異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

80 ふたりのヒーロー

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 神田敏次郎と別れ、わたしとアルマは一ヶ月ぶりに診療所へと戻った。
 服装もスーツ姿から、普段の制服に長衣のものへと戻した。アルマも動きやすい、いつもの露出の多い軽装だ。
 
 診療所の外観から特に敵に襲われたとか、そんな事はなかったようだ。
 
 志求磨やナギサに会うのも久しぶりだ。わたしは早足で入り口へと近づく──が、裾をアルマにぐっと掴まれた。

「ダメ……なんかおかしい……」

 アルマの危機感知能力は並外れている。
 わたしはそれに従って歩みを止めた。

「おいおい、もう少しだったのに。カンがいいな、その娘」

 突然の声。わたしは身構える。
 数メートル先の空気中で何かが動いた。
 ノイズが走ったように背景からズズッ、と姿を現したのは──赤茶色と黒のメタリックなカラー。レッサーパンダをモチーフとしたパワードスーツを着た男。

「おまえは、餓狼衆のひとりの──」
 
 武道大会決勝戦でレオニードと戦った、《レッサーパンダラー》間宮京一だ。

「ステルスモード解除。周囲のトラップも解除します」左腕の自立型レッサーパンダスマホ、嵐太らんたくんが渋い声を出す。

 バシュ、バシュッ、と《レッサーパンダラー》の周りの地面から卵ぐらいのカプセルが飛び出し、ヤツの腰に巻いているベルトのホルダーに収まった。

「あと数歩で無傷で捕らえられたのに。まあ、バレちまったら仕方がないか」

「……志求磨たちはどうした」

 質問しながら、《レッサーパンダラー》には見えない位置からアルマにハンドシグナル。コイツを同時攻撃でぶちのめすぞ。

 しかし、《レッサーパンダラー》は左腕のホルダーから嵐太くんを外し、変身を解いて間宮京一の姿に戻った。

「さっきのカプセル見たろ? アレは人を小型化して閉じ込めることができる。で、アンタらの仲間が入ったカプセルはもうここにはない。俺のツレが持ってセペノイアの方に向かったよ。今から追いかけたら間に合うかも」

 わたしは慌ててセペノイアの方へ走り出そうとしたが、アルマに袖を掴まれた。

「……待って。アイツ、ウソついてる。家の中にまだ敵がいる」

 アルマの指摘に間宮京一は舌打ちする。

「その娘、厄介だな……そうだよ。カプセルを持ったツレはまだ中さ。おっと、動くなよ。こっちは人質がいるも同然なんだからな。四人の命がかかってるんだぜ」

 四人……? おかしいな。家の中にいたのはたしか、志求磨、ナギサ、日之影宵子、ビノッコ……なんかもう一人いたような……。

「まあぁぁてえぇいぃっっ!」

 屋根の上から雄叫び。この声はまさか──。

「見下げ果てたヤツめ! ヒーローでありながら悪事に手を染めるとは! その性根、このわたしが叩き直してやる!」

 御手洗剛志だ。もう動けるようになったのか。
 見上げながら間宮京一は呆れたように肩をすくめる。

「わざわざ高いところに……頭数に入らないから無視していたのに。しょうがない中年だ」

 間宮京一は嵐太くんを右手に持ち、構える。御手洗剛志も神秘の仮面、ラクーンマスクを取り出した。

「……装着」 「そおおぉぅうおおおーーちゃっっく!」

 二人の身体が眩い光に包まれた。下では蒸気が吹き出し、上では爆発音。なんとも賑やかだ。
 
「とおおおぉぉーうっ!」

 変身完了した《アライグマッスル》が飛び降りながらのラクーンパンチ。
 同じく変身した《レッサーパンダラー》。こちらもパンチで迎え撃つ。

 ガカッ、と二大ヒーローの拳が交差。おお、TVでも実現しなかった二人の対決がこんなところで……。
 と、感心している場合ではない。あの中年が頑張っている間に診療所の中へ踏み込もう。

 わたしとアルマは二人の横を駆け抜ける。
《レッサーパンダラー》が阻もうとするが、そこを《アライグマッスル》の連続パンチがヒット。
 ダメージはまるでないが、《レッサーパンダラー》はムキになって応戦。いいぞ。

 診療所の中へ踏み込む。診察室──机に椅子、ベッドが四床。薬品の入った戸棚……あれ、無人だ。

 いや、アルマ。ナイフを天井に向けて放った。
 ギギッ、ギンッ、と弾きながら天井に張り付いていた何者かが落ちてくる。

「このっ」
 
 居合いで斬りつける。逆さまの状態でそいつは手の棒で防いだ。
 くるっと回転しながら着地。コミカルな動きで机へと飛び移る。

 小柄な体型──忍者みたいな忍び装束。顔には中国で使うような赤い猿の面をつけている。
 あら、ダダダダがない。多分願望者デザイアだろうが、顔が見えないからか?

 いや、気にしている場合ではない。コイツがカプセルを持っているはずだ。
 二方向からアルマと挟撃。猿面はぐっ、と棒をしならせ跳躍。窓を突き破って外へ出た。

「まずい、逃がすなっ」
 
 わたしが叫ぶ。素早さならアルマも負けていない。わたしが言うまでもなく、アルマも飛び出していた。
  
 アルマの二刀ダガー連撃。
 ガガガガガッ、と常人なら目で追うことすら不可能な速さだが、その猿面は的確に防御。しかもあの棒、木製っぽい。あんなんで防げるほど、アルマの攻撃は甘くない。

「ぬおっ、それはっ!」

 御手洗剛志の驚いた声。なんだ、と見てみれば、驚くはずだ。
 赤茶色に黒のラインが走ったカラーリング。一台のスポーツカーがエンジンをブオン、ブオン、とふかしている。
 運転席には《レッサーパンダラー》。助手席のガルウイングドアが開くと、猿面がヒュオッ、と飛び乗った。

「バカな! ヒーローの乗り物といえばバイクのはずだっ!」

 御手洗剛志が叫ぶ。いや、今はそんなことを言ってる場合ではない。このままでは逃げられてしまう。

 ギャギャギャギャ、と後輪を唸らせ、猛発進するスポーツカー。

 御手洗剛志はわたし達に向かって言った。

「心配するな! わたしにはアライグマシーンがあるっ!」
 
 
 
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