異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

35 アライグマッスルVS藤田

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 獲物を狙う猫のような跳躍でキマイラの前足の爪が迫る。
 神速で滑るように後退、キマイラの爪は空を切った。
 すぐにライオンの頭部が噛みつこうと牙を剥く。
 
「シッ!」

 太刀風。飛ぶ斬撃で攻撃。
 ギァッ、と怯んだところを、近付いて斬りつけようとしたが、尾の毒蛇がしなる鞭のように伸びてきた。
 跳躍してかわすが、ヤバイ。空中には──。

 グリフォンの巨大な鉤爪が待ち受けていた。
 掴まれる直前に身体を回転させながら斬る。
 ガチッ、と弾かれた。爪の部分は硬い。落下しながら納刀。次は下でキマイラ。胴体の山羊がブツブツと何か唱えている。

「な……にっ」

 急激な眠気。魔法か何かか。居合いで斬るつもりだったが、着地するのがやっとだ。
 キマイラの前足。かわせない。まともに喰らい、地面を転がる。
 眠気は一発で吹っ飛んだが……いってぇ。マズイ、左足をくじいた。

 グリフォンの鉤爪が上空から襲いかかる。
 なめやがって、この化け物ども。

 錬気。願望の力を一気に攻撃力へ。二体同時の攻撃が迫る。
 くじいてない右足を軸に、抜刀しながら回転。
 竜巻に巻き込まれたように、二体を弾き飛ばした。

「うお、なんか新技でた」

 自分でも驚いたが、一時的に凌いだだけだ。
 グリフォンとキマイラは体勢を立て直してまた向かってくる。

「まあぁてぇぇぇい!」

 砦の城壁上から突然の声。いかん、この声はヤツだ。ややこしい事になる。

 振り返り見上げると、勘違い中年、御手洗剛志がポーズを取りながらこちらを見下ろしている。

「やめるんだ! それ以上の争いはわたしが許さん!」

 ああ、やめろ。変身するな。
 わたしの願いも虚しく、御手洗剛志は雄叫びを上げながらジャンプ。
 空中でマスクを装着し、眩い閃光が放たれる。

 着地点にはいつの間にかアライグマシーンが待機していた。
 それに跨がるやいなや、フルスロットルで発進、バイクごとキマイラに体当たり。そこからジャンプ、グリフォンに必殺キックを見舞う。

 華麗に宙返りし、アライグマシーンに再び跨がる《アライグマッスル》。
 ダメだ、そんな攻撃が上級魔物に通じるはずは……。

 ところが、二体の魔物は急に大人しくなる。
 グリフォンは空で大きく旋回し、いずこかへ飛び去った。
 キマイラも背を向けて走り去っていった。そんなバカな。
 
「見たまえ。魔物といえど心が通じるのだ。いや、これは大自然の使者、《アライグマッスル》だからこそ可能なのかもしれない……!」

 拳をぐぐぐと握りしめ、何か自分で感動しているようだが……忘れていた。コイツの能力。
 本人は無意識なのだろうが、魔物を鎮静化させる能力を持っている。まさか上級魔物にも効果があるとは。

「く、くそおっ! お前達、かかれぇっ」

 藤田が号令し、残りの魔物達が襲いかかる。
 
「むうぅんっ、オォスカーッル!」

 うわ、かけ声をいきなり間違えた。
 アライグマシーンに乗ったまま、《アライグマッスル》は魔物の群れの中へ。

 次々と飛びかかる人狼ワーウルフ人虎ワータイガーを蹴散らす。
 魔物達の中心でバイクを飛び降り、バイクはそのままミノタウロスへ突っ込んでいった。

「いくぞ、ラスカールッ!」
 
 アライグマのシッポ、いや、アライグマッシャーを引き抜いた《アライグマッスル》は縦横無尽に暴れまわり、魔物達を残らず打ち倒した。
 一度倒れた魔物達は、しばらくして起き上がると何事もなかったようにその場を去っていく。
 もはや藤田の命令も聞かない。

「くっ、どうなってるんだ。どうして俺の言うことを聞かない」

 動揺する藤田に向かい、《アライグマッスル》は勝ち誇ったように語る。

「まだ分からんのか。わたしの拳は魔物さえ改心させる。貴様のように仲間と称して生き物を利用するヤツは許さん」

 シッポを元に戻し、藤田ににじりよる《アライグマッスル》。
  藤田はわなわなと震える手でボールを取り出した。

「こうなったら……お前だけが頼りだ。出てこい、俺の相棒、ケガチューッ!」

 ボールからビビビと出てきたのは……おお、やはりアニメやゲームで大人気のマモノン。
 毛ガニとネズミが合体したというシュールでキモい見た目だが、かえってそれがキモかわいいとの評判だ。
 シエラ=イデアルにあんな魔物はいないから、願望で作り出したのだろうか。

「ケ~ガ~チュウ」

 可愛らしい声(見た目はキモい)で鳴きながら《アライグマッスル》に近付くケガチュー。
《アライグマッスル》はうろたえて後ずさる。

「ぐっ、卑怯な! こんな可愛らしい魔物をけしかけるとは……わたしには攻撃できない」
 
 あんだけ暴れといて何をいまさら……攻撃できないなら、わたしがやってやると片足を引きずりながら、あっと気付いた。

 今、この一帯は《アライグマッスル》の能力が支配しているからお互いにダメージを与えられない。
 ここはあのアライグマ男に任せるほかないのか。
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