26 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
26 再会
しおりを挟む
「志求磨、おい、起きろ。わたしだ。聞こえるか」
目を開かない志求磨に呼びかける。起きない。頬をぺちぺち叩いたり、揺さぶったりしても起きない。
「どうしよう、カーラさん。間に合わなかったんじゃ」
涙目でカーラに聞く。カーラは優しく微笑みながら自身の唇に人差し指を当てる。
「大丈夫、よく眠っているだけよ。今はゆっくり休ませてあげましょう。それとも王子様が目覚めるのはお姫様のキスが必要だったかしら」
「な、何を冗談を……」
わたしが赤くなってどぎまぎしていると、背後から殺気。振り向けばアルマがダガーを手に志求磨を睨みつけている。おいおい、何をするつもりだ、このもにょっ娘は。
眠っている志求磨はとりあえず青い館に運び込む。
わたしが以前運び込まれた部屋。カーラが気を利かせたのか、部屋にはわたしと志求磨の二人きりだった。アルマは頑なに部屋に残ろうとしていたが、カーラが魔法で眠らせ、連れていった。
「志求磨……大変だったんだぞ、おまえを助けだすの。鋼竜と戦ったり、武道大会に出たり、料理作ったり、大勢の魔物と戦ったり……」
ベッドで眠ったままの志求磨に話しかける。のんきな顔して寝息を立てているコイツを見てると、なんか腹が立ってきた。
「大体、おまえがヴァーグの街で別行動しようって言い出したのが原因なんだからな。わたしを一人にしようとしたからバチが当たったんだ」
ガツン、とベッドの脚を軽く蹴る。
「おまえは不思議なヤツだ。会ってまだ少ししか経ってないのに……なんか前から知ってたっていうか、大事な人だっていうか……」
言いながら涙が出てきた。さっきまで怒ってたのに。ポタポタと志求磨の顔に涙が落ちる。
「とにかく無事でよかった。生きててくれて……」
手の甲で涙を拭う。だがどんどん溢れてきて止まらない。
「由佳、ちょっと冷たいよ」
「…………?」
「だから冷たいってさ。鼻水は垂らさないでよ」
志求磨が目を覚ましている。わたしは慌てて背を向けて顔をごしごしと袖で拭った。
「な、なんだ。起きたのか。あ、いまカーラさん呼んでくる」
部屋の外に出ようとしたが、手をぐっと掴まれた。
「由佳……俺、石の中に閉じ込められていたけど、わかってた。みんなが俺のために戦っていたこと」
「………………」
「おれのせいで、かえって由佳を危険な目に遭わせちまった。ほんとにゴメンな」
やめろ。せっかく涙が止まったのに、そんなこと言われたらまた泣いてしまいそうだ。
「由佳、大事な話がある」
「えっ」
志求磨のめずらしく真剣な声に思わず振り向く。
「由佳には話しておくよ、俺の……天塚志求磨のこと」
「おまえのこと?」
「うん。俺ね、元の世界じゃ周りの人には内緒で小説書いてたんだ。その主人公がこの志求磨」
わたしの手を握ったまま、志求磨は話し続ける。
「元の世界じゃ、恥ずかしかったんだ。小説書いてるってバレたらバカにされそうで。だけど、仲良くしてた一人の女の子には言おうと思ってたんだ」
「…………」
「その子はスゴいんだ。なんていうか、周りの目を全然気にしないっていうか、空気とか読まないっていうか。俺がすごく神経使ってることを、何とも思っちゃいない。ほんとに尊敬できる子だったんだ」
「それが、わたしに何の関係があるんだ」
そんな知らない女の子の話なんか聞きたくない。わたしはイライラしてきた。
「由佳、いいから聞いて。その子は消えたんだ。元の世界から忽然と。だから俺はこっちに来たんだ。その子を探しだして、護る騎士になるっていう願望なんだ」
「聞きたくないっ、そんな事! わたしには関係ないっ!」
わたしは手を振りほどき、出口へ走る。背後から志求磨が大声で何か言っているが、もう分からない。顔がまた涙でぐしゃぐしゃになった。
ドアノブに触れようとしたとき、ドアの向こうからバタバタと騒ぐ音が聞こえる。これは──カーラの声か。
「ダメよ、アルマちゃん。二人は大事な話があるんだから。ああ、もう!」
バタンッ、とドアが開き、アルマと目が合った。わたしの顔を見てアルマの目つきに殺気がこもる。
「……由佳を泣かせた。志求磨、殺す」
わたしはそのままアルマとカーラを押し退け、青い館を飛び出した。
夢中で走り続ける。もうどうだっていい。あんなヤツ知らない。せっかく助けてやったのに、小説の主人公になって女の子を助ける騎士になりたいんだと。
「勝手にやってろ」
その女の子を助けて、自分の能力で二人仲良く元の世界に帰ればいい。ああ、だからあんなへんちくりんな能力を持っているのか。
わたしは妙に納得し、少し冷静になった。飛び出してきたのはいいが、これからどうするか。
わたしは少し考え、もう一つ気がかりになっていた男の元へ行くことへ決めた。そう、《覇王》黄武迅の元へ。
目を開かない志求磨に呼びかける。起きない。頬をぺちぺち叩いたり、揺さぶったりしても起きない。
「どうしよう、カーラさん。間に合わなかったんじゃ」
涙目でカーラに聞く。カーラは優しく微笑みながら自身の唇に人差し指を当てる。
「大丈夫、よく眠っているだけよ。今はゆっくり休ませてあげましょう。それとも王子様が目覚めるのはお姫様のキスが必要だったかしら」
「な、何を冗談を……」
わたしが赤くなってどぎまぎしていると、背後から殺気。振り向けばアルマがダガーを手に志求磨を睨みつけている。おいおい、何をするつもりだ、このもにょっ娘は。
眠っている志求磨はとりあえず青い館に運び込む。
わたしが以前運び込まれた部屋。カーラが気を利かせたのか、部屋にはわたしと志求磨の二人きりだった。アルマは頑なに部屋に残ろうとしていたが、カーラが魔法で眠らせ、連れていった。
「志求磨……大変だったんだぞ、おまえを助けだすの。鋼竜と戦ったり、武道大会に出たり、料理作ったり、大勢の魔物と戦ったり……」
ベッドで眠ったままの志求磨に話しかける。のんきな顔して寝息を立てているコイツを見てると、なんか腹が立ってきた。
「大体、おまえがヴァーグの街で別行動しようって言い出したのが原因なんだからな。わたしを一人にしようとしたからバチが当たったんだ」
ガツン、とベッドの脚を軽く蹴る。
「おまえは不思議なヤツだ。会ってまだ少ししか経ってないのに……なんか前から知ってたっていうか、大事な人だっていうか……」
言いながら涙が出てきた。さっきまで怒ってたのに。ポタポタと志求磨の顔に涙が落ちる。
「とにかく無事でよかった。生きててくれて……」
手の甲で涙を拭う。だがどんどん溢れてきて止まらない。
「由佳、ちょっと冷たいよ」
「…………?」
「だから冷たいってさ。鼻水は垂らさないでよ」
志求磨が目を覚ましている。わたしは慌てて背を向けて顔をごしごしと袖で拭った。
「な、なんだ。起きたのか。あ、いまカーラさん呼んでくる」
部屋の外に出ようとしたが、手をぐっと掴まれた。
「由佳……俺、石の中に閉じ込められていたけど、わかってた。みんなが俺のために戦っていたこと」
「………………」
「おれのせいで、かえって由佳を危険な目に遭わせちまった。ほんとにゴメンな」
やめろ。せっかく涙が止まったのに、そんなこと言われたらまた泣いてしまいそうだ。
「由佳、大事な話がある」
「えっ」
志求磨のめずらしく真剣な声に思わず振り向く。
「由佳には話しておくよ、俺の……天塚志求磨のこと」
「おまえのこと?」
「うん。俺ね、元の世界じゃ周りの人には内緒で小説書いてたんだ。その主人公がこの志求磨」
わたしの手を握ったまま、志求磨は話し続ける。
「元の世界じゃ、恥ずかしかったんだ。小説書いてるってバレたらバカにされそうで。だけど、仲良くしてた一人の女の子には言おうと思ってたんだ」
「…………」
「その子はスゴいんだ。なんていうか、周りの目を全然気にしないっていうか、空気とか読まないっていうか。俺がすごく神経使ってることを、何とも思っちゃいない。ほんとに尊敬できる子だったんだ」
「それが、わたしに何の関係があるんだ」
そんな知らない女の子の話なんか聞きたくない。わたしはイライラしてきた。
「由佳、いいから聞いて。その子は消えたんだ。元の世界から忽然と。だから俺はこっちに来たんだ。その子を探しだして、護る騎士になるっていう願望なんだ」
「聞きたくないっ、そんな事! わたしには関係ないっ!」
わたしは手を振りほどき、出口へ走る。背後から志求磨が大声で何か言っているが、もう分からない。顔がまた涙でぐしゃぐしゃになった。
ドアノブに触れようとしたとき、ドアの向こうからバタバタと騒ぐ音が聞こえる。これは──カーラの声か。
「ダメよ、アルマちゃん。二人は大事な話があるんだから。ああ、もう!」
バタンッ、とドアが開き、アルマと目が合った。わたしの顔を見てアルマの目つきに殺気がこもる。
「……由佳を泣かせた。志求磨、殺す」
わたしはそのままアルマとカーラを押し退け、青い館を飛び出した。
夢中で走り続ける。もうどうだっていい。あんなヤツ知らない。せっかく助けてやったのに、小説の主人公になって女の子を助ける騎士になりたいんだと。
「勝手にやってろ」
その女の子を助けて、自分の能力で二人仲良く元の世界に帰ればいい。ああ、だからあんなへんちくりんな能力を持っているのか。
わたしは妙に納得し、少し冷静になった。飛び出してきたのはいいが、これからどうするか。
わたしは少し考え、もう一つ気がかりになっていた男の元へ行くことへ決めた。そう、《覇王》黄武迅の元へ。
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる