異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

33 黒由佳VSアライグマッスル

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 変身した《アライグマッスル》を黒由佳は刀でポンポンと自分の肩を叩きながら、興味深そうに見ていた。すでにもう1本の刀も拾い上げている。

「ふ~ん、お姉さまって羨ましい。いろんな友達がいるんだもの……ウチなんて、誰もいない。ま、いいけど。大事なお友達、1人ずつ奪ってあげる」

 二刀をひっさげ、ずかずかと《アライグマッスル》に近付く。

「来るか、魔造人間。その憐れな宿命からわたしが救ってやる」


《アライグマッスル》は走り出す。
 ダカダッタン、ダカダッタンと緊迫したBGM。

「ぬう、ラクーンパンチ!」

 いきなりの必殺パンチ。だが黒由佳はひらりとかわす。かわしながら回転、強烈な後ろ回し蹴りを《アライグマッスル》にぶちかました。

 壁ぎわまで吹っ飛ばされる《アライグマッスル》。いわんこっちゃない。
 だが、あの筋肉アライグマ男はすぐにむくりと起き上がった。

「へぇ、頑丈なんだ。いいね、痛めつけがいがある」

 黒由佳はヘラヘラと笑いながら待ち構える。
 立ち上がった《アライグマッスル》は再び走り、ジャンプからの蹴り。

「とおぅっ、ラクーンキック!」

 ダメだ。魔物相手ならともかく、願望者デザイア相手にそんな単調でスローな攻撃は通用しない。

 案の定、難なくかわされた。黒由佳の二刀が閃く。ああ、死んだ。
 わたしはそう思ったが──バシィッ、バシィッ、と火花が派手に散って《アライグマッスル》はよろめいただけだ。

「あり? 斬れない」

 黒由佳は手元を見つめ首を傾げる。
 血飛沫が舞い、両断されたアライグマ男の身体が転がるのを想像していたのだろう。わたしだってそうだ。

 黒由佳は踏み込み、二刀を突き出す。貫いてから横に切り開くように薙いだ。
 バシバシィッ、とまたも火花のみ。ダメージは無いようだが《アライグマッスル》は大袈裟に倒れて床を転がった。

「ぬうぅっ、さすがは魔造人間クロユッカー。やるな」

 なんだ、これは……まるで特撮番組を見ているようだが──まさか、《アライグマッスル》の能力なのか。
 
 子供向けの特撮番組では、過度な流血や暴力シーンは存在しない。今、この一帯が《アライグマッスル》の能力に支配されているのなら、どんなエグい攻撃を加えたところでの効果しか与えられない。 
 つまり、どんな殺し合いでもお互い致命傷を負うことはないのだ。

「つまんないつまんない、斬れないとつまんない~。うし、超必カマすか」
  
 黒由佳は体勢を低くし、左の刀は担ぐように。右の刀はだらんと切っ先を下げた構え。

「──ぜっ!」

 突進。右の刺突から左の袈裟懸け。右の払いから左の斬り上げ。そこまでは見えたが、あとは分からない。メッタ斬りだ。
 格ゲーでいうところの乱舞技だ。おそらく数十回の斬撃が叩き込まれた。トドメは回転しながら天を突くような後ろ蹴り。《アライグマッスル》のゴツい身体が浮いた。
 黒由佳も跳躍。空中で二刀を振り下ろし、《アライグマッスル》は床に凄まじい勢いで激突した。

 なんちゅう技だ。あんなオーバーキルな技、喰らったほうはたまったものではない。
 さすがの《アライグマッスル》もやられたか……いや、BGMが変わった。この雄々しい曲調は──。

「……わたしは倒れぬ。負けるわけにはいかないのだ。大自然を、動物たちを、弱き者を守るために!」

 立ち上がった《アライグマッスル》の手にはアライグマのシッポ……いや、必殺武器アライグマッシャーが握られていた。

「なに、コイツ。なんで斬れないし、死なないの? わけ分かんない」

 黒由佳は困惑気味だ。《アライグマッスル》が近付き、アライグマッシャーがズズズ、と巨大化していく。

「受けるがいい、この聖なる一撃を。そして悔い改めよ、己が行いを。まっとうな人間へと戻るのだ、クロユッカー」

 アライグマッシャーが振り上げられる。黒由佳は大きく飛び退き、城壁の上へ。
 
「なぁんか、シラけちゃった。疲れたし。お姉さま、また今度遊びましょうね。そのヘンなヤツがいないときに」

 城壁の上から飛び降り、黒由佳は去っていった。

……勝ったのだろうか。あんな、凶暴なヤツ相手にアライグマが。

《アライグマッスル》は変身を解き、御手洗剛志へと戻る。
 
「逃がしたか……だが、次会う時こそ救ってみせるぞ。わたしの力はその為にある」

 城壁の下を覗き込みながら決めのセリフを吐いている。まあいい、今回はこの中年に借りを作ってしまった。
 それよりも何故ここに来たのかを聞かなければならない。

 黒由佳……わたしと同じ姿をした願望者デザイア。そしてあの僧衣の男。反乱軍と関わりがあるのは間違いなさそうだが。

 わたしはまだ動けないレオ二ードに声をかけながら、再びまみえるであろう、あの二人の存在を不気味に感じていた。
 

 

 

 
 

 

 
 

 

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