異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

14 アライグマッスル再び

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 麓までは軍の一隊に護衛されながらの移動なので何不自由なかったが、山に入ってからはそうもいかない。それでも一小隊ぐらいはついてくるだろうと思っていたのだが。
──二人である。わたしと《覇王》黄武迅。たった二人でこの山を登り、志求磨を探そうとしているのだ。正気か。

「なぜだってツラしてんな。ま、心配すんな。この山、俺はよく知っている。志求磨がいるだろうおおよその場所も分かっている」

「…………」

 周りはほとんど岩。朽ちかけた木。うんざりするほど同じ景色が続く。山道がそう急ではないのがせめてもの救いか。

「それにな、こっそりついてくるやつがいる。仕方ねぇな」

 黄武迅は石を拾うと、後方の木の枝あたりに投げつけた。コツン、と幹にも枝にも当たってないのに音がする。ドサッ、となにかが落ちてきた。

「げっ……」

 落ちてきたのは《アサシン》アルマ・イルハムだ。くりくりした瞳に涙を浮かべながら黄武迅をにらみつけている。頭を押さえているところを見ると、コブでも出来たのか。

「勝手についてくるやつがあるか。五禍将の任務もあるだろうに。今頃ミリアムが怒りまくってるぞ」

「……………………」

 アルマはたたっ、と駆けよってきてわたしの背後に隠れた。

「えらい懐かれてんだな、由佳。そいつ、腕は立つんだが他人と馴染めなくてな。珍しいもんだ」

「むぐぐ……」

 わたしはこの娘は苦手だ。何考えてるか分からないし、何しゃべっているか分からない。ふとももちゅうちゅう事件もあるし、美少女キャラが被るのも困る。しかし、いまはそうも言っていられない状況だ。仲間は一人でも多いほうがいい。

 わたしたち三人が山の中腹辺りに着こうというとき、上のほうからギャアギャア鳴く声が聞こえてくる。これは……魔物だ。
 山の中腹にはそこそこ広い平地があった。まわりを飛びかっているのはハーピーとかいう、女の顔に鳥の身体を持つ魔物だ。なぜだろう、魔物の鳴き声に混じってズンチャ、ズンチャと昭和感満載のBGMが聞こえてくる。イヤな予感が……。
 真ん中に誰かいる……あれは一度見ればその姿、忘れるはずもない、《アライグマッスル》だ!

「む、君たち、そこから動くんじゃない! 魔物の狙いはわたしだけだ!」

 すでに変身済みの《アライグマッスル》はがしゃんと、なにかにまたがった。え、あれは手製の自転車っぽいが……。

「見よ、このわたしの新たな力!」

 乗っているボロい自転車がビカーッと光り、なんとオートバイに変化した。前面のカウルはアライグマの顔、シート後部には縞模様のシッポがくっついている。

「説明しよう!」

 うわ、ビックリした。例のナレーションか。いきなり空から降ってくるのは勘弁してくれ。

「《アライグマッスル》のマシン、アライグマシーン! 最高時速500キロを誇る、遠隔操作可能なハイテクマシンだ!」

 ウソつけと叫びたかったが、ここはひとまず様子を見よう。《アライグマッスル》はブオン、ブオンとエンジンをふかしている。ハーピーたちが急降下し、鋭い鉤爪を突き立てようと襲いかかる。

「ふんっ、ラスカールッ!」

《アライグマッスル》はウィリーしながらその場で回転、4匹のハーピーを叩き落とした。
 ギャアギャア叫びながら他のハーピーは上空へと逃げる。空へ逃げられたら、打つ手がない。どうする、《アライグマッスル》!

「ふ、それで逃げたつもりか。甘いっ!」

  フルスロットルで《アライグマッスル》は背後の崖をバイクでギャリギャリ駆け登りはじめる。ハーピーたちと同じ高さまでくると、バイクからジャンプした。

「ラクーンキック!」

 一匹に必殺の蹴りを喰らわせ、それを反動にしさらに跳ぶ。

「ラクーンキック!」

 さらにもう一匹。蹴りの反動を利用して次々とハーピーを撃ち落としていく。
 
「とぅおおーぅっ!」

 最後のハーピーを撃ち落として落下する《アライグマッスル》。着地点にはもちろん、アライグマシーンが待機している。どかっとシートに座るとボカーンと背後が爆発。もういいって。

「君たち、もう大丈夫だ。正義と筋肉の味方《アライグマッスル》がいるかぎり、魔物を恐れることはない」

 変身が解け、《アライグマッスル》から御手洗剛志へと姿が戻り、アライグマシーンもただのボロい自転車になった。オートバイなんてこの世界にないのに、どう認識させたのだろうか。並外れた願望、いや、思い込みの成せる技としかいいようがない。

「おもしれーヤツもいたもんだ。由佳、おまえの知り合いか?」

 黄武迅の問いに、わたしは全力で首を横に振る。仲間だと思われたらとても恥ずかしい。

「さらばだ! 助けがいるときはまた呼びたまえ! わたしはどこへでも駆けつけるぞ!」

 ギコギコと自転車をこぎながら御手洗剛志は去っていった。そもそも呼んでねーし。
 御手洗剛志が去ったことで、地面で大人しくしていたハーピーたちがギャアギャア騒ぎだした。羽をひろげ、こちらを威嚇する。

「まったく、二度手間にも程がある。なんなんだ、あいつは」

 呆れながらわたしたちは戦闘態勢に入った。

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