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第1部 剣聖 羽鳴由佳
15 鋼竜
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ハーピーの群れはわたしの太刀風とアルマの投げナイフで片付けた。黄武迅は木を背もたれにして居眠りしてただけだ。
「んお、終わったか? ご苦労、ご苦労。さあ、先に進むか」
こんなところに来てまで王様気分なんだろうか。その背にある槍は飾りなのかと聞きたくなる。
こちらの冷たい視線を気にするふうでもなく、黄武迅は大アクビしながら歩きだした。
……寒い。山頂が近づくにつれ、寒さが増してくる。当然だ。ところどころ雪が積もっているし、強風が吹いている。
わたしは鼻水ダラダラでもはや美少女の面影はないだろう。ファンが減ったらどうするつもりだ。
願望の力で容易に体温調節はできる──らしいが、わたしにはムリらしい。願望者にも得手不得手があるのだ。
黄武迅とアルマは平気な顔をしている。アルマなんて本来は凍死しそうな格好なのに。
目があったアルマがたたっ、と駆けよってきた。
「……使って。効果が切れたら、また温めるから」
アルマが差し出したのは刀身がほんのりと赤くなったナイフだった。熱くなりすぎないように調節してあるようだ。なるほど、これなら布にくるんで懐に入れればカイロがわりになる。
「……あたしの能力。武器にいろんな属性付けられる」
うう、なんていい子なんだ。わたしの影が薄くなるから出番少なくなれ、とか吸血もにょもにょ娘、とか思ってたのに。ゴメンナサイ。
「着いた、山頂だ。おまえら気を抜くなよ」
山頂はゴツゴツと隆起した岩石に雪がまばらに積もった荒涼とした場所だった。
待て、中央のひときわ大きな巨石が動いている。
「目の錯覚か? あれ、ドラゴンに見えるんだけど……」
「ああ、錯覚でも夢でもねぇ。この山の主、鋼竜だ」
首をもたげ、こちらを振り向くのはまぎれもない、ゲームや映画でおなじみのあのドラゴンだ。鋼竜と呼ばれるだけあって、黒鉄色の硬そうな鱗。退化したのか元々無いのか翼はないタイプ。荒野で遭遇した巨大サソリよりさらにひとまわり大きい。
噂話には聞いたことがあるが、ドラゴンをはじめとする超強力な魔物はすでに滅んだはずだ。《英雄》と呼ばれた願望者が仲間とともに大陸中を巡り、片っぱしから討伐したという。あれ、たしかその《英雄》の名前って──。
「ワリィ。俺が昔、仕留め損ねたヤツだ」
「えぇっ、ちょっと!」
鋼竜が動いた。巨大な尾がガガガガと岩を粉砕しながら向かってくる。
わたしとアルマは跳躍してかわし、近くの岩山の上に着地した。黄武迅の姿は見えない。尾の攻撃に巻き込まれたのか。
岩の瓦礫がボンッ、と弾け、槍が飛び出した。鋼竜の腹に命中し、さらに黄武迅も瓦礫から飛び出してくる。
「ヨイショーッと!」
跳ね返った槍をキャッチし、鋼竜の横っ面を力任せに殴りつける。グラリと態勢を崩した。
わたしとアルマが追撃。岩山から滑り落ちるように接近、抜刀。斬鉄の技で腕を斬りつける。アルマは電撃の二刀ダガーを突き立てた。
グオオオオオオッ、鋼竜の凄まじい咆哮。三人が吹っ飛ぶ。セプティミアの音響攻撃とは比べものにならない威力。
「いててて……いまの俺ならチョロいと思ったんだが、しまったな。もう一人ぐらい五禍将連れてくりゃよかった」
黄武迅が起き上がりながらぼやく。冗談じゃない。硬いものを斬るために特化した技、斬鉄がまったく効いていない。アルマのダガーも鱗の表面を少し削った程度だ。
「どうするんだ、あんな化け物」
「仕方ねぇな、おまえらヒヨッコは下がってろ。ちぃと本気出す」
地面に槍を突き立て、黄武迅が集中に入る。ゴッ、とオーラのようなものが身体から立ち昇るのが見えた。
「う……わっ」
願望者だけが感じることの出来る、願望の力の圧力。近くにいると立っていられない。この男、普段は飄々としているが《覇王》と呼ばれるだけあって、その実力はケタ違いのようだ。
鋼竜が大きく息を吸い込んだ。強烈なブレス攻撃の前触れだ。
「させるかよ」
槍を投擲する構え。鋼竜が真っ黒の息を吐き出すと同時に一筋の閃光が放たれた。
槍は鋼竜の息を四散させ、その喉奥へと飲み込まれ──後頭部より飛び出した。その巨体が崩れ落ち、地面が揺れる。
「スゴ……なんて威力」
わたしは驚くというより呆れた。これほどの力があれば、各地の伝説級の魔物や願望者を倒したというのも納得できる。
「俺がまだ修行中の頃だ、こいつと戦ったのは。そんときは大勢の犠牲を出してなお倒しきれなくてな、この山に封印していた」
「封印?」
「俺の二つ名のひとつにあっただろう、《封魔士》ってな。その頃に呼ばれていた名だ」
「その封印していたドラゴンがなんで今頃……」
「わからん。本来、封印が解けるのはずっと先のはずだ。最近、魔物の増加と大型化をよく耳にするが、それに関係があるのかもな」
「あ、そういえば志求磨は?」
鋼竜に気を取られすぎ、肝心なことを忘れていた。志求磨は先に遭遇していたはずだ。この恐ろしい相手と。
「待てよ、いま探すからな。たしかこのあたりだったよな、あいつのコレクションは……」
黄武迅が岩の瓦礫を掘り起こし始める。そんなところに人がいるわけないだろうと思っていると、人の大きさほどの半透明の黒い石板がごろごろ出てきた。
「なんだそれ……うわっ」
石板の中には人が閉じ込められていた。まるで氷漬けになったように。いや、年代の古そうなものはミイラ化している。まさか、この中に志求磨が。
わたしも慌てて瓦礫を掘り起こす。それを見てアルマも手伝ってくれた。
──あった。志求磨の石板だ。眠るようにして石板の中に閉じ込められている。わたしは顔のあたりを撫でたあと、黄武迅の胸ぐらを掴んだ。
「どうやったら……元に戻る」
「これはコカトリスやゴルゴンの石化とは訳が違う。治癒の力に優れた願望者に頼むしかない」
「治癒の力……」
呟きながらわたしは一人の女性を思い出していた。深い海の底にいるような、あの《青の魔女》を。
「んお、終わったか? ご苦労、ご苦労。さあ、先に進むか」
こんなところに来てまで王様気分なんだろうか。その背にある槍は飾りなのかと聞きたくなる。
こちらの冷たい視線を気にするふうでもなく、黄武迅は大アクビしながら歩きだした。
……寒い。山頂が近づくにつれ、寒さが増してくる。当然だ。ところどころ雪が積もっているし、強風が吹いている。
わたしは鼻水ダラダラでもはや美少女の面影はないだろう。ファンが減ったらどうするつもりだ。
願望の力で容易に体温調節はできる──らしいが、わたしにはムリらしい。願望者にも得手不得手があるのだ。
黄武迅とアルマは平気な顔をしている。アルマなんて本来は凍死しそうな格好なのに。
目があったアルマがたたっ、と駆けよってきた。
「……使って。効果が切れたら、また温めるから」
アルマが差し出したのは刀身がほんのりと赤くなったナイフだった。熱くなりすぎないように調節してあるようだ。なるほど、これなら布にくるんで懐に入れればカイロがわりになる。
「……あたしの能力。武器にいろんな属性付けられる」
うう、なんていい子なんだ。わたしの影が薄くなるから出番少なくなれ、とか吸血もにょもにょ娘、とか思ってたのに。ゴメンナサイ。
「着いた、山頂だ。おまえら気を抜くなよ」
山頂はゴツゴツと隆起した岩石に雪がまばらに積もった荒涼とした場所だった。
待て、中央のひときわ大きな巨石が動いている。
「目の錯覚か? あれ、ドラゴンに見えるんだけど……」
「ああ、錯覚でも夢でもねぇ。この山の主、鋼竜だ」
首をもたげ、こちらを振り向くのはまぎれもない、ゲームや映画でおなじみのあのドラゴンだ。鋼竜と呼ばれるだけあって、黒鉄色の硬そうな鱗。退化したのか元々無いのか翼はないタイプ。荒野で遭遇した巨大サソリよりさらにひとまわり大きい。
噂話には聞いたことがあるが、ドラゴンをはじめとする超強力な魔物はすでに滅んだはずだ。《英雄》と呼ばれた願望者が仲間とともに大陸中を巡り、片っぱしから討伐したという。あれ、たしかその《英雄》の名前って──。
「ワリィ。俺が昔、仕留め損ねたヤツだ」
「えぇっ、ちょっと!」
鋼竜が動いた。巨大な尾がガガガガと岩を粉砕しながら向かってくる。
わたしとアルマは跳躍してかわし、近くの岩山の上に着地した。黄武迅の姿は見えない。尾の攻撃に巻き込まれたのか。
岩の瓦礫がボンッ、と弾け、槍が飛び出した。鋼竜の腹に命中し、さらに黄武迅も瓦礫から飛び出してくる。
「ヨイショーッと!」
跳ね返った槍をキャッチし、鋼竜の横っ面を力任せに殴りつける。グラリと態勢を崩した。
わたしとアルマが追撃。岩山から滑り落ちるように接近、抜刀。斬鉄の技で腕を斬りつける。アルマは電撃の二刀ダガーを突き立てた。
グオオオオオオッ、鋼竜の凄まじい咆哮。三人が吹っ飛ぶ。セプティミアの音響攻撃とは比べものにならない威力。
「いててて……いまの俺ならチョロいと思ったんだが、しまったな。もう一人ぐらい五禍将連れてくりゃよかった」
黄武迅が起き上がりながらぼやく。冗談じゃない。硬いものを斬るために特化した技、斬鉄がまったく効いていない。アルマのダガーも鱗の表面を少し削った程度だ。
「どうするんだ、あんな化け物」
「仕方ねぇな、おまえらヒヨッコは下がってろ。ちぃと本気出す」
地面に槍を突き立て、黄武迅が集中に入る。ゴッ、とオーラのようなものが身体から立ち昇るのが見えた。
「う……わっ」
願望者だけが感じることの出来る、願望の力の圧力。近くにいると立っていられない。この男、普段は飄々としているが《覇王》と呼ばれるだけあって、その実力はケタ違いのようだ。
鋼竜が大きく息を吸い込んだ。強烈なブレス攻撃の前触れだ。
「させるかよ」
槍を投擲する構え。鋼竜が真っ黒の息を吐き出すと同時に一筋の閃光が放たれた。
槍は鋼竜の息を四散させ、その喉奥へと飲み込まれ──後頭部より飛び出した。その巨体が崩れ落ち、地面が揺れる。
「スゴ……なんて威力」
わたしは驚くというより呆れた。これほどの力があれば、各地の伝説級の魔物や願望者を倒したというのも納得できる。
「俺がまだ修行中の頃だ、こいつと戦ったのは。そんときは大勢の犠牲を出してなお倒しきれなくてな、この山に封印していた」
「封印?」
「俺の二つ名のひとつにあっただろう、《封魔士》ってな。その頃に呼ばれていた名だ」
「その封印していたドラゴンがなんで今頃……」
「わからん。本来、封印が解けるのはずっと先のはずだ。最近、魔物の増加と大型化をよく耳にするが、それに関係があるのかもな」
「あ、そういえば志求磨は?」
鋼竜に気を取られすぎ、肝心なことを忘れていた。志求磨は先に遭遇していたはずだ。この恐ろしい相手と。
「待てよ、いま探すからな。たしかこのあたりだったよな、あいつのコレクションは……」
黄武迅が岩の瓦礫を掘り起こし始める。そんなところに人がいるわけないだろうと思っていると、人の大きさほどの半透明の黒い石板がごろごろ出てきた。
「なんだそれ……うわっ」
石板の中には人が閉じ込められていた。まるで氷漬けになったように。いや、年代の古そうなものはミイラ化している。まさか、この中に志求磨が。
わたしも慌てて瓦礫を掘り起こす。それを見てアルマも手伝ってくれた。
──あった。志求磨の石板だ。眠るようにして石板の中に閉じ込められている。わたしは顔のあたりを撫でたあと、黄武迅の胸ぐらを掴んだ。
「どうやったら……元に戻る」
「これはコカトリスやゴルゴンの石化とは訳が違う。治癒の力に優れた願望者に頼むしかない」
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