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第1部 剣聖 羽鳴由佳
19 決着
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「シッ!」 「気翔拳!」
衝撃波と気弾が中央でぶつかり、炸裂する。煙幕が張られ、視界が遮られた。
素早く納刀し、次の居合いのために構える。見えずとも間合いに入れば即、斬る。間合いの外から気弾攻撃は──ない。あの男は必ず突っ込んでくる。
ゴッ、と煙の中から拳。目視より速く身体が反応。神速の抜刀で斬り飛ばした──つもりが、弾かれた。まずい、願望の力で硬質化している。普通の斬撃は効かない。
ショウは密着するほどに接近。刀を使わせないつもりだ。ナメるな。
刀を逆手に持ちかえ、柄頭で腹のあたりを打つ。ぐっ、と怯んだ。反動でさらに持ちかえ、打ち下ろしの斬撃。これは斬鉄の技。浅いがショウの左肩を斬った。
「ふんっ」
かまわず腕を伸ばし、袖を掴まれた。うわ、ヤバい。ガクン、と態勢が崩されたと思ったときには天地が逆転していた。
宙空に放り投げられ、無防備状態──ショウは両掌に気を溜め、わたしは逆さまのまま居合いの構え。
「気翔拳!」 「シッ!」
またも爆発が起こり、踏ん張りがきかない分、わたしは舞台の端まで飛ばされた。
追撃がくるかと身構えたが──ない。左肩を押さえながら嬉しそうに話しかけてくる。
「さすがだな、《剣聖》。俺の期待通りだ」
「おまえを満足させるために、ここにいるわけじゃない」
「だが、おまえも感じているはずだ。強者と戦える喜びを。そしてさらに高まっていく自分の強さを」
「…………」
第一の目的は優勝して秘蒼石を得ること。コイツを倒してアルマのかたきを取ることだ。戦い自体が好きというわけではないが、コイツの言うことを全ては否定できない。
「《剣聖》、おまえは俺に似ている。二つ名もな。俺は《拳聖》と呼ばれている」
言いながら走り出した。跳躍し、叫ぶ。
「跳虎連脚!」
空中連続蹴り。わたしは正面から蹴りに合わせて斬りつける。
ゴッ、ゴッ、ゴッ。まるで岩の塊を斬りつけたような感触。完全に防御に徹している。この蹴りは──おとりだ。本命は足を狙った下段蹴り。なんとかガード。
そこからアッパー、裏拳、中段突き、手刀、膝蹴り。うおぉ、ショウの鬼コンボだ。ダメだ、防ぎきれない。背後は場外。
いちかばちか。反撃するしかない。相討ち覚悟で刀を横に薙ぐ──ショウの姿は消えていた。
ぐぐっ、と身を屈め、力を溜めている。マズイ、この技は。
「焔撃鳳拳!」
炎をまとった超アッパーカット。舞台端で火柱が立ち昇り、わたしはその奔流に飲み込まれ、宙に舞った。
全身を練気で強化。ダメージは五割程度に押さえたが、このまま落下すれば場外だ。
──あれしかない。空中で居合いの構え。防御に徹している練気をすべて刀一点に集中。鍔と鞘の間からキイィィ、と気の光が漏れる。
「シッ!」
真・太刀風。抜刀とともに巨大な三日月状の剣閃が飛ぶ。舞台の床を削りながらショウに迫った。
「気翔拳!」
ショウの気弾。だがそれはあえなく消し飛び、真・太刀風はショウにまともに命中する。
「ぬああああぁッ!」
剣閃の勢いは衰えず、ショウを巻き込んだまま場外の壁に激突。同時にわたしも場外に着地した。
「勝負あり!」
審判の声が響き、試合終了の太鼓が鳴った。
これはどっちだ。どっちが先に場外に落ちたのか。複数の審判が集まり、審議している。
その結果は──。
試合後の表彰式。壇上に立っていたのは……わたしではなかった。
審議では3対2の判定。わたしが先に場外へ落ちたという結果だ。
どうしよう。秘蒼石が手に入らなかった。これでは志求磨を元に戻すことが出来ない。
ショウを闇討ちして奪い取ろうかと物騒なことを考えていると、そのショウがわたしに近づいてきた。
「試合の結果は俺の勝ちだが、勝負なら負けていた。これを見ろ」
胴着をはだけさせ、さっきの真・太刀風で出来た裂傷を見せてくる。うぇ、そんなの見せてくるな。よく立っていられるなコイツ。
「それにおまえは俺の弱点に気付いていたはずだ。おまえほどの腕なら、そこをもっと上手く突くことも出来たはず」
アルマ戦でそれは見抜いていた。コイツの弱点。格ゲーキャラの宿命、技の発動時に技名を叫ぶ。それともうひとつ。発動前に不自然な動きがあった。あれは──コマンド入力だ。
格闘ゲームで→↗️↑などとレバーを操作し、技を出す操作。それが実際に身体の動きに出ていた。
わたしほどの腕ならたしかにそれを予測し、技の発動前にツブすことも出来ただろう。だが失敗すればまともに技をくらうはめになる。今回は慎重を期して、あえてやらなかっただけなのだが。
「アルマのかたきを取るためだろう。俺の技を真っ向から受けて、正面から叩き潰す。たしかに俺の自信が揺らいだ。見事だった」
なんだ、よく喋るなコイツ。そう思ってるならそう思っとけ。いや、待てよ。これはアレだ。『俺にはこの優勝商品を手にする資格はない。おまえに譲る』というパターンだ。ほほう、ういやつめ。なかなかに殊勝な考えだ。
「俺には優勝の資格などない。本来の勝者はおまえだ」
お、キタキタ。わかったから早くその秘蒼石をくれ。遠慮なくもらってやる。
「だがな、俺はまだまだ強くなってみせる。次こそ俺が勝ってみせる。それまでは死ぬなよ、《剣聖》。さらばだ」
くれんのかーい! わたしはギャグマンガ並みにズコーッ、とこけた。
いやいや、こけている場合ではない。去っていくショウを慌てて追いかけ、事情を話したらあっさりと譲ってくれた。元々、賞品には興味が無かったらしい。はじめから素直に頼んでおけばよかった。
衝撃波と気弾が中央でぶつかり、炸裂する。煙幕が張られ、視界が遮られた。
素早く納刀し、次の居合いのために構える。見えずとも間合いに入れば即、斬る。間合いの外から気弾攻撃は──ない。あの男は必ず突っ込んでくる。
ゴッ、と煙の中から拳。目視より速く身体が反応。神速の抜刀で斬り飛ばした──つもりが、弾かれた。まずい、願望の力で硬質化している。普通の斬撃は効かない。
ショウは密着するほどに接近。刀を使わせないつもりだ。ナメるな。
刀を逆手に持ちかえ、柄頭で腹のあたりを打つ。ぐっ、と怯んだ。反動でさらに持ちかえ、打ち下ろしの斬撃。これは斬鉄の技。浅いがショウの左肩を斬った。
「ふんっ」
かまわず腕を伸ばし、袖を掴まれた。うわ、ヤバい。ガクン、と態勢が崩されたと思ったときには天地が逆転していた。
宙空に放り投げられ、無防備状態──ショウは両掌に気を溜め、わたしは逆さまのまま居合いの構え。
「気翔拳!」 「シッ!」
またも爆発が起こり、踏ん張りがきかない分、わたしは舞台の端まで飛ばされた。
追撃がくるかと身構えたが──ない。左肩を押さえながら嬉しそうに話しかけてくる。
「さすがだな、《剣聖》。俺の期待通りだ」
「おまえを満足させるために、ここにいるわけじゃない」
「だが、おまえも感じているはずだ。強者と戦える喜びを。そしてさらに高まっていく自分の強さを」
「…………」
第一の目的は優勝して秘蒼石を得ること。コイツを倒してアルマのかたきを取ることだ。戦い自体が好きというわけではないが、コイツの言うことを全ては否定できない。
「《剣聖》、おまえは俺に似ている。二つ名もな。俺は《拳聖》と呼ばれている」
言いながら走り出した。跳躍し、叫ぶ。
「跳虎連脚!」
空中連続蹴り。わたしは正面から蹴りに合わせて斬りつける。
ゴッ、ゴッ、ゴッ。まるで岩の塊を斬りつけたような感触。完全に防御に徹している。この蹴りは──おとりだ。本命は足を狙った下段蹴り。なんとかガード。
そこからアッパー、裏拳、中段突き、手刀、膝蹴り。うおぉ、ショウの鬼コンボだ。ダメだ、防ぎきれない。背後は場外。
いちかばちか。反撃するしかない。相討ち覚悟で刀を横に薙ぐ──ショウの姿は消えていた。
ぐぐっ、と身を屈め、力を溜めている。マズイ、この技は。
「焔撃鳳拳!」
炎をまとった超アッパーカット。舞台端で火柱が立ち昇り、わたしはその奔流に飲み込まれ、宙に舞った。
全身を練気で強化。ダメージは五割程度に押さえたが、このまま落下すれば場外だ。
──あれしかない。空中で居合いの構え。防御に徹している練気をすべて刀一点に集中。鍔と鞘の間からキイィィ、と気の光が漏れる。
「シッ!」
真・太刀風。抜刀とともに巨大な三日月状の剣閃が飛ぶ。舞台の床を削りながらショウに迫った。
「気翔拳!」
ショウの気弾。だがそれはあえなく消し飛び、真・太刀風はショウにまともに命中する。
「ぬああああぁッ!」
剣閃の勢いは衰えず、ショウを巻き込んだまま場外の壁に激突。同時にわたしも場外に着地した。
「勝負あり!」
審判の声が響き、試合終了の太鼓が鳴った。
これはどっちだ。どっちが先に場外に落ちたのか。複数の審判が集まり、審議している。
その結果は──。
試合後の表彰式。壇上に立っていたのは……わたしではなかった。
審議では3対2の判定。わたしが先に場外へ落ちたという結果だ。
どうしよう。秘蒼石が手に入らなかった。これでは志求磨を元に戻すことが出来ない。
ショウを闇討ちして奪い取ろうかと物騒なことを考えていると、そのショウがわたしに近づいてきた。
「試合の結果は俺の勝ちだが、勝負なら負けていた。これを見ろ」
胴着をはだけさせ、さっきの真・太刀風で出来た裂傷を見せてくる。うぇ、そんなの見せてくるな。よく立っていられるなコイツ。
「それにおまえは俺の弱点に気付いていたはずだ。おまえほどの腕なら、そこをもっと上手く突くことも出来たはず」
アルマ戦でそれは見抜いていた。コイツの弱点。格ゲーキャラの宿命、技の発動時に技名を叫ぶ。それともうひとつ。発動前に不自然な動きがあった。あれは──コマンド入力だ。
格闘ゲームで→↗️↑などとレバーを操作し、技を出す操作。それが実際に身体の動きに出ていた。
わたしほどの腕ならたしかにそれを予測し、技の発動前にツブすことも出来ただろう。だが失敗すればまともに技をくらうはめになる。今回は慎重を期して、あえてやらなかっただけなのだが。
「アルマのかたきを取るためだろう。俺の技を真っ向から受けて、正面から叩き潰す。たしかに俺の自信が揺らいだ。見事だった」
なんだ、よく喋るなコイツ。そう思ってるならそう思っとけ。いや、待てよ。これはアレだ。『俺にはこの優勝商品を手にする資格はない。おまえに譲る』というパターンだ。ほほう、ういやつめ。なかなかに殊勝な考えだ。
「俺には優勝の資格などない。本来の勝者はおまえだ」
お、キタキタ。わかったから早くその秘蒼石をくれ。遠慮なくもらってやる。
「だがな、俺はまだまだ強くなってみせる。次こそ俺が勝ってみせる。それまでは死ぬなよ、《剣聖》。さらばだ」
くれんのかーい! わたしはギャグマンガ並みにズコーッ、とこけた。
いやいや、こけている場合ではない。去っていくショウを慌てて追いかけ、事情を話したらあっさりと譲ってくれた。元々、賞品には興味が無かったらしい。はじめから素直に頼んでおけばよかった。
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