異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

62 神に仕えし者

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「うは、疲れたあ~、もうダメ」

 ナギサがその場で大の字になって寝そべる。
 召喚の能力はかなり体力を消耗するようだ。ラーズグリーズとの戦いの後ということもある。

「あ、それと、たまたまうまくいったけど、余計なのを巻き込んじゃったかも。なんか問題起きたらゴメン」
 
 顔を覆いながらナギサが言った。まあ、問題が起きたときは起きたときだ。ここは素直に召喚が成功したのを喜ぼう。
 舞台上ではすでに副将戦の用意が出来ている。

「副将戦、チーム餓狼衆、《神託者》ヨハン・ランメルツ!」

 その名を聞いてナギサが起き上がり、志求磨も驚いた顔をした。

「ヨハン・ランメルツだと……」

 舞台へと上がるローブをまとった人物に、ナギサは釘付けとなる。なんだ、有名人なのか?

「ものすごく古い願望者デザイアって噂だよ。シエラ=イデアルの南方の大領主。覇王大戦のとき、戦わないで《覇王》に従ったけど、かなりの実力者らしいよ」

 志求磨が説明。こっちに来たのは一緒の時期なのに、なんでも知ってんのな。
 
 ローブを脱いだヨハンは痩せた男だった。
 短い金髪に丸メガネ。やや神経質そうに見えるが、なかなかのイケメン。ただ、年がよくわからない。
 20台前半にも見えるし、40といわれても不思議ではない。
 
 黒い祭服に胸に十字架をかけている。見た目はまさに神父さんといった感じだが……。
 頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《神託者》《裁きし者》ヨハン・ランメルツ。

 紹介では代表的な二つ名しか呼ばれなかったが……超越者リミットブレイカーだ。次の出番は黒由佳だ。まだケガが治りきってなかったが、大丈夫なのか。

「チームナギサ、《魔剣士》羽鳴由佳!」

 名を呼ばれた黒由佳はローブを脱いで、いくで~、と気合い十分だ。ああコイツ、なんにも考えてない。
 舞台に上がった黒由佳は、なれなれしくヨハンに話しかけている。

「はは、またイケメンだね~。でも手加減しないよ。悪いけど」

「心配は無用ですよ。存分に力をお出しなさい。わたしはキミが思っているより、ずっと強いですよ」

「へえ、すごい自信。あんたも神器ってやつ、持ってんの?」

「いえいえ。あれは我が友、葉桜溢忌が気まぐれに未熟な願望者デザイアに与えたもの。間宮京一には嵐太くん。ラーズグリーズにはレーヴァテインといったふうにね。わたしには必要ありませんよ」

 中指で丸メガネをクイと上げながらヨハンは笑った。

 試合開始の太鼓がドドンッ、と鳴る。先に仕掛けたのは──やはり黒由佳。
 二刀を出さずに突っ込む。素手だ。なに考えてんだ。
 
 右の前蹴り、下段、そして後ろ回し蹴り。
 あざやかな連続蹴りだが、ヨハンの意外な身のこなし。全てかわされた。

 それにしても、わたしと同じ顔でスカートなのにポンポン足を上げないでほしい。なんであんなに足クセが悪いのか。

「鋭い蹴りですが、武器を出さないのですか? 心配は無用と言ったはずですよ」

 後ろに手を組んだまま、軽やかに蹴りをかわしながらヨハンが話しかける。黒由佳は途端に機嫌が悪くなる。

「うるっせーな。おまえだって素手じゃんか。遅かれ早かれウチにブッ倒されるんだから、ごちゃごちゃ喚くなっ」

 ローキック。ヨハンがブロックしようと身構えたところ、蹴りの軌道が変わった。パァンッ、
とまともに側頭部に命中。以前、わたしをダウンさせた蹴り技だ。

 しかし、ヨハンは倒れない。いや、ガードしている。半透明の何かが身体からズズズとはみ出し、蹴りを防いでいた。

「これがわたしの分身であり、守護天使でもあるクシエル。神に反するあらゆる敵を裁き、討ち滅ぼす存在……キミに対してやや荒っぽい事をするかもしれないが、そこは了承してくれたまえ」

 ヨハンは丁寧にお辞儀する。
 半透明のクシエル。次第に姿形がはっきりしてきた。
 絵画とかで見る天使とは違う。白い色で、全体的にロボット型というか、なんか変形して戦闘機とかになりそうなフォルムだ。

「あっそ。そんなん出すなら、ウチも刀出そ」

 別段驚くわけでもなく、黒由佳は両手を振り回す。
 ギィン、キィンッ、と刃を弾く音。
 二刀を出現させると同時に斬りつけたようだ。クシエルとかいう分身にガードされてしまったが。

 あのタイプの願望者デザイアは……わたしも戦ったことがある。
 スタ○ドとか、ペル○ナとか、そんな感じの願望を具現化して分身を作り出して戦わせる。ああいうのは決まって攻略する方法はひとつ。

「黒由佳っ、本体を狙うんだ! その変なのにかまうな!」

 指示を飛ばす。わたしがいて良かったな、黒由佳。

「そんなの知らない~っ、どっちもブッタ斬るだけ!」

「……………………」

 ムダだったか。なんかカッカしてるみたいだし、おとなしく言うこと聞くヤツでもない。

 クシエルの右手には鞭が握られている。手首がヒュッ、と動いた。
 パシィンッ、と甲高い音が響き、舞台が直線上に抉られた。
 
「今のはわざと外しました。威力は見ての通り。まともに喰らえば肉を削ぎ、骨を砕く……痛みのあまり殺してくれと懇願するくらいに」

 ヒュヒュッ、とクシエルの右手が動く。
 脚をからめ取るような一撃をかわし、鞭が戻るタイミングで黒由佳は突っ込んでいく。
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