてまた発射──。

 ドドドドドンッ、と大地を揺るがし、土煙はかなりの高さまで達するほどだった。
 連続射出の双鉄拳飛環烈迅砲ダブルロケットパンチ。熱を帯びた手甲ガントレットにアチチチ、と言いながらリッカは後退し、様子をうかがう。

 クレーターのように変化した地形の中心。S級魔族のシャバは逆さになった状態で突き刺さったままだ。
 某ミステリー映画の死体みたいに足だけ出た状態で動かない。
 
「なんだありゃ、死んでんのか……いや、コイツら魔族は死んだら塵みたいに消えるはず」

 リッカは警戒を解かず、両拳をシャバに向ける。
 そして再び双鉄拳飛環烈迅砲ダブルロケットパンチ。ふたつの手甲はシャバの両足へ命中──したかに見えたが、蹴りあげるような動きに手甲は弾かれ宙を舞う。
 そして地中から飛び出したシャバがそれをキャッチし、4本腕でギリギリと力を込める。

「しつけーんだよ、テメー。バカじゃねーの? こんなもんなあ、こうしてやるぜっ!」

 ふたつの手甲ガントレットはシャバの手によって握り潰されてしまった。
 それを捨てながらシャバは勝ち誇った顔で手招きする。

「ハハッ、どうするよ、武器は無くなっちまったぜ。だけどよ、まさかこれで終わりじゃあねーだろ? 来いよ」

「テメー、よくもオレの幻鋼強化駆動装甲エクリプス・ギアを……許さねぇ」

 リッカの脚部装甲がバカッと割れて外れた。
 足首と手首、首を回してストレッチし、リッカは大きく伸びをする。

「は? 足の装甲まで外して何やってんだよ。ただのボディースーツだけで素手なんてよ。俺をナメてんのか?」

「ナメてなんかいねーよ。あの装甲は基本、多対一戦闘用だからな。オレの滅却轟拳格闘術フルブレイクアーツをフルに活かすのはこっちのほうがいい……テメーみたいな生身の脳筋マッチョ野郎にはな!」
  
 ヴンッ、と一瞬でシャバの懐に潜り込む。
 そこから無数の拳を下から繰り出し、ゴゴゴゴッと巨体が宙に浮いた。

「は──ええっ!」

「たりめーだ、死ね」

 その首めがけ渾身の回し蹴り。シャバは吹っ飛び、クレーター内の壁に激突した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...