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第1部 剣聖 羽鳴由佳
68 セペノイアの帝王
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副賞のこともチラシに書いてあったらしいが、完全に見落としていた。ともあれ、嬉しい誤算だ。
カーラには会えなかったが、レアなアイテムももらえたし、ひとまずはこれでよしとしよう。
この資金さえあれば、しばらくは遊んで暮らせ……いや、葉桜溢忌に対抗するために装備を整えたり、仲間を雇ったり出来るはずだ。
会場を出てとりあえず宿舎へ。
試合が終わった願望者は街から出ていかなければならないが、優勝者のわたし達はあと一泊することが出来るようだ。
動けるようになったレオニードと合流し、事の顛末を説明。
宿舎で一泊して明日、セペノイアを発つことにした。
宿舎にも黒由佳の姿は見えない。今夜は盛大に祝勝会になるのに……バカめ。まあ、いないヤツを気にしても仕方がない。
部屋で宝箱の中の銀貨を取り出して数えながら、五等分にしても相当あるなと、舌なめずりする。
「由佳、顔、顔。悪代官みたいな顔になってるよ」
「金は人を狂わせるな……今までどんな悲惨な生活してたんだ」
志求磨とナギサが引いているが、そんなの関係ない。
宝箱に手を突っ込もうとしたレオニードを怒鳴りつける。
「まだ数えてる途中でしょーがっ! 何枚か分からなくなるだろっ!」
まったく……こういうのは信頼のおける人物に任せておけばいいのだ。わたしのような清廉潔白な美少女が均等に分けてやるからおとなしく待ってろ。
アルマはわたしの背後にぴったりくっついて離れようとしない。移動する時も、袖やら裾をつかんで離そうとしない。
背中ごしに銀貨を数えるのを不思議そうに見ていた。
うむ、黒由佳がいなくなった分、このもにょっ娘にも銀貨を分けてあげよう。
そんなことを考えていると、部屋のドアがいきなりバァン、と開いた。
「ごめんやっしゃああああッ!」
驚いて反射的に銀貨を背後へ隠す。部屋へ入ってきたのは、派手な服装のコワモテな関西人風の男だった。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《セペノイアの帝王》神田敏次郎。
「いきなり驚かしてすんまへんなあ。ワシはこのセペノイアで金貸しをしとる、神田敏次郎ってもんやが」
神田敏次郎は部屋の中をじろっと見渡す。
「やっぱり飛びおったなあ、アイツ。まあええ。保証人の姉さんもおるわけやし。さ、由佳はん。ゼニをはろうてもらいまひょか」
神田敏次郎はニコニコと笑いながら手を出してきた。
話がまったく見えない。もしや、わたしの銀貨を狙う詐欺師か何かだろうか。わたしは殺る気まんまんで柄に手をかける。
「おっとぉ、物騒なマネはあきまへんで。その様子やと事情を知らんようやから、教えたる。アンタの妹……同じ名前の由佳はんはなあ……ワシからぎょうさんゼニを借りとったんやで」
「な、なんだって……」
黒由佳のことだ。アイツ、こんな怪しい願望者から金を借りていたとは。
しかもわたしが保証人だと…。
「し、知らない。保証人になった覚えなんかないぞ」
うろたえるわたしに、神田敏次郎は胸元から一枚の書類を取り出す。
「よう見んかい。ここにアンタの妹はんの署名がしっかりとありまんがな。ウチはトイチの金貸し。アンタの妹が借りたゼニの利息はふくらむだけふくらんで、借金は今や銀貨一千枚なんやで」
借用書にはきったない字で【はなりゆか】と書いてある。なんかわたし自身が借金したみたいだ。
「い、一千枚……」
わたしは白目を剥いて気を失いそうになる。この副賞の銀貨全額ではないか。アルマが慌ててわたしの身体を支える。
「待て、十日で一割の利息なんて法外すぎる。そんな無法が通用するものか」
ナギサが横やりを入れる。おお、さすがは《覇王》の息子。シエラ=イデアルの法律に詳しいのかもしれない。
「アンタら……」
神田敏次郎はここでグッ、と溜める。
そしてアップになり、叫んだ。
「法律も知らん素人のガキが、ナマ言うとったらアカンでえええええッ!」
わたしは思わずなんやてええッ、と返しそうになったが、ここはガマンする。
「《覇王》が死んで、各領地の法律やら税金は領主が自治の名の元に好き勝手やっとるのは知っとるやろ。このセペノイアも例外やない。自治都市として何人かの代表者が法を定めとるんや」
そして神田敏次郎は借用書の下のちっさい文字を指差す。
「ワシらのような金貸しと個人間においては双方の合意があれば、片方にいかな不利な条件があろうとその契約は無効にならへんのや。保証人においてもそう。契約者が支払い義務を放棄した場合、自動的に親族やら友人にその権利がまわってくるんやでえ」
「そ、そんなバカな」
「由佳はん、アンタに残された道は二つ。とりあえず利息分はろうてジャンプするか、耳そろえて元金をはろうてしまうか。さあ、どないするんやああああッ!」
再び気を失いそうになるわたしを、志求磨やナギサが支えながら説得してくる。
「由佳、もうあきらめなよ。どうせ元々なかったお金だし」
「そうだな。この街でモメるのは何かと面倒だ。そんなもん、パッと払ってしまえ」
信じらんない、コイツら。レオニードも笑いをこらえている。アルマだけは心配そうにわたしの腕を掴んでいる。
さんざん迷ったあげく、結局は全額返済に当てることになった。
プルプル震えるわたしの肩に、志求磨が優しく手を置く。
「由佳、泣かないで。今までお金なんて無くても平気だったじゃん」
泣いてないモン。大金を手にして一瞬で他人の借金で無くなったって、悲しくないモン。
ただ──黒由佳。次会ったら、ぜったいブッ殺す。
カーラには会えなかったが、レアなアイテムももらえたし、ひとまずはこれでよしとしよう。
この資金さえあれば、しばらくは遊んで暮らせ……いや、葉桜溢忌に対抗するために装備を整えたり、仲間を雇ったり出来るはずだ。
会場を出てとりあえず宿舎へ。
試合が終わった願望者は街から出ていかなければならないが、優勝者のわたし達はあと一泊することが出来るようだ。
動けるようになったレオニードと合流し、事の顛末を説明。
宿舎で一泊して明日、セペノイアを発つことにした。
宿舎にも黒由佳の姿は見えない。今夜は盛大に祝勝会になるのに……バカめ。まあ、いないヤツを気にしても仕方がない。
部屋で宝箱の中の銀貨を取り出して数えながら、五等分にしても相当あるなと、舌なめずりする。
「由佳、顔、顔。悪代官みたいな顔になってるよ」
「金は人を狂わせるな……今までどんな悲惨な生活してたんだ」
志求磨とナギサが引いているが、そんなの関係ない。
宝箱に手を突っ込もうとしたレオニードを怒鳴りつける。
「まだ数えてる途中でしょーがっ! 何枚か分からなくなるだろっ!」
まったく……こういうのは信頼のおける人物に任せておけばいいのだ。わたしのような清廉潔白な美少女が均等に分けてやるからおとなしく待ってろ。
アルマはわたしの背後にぴったりくっついて離れようとしない。移動する時も、袖やら裾をつかんで離そうとしない。
背中ごしに銀貨を数えるのを不思議そうに見ていた。
うむ、黒由佳がいなくなった分、このもにょっ娘にも銀貨を分けてあげよう。
そんなことを考えていると、部屋のドアがいきなりバァン、と開いた。
「ごめんやっしゃああああッ!」
驚いて反射的に銀貨を背後へ隠す。部屋へ入ってきたのは、派手な服装のコワモテな関西人風の男だった。
頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《セペノイアの帝王》神田敏次郎。
「いきなり驚かしてすんまへんなあ。ワシはこのセペノイアで金貸しをしとる、神田敏次郎ってもんやが」
神田敏次郎は部屋の中をじろっと見渡す。
「やっぱり飛びおったなあ、アイツ。まあええ。保証人の姉さんもおるわけやし。さ、由佳はん。ゼニをはろうてもらいまひょか」
神田敏次郎はニコニコと笑いながら手を出してきた。
話がまったく見えない。もしや、わたしの銀貨を狙う詐欺師か何かだろうか。わたしは殺る気まんまんで柄に手をかける。
「おっとぉ、物騒なマネはあきまへんで。その様子やと事情を知らんようやから、教えたる。アンタの妹……同じ名前の由佳はんはなあ……ワシからぎょうさんゼニを借りとったんやで」
「な、なんだって……」
黒由佳のことだ。アイツ、こんな怪しい願望者から金を借りていたとは。
しかもわたしが保証人だと…。
「し、知らない。保証人になった覚えなんかないぞ」
うろたえるわたしに、神田敏次郎は胸元から一枚の書類を取り出す。
「よう見んかい。ここにアンタの妹はんの署名がしっかりとありまんがな。ウチはトイチの金貸し。アンタの妹が借りたゼニの利息はふくらむだけふくらんで、借金は今や銀貨一千枚なんやで」
借用書にはきったない字で【はなりゆか】と書いてある。なんかわたし自身が借金したみたいだ。
「い、一千枚……」
わたしは白目を剥いて気を失いそうになる。この副賞の銀貨全額ではないか。アルマが慌ててわたしの身体を支える。
「待て、十日で一割の利息なんて法外すぎる。そんな無法が通用するものか」
ナギサが横やりを入れる。おお、さすがは《覇王》の息子。シエラ=イデアルの法律に詳しいのかもしれない。
「アンタら……」
神田敏次郎はここでグッ、と溜める。
そしてアップになり、叫んだ。
「法律も知らん素人のガキが、ナマ言うとったらアカンでえええええッ!」
わたしは思わずなんやてええッ、と返しそうになったが、ここはガマンする。
「《覇王》が死んで、各領地の法律やら税金は領主が自治の名の元に好き勝手やっとるのは知っとるやろ。このセペノイアも例外やない。自治都市として何人かの代表者が法を定めとるんや」
そして神田敏次郎は借用書の下のちっさい文字を指差す。
「ワシらのような金貸しと個人間においては双方の合意があれば、片方にいかな不利な条件があろうとその契約は無効にならへんのや。保証人においてもそう。契約者が支払い義務を放棄した場合、自動的に親族やら友人にその権利がまわってくるんやでえ」
「そ、そんなバカな」
「由佳はん、アンタに残された道は二つ。とりあえず利息分はろうてジャンプするか、耳そろえて元金をはろうてしまうか。さあ、どないするんやああああッ!」
再び気を失いそうになるわたしを、志求磨やナギサが支えながら説得してくる。
「由佳、もうあきらめなよ。どうせ元々なかったお金だし」
「そうだな。この街でモメるのは何かと面倒だ。そんなもん、パッと払ってしまえ」
信じらんない、コイツら。レオニードも笑いをこらえている。アルマだけは心配そうにわたしの腕を掴んでいる。
さんざん迷ったあげく、結局は全額返済に当てることになった。
プルプル震えるわたしの肩に、志求磨が優しく手を置く。
「由佳、泣かないで。今までお金なんて無くても平気だったじゃん」
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ただ──黒由佳。次会ったら、ぜったいブッ殺す。
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