異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
81 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

81 疾走

しおりを挟む
《アライグマッスル》が用意したアライグマシーン。最高速度500キロを誇るという、ハイテクモンスターマシンだが、その正体は御手洗剛志手製のボロ自転車だ。
 
 走ってる途中で分解しないだろうか、と心配になったが、あの《レッサーパンダラー》のスポーツカーに追いつく手段はこれしかない。

 御手洗剛志にうながされるまま、アルマとともに乗り込むが三人乗りになってしまう。よい子はマネしてはならない。

 ボッ、と急発進。最後尾のわたしは振り落とされそうになり、必死でアルマの腰にしがみつく。
 もにょっ娘アルマがあふぅ、とヘンな声を出した。

 風を切って猛追。
 砂塵を巻き上げながら疾走するスポーツカーの姿を捉えた。しっかし、舗装もされてない道をよくもあんなスピードで走れるもんだ。

 なんだ、車の後部がなんか開いた。うお、発射されたのは──ミサイルではないのか。しかも追尾するタイプの。

 アルマの投げナイフが飛んだ。三発のミサイルを撃ち落とす。おお、ナイスだ、もにょっ娘。

「ふ、次はこっちの番だっ」

《アライグマッスル》の自信ありげな声。なんだ、なにするつもりだ?

《アライグマッスル》はハンドル中央のかわいいアライグマの顔をした鼻のスイッチをポチッと押した。
 前部ライトの両横側から機関銃の銃身がニョイ~と出てくる。お、スゲエ。それで蜂の巣にするのだな。

「ラアァスカーッル!」

 機関銃が火を吹く。バババババッ、と発射された銃弾がスポーツカーを穴だらけに──しない。
 ドチャドチャドチャッ、とアライグマの縞模様みたいな黒と灰色の塗装が塗りたくられただけだ。
 期待したわたしがバカだった。この期に及んでペイント弾とは……。

「ふ、自慢の愛車を汚されて、さぞ悔しがっているだろう」
 
 勝ち誇ったような《アライグマッスル》。いや、そういうのいらないから。相手、なんのダメージも受けてないから。

「由佳、あれ見てっ」

 アルマの緊迫した声。なんだ、と身体を傾けて前方を見ると、彼方に小さな人影。
 あれは──次第に近づいて姿がはっきりとわかった。
《ヴァルキリー》ラーズグリーズ。
 武道大会でナギサと激戦を繰り広げた、隠れデカパイ女だ。

 槍に変形したレーヴァテインの先をこちらに向けている。マズイ、これは──罠か。

 槍の先端が光を増す。ヤバい、《アライグマッスル》はアレの威力を知らない。

 前方のスポーツカーが急ハンドル。右へ大きく曲がり、ギャギャギャと旋回する。

 キュドッ、と槍から放たれたレーザー光線。わたしとアルマで強引に体勢を傾けた。

「うおっ!」

 バランスを崩し、その場で横転。光線はかわせたが──《アライグマッスル》は派手に地面を転がった。
 ああ、アイツの能力でダメージ無効だった。無理にかわさなくてもよかったかしれない。

 わたしはなんとか受け身を取り、アルマも問題なく着地。
 アライグマシーンは無惨に大破したが、元がボロ自転車なので惜しくはない。多分。

「あっ!」

 アルマの悲鳴。その場でうずくまった。

「由佳、気をつけてっ」

 とっさに居合い。バラバラッ、と地面に何かが落ちた。これは……竹串。こんなものを投げつけてきたのか。
 
 猿面──手にジャラアッ、と何本も持っている。
 
「う、動けない……」

 竹串に刺されたアルマは動けなくなっている。麻痺の効果でもあるのだろうか。見た目よりずっと厄介な武器のようだ。

 飛んでくる竹串。斬り払いつつ、神速で猿面に接近。  
 猿面は逃げもせず、さほど長くもない木の棒で応戦。そんな棒切れ、叩っ斬ってやる。

 わたしの薙ぎ払いからの連続斬り──だが、その木の棒でカカカカンッ、と弾かれた。こいつは……。
 刀の刃のほうに触れず、腹や峰を叩いて軌道を変えている。
 あの速さの太刀筋を……コイツ、アルマの攻撃もこうやって防いだのか。とんでもない高等技術だ。

「キャプチャーモード。カプセルを対象に向けて投擲してください」嵐太くんの声。
 よし、と《レッサーパンダラー》が腰からカプセルを取り出すと、《アライグマッスル》とアルマに投げつけた。

 いかん、この猿面にかまっている間に……くそ、二人はマモノンゲットだぜ、みたいにカプセルに閉じ込められてしまった。

「《剣聖》、投降するのだ。葉桜溢忌さまは貴様の力に興味がおありのようだ」

 ラーズグリーズが槍を向けながら勧告。くそ、誰が投降なんてするか。だが──三対一。しかも相手は餓狼衆。

《レッサーパンダラー》の銃弾をかわし、猿面に斬りかかり、ラーズグリーズの攻撃を防いだ。
 しかし、最後には取り囲まれ、猿面の木の棒でドドドッ、と身体の数ヶ所を突かれて動けなくなった。

「カプセルはもう無いからちょうどいいな。ヤン点穴てんけつで、しばらくは動けないだろう」

「いや、油断は出来ない。生きて戻ったとはいえ、あのヨハンが廃人のようになっていた。ミリアムによると魂を断ち斬られた、と。念のために縛っていたほうがいい」

 変身を解いた間宮京一とラーズグリーズが話し合い、わたしをロープでぐるぐる巻きにした。
 あと、あの猿面はヤンというのか。どうやら中国武術の達人らしいが……覚えてろよ。

 仲間が全員つかまり、わたしも囚われの身。
 スポーツカーの助手席に乱暴に放り込まれ、わたしはメチャクソに文句を飛ばす。手足は動かずとも口は動くぞ。

 クソデカパイ、ナルシスパンダ、チビ猿、ムダパイパイ、キモイケメン、ムッツリエテ公、まだまだ言い足りない。

 苦虫を噛み潰したような顔のラーズグリーズに猿ぐつわをされてしまった……くそ、こんなとき、あのヨハンを倒したときの力があれば……。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...