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第1部 剣聖 羽鳴由佳
73 圧倒する力
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地形を大きく変化させてしまうほどの連続の太刀風。
凄絶な攻撃を加えたが、わたしの心は穏やかだった。
先ほどまでの破壊的な衝動はない。だが、おかしな感じだ。なにかひどく他人事のような、ぼんやりして夢の中にいるような……目の前に広がる海を見て、ああ綺麗だな、と感じる余裕さえある。
ドゴオオォーンッ、と爆発が起こり、海水の水柱が立つ。
バラバラバラと雨のように海水が落ちてくる中、ヨハンが怒りの形相。
「羽鳴……由佳っ! 調子に乗るなよ」
胸の前で十字を切るヨハン。身長ほどある光る十字架が現れた。
強力な願望の力で作られた十字架の闘気。
それに触れながら叫んだ。
「この世から微塵も残さず消し去ってくれる! 神の裁きを受けよっ!」
ゴアッ、と十字型のエネルギー波が放出された。
わたしは居合いの構えから抜刀──そのエネルギー波を両断した。
真っ二つになった光の闘気はわたしを避けるように通り過ぎ、背後で爆発。
ヨハンがまた叫び、十字型のエネルギー波を連続で放つ。
ムダだ。わたしは──《断ち斬る者》。
どんな強力な願望の攻撃も断ち、斬る。
四つの飛んできたエネルギー波を斬り裂き、ヨハンに迫る。ヨハンは両腕を交差しガードの構え。願望の力を防御に集中している。
かまわず刀を一閃──。
ヨハンの黄金の鎧。両腕と胸の部分がバカァッ、と割れ落ちた。
「まさかっ! 超級魔物の攻撃でさえキズ一つ付いたことのない、この鎧が……」
ヨハンの顔が恐怖に引きつる。
いや、これでも加減している。本来なら身体ごと両断できた。
この姿になったばかりの精神状態なら間違いなく殺していた。今はなんとか自制できている。
「何かの間違いだ。わたしは神の意思に触れることの出来る願望者。選ばれた人間なのだ。おまえ達のような無知で賤しい者に遅れを取るなど……」
うわずった声でヨハンは天を指さす。ボンッ、と願望の力が天と地を繋いだ気がした。
「神よ、わたしに敵を打ち倒す力を与えたまえ。邪悪な異端者を灰塵へと帰す、神の怒りをここにっ」
お祈りでもはじめたのか。胸に提げた十字架を握りながらヨハンは天をさしていた指をわたしに向ける。
瞬時に納刀──抜刀。空に向けて。
閃光、轟音。上空から落ちてきた光の筋をブッタ斬った。
バチバチバチィッ、とわたしの刀に青白い火花が散る。
「そんな……まさか。斬ったというのか。神の怒りを……雷を」
ヨハンが後ずさる。
いかん。手が震えだした。発作みたいに破壊的な衝動が襲ってくるようだ。
早めに決着をつけて、このよくわからない状態を解除しなければならない。
腰に差していた鞘を外し、左手で構える。
願望の力を込めると、グググと黒い刀へ変化した。
二刀になったわたしが走る。
「ひ、ヒイッ」
怯えた声を出すヨハン。命まで取るつもりはないが、ぶちのめさないと気が済まない。
刀を素早く持ち変えて、峰を向ける。
まず、足──峰打ちで払う。
一撃で足の鎧を砕いた。多分、骨も。
「ぎひぃっ」
ヨハンが叫ぶ。座り込んだところに、二刀を両肩に打ち込む。
ゴシャッ、とイヤな手応え。かまわず腹に前蹴り。
「おぶぅっ」
ヨハンが嘔吐。吐瀉物をかわすように後退。そこから跳躍。
空中でアルマのようにギャギャギャ、と回転しながら落下。
峰打ちの二刀を頭部へぶち込む。
黄金の兜が砕け、ヨハンはぐりん、と白目を剥いて倒れた。
これで決着がついた。しかし、わたしは刀を収めようとしない。刃のほうをヨハンに向け、トドメを刺そうとしている。わたしの意思と関係なしに。
「ううっ、ああっ!」
意識を集中──。
左手の刀はなんとか鞘の状態に戻した。しかし、まだダメだ。気持ちの昂りが収まらない。
髪の簪を抜いた。途端に意識が遠くなる。
わたしはその場に膝をつき、ゆっくりと前のめりに倒れた。
意識を完全に失う前、簪から黒い霧のようなものが出ていくのが見えた。
誰かがわたしを揺さぶる。
声が聞こえる。これは──志求磨の声だ。
わたしはそのまま砂浜の上で気を失っていた。
志求磨とアルマは黒由佳が助け出したらしい。
ヨハンの姿は見えない。あのケガで自力で逃げられるとは思えないが。
「黒由佳はどこに?」
「そのあと見当たらないんだ。由佳が倒れてる場所だけ教えて、すぐにどこかへ行っちゃったよ」
あいつめ、逃げなくても借金の事はもう怒ってないのに……ん、なんか大事なことを忘れている。
「そうだ、あのおっさんは? 御手洗剛志はどうなったんだ。それとナギサは」
あの男のおかげで命拾いしたといっても過言ではない。たしか重症を負ったはずだ。
「ナギサはケガしてるけど無事だよ。御手洗剛志もまだ洞窟の中。応急処置をして、いまはアルマが願望の力で治療しているけど危険な状態だよ」
「わかった、とりあえず洞窟内に戻ろう」
わたしは側に落ちている簪を拾い上げた。色は銀色に戻っている。そういえばわたしの左腕と左足の紋様も消えている。
この分なら左目の瞳の色も戻っているだろう。
いったい、あの状態はなんだったのだろうか。
姿が元に戻ったのはいいが……あの圧倒的な力と新たに得たはずの二つ名《断ち斬る者》を失っているようだが……。
凄絶な攻撃を加えたが、わたしの心は穏やかだった。
先ほどまでの破壊的な衝動はない。だが、おかしな感じだ。なにかひどく他人事のような、ぼんやりして夢の中にいるような……目の前に広がる海を見て、ああ綺麗だな、と感じる余裕さえある。
ドゴオオォーンッ、と爆発が起こり、海水の水柱が立つ。
バラバラバラと雨のように海水が落ちてくる中、ヨハンが怒りの形相。
「羽鳴……由佳っ! 調子に乗るなよ」
胸の前で十字を切るヨハン。身長ほどある光る十字架が現れた。
強力な願望の力で作られた十字架の闘気。
それに触れながら叫んだ。
「この世から微塵も残さず消し去ってくれる! 神の裁きを受けよっ!」
ゴアッ、と十字型のエネルギー波が放出された。
わたしは居合いの構えから抜刀──そのエネルギー波を両断した。
真っ二つになった光の闘気はわたしを避けるように通り過ぎ、背後で爆発。
ヨハンがまた叫び、十字型のエネルギー波を連続で放つ。
ムダだ。わたしは──《断ち斬る者》。
どんな強力な願望の攻撃も断ち、斬る。
四つの飛んできたエネルギー波を斬り裂き、ヨハンに迫る。ヨハンは両腕を交差しガードの構え。願望の力を防御に集中している。
かまわず刀を一閃──。
ヨハンの黄金の鎧。両腕と胸の部分がバカァッ、と割れ落ちた。
「まさかっ! 超級魔物の攻撃でさえキズ一つ付いたことのない、この鎧が……」
ヨハンの顔が恐怖に引きつる。
いや、これでも加減している。本来なら身体ごと両断できた。
この姿になったばかりの精神状態なら間違いなく殺していた。今はなんとか自制できている。
「何かの間違いだ。わたしは神の意思に触れることの出来る願望者。選ばれた人間なのだ。おまえ達のような無知で賤しい者に遅れを取るなど……」
うわずった声でヨハンは天を指さす。ボンッ、と願望の力が天と地を繋いだ気がした。
「神よ、わたしに敵を打ち倒す力を与えたまえ。邪悪な異端者を灰塵へと帰す、神の怒りをここにっ」
お祈りでもはじめたのか。胸に提げた十字架を握りながらヨハンは天をさしていた指をわたしに向ける。
瞬時に納刀──抜刀。空に向けて。
閃光、轟音。上空から落ちてきた光の筋をブッタ斬った。
バチバチバチィッ、とわたしの刀に青白い火花が散る。
「そんな……まさか。斬ったというのか。神の怒りを……雷を」
ヨハンが後ずさる。
いかん。手が震えだした。発作みたいに破壊的な衝動が襲ってくるようだ。
早めに決着をつけて、このよくわからない状態を解除しなければならない。
腰に差していた鞘を外し、左手で構える。
願望の力を込めると、グググと黒い刀へ変化した。
二刀になったわたしが走る。
「ひ、ヒイッ」
怯えた声を出すヨハン。命まで取るつもりはないが、ぶちのめさないと気が済まない。
刀を素早く持ち変えて、峰を向ける。
まず、足──峰打ちで払う。
一撃で足の鎧を砕いた。多分、骨も。
「ぎひぃっ」
ヨハンが叫ぶ。座り込んだところに、二刀を両肩に打ち込む。
ゴシャッ、とイヤな手応え。かまわず腹に前蹴り。
「おぶぅっ」
ヨハンが嘔吐。吐瀉物をかわすように後退。そこから跳躍。
空中でアルマのようにギャギャギャ、と回転しながら落下。
峰打ちの二刀を頭部へぶち込む。
黄金の兜が砕け、ヨハンはぐりん、と白目を剥いて倒れた。
これで決着がついた。しかし、わたしは刀を収めようとしない。刃のほうをヨハンに向け、トドメを刺そうとしている。わたしの意思と関係なしに。
「ううっ、ああっ!」
意識を集中──。
左手の刀はなんとか鞘の状態に戻した。しかし、まだダメだ。気持ちの昂りが収まらない。
髪の簪を抜いた。途端に意識が遠くなる。
わたしはその場に膝をつき、ゆっくりと前のめりに倒れた。
意識を完全に失う前、簪から黒い霧のようなものが出ていくのが見えた。
誰かがわたしを揺さぶる。
声が聞こえる。これは──志求磨の声だ。
わたしはそのまま砂浜の上で気を失っていた。
志求磨とアルマは黒由佳が助け出したらしい。
ヨハンの姿は見えない。あのケガで自力で逃げられるとは思えないが。
「黒由佳はどこに?」
「そのあと見当たらないんだ。由佳が倒れてる場所だけ教えて、すぐにどこかへ行っちゃったよ」
あいつめ、逃げなくても借金の事はもう怒ってないのに……ん、なんか大事なことを忘れている。
「そうだ、あのおっさんは? 御手洗剛志はどうなったんだ。それとナギサは」
あの男のおかげで命拾いしたといっても過言ではない。たしか重症を負ったはずだ。
「ナギサはケガしてるけど無事だよ。御手洗剛志もまだ洞窟の中。応急処置をして、いまはアルマが願望の力で治療しているけど危険な状態だよ」
「わかった、とりあえず洞窟内に戻ろう」
わたしは側に落ちている簪を拾い上げた。色は銀色に戻っている。そういえばわたしの左腕と左足の紋様も消えている。
この分なら左目の瞳の色も戻っているだろう。
いったい、あの状態はなんだったのだろうか。
姿が元に戻ったのはいいが……あの圧倒的な力と新たに得たはずの二つ名《断ち斬る者》を失っているようだが……。
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