異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
60 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

60 求道者

しおりを挟む
 舞台の補強も終わり、試合の再開となった。

「中堅、チーム餓狼衆、《拳聖》ショウ!」

 相手チームの選手の名を聞き、わたし達は驚いた。
 他のチームに入ったとは聞いていたが、まさか餓狼衆の一員になっていたとは。

 ローブを脱いで舞台へと上がるショウを、わたしはにらみつけた。
 一年前と変わらず、短髪に精悍な顔つき。長年愛用しているであろう、擦りきれた武道着。
 ショウは無表情のまま、舞台上で腕組みをしながら佇む。

「チームナギサ、《開放の騎士》天塚志求磨!」
 
「元五禍将のショウか。やっかいだな、手加減できないよ」

 次は志求磨の番だ。
 志求磨の能力──相手の願望の力を弱めたり、無効化できる能力。
 極めつけは消失ロストの技だ。
 現実を叩きつけて、相手の願望をすべて消滅させる。願望の力を失った者は本来の姿を晒し、元の世界へと戻される。

 今までの戦いでは、消失ロストまでしないように加減してきたようだ。
 だが、ショウのような強敵相手に手加減は出来ない。
 本気で勝つつもりなら、消失ロストしなければならないのか。

 ローブを脱ぎ、舞台に上がる志求磨。ショウは嬉しそうに話しかける。

「《解放の騎士》……いつか戦ってみたい相手だった。数々の名のある願望者デザイアを不思議な力で屠ってきたようだな。その技、俺にも見せてみろ」

 腕組みを解き、ショウは身構える。志求磨は困ったような表情で頭をポリポリとかく。

「まいったな、知らないよ。消失ロスト対象者でもないのに」

 舞台下では、わたしとナギサが裏切り者、人でなし、恩知らず、貧乏人、格闘バカ脳筋ヤロー、などとあらん限りの罵声を飛ばす。

 ショウはそんなわたし達を見て、鼻でフッ、と笑った。

「葉桜溢忌についたことを言っているのか。俺はただ、俺より強いヤツに従っただけのこと。《覇王》のときもそうだった。そこに善悪などない」

 試合開始の太鼓の音。こうなったら、そんなヤツ消失ロストでもなんでもしてしまえ。
 
 開始と同時に動いたのはショウ。まずは挨拶代わりとあの技のモーションに入る。

気翔拳きしょうけん!」

 突き出した両掌からボッ、と気弾が飛び出す。
 まっすぐに志求磨の顔面へと。
 志求磨は白銀色の拳打でそれを打ち消す。

「やるな」
 
 ショウが走った。志求磨はトントンと軽くリズムを刻みながら迎え撃つ。
 ヒュッ、ゴッ、と左、右の拳打。上体を反らし、二発目は屈んでかわす。

「むんっ」
 
 振り落ろしの手刀。ガキッ、と両腕を交差して志求磨は受け止めた。
 そのままダダダッ、と前方に押し込む。
 おお、小柄なのにたいしたパワーだ。

「ぬうっ」

 ショウのボディーブロー。これは入った、と思ったが、志求磨は足裏で受け止めてバク転。そのまま距離を取る。
 
跳虎連脚ちょうこれんきゃく!」

 追いすがるようにショウの空中連続蹴り。
 志求磨は両拳に白銀の光をまとわせ、連打。

 ゴゴゴゴゴゴゴッ。
 蹴りと拳打の応酬。互角だ。着地したショウが素早く回転下段蹴り。足元をすくわれ、身体の浮いた志求磨に左ストレート。

「やあっ!」

 その不安定な体勢から志求磨は同じく拳で返す。
 拳同士が衝突。志求磨は片手を着きながら逆さまのまま、蹴りを繰り出す。
 これは避けきれず、ショウの肩にヒット。だが──怯まない。両腕で志求磨の服を掴んだ。

「せいやぁっ!」

 強引に力で投げる。空中に放り出された志求磨に──マズイ、くるぞ。

「気翔拳!」

 気弾が迫る。飛び道具や放出系の技を持たない志求磨はガードするしかない。
 白銀の光をまとい、腕で防ぐ。なんとか着地には成功したが、背後は場外。ショウは接近し、さらに腰の辺りで気を溜めている。

「気翔拳!」

「ぐっ!」

 近距離からの気弾攻撃。白銀の光で打ち消すひまもない。なんとかガードしたが、まだくるぞ。

「気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気翔拳! 気しょうーっ、気翔拳!」

 舞台端での連続気弾攻撃。これはキツイ。実際の格ゲーでも画面端でやられると、へたに反撃しようとすればモロにその猛攻の餌食になる。
 かといってガードしたままでは徐々に体力を削られてしまう。
 志求磨もガードしながら苦しそうな表情だ。

 しかし、ショウが願望の元としている、このスーパーストライクファイターデラックス3PW版をやり込んでいたわたしは、その攻略法を知っている。

「志求磨! ガードキャンセルだ!」
 
 通常、相手の攻撃をガードしたときには硬直時間が発生する。今のように端っこで攻撃を受けた場合、さらなる攻撃の的になるわけだが、このガードキャンセルを使えば一瞬だが無敵時間が発生し、反撃なり回避が可能となる。
 わたしがいて良かったな、志求磨。感謝しろ。

「え、え? ど、どうやってやるの!」

「………………」

 わたしはそのコマンド入力の方法を身振り手振りで教えるが……ダメだ、間に合いそうにない。

「もう、仕方ないっ」

 志求磨の身体全体が白銀色に包まれる。おお、あれは消失ロストの技を使う前の姿だ。ガードしながら力を溜めていたのか。


 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...