16 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
16 秘蒼石
しおりを挟む
黄武迅の軍の協力もあって、志求磨の石板をセペノイアの青い館へ運ぶまでにそこまで日数はかからなかった。
志求磨の顔色は悪くないように見える。ひとまずはこれで安心だ。《奇跡の癒し手》とも呼ばれるカーラならば、この石板化した志求磨を元に戻すことが出来るだろう。
「鋼竜のブレスによる状態変化……ずいぶん久しぶりに見るわね。そしてあなたも」
カーラの紅い瞳が黄武迅に向けられる。
「ワリィが、旧交を温めているヒマはねぇぞ。そいつに死なれてもらっちゃ困るんでな」
どこかきまりが悪そうな黄武迅が頭をぼりぼりかいている。
どうやら旧知の仲らしいが、いまはそんなことはどうでもいい。
「カーラさん、早いとこお願いします。こいつ、治せるんでしょう?」
そのまま飛びつきそうなわたしの問いに、カーラは親指の爪をカリッと噛んでから答えた。
「ええ……そうね。過去に治したこともあるわ。でも、ごめんなさい。いまはムリなの」
「ど、どうして!」
「わたしの願望の力だけでは足りないわ。特殊なアイテムが必要なの。秘蒼石といって、とても希少なもの。いまここには無いの」
わたしは黄武迅を見る。全世界の王なら持っているはずだ。持ってなくても情報ぐらいは……。
「すまねぇ、聞いたこともねぇ」
この役立たずの中国歴史マニアの二日酔いオヤジめ。わたしは頭を抱えた。
そのとき、アルマが近くに来てなにかもにょもにょ言い出した。なんだ、こんなときに。
「……これ、山から帰る途中で拾った……」
一枚のチラシ。それがどうした。なに、シエラ=イデアル武道大会だと? だからそれが……!
アルマが指差す先に書かれていたのは──優勝商品【秘蒼石】。こ、こんな偶然が。
「やった! これで志求磨のやつを元に戻せる!」
わたしは嬉しさのあまりアルマを思い切り抱き締め、アルマは一言、むぎぅ、と呻いた。
シエラ=イデアル武道大会。しかも開催地はこのセペノイアの街だ。こんな幸運が重なるなんて。
さっそく、黄武迅とアルマとともに会場へと向かう。その間にチラシに書かれた規約でも読んでおこう。
なになに、参加者は願望者に限られる。武器の使用は可能だが、相手は殺してはならない。勝敗は相手の戦闘不能、ギブアップ、場外によって決まる。時間制限なし。
わははは、そんなの関係ない。こっちには最強の《覇王》がいるのだ。鋼竜を倒したあの無双っぷりを発揮してもらえば優勝間違いナシ。わたしが昼寝でもしている間に秘蒼石は手に入る。
「おまえ、俺を大会に出そうと思ってるだろ? 一応俺、王だぜ。それが民間主催の大会によぉ、それに賭けもやってるぜ、この大会。俺、取り締まる側なんだがなぁ」
いまさら王様ぶってなにを言っているのだ。あんたが出てもらわないと困る。わたしに優勝できる自信はあるが、万が一ということもある。とにかく志求磨の命がかかっているのだ。
「偽名使って覆面被ってでも出てもらう。もとはといえば、あんたが倒しそこねた鋼竜が原因なんだから」
すでに大にぎわいの会場。受付を済ませ入ろうとしたとき、早馬が駆けつけてきた。
「陛下、大変です! 早く王都へお戻りください!」
馬から転げ落ちながら早馬の使者が告げる。その内容は、王都の近くにギガオーガとかいう、鋼竜に匹敵する超級魔物が現れたというのだ。現在は《神算司書》ミリアムが迎撃に向かったという。
「くそっ、あいつ一人じゃ無理だ。他の五禍将は?」
「そ、それが同時間帯にリヴィエールで反乱が勃発。レオニード様はその対応に。ショウ様は相変わらず行方知れずで」
「どういうタイミングだ! ちぃっ、王都へは俺が向かう。由佳、志求磨のことは任せたぞ。アルマを置いていくから協力して事にあたれ」
黄武迅は使者が用意したもう一頭の馬にまたがり、風のように去っていった。
え、予定が違うんですけど。わたしとこの、もにょっ娘だけで出場して優勝しろと。どうだろう。なんか自信が無くなってきた。
わたしの不安をよそに、すでに大会は進行し始めていた。まず各ブロックごとに出場者が分けられ、予選を勝ち抜かなけねばならない。だがその前に問題があった。
集まった願望者たち。ほとんどが初見だ。ということはあのダダダダが一気に、何十個もわたしの頭の中に打ち込まれる。会場の願望者たちはベテランが多いのだろう。さして動揺は見られない──が、わたしはそうはいかなかった。
「う、う、うゥ、うううゥゥ」
このあとの記憶がない。あとからアルマに聞いた話だが、わたしは完全に狂戦士化し、暴風のごとく暴れまくったらしい。ほとんどの出場者が怪我を負い、出場不可能。そうでない者も棄権したようだ。死者が出なかったのは奇跡的だった。
それでも残った選手は、わたしとアルマを含んだ4人。この4人で決勝戦を行うことになった。なんだか主催者に申し訳ない。
志求磨の顔色は悪くないように見える。ひとまずはこれで安心だ。《奇跡の癒し手》とも呼ばれるカーラならば、この石板化した志求磨を元に戻すことが出来るだろう。
「鋼竜のブレスによる状態変化……ずいぶん久しぶりに見るわね。そしてあなたも」
カーラの紅い瞳が黄武迅に向けられる。
「ワリィが、旧交を温めているヒマはねぇぞ。そいつに死なれてもらっちゃ困るんでな」
どこかきまりが悪そうな黄武迅が頭をぼりぼりかいている。
どうやら旧知の仲らしいが、いまはそんなことはどうでもいい。
「カーラさん、早いとこお願いします。こいつ、治せるんでしょう?」
そのまま飛びつきそうなわたしの問いに、カーラは親指の爪をカリッと噛んでから答えた。
「ええ……そうね。過去に治したこともあるわ。でも、ごめんなさい。いまはムリなの」
「ど、どうして!」
「わたしの願望の力だけでは足りないわ。特殊なアイテムが必要なの。秘蒼石といって、とても希少なもの。いまここには無いの」
わたしは黄武迅を見る。全世界の王なら持っているはずだ。持ってなくても情報ぐらいは……。
「すまねぇ、聞いたこともねぇ」
この役立たずの中国歴史マニアの二日酔いオヤジめ。わたしは頭を抱えた。
そのとき、アルマが近くに来てなにかもにょもにょ言い出した。なんだ、こんなときに。
「……これ、山から帰る途中で拾った……」
一枚のチラシ。それがどうした。なに、シエラ=イデアル武道大会だと? だからそれが……!
アルマが指差す先に書かれていたのは──優勝商品【秘蒼石】。こ、こんな偶然が。
「やった! これで志求磨のやつを元に戻せる!」
わたしは嬉しさのあまりアルマを思い切り抱き締め、アルマは一言、むぎぅ、と呻いた。
シエラ=イデアル武道大会。しかも開催地はこのセペノイアの街だ。こんな幸運が重なるなんて。
さっそく、黄武迅とアルマとともに会場へと向かう。その間にチラシに書かれた規約でも読んでおこう。
なになに、参加者は願望者に限られる。武器の使用は可能だが、相手は殺してはならない。勝敗は相手の戦闘不能、ギブアップ、場外によって決まる。時間制限なし。
わははは、そんなの関係ない。こっちには最強の《覇王》がいるのだ。鋼竜を倒したあの無双っぷりを発揮してもらえば優勝間違いナシ。わたしが昼寝でもしている間に秘蒼石は手に入る。
「おまえ、俺を大会に出そうと思ってるだろ? 一応俺、王だぜ。それが民間主催の大会によぉ、それに賭けもやってるぜ、この大会。俺、取り締まる側なんだがなぁ」
いまさら王様ぶってなにを言っているのだ。あんたが出てもらわないと困る。わたしに優勝できる自信はあるが、万が一ということもある。とにかく志求磨の命がかかっているのだ。
「偽名使って覆面被ってでも出てもらう。もとはといえば、あんたが倒しそこねた鋼竜が原因なんだから」
すでに大にぎわいの会場。受付を済ませ入ろうとしたとき、早馬が駆けつけてきた。
「陛下、大変です! 早く王都へお戻りください!」
馬から転げ落ちながら早馬の使者が告げる。その内容は、王都の近くにギガオーガとかいう、鋼竜に匹敵する超級魔物が現れたというのだ。現在は《神算司書》ミリアムが迎撃に向かったという。
「くそっ、あいつ一人じゃ無理だ。他の五禍将は?」
「そ、それが同時間帯にリヴィエールで反乱が勃発。レオニード様はその対応に。ショウ様は相変わらず行方知れずで」
「どういうタイミングだ! ちぃっ、王都へは俺が向かう。由佳、志求磨のことは任せたぞ。アルマを置いていくから協力して事にあたれ」
黄武迅は使者が用意したもう一頭の馬にまたがり、風のように去っていった。
え、予定が違うんですけど。わたしとこの、もにょっ娘だけで出場して優勝しろと。どうだろう。なんか自信が無くなってきた。
わたしの不安をよそに、すでに大会は進行し始めていた。まず各ブロックごとに出場者が分けられ、予選を勝ち抜かなけねばならない。だがその前に問題があった。
集まった願望者たち。ほとんどが初見だ。ということはあのダダダダが一気に、何十個もわたしの頭の中に打ち込まれる。会場の願望者たちはベテランが多いのだろう。さして動揺は見られない──が、わたしはそうはいかなかった。
「う、う、うゥ、うううゥゥ」
このあとの記憶がない。あとからアルマに聞いた話だが、わたしは完全に狂戦士化し、暴風のごとく暴れまくったらしい。ほとんどの出場者が怪我を負い、出場不可能。そうでない者も棄権したようだ。死者が出なかったのは奇跡的だった。
それでも残った選手は、わたしとアルマを含んだ4人。この4人で決勝戦を行うことになった。なんだか主催者に申し訳ない。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる