異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

26 再会

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「志求磨、おい、起きろ。わたしだ。聞こえるか」

 目を開かない志求磨に呼びかける。起きない。頬をぺちぺち叩いたり、揺さぶったりしても起きない。

「どうしよう、カーラさん。間に合わなかったんじゃ」

 涙目でカーラに聞く。カーラは優しく微笑みながら自身の唇に人差し指を当てる。
 
「大丈夫、よく眠っているだけよ。今はゆっくり休ませてあげましょう。それとも王子様が目覚めるのはお姫様のキスが必要だったかしら」

「な、何を冗談を……」

 わたしが赤くなってどぎまぎしていると、背後から殺気。振り向けばアルマがダガーを手に志求磨を睨みつけている。おいおい、何をするつもりだ、このもにょっ娘は。
 


 眠っている志求磨はとりあえず青い館に運び込む。 

 わたしが以前運び込まれた部屋。カーラが気を利かせたのか、部屋にはわたしと志求磨の二人きりだった。アルマは頑なに部屋に残ろうとしていたが、カーラが魔法で眠らせ、連れていった。

「志求磨……大変だったんだぞ、おまえを助けだすの。鋼竜と戦ったり、武道大会に出たり、料理作ったり、大勢の魔物と戦ったり……」

 ベッドで眠ったままの志求磨に話しかける。のんきな顔して寝息を立てているコイツを見てると、なんか腹が立ってきた。

「大体、おまえがヴァーグの街で別行動しようって言い出したのが原因なんだからな。わたしを一人にしようとしたからバチが当たったんだ」

 ガツン、とベッドの脚を軽く蹴る。

「おまえは不思議なヤツだ。会ってまだ少ししか経ってないのに……なんか前から知ってたっていうか、大事な人だっていうか……」

 言いながら涙が出てきた。さっきまで怒ってたのに。ポタポタと志求磨の顔に涙が落ちる。

「とにかく無事でよかった。生きててくれて……」

 手の甲で涙を拭う。だがどんどん溢れてきて止まらない。

「由佳、ちょっと冷たいよ」

「…………?」

「だから冷たいってさ。鼻水は垂らさないでよ」

 志求磨が目を覚ましている。わたしは慌てて背を向けて顔をごしごしと袖で拭った。

「な、なんだ。起きたのか。あ、いまカーラさん呼んでくる」 

 部屋の外に出ようとしたが、手をぐっと掴まれた。

「由佳……俺、石の中に閉じ込められていたけど、わかってた。みんなが俺のために戦っていたこと」

「………………」

「おれのせいで、かえって由佳を危険な目に遭わせちまった。ほんとにゴメンな」

 やめろ。せっかく涙が止まったのに、そんなこと言われたらまた泣いてしまいそうだ。

「由佳、大事な話がある」

「えっ」

 志求磨のめずらしく真剣な声に思わず振り向く。

「由佳には話しておくよ、俺の……天塚志求磨のこと」

「おまえのこと?」

「うん。俺ね、元の世界じゃ周りの人には内緒で小説書いてたんだ。その主人公がこの志求磨」

 わたしの手を握ったまま、志求磨は話し続ける。

「元の世界じゃ、恥ずかしかったんだ。小説書いてるってバレたらバカにされそうで。だけど、仲良くしてた一人の女の子には言おうと思ってたんだ」

「…………」

「その子はスゴいんだ。なんていうか、周りの目を全然気にしないっていうか、空気とか読まないっていうか。俺がすごく神経使ってることを、何とも思っちゃいない。ほんとに尊敬できる子だったんだ」

「それが、わたしに何の関係があるんだ」

 そんな知らない女の子の話なんか聞きたくない。わたしはイライラしてきた。

「由佳、いいから聞いて。その子は消えたんだ。元の世界から忽然と。だから俺はこっちに来たんだ。その子を探しだして、護る騎士になるっていう願望なんだ」

「聞きたくないっ、そんな事! わたしには関係ないっ!」

 わたしは手を振りほどき、出口へ走る。背後から志求磨が大声で何か言っているが、もう分からない。顔がまた涙でぐしゃぐしゃになった。
 ドアノブに触れようとしたとき、ドアの向こうからバタバタと騒ぐ音が聞こえる。これは──カーラの声か。

「ダメよ、アルマちゃん。二人は大事な話があるんだから。ああ、もう!」

 バタンッ、とドアが開き、アルマと目が合った。わたしの顔を見てアルマの目つきに殺気がこもる。

「……由佳を泣かせた。志求磨、殺す」

 わたしはそのままアルマとカーラを押し退け、青い館を飛び出した。
 
 夢中で走り続ける。もうどうだっていい。あんなヤツ知らない。せっかく助けてやったのに、小説の主人公になって女の子を助ける騎士になりたいんだと。

「勝手にやってろ」

 その女の子を助けて、自分の能力で二人仲良く元の世界に帰ればいい。ああ、だからあんなへんちくりんな能力を持っているのか。
 わたしは妙に納得し、少し冷静になった。飛び出してきたのはいいが、これからどうするか。
 わたしは少し考え、もう一つ気がかりになっていた男の元へ行くことへ決めた。そう、《覇王》黄武迅の元へ。

 

 
 


 

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