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外伝
5 プリンセス・マルグリット
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美しい色とりどりのドレスに身を包んだ女性たちと華やかな貴族服の男性がペアになり、広いダンスホールをくるくると舞っていた。
ダンスの相手にいい加減疲れたマルグリットは、2階の手すりにもたれかかりながらその様子を見ていた。
ダンスは好きではない。
白くてヒラヒラした長い裾のドレスに、ゴテゴテと宝石の付いたサークレットもジャマでしかない。
「王女殿下、ここにいらしたのですね」
声に振り向くと、そこにはグラスを手にした20歳前後の上品そうな男。
ラフィルモン公アストルフ。
この聖王国フィエルテでも公爵の地位を持つ指折りの大貴族。
マルグリットは差し出されたグラスを断ったが、アストルフはいやいや、と手を握るようにして強引に持たせた。
「ラフィルモン公、お酒は困ります。わたくしはまだ12なので」
この畏まった言葉づかいもマルグリットは窮屈だった。
しかし、ここで有力な諸侯に不快な態度を取るわけにもいかない。この舞踏会に参加したのも、父王がどうしてもというからだった。
「心配なさらずともただの紅茶ですよ、王女殿下。どうですか? 今夜の舞踏会では素敵な殿方との出会いはありましたか」
12にもなれば王女に縁談の話が出てもおかしくない年頃。
極力マルグリットの意思を尊重したい父王は、候補となる貴族たちを招いて舞踏会を開き、その中からマルグリットに選ばせるつもりだった。
一応、父王の顔を立てて舞踏会に参加したマルグリットだが、次から次へと話しかけてくる男性たちに辟易していた。
どの男たちも自らの権勢の事しか考えていない。マルグリット個人の事など関心がない。
このアストルフも同じだ。
優しそうに話しかけてくるが、目は笑っていない。
「あなたの目にかなうほどの男はなかなかいませんかな……時に、殿下。ぶしつけではありますが、どのような男性がお好みなのですか」
マルグリットはムッとしたが、それを顔に出さず答える。
「神を敬い、その教えを尊重。神敵を討つためには我が身を犠牲にするのも厭わない勇士……でしょうか」
アストルフはフム、と頷きながら自らの腰の辺りをポンポンと叩く。舞踏会でなければそこには見事な装飾の施されたレイピアが差されていた部分だ。
「聖王国フィエルテに住む者であれば大概の者が敬虔な神の信者。あとは腕っぷしというわけですな。ならば武名の誉れ高い我が公爵家が最もその対象に近いと思われますが」
「…………」
マルグリットは愛想笑いで返すのみ。
ラフィルモン公爵家はたしかに多大な武功を挙げた名門だが、それはアストルフの父によるものだ。
アストルフ自身は先代の家と功績を引き継いだだけ。実戦にも出たことがない。
突然、ざわざわと会場が騒がしくなる。
護衛の兵士たちが慌ただしい動き。
マルグリットは兵士長をつかまえて何事かと聞いた。
「アンデッドの襲撃です! 数が多く、宮殿の兵士だけでは守りきれるか……今、城のほうへ救援の使いを出しました」
「アンデッド……こんなところまで。今からでは救援は間に合わない。我が出撃する」
出撃すると聞いて驚いたのはアストルフだ。
まさか、と目を丸くしている。
「邪悪で凶暴なアンデッド相手にあなたが? ご冗談でしょう。城の聖十字騎士団が来るまでここの兵に任せておきましょう」
「わたくしがその聖十字騎士団長なのです。これより先は武人としての務めを果たします」
マルグリットは複数のメイドとともに奥の間へ。
素早くドレスから金色の甲冑、その上にシスターふうの衣装をまとった姿へと着替え、手には自身と同じ名を持つ十字聖槍マルグリット。
「まさか、本当にあなたが……。無茶だ、ここの兵が戦っているうちに逃げるべきだ」
アストルフが伸ばす手を払いのけ、マルグリットは2階から飛び降りて振りかえる。
「あなたも武人の端くれならば、ご自身の身はご自身で守りなさい。逃げるのならばお好きなように。敵は一体たりともここへ近づけるつもりはありませんが」
マルグリットは十数名の兵とともに出撃。
舞踏会場である宮殿はすでに大勢のアンデッドに囲まれていた。
スケルトンの群れがガシャガシャと近づいてくる。
穂先を突き出し、突撃。
パガアッ、といくつも骨の破片が飛び散った。
足元からボコボコと腐敗した手が飛び出してきた。
跳躍してかわす。ゾロリと這い出てきたのはゾンビたち。
「十字聖槍マルグリット開放レベル2【フランベルジュ】」
空中で槍の穂先の形状が変化。炎が波打つような形に。
着地と同時にゾンビたちを両断。切り口からゴアッ、と燃え上がり、焼き尽くす。
スケルトンやゾンビはまだぞろぞろと押し寄せてくる。
マルグリットは十字聖槍の開放レベルを3に上げ、ガンランスへと変化。その砲口をガシャン、とアンデッドへ向けた。
「いくらこようと同じこと。神に背き、摂理に反した穢れしアンデッドども」
📖 📖 📖
約30分後。
貴族たちが怯えながらひとかたまりになっている宮殿の扉が開けられた。
悲鳴があがる──が、そこに現れたのはアンデッドではなかった。
泥まみれ、ゾンビの体液や肉片が付着したマルグリットの姿。
貴族たちの反応を見て、マルグリットはため息をつく。
またお父様に叱られてしまう。このような姿を見られては諸侯の男性陣も引いてしまうであろう。自身にとっては都合の良いことではあるが、と。
だがマルグリットの予想に反して、アストルフをはじめとする諸侯の男性陣は称賛と畏敬の言葉を投げかけながら集まり、マルグリットの前に跪く。
「あなたこそまさに神の加護と慈愛を受けた『聖王女』と呼ばれるにふさわしい御方。どうかぜひ我が妻になって頂きたい」
一斉に頭を垂れ、手を差し出す。
マルグリットは天井を仰ぎながら盛大なため息をついた。
ダンスの相手にいい加減疲れたマルグリットは、2階の手すりにもたれかかりながらその様子を見ていた。
ダンスは好きではない。
白くてヒラヒラした長い裾のドレスに、ゴテゴテと宝石の付いたサークレットもジャマでしかない。
「王女殿下、ここにいらしたのですね」
声に振り向くと、そこにはグラスを手にした20歳前後の上品そうな男。
ラフィルモン公アストルフ。
この聖王国フィエルテでも公爵の地位を持つ指折りの大貴族。
マルグリットは差し出されたグラスを断ったが、アストルフはいやいや、と手を握るようにして強引に持たせた。
「ラフィルモン公、お酒は困ります。わたくしはまだ12なので」
この畏まった言葉づかいもマルグリットは窮屈だった。
しかし、ここで有力な諸侯に不快な態度を取るわけにもいかない。この舞踏会に参加したのも、父王がどうしてもというからだった。
「心配なさらずともただの紅茶ですよ、王女殿下。どうですか? 今夜の舞踏会では素敵な殿方との出会いはありましたか」
12にもなれば王女に縁談の話が出てもおかしくない年頃。
極力マルグリットの意思を尊重したい父王は、候補となる貴族たちを招いて舞踏会を開き、その中からマルグリットに選ばせるつもりだった。
一応、父王の顔を立てて舞踏会に参加したマルグリットだが、次から次へと話しかけてくる男性たちに辟易していた。
どの男たちも自らの権勢の事しか考えていない。マルグリット個人の事など関心がない。
このアストルフも同じだ。
優しそうに話しかけてくるが、目は笑っていない。
「あなたの目にかなうほどの男はなかなかいませんかな……時に、殿下。ぶしつけではありますが、どのような男性がお好みなのですか」
マルグリットはムッとしたが、それを顔に出さず答える。
「神を敬い、その教えを尊重。神敵を討つためには我が身を犠牲にするのも厭わない勇士……でしょうか」
アストルフはフム、と頷きながら自らの腰の辺りをポンポンと叩く。舞踏会でなければそこには見事な装飾の施されたレイピアが差されていた部分だ。
「聖王国フィエルテに住む者であれば大概の者が敬虔な神の信者。あとは腕っぷしというわけですな。ならば武名の誉れ高い我が公爵家が最もその対象に近いと思われますが」
「…………」
マルグリットは愛想笑いで返すのみ。
ラフィルモン公爵家はたしかに多大な武功を挙げた名門だが、それはアストルフの父によるものだ。
アストルフ自身は先代の家と功績を引き継いだだけ。実戦にも出たことがない。
突然、ざわざわと会場が騒がしくなる。
護衛の兵士たちが慌ただしい動き。
マルグリットは兵士長をつかまえて何事かと聞いた。
「アンデッドの襲撃です! 数が多く、宮殿の兵士だけでは守りきれるか……今、城のほうへ救援の使いを出しました」
「アンデッド……こんなところまで。今からでは救援は間に合わない。我が出撃する」
出撃すると聞いて驚いたのはアストルフだ。
まさか、と目を丸くしている。
「邪悪で凶暴なアンデッド相手にあなたが? ご冗談でしょう。城の聖十字騎士団が来るまでここの兵に任せておきましょう」
「わたくしがその聖十字騎士団長なのです。これより先は武人としての務めを果たします」
マルグリットは複数のメイドとともに奥の間へ。
素早くドレスから金色の甲冑、その上にシスターふうの衣装をまとった姿へと着替え、手には自身と同じ名を持つ十字聖槍マルグリット。
「まさか、本当にあなたが……。無茶だ、ここの兵が戦っているうちに逃げるべきだ」
アストルフが伸ばす手を払いのけ、マルグリットは2階から飛び降りて振りかえる。
「あなたも武人の端くれならば、ご自身の身はご自身で守りなさい。逃げるのならばお好きなように。敵は一体たりともここへ近づけるつもりはありませんが」
マルグリットは十数名の兵とともに出撃。
舞踏会場である宮殿はすでに大勢のアンデッドに囲まれていた。
スケルトンの群れがガシャガシャと近づいてくる。
穂先を突き出し、突撃。
パガアッ、といくつも骨の破片が飛び散った。
足元からボコボコと腐敗した手が飛び出してきた。
跳躍してかわす。ゾロリと這い出てきたのはゾンビたち。
「十字聖槍マルグリット開放レベル2【フランベルジュ】」
空中で槍の穂先の形状が変化。炎が波打つような形に。
着地と同時にゾンビたちを両断。切り口からゴアッ、と燃え上がり、焼き尽くす。
スケルトンやゾンビはまだぞろぞろと押し寄せてくる。
マルグリットは十字聖槍の開放レベルを3に上げ、ガンランスへと変化。その砲口をガシャン、とアンデッドへ向けた。
「いくらこようと同じこと。神に背き、摂理に反した穢れしアンデッドども」
📖 📖 📖
約30分後。
貴族たちが怯えながらひとかたまりになっている宮殿の扉が開けられた。
悲鳴があがる──が、そこに現れたのはアンデッドではなかった。
泥まみれ、ゾンビの体液や肉片が付着したマルグリットの姿。
貴族たちの反応を見て、マルグリットはため息をつく。
またお父様に叱られてしまう。このような姿を見られては諸侯の男性陣も引いてしまうであろう。自身にとっては都合の良いことではあるが、と。
だがマルグリットの予想に反して、アストルフをはじめとする諸侯の男性陣は称賛と畏敬の言葉を投げかけながら集まり、マルグリットの前に跪く。
「あなたこそまさに神の加護と慈愛を受けた『聖王女』と呼ばれるにふさわしい御方。どうかぜひ我が妻になって頂きたい」
一斉に頭を垂れ、手を差し出す。
マルグリットは天井を仰ぎながら盛大なため息をついた。
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