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第1部 剣聖 羽鳴由佳
30 藤田林遠造
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次の日の早朝、改めて砦を攻めることになった。
レオニードは崖上からの狙撃。
わたしは崖下から堀を挟んで藤田と対峙する。堀の幅は広いが、願望者のわたしなら飛び越えることも可能。やらないのは、砦の射手を警戒しているからだ。
二方向からの願望者の攻撃。これで跳ね橋を下ろすか藤田を撃破するのが目的だ。
堀の向こうでは藤田林遠造とか名乗ってアホ面さげているが、余裕こいてるのも今のうちだ。
わたしの後方ではいつでも砦に突入できるよう、兵たちが待機している。跳ね橋が下りたが最後、兵が殺到し瞬く間に砦は落ちるだろう。
わたしが崖上のレオニードに手で合図を送る。そして居合いの構え。ここからなら太刀風の射程内だ。
「シッ!」
抜刀とともに衝撃波が飛ぶ。レオニードの矢も同時に放たれ、狙いは──跳ね橋を吊っている両端の綱だ。離れたこの二点を同時に守ることは出来ないだろう。
「キィエエエェェーッ!」
怪鳥のような叫び声とともに藤田が跳ぶ。
レオニードの矢を蹴りで叩き落とし、跳ね橋の柱を足場にまたも跳ぶ。わたしの太刀風を手刀で弾いた。
三角飛び──バカな。二人の願望者の攻撃を防ぐなんて。しかも、そもそもそれは違うゴールキーパーの技だ。
「俺が抜かれない限り、このチームが負けることはない!」
藤田が拳を突き上げ、砦から歓声が起こる。わたしはムググと歯噛みしてレオニードを見上げた。
レオニードはこちらに向かって合図している。事前に打ち合わせしていたハンドシグナル。今度の狙いは──あそこか。
矢をつがえている。腕がバキバキと変化していくのは前と一緒だが、身体全体を孔雀緑色のオーラが覆っている。かなりの願望の力を感じるが、跳ね橋を壊さずに済むのか、あれは。
ゴヒュッ、と放たれた矢。願望の力を乗せ、孔雀緑色の尾を引いている。
「無駄だ! ペナルティエリア外からのシュートは決まらん!」
矢はまっすぐに藤田の正面。胸の前で両手で掴んだ。矢の勢いは止まらずズザザザ、と藤田は身体ごと押される。
「こんなもの! こ、こんなもの! こんな、こんな……せやぁぁーっ!」
違うアニメキャラのセリフを吐きつつ、藤田は矢を上空に投げ飛ばした。
「見たか! これがS──ぐげっ!」
衝撃波が藤田の顎にヒット。わたしの太刀風だ。藤田は派手に倒れ、後ろにあったレバーにぶつかる。
──ギギギギ。下げられたレバーによって跳ね橋が下りはじめた。フラフラしている藤田がレバーを上げようとしている。
「あだぁっ! あだだ……」
藤田のふくらはぎにレオニードの放った矢が刺さった。片足で跳びはねていたが、さらに放たれた矢を避けようとして足を滑らせ、堀に落下していった。
ガタン、と跳ね橋が完全に下りた。ワアアア、と後方の兵士たちが橋を渡り、砦の門を打ち壊しにかかる。
砦の上から慌てて反乱軍が矢や投石で反撃。藤田の能力に絶対の信頼を置いていたせいか、対応が遅い。しかも城壁から身をさらす者は次々とレオニードの矢に射抜かれていく。
門が破壊され、兵士たちが雪崩をうって突入。砦の陥落も時間の問題かと思われたが──突入した大勢の兵士が慌ててこちらに逃げ戻ってくる。
何事だと目を凝らすと、砦の奥から西洋風の甲冑で全身を覆った者が現れた。
ダダダダ、といつものヤツが打ち込まれる。
《首狩り》トレント・ヘッド。身の丈半分ほどの戦斧を手にしている。
願望者にしては控えめな大きさだが、逆にそれが怖い。極めて実用的というわけだ。
すでに何人かの首を二つ名の通りに狩っているのだろう。甲冑も戦斧も返り血にまみれていた。
「由佳! そいつはおまえに任せた! できるだけ引き付けておいてくれ!」
レオニードが崖上から滑り下りながら叫ぶ。おいおい、こんなスプラッター映画に出てきそうな相手に戦えというのか。この可憐な美少女に。
トレントはまっすぐにこっちに向かってくる。
こういう硬そうな相手に太刀風は通じにくい。わたしは抜刀したまま迎え撃つ。
ビュッ、と戦斧が振り下ろされる。見当違いの間合い。あと十歩以上距離があるのだが──トレントの背後からヒュヒュヒュッ、と何かが飛来する。
回転しながら向かってくるそれらを叩き落とす。これは投擲用の手斧だ。これがコイツの能力なのか。
さらに飛んでくる手斧をかわし、トレントの間合いに入った。正面から戦斧を振りかぶるが──遅い。がら空きの胴に五連撃の斬鉄を叩き込み、右脚をゴルフスイングのように払い抜ける。がしゃあっ、と無様に倒れるトレント。なんだコイツ、見かけだおしか。
グググ、と起き上がる。甲冑にはヒビが入り、脚がプルプルしていたので生まれたての小鹿か、とバカにしようとしたのだが──。
甲冑のヒビがミリミリとふさがっていく。脚の震えも収まり、スクッと立ち上がった。なるほどコイツ、打たれ強さと回復力に優れた願望者らしい。兜に覆われたその顔から表情は読み取れない。
「だったら、回復が追いつかないほどバラバラにしてやる」
わたしは刀を構え直し、願望の力を集中する。
レオニードは崖上からの狙撃。
わたしは崖下から堀を挟んで藤田と対峙する。堀の幅は広いが、願望者のわたしなら飛び越えることも可能。やらないのは、砦の射手を警戒しているからだ。
二方向からの願望者の攻撃。これで跳ね橋を下ろすか藤田を撃破するのが目的だ。
堀の向こうでは藤田林遠造とか名乗ってアホ面さげているが、余裕こいてるのも今のうちだ。
わたしの後方ではいつでも砦に突入できるよう、兵たちが待機している。跳ね橋が下りたが最後、兵が殺到し瞬く間に砦は落ちるだろう。
わたしが崖上のレオニードに手で合図を送る。そして居合いの構え。ここからなら太刀風の射程内だ。
「シッ!」
抜刀とともに衝撃波が飛ぶ。レオニードの矢も同時に放たれ、狙いは──跳ね橋を吊っている両端の綱だ。離れたこの二点を同時に守ることは出来ないだろう。
「キィエエエェェーッ!」
怪鳥のような叫び声とともに藤田が跳ぶ。
レオニードの矢を蹴りで叩き落とし、跳ね橋の柱を足場にまたも跳ぶ。わたしの太刀風を手刀で弾いた。
三角飛び──バカな。二人の願望者の攻撃を防ぐなんて。しかも、そもそもそれは違うゴールキーパーの技だ。
「俺が抜かれない限り、このチームが負けることはない!」
藤田が拳を突き上げ、砦から歓声が起こる。わたしはムググと歯噛みしてレオニードを見上げた。
レオニードはこちらに向かって合図している。事前に打ち合わせしていたハンドシグナル。今度の狙いは──あそこか。
矢をつがえている。腕がバキバキと変化していくのは前と一緒だが、身体全体を孔雀緑色のオーラが覆っている。かなりの願望の力を感じるが、跳ね橋を壊さずに済むのか、あれは。
ゴヒュッ、と放たれた矢。願望の力を乗せ、孔雀緑色の尾を引いている。
「無駄だ! ペナルティエリア外からのシュートは決まらん!」
矢はまっすぐに藤田の正面。胸の前で両手で掴んだ。矢の勢いは止まらずズザザザ、と藤田は身体ごと押される。
「こんなもの! こ、こんなもの! こんな、こんな……せやぁぁーっ!」
違うアニメキャラのセリフを吐きつつ、藤田は矢を上空に投げ飛ばした。
「見たか! これがS──ぐげっ!」
衝撃波が藤田の顎にヒット。わたしの太刀風だ。藤田は派手に倒れ、後ろにあったレバーにぶつかる。
──ギギギギ。下げられたレバーによって跳ね橋が下りはじめた。フラフラしている藤田がレバーを上げようとしている。
「あだぁっ! あだだ……」
藤田のふくらはぎにレオニードの放った矢が刺さった。片足で跳びはねていたが、さらに放たれた矢を避けようとして足を滑らせ、堀に落下していった。
ガタン、と跳ね橋が完全に下りた。ワアアア、と後方の兵士たちが橋を渡り、砦の門を打ち壊しにかかる。
砦の上から慌てて反乱軍が矢や投石で反撃。藤田の能力に絶対の信頼を置いていたせいか、対応が遅い。しかも城壁から身をさらす者は次々とレオニードの矢に射抜かれていく。
門が破壊され、兵士たちが雪崩をうって突入。砦の陥落も時間の問題かと思われたが──突入した大勢の兵士が慌ててこちらに逃げ戻ってくる。
何事だと目を凝らすと、砦の奥から西洋風の甲冑で全身を覆った者が現れた。
ダダダダ、といつものヤツが打ち込まれる。
《首狩り》トレント・ヘッド。身の丈半分ほどの戦斧を手にしている。
願望者にしては控えめな大きさだが、逆にそれが怖い。極めて実用的というわけだ。
すでに何人かの首を二つ名の通りに狩っているのだろう。甲冑も戦斧も返り血にまみれていた。
「由佳! そいつはおまえに任せた! できるだけ引き付けておいてくれ!」
レオニードが崖上から滑り下りながら叫ぶ。おいおい、こんなスプラッター映画に出てきそうな相手に戦えというのか。この可憐な美少女に。
トレントはまっすぐにこっちに向かってくる。
こういう硬そうな相手に太刀風は通じにくい。わたしは抜刀したまま迎え撃つ。
ビュッ、と戦斧が振り下ろされる。見当違いの間合い。あと十歩以上距離があるのだが──トレントの背後からヒュヒュヒュッ、と何かが飛来する。
回転しながら向かってくるそれらを叩き落とす。これは投擲用の手斧だ。これがコイツの能力なのか。
さらに飛んでくる手斧をかわし、トレントの間合いに入った。正面から戦斧を振りかぶるが──遅い。がら空きの胴に五連撃の斬鉄を叩き込み、右脚をゴルフスイングのように払い抜ける。がしゃあっ、と無様に倒れるトレント。なんだコイツ、見かけだおしか。
グググ、と起き上がる。甲冑にはヒビが入り、脚がプルプルしていたので生まれたての小鹿か、とバカにしようとしたのだが──。
甲冑のヒビがミリミリとふさがっていく。脚の震えも収まり、スクッと立ち上がった。なるほどコイツ、打たれ強さと回復力に優れた願望者らしい。兜に覆われたその顔から表情は読み取れない。
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わたしは刀を構え直し、願望の力を集中する。
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