異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
68 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

68 セペノイアの帝王

しおりを挟む
 副賞のこともチラシに書いてあったらしいが、完全に見落としていた。ともあれ、嬉しい誤算だ。
 
 カーラには会えなかったが、レアなアイテムももらえたし、ひとまずはこれでよしとしよう。

 この資金さえあれば、しばらくは遊んで暮らせ……いや、葉桜溢忌に対抗するために装備を整えたり、仲間を雇ったり出来るはずだ。

 会場を出てとりあえず宿舎へ。
 試合が終わった願望者デザイアは街から出ていかなければならないが、優勝者のわたし達はあと一泊することが出来るようだ。

 動けるようになったレオニードと合流し、事の顛末を説明。  
 宿舎で一泊して明日、セペノイアを発つことにした。
 宿舎にも黒由佳の姿は見えない。今夜は盛大に祝勝会になるのに……バカめ。まあ、いないヤツを気にしても仕方がない。

 部屋で宝箱の中の銀貨を取り出して数えながら、五等分にしても相当あるなと、舌なめずりする。

「由佳、顔、顔。悪代官みたいな顔になってるよ」

「金は人を狂わせるな……今までどんな悲惨な生活してたんだ」

 志求磨とナギサが引いているが、そんなの関係ない。
 宝箱に手を突っ込もうとしたレオニードを怒鳴りつける。

「まだ数えてる途中でしょーがっ! 何枚か分からなくなるだろっ!」

 まったく……こういうのは信頼のおける人物に任せておけばいいのだ。わたしのような清廉潔白な美少女が均等に分けてやるからおとなしく待ってろ。
 
 アルマはわたしの背後にぴったりくっついて離れようとしない。移動する時も、袖やら裾をつかんで離そうとしない。
 背中ごしに銀貨を数えるのを不思議そうに見ていた。
 うむ、黒由佳がいなくなった分、このもにょっ娘にも銀貨を分けてあげよう。
 そんなことを考えていると、部屋のドアがいきなりバァン、と開いた。

「ごめんやっしゃああああッ!」

 驚いて反射的に銀貨を背後へ隠す。部屋へ入ってきたのは、派手な服装のコワモテな関西人風の男だった。

 頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《セペノイアの帝王》神田敏次郎かんだびんじろう

「いきなり驚かしてすんまへんなあ。ワシはこのセペノイアで金貸しをしとる、神田敏次郎ってもんやが」

 神田敏次郎は部屋の中をじろっと見渡す。

「やっぱり飛びおったなあ、アイツ。まあええ。保証人の姉さんもおるわけやし。さ、由佳はん。ゼニをはろうてもらいまひょか」

 神田敏次郎はニコニコと笑いながら手を出してきた。

 話がまったく見えない。もしや、わたしの銀貨を狙う詐欺師か何かだろうか。わたしは殺る気まんまんで柄に手をかける。

「おっとぉ、物騒なマネはあきまへんで。その様子やと事情を知らんようやから、教えたる。アンタの妹……同じ名前の由佳はんはなあ……ワシからぎょうさんゼニを借りとったんやで」

「な、なんだって……」

 黒由佳のことだ。アイツ、こんな怪しい願望者デザイアから金を借りていたとは。
 しかもわたしが保証人だと…。

「し、知らない。保証人になった覚えなんかないぞ」

 うろたえるわたしに、神田敏次郎は胸元から一枚の書類を取り出す。

「よう見んかい。ここにアンタの妹はんの署名がしっかりとありまんがな。ウチはトイチの金貸し。アンタの妹が借りたゼニの利息はふくらむだけふくらんで、借金は今や銀貨一千枚なんやで」

 借用書にはきったない字で【はなりゆか】と書いてある。なんかわたし自身が借金したみたいだ。

「い、一千枚……」

 わたしは白目を剥いて気を失いそうになる。この副賞の銀貨全額ではないか。アルマが慌ててわたしの身体を支える。

「待て、十日で一割の利息なんて法外すぎる。そんな無法が通用するものか」

 ナギサが横やりを入れる。おお、さすがは《覇王》の息子。シエラ=イデアルの法律に詳しいのかもしれない。

「アンタら……」

 神田敏次郎はここでグッ、と溜める。
 そしてアップになり、叫んだ。

「法律も知らん素人のガキが、ナマ言うとったらアカンでえええええッ!」

 わたしは思わずなんやてええッ、と返しそうになったが、ここはガマンする。
 
「《覇王》が死んで、各領地の法律やら税金は領主が自治の名の元に好き勝手やっとるのは知っとるやろ。このセペノイアも例外やない。自治都市として何人かの代表者が法を定めとるんや」

 そして神田敏次郎は借用書の下のちっさい文字を指差す。
 
「ワシらのような金貸しと個人間においては双方の合意があれば、片方にいかな不利な条件があろうとその契約は無効にならへんのや。保証人においてもそう。契約者が支払い義務を放棄した場合、自動的に親族やら友人にその権利がまわってくるんやでえ」

「そ、そんなバカな」

「由佳はん、アンタに残された道は二つ。とりあえず利息分はろうてジャンプするか、耳そろえて元金をはろうてしまうか。さあ、どないするんやああああッ!」

 再び気を失いそうになるわたしを、志求磨やナギサが支えながら説得してくる。

「由佳、もうあきらめなよ。どうせ元々なかったお金だし」

「そうだな。この街でモメるのは何かと面倒だ。そんなもん、パッと払ってしまえ」

 信じらんない、コイツら。レオニードも笑いをこらえている。アルマだけは心配そうにわたしの腕を掴んでいる。



 さんざん迷ったあげく、結局は全額返済に当てることになった。
 プルプル震えるわたしの肩に、志求磨が優しく手を置く。

「由佳、泣かないで。今までお金なんて無くても平気だったじゃん」

 泣いてないモン。大金を手にして一瞬で他人の借金で無くなったって、悲しくないモン。

 ただ──黒由佳。次会ったら、ぜったいブッ殺す。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...