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第1部 剣聖 羽鳴由佳
25 解呪
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ギュオオオッ。
三日月状の剣閃が大地を削りながら飛ぶ。
豪天の足の腱を狙い、バチィッ、と命中。ダメだ、音からして斬れてはいない。だが左足が浮き、そのまま巨体は尻餅をついた。魔物の何体かが潰される。
わたしは神速で突っ込み、豪天の背中を駆け上がる。某人気アニメのごとくうなじを狙おうとしたが、豪天が被っている兜の形状から無理だと判断。
肩から前方へ回り込み、顔面を斬りつける。グアッ、と豪天が吼え、わたしの身体に風圧。手で掴もうとしている。
しまった、調子に乗りすぎたか。あんなのに掴まれたら全身の骨が砕かれてしまう。
眼前に丸太のような指が迫る。ダメだっ、目をつぶったとき、ガオン、ゴオンッ、と二つの炸裂音。
焦げた臭いと煙。豪天の甲冑の肩と胸の一部が焼け落ちていた。
ボボボボボッ。
軽自動車ぐらいの大きさか。火球がさらに二つ飛来する。
わたしは着地と同時に避難。豪天は二発の火球を受け、ダウン。その背にまた魔物たちが潰された。
『倒したわけじゃないわ。いまのうちに離れて』
カーラの念話。わたしは言われた通りに後退し、屋敷の敷地内へ。カーラの手助けをしようとして、逆に集中を乱してしまった。我ながら情けない。
カーラは屋敷の屋根の上。杖を動かし、天空に巨大な魔法陣を描いている。魔法のことはわからないが、もうすぐ線がつながり完成しそうだ。
グアアアアッ。豪天が上体を起こし、刀を持ちかえた。刀は赤黒い光を放っている。まさか、アンデッド化しても願望の力が使えるのか。その巨大な刀を投げ槍のようにカーラめがけ投げつけた。
「カーラさんっ!」
巨大な刀は屋敷に命中。ミサイル並みの威力。屋敷は一瞬で吹き飛び、カーラの姿は爆発に巻き込まれて見えなくなった。
「そんな……」
いくらカーラでもあんなのを喰らえば……屋敷のあった場所は隕石が墜ちたみたいにクレーターが出来ていた。
わたしが膝をついたときだった。クレーターの中心から青い光がほとばしり、天空の魔法陣とつながる。ゴゴゴ、とサファイアのように光輝く球体に包まれて浮かび上がってきたのはカーラだった。
カーラの紅い瞳がいつもより光を増しているようだった。
杖の先を豪天に向ける。魔法陣が回転しはじめ、青白い光が流星のように降り注ぐ。
拳大の光の塊は次々と豪天の身体を貫いていく。豪天は完全に立ち上がることも出来ず腕や脚がもげていき、ついには頭部も転げ落ちた。周囲の魔物も光に撃ち抜かれ、絶命していく。
その光はわたしにも触れたが、なんともない。どんどんすり抜けていくだけだった。
「キレイ……」
地上では魔物たちが絶叫しながらのたうち死んでいく。だがその頭上では流星群のように青白い光がたなびいていて、見とれてしまった。
流星が止み、天空の魔法陣は街全体を覆うように広がり、やがて薄くなって消えた。目には見えなくなったが結界は完成したようだ。
豪天や魔物たちは残骸すら残さず消滅してしまった。さっきまでの戦いがまるで嘘だったかのような静けさが漂う。
「カーラさん、無事ですか」
カーラのもとへ駆け寄る。
まわりを包んでいた球体は消え、カーラは地上に降りてきた。
「わたしは大丈夫。街にも被害はないわ。モンティレの屋敷はご覧の通りだけど」
そう言ってカーラは目を閉じ、ぼそぼそと呟きだした。誰かと念話しているようだ。
「……そう。ううん、仕方ないわ。うん、お疲れさま。あなたもこっちに戻ってきて」
念話を終えたカーラが少し考え込むような表情。
「いまのはアルマちゃん。わたしの結界に悪さした願望者を追い詰めたらしいけど……自害してしまったって」
「自害? 何でそんな……」
「黒幕が誰なのか、どうしても知られたくないようね。超級魔物の復活といい、思った以上に厄介な敵だわ」
しばらくしてアルマやモンティレたちが戻ってきた。
屋敷を失ったモンティレの落胆ぶりには同情するが、約束は約束だ。志求磨の石板のありかを教えてもらう。
モンティレの隠し宝物庫は市街地の別宅地下にあった。分厚い扉の奥には美術品を中心とした金銀財宝。これだけあれば屋敷の一つや二つ、どうってことないだろう。
その中央に──あった。志求磨の石板。よかった、中の志求磨の様子に変化は見られない。
カーラはさっそく秘蒼石を用いて解呪の儀式に入った。
卵ぐらいの大きさでトルコ石みたいな色。それ以外何の変哲もない石に見えるが、カーラが願望の力を込めると青く光りだす。
共鳴するようにカーラも。さっきの戦いのようにサファイアの球体に石板ごと包まれ、宝物庫は海の底のような深い青色に染まる。
カーラの杖が石板に触れ、青い光りが増す。何気ない作業に見えるが、ものすごい願望の力だ。カーラの頬に汗が伝うのが見えた。
バキッ、という音とともに秘蒼石が砕け散り、青い光りが消えて宝物庫が薄暗くなる。
もしや失敗かと思ったが、石板に亀裂が入った。上から下にビキビキビキッ、と。
おい、これ大丈夫なのか。志求磨ごと割れてしまうんじゃないか。
そう思った途端バンッ、と石板は砕け、中からは一人の少年──志求磨が現れ、倒れるところでわたしが受け止めた。
三日月状の剣閃が大地を削りながら飛ぶ。
豪天の足の腱を狙い、バチィッ、と命中。ダメだ、音からして斬れてはいない。だが左足が浮き、そのまま巨体は尻餅をついた。魔物の何体かが潰される。
わたしは神速で突っ込み、豪天の背中を駆け上がる。某人気アニメのごとくうなじを狙おうとしたが、豪天が被っている兜の形状から無理だと判断。
肩から前方へ回り込み、顔面を斬りつける。グアッ、と豪天が吼え、わたしの身体に風圧。手で掴もうとしている。
しまった、調子に乗りすぎたか。あんなのに掴まれたら全身の骨が砕かれてしまう。
眼前に丸太のような指が迫る。ダメだっ、目をつぶったとき、ガオン、ゴオンッ、と二つの炸裂音。
焦げた臭いと煙。豪天の甲冑の肩と胸の一部が焼け落ちていた。
ボボボボボッ。
軽自動車ぐらいの大きさか。火球がさらに二つ飛来する。
わたしは着地と同時に避難。豪天は二発の火球を受け、ダウン。その背にまた魔物たちが潰された。
『倒したわけじゃないわ。いまのうちに離れて』
カーラの念話。わたしは言われた通りに後退し、屋敷の敷地内へ。カーラの手助けをしようとして、逆に集中を乱してしまった。我ながら情けない。
カーラは屋敷の屋根の上。杖を動かし、天空に巨大な魔法陣を描いている。魔法のことはわからないが、もうすぐ線がつながり完成しそうだ。
グアアアアッ。豪天が上体を起こし、刀を持ちかえた。刀は赤黒い光を放っている。まさか、アンデッド化しても願望の力が使えるのか。その巨大な刀を投げ槍のようにカーラめがけ投げつけた。
「カーラさんっ!」
巨大な刀は屋敷に命中。ミサイル並みの威力。屋敷は一瞬で吹き飛び、カーラの姿は爆発に巻き込まれて見えなくなった。
「そんな……」
いくらカーラでもあんなのを喰らえば……屋敷のあった場所は隕石が墜ちたみたいにクレーターが出来ていた。
わたしが膝をついたときだった。クレーターの中心から青い光がほとばしり、天空の魔法陣とつながる。ゴゴゴ、とサファイアのように光輝く球体に包まれて浮かび上がってきたのはカーラだった。
カーラの紅い瞳がいつもより光を増しているようだった。
杖の先を豪天に向ける。魔法陣が回転しはじめ、青白い光が流星のように降り注ぐ。
拳大の光の塊は次々と豪天の身体を貫いていく。豪天は完全に立ち上がることも出来ず腕や脚がもげていき、ついには頭部も転げ落ちた。周囲の魔物も光に撃ち抜かれ、絶命していく。
その光はわたしにも触れたが、なんともない。どんどんすり抜けていくだけだった。
「キレイ……」
地上では魔物たちが絶叫しながらのたうち死んでいく。だがその頭上では流星群のように青白い光がたなびいていて、見とれてしまった。
流星が止み、天空の魔法陣は街全体を覆うように広がり、やがて薄くなって消えた。目には見えなくなったが結界は完成したようだ。
豪天や魔物たちは残骸すら残さず消滅してしまった。さっきまでの戦いがまるで嘘だったかのような静けさが漂う。
「カーラさん、無事ですか」
カーラのもとへ駆け寄る。
まわりを包んでいた球体は消え、カーラは地上に降りてきた。
「わたしは大丈夫。街にも被害はないわ。モンティレの屋敷はご覧の通りだけど」
そう言ってカーラは目を閉じ、ぼそぼそと呟きだした。誰かと念話しているようだ。
「……そう。ううん、仕方ないわ。うん、お疲れさま。あなたもこっちに戻ってきて」
念話を終えたカーラが少し考え込むような表情。
「いまのはアルマちゃん。わたしの結界に悪さした願望者を追い詰めたらしいけど……自害してしまったって」
「自害? 何でそんな……」
「黒幕が誰なのか、どうしても知られたくないようね。超級魔物の復活といい、思った以上に厄介な敵だわ」
しばらくしてアルマやモンティレたちが戻ってきた。
屋敷を失ったモンティレの落胆ぶりには同情するが、約束は約束だ。志求磨の石板のありかを教えてもらう。
モンティレの隠し宝物庫は市街地の別宅地下にあった。分厚い扉の奥には美術品を中心とした金銀財宝。これだけあれば屋敷の一つや二つ、どうってことないだろう。
その中央に──あった。志求磨の石板。よかった、中の志求磨の様子に変化は見られない。
カーラはさっそく秘蒼石を用いて解呪の儀式に入った。
卵ぐらいの大きさでトルコ石みたいな色。それ以外何の変哲もない石に見えるが、カーラが願望の力を込めると青く光りだす。
共鳴するようにカーラも。さっきの戦いのようにサファイアの球体に石板ごと包まれ、宝物庫は海の底のような深い青色に染まる。
カーラの杖が石板に触れ、青い光りが増す。何気ない作業に見えるが、ものすごい願望の力だ。カーラの頬に汗が伝うのが見えた。
バキッ、という音とともに秘蒼石が砕け散り、青い光りが消えて宝物庫が薄暗くなる。
もしや失敗かと思ったが、石板に亀裂が入った。上から下にビキビキビキッ、と。
おい、これ大丈夫なのか。志求磨ごと割れてしまうんじゃないか。
そう思った途端バンッ、と石板は砕け、中からは一人の少年──志求磨が現れ、倒れるところでわたしが受け止めた。
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