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第1部 剣聖 羽鳴由佳
87 剣聖女子オブザ・デッド
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なんの冗談だ──。
血とヨダレをまき散らしながら複数のゾンビ顔が接近。
鞘がついたままの刀の先で突く。
ズボッ、と身体にめり込んで慌てて引く。感触が気持ち悪い……。
退がりながら今度は足を打った。ゴキャッ、と砕け折れて倒れるゾンビ顔。ああ……そこまでするつもりはなかったのに。
足が折れながらも這って近づくゾンビ顔。おかしい、痛みを感じてないようだ。他のヤツらも平然としている。
これはもしや……モノホンのゾンビではなかろうか。
わたしはそう思い、急に恐ろしくなった。
ホラー系が苦手なわけではない。
だけど、血とか体液がびゃあっと出てくるのはバッチイのでイヤだ。
万が一、そんなんに触れてこの美少女が感染してゾンビになろうものなら、シエラ=イデアル中のファンが泣くことになる。それだけは避けねば。
わたしはスタコラと逃げ出した。む、イヤな予感。
両脇の民家。窓をガシャアッ、とぶち破ってゾンビが飛び出してきた。
ひえ、と叫びながらタタッ、と壁ジャンプして回避。そのまま路地の奥へ──。
いかん、このパターンは……ほら見たことか。行き止まりだ。
ウゥゥ、アアァ、とゾンビの集団の呻き声。
ちくしょう、何かの冗談であってくれ。いきなり足並みそろえてダンスを踊りだし、ドッキリでしたと言ってくれ。
わたしの願いも虚しく、腐臭を漂わせた生ける屍たちがよたつきながら近づいてくる。
できるだけ近づかずに太刀風で──。
わたしが居合いの構えに入ったときだ。
パァン、とタイヤがパンクしたような音。
一番手前のゾンビの頭が吹っ飛んでいた。
パァン、パァン、と音が続くたびにゾンビどもは頭部を損傷し、バタバタ倒れていく。
これは銃弾による攻撃。わたしは振り返って見上げると、二階の窓から身を乗り出した男が銃を構えている。暗くてよく見えないが……仲間か?
わたしは素早く三角飛びの要領で壁を蹴り、その二階の窓へ。中に入るのに男が手を貸してくれた。
お互い部屋の明かりで顔を確認し、あっ、と叫んだ。
重ったるいコートにレザーハット。彫りの深い、無精髭の中年──。
《クレイジーガンマン》クレイグ・オルブライト。
こいつもセプティミアと同じく以前、志求磨に消失されたはずだ。ナギサの召喚で、こいつまで巻き込んでしまったのか。
「誰かと思えば……クソサムライ女か。お前だとわかってたら、まとめて撃ち殺したのによ」
機嫌が悪そうにクルクルと拳銃をまわし、ズボッと腰のホルスターにぶち込む。
こっちだって同じだ。こんなイカれガンマンだと分かっていたら二階に上がらなかった。
ドンドンドンッ、と部屋のドアが乱暴に叩かれる。ゾンビどもが打ち破ろうとしている。
クレイグは不敵に笑いながら自分の背に手をまわす。
「クソ女。お前の始末は後回しだ。俺のジャマだけはするなよ」
ズッ、と取り出したのはショットガン。ドアに向けてパガアッ、と撃った。
ドア向こうのゾンビ数体がぐちゃぐちゃに吹き飛ぶ。
うえ、やめてよ。その人たち、元はこの町の住人じゃないのか?
「願望者の能力で間違いねえな。抵抗力のねえ一般人をゾンビに変える能力か」
そんな恐ろしい能力が……餓狼衆の仕業だろうか。
む、そういえば、黒由佳やセプティミアは無事だろうか。
「仲間の無事を確認してくる」
わたしはそう言って部屋から出て階段を降りようとしたが……だめだ、下からゾンビたちがうぞうぞと登ってきている。
部屋に戻り、窓から下を覗く。
ここから飛び降りてもだめだ。建物自体、ゾンビと化した町の住人に囲まれている。
「この現象を起こしている願望者を殺るしかねえな。おい、どいてろ」
クレイグは階段を降りながらドォンッ、ドォンッ、と散弾をぶっぱなしてゾンビたちを蹴散らす。
こういう多人数を相手にするとき、銃はやはり頼りになる。わたしも太刀風で援護したいが、敵が元人間だと思うとやはりためらってしまう。
クレイグはショットガンで吹っ飛ばしながら外までの進路を確保した。
弾切れになり、ショットガンを投げ捨てる。
腰のホルスターから二丁の回転式拳銃を抜いた。
撃ちながら走る。銃弾は的確にゾンビどもの頭部を破壊した。
「おい、ぼさっとするな。ついてこい」
「ついてこいって、敵の居場所が分かるのか」
「こういう集団を支配して操るヤツってのはな、町全体を見渡せる高い場所にいるもんだ。この町にあるだろう、そんな建物が」
はて、そんなのあったっけ。わたしが首をかしげていると、クレイグの怒鳴り声。
「はやく来いっ! 死体どもの仲間に──」
怒鳴りながら途中で再装填。
片方の銃をホルスターに戻し、手の回転式拳銃の弾倉からバシャッ、と薬莢を排出。弾をコッコッコッ、と込め、ガシャッ、と弾倉を戻して──撃つ。
「──なりてえのかっ!」
もう片方の拳銃も同じように再装填。おそろしくなめらかで素早い動作。
しかし銃に詳しいわけではないが、どうせならもっと最新式のオートマチック拳銃を使えばいいのに。クレイグなりのこだわりがあるのだろうか。
群がるゾンビたちを倒しながら、目的の場所が見えた。あれは──鐘塔だ。寺院なんかにある、てっぺんに鐘をつるしてある塔。
たしかにあの建物なら、町全体を見渡すのに十分な高さだ。
血とヨダレをまき散らしながら複数のゾンビ顔が接近。
鞘がついたままの刀の先で突く。
ズボッ、と身体にめり込んで慌てて引く。感触が気持ち悪い……。
退がりながら今度は足を打った。ゴキャッ、と砕け折れて倒れるゾンビ顔。ああ……そこまでするつもりはなかったのに。
足が折れながらも這って近づくゾンビ顔。おかしい、痛みを感じてないようだ。他のヤツらも平然としている。
これはもしや……モノホンのゾンビではなかろうか。
わたしはそう思い、急に恐ろしくなった。
ホラー系が苦手なわけではない。
だけど、血とか体液がびゃあっと出てくるのはバッチイのでイヤだ。
万が一、そんなんに触れてこの美少女が感染してゾンビになろうものなら、シエラ=イデアル中のファンが泣くことになる。それだけは避けねば。
わたしはスタコラと逃げ出した。む、イヤな予感。
両脇の民家。窓をガシャアッ、とぶち破ってゾンビが飛び出してきた。
ひえ、と叫びながらタタッ、と壁ジャンプして回避。そのまま路地の奥へ──。
いかん、このパターンは……ほら見たことか。行き止まりだ。
ウゥゥ、アアァ、とゾンビの集団の呻き声。
ちくしょう、何かの冗談であってくれ。いきなり足並みそろえてダンスを踊りだし、ドッキリでしたと言ってくれ。
わたしの願いも虚しく、腐臭を漂わせた生ける屍たちがよたつきながら近づいてくる。
できるだけ近づかずに太刀風で──。
わたしが居合いの構えに入ったときだ。
パァン、とタイヤがパンクしたような音。
一番手前のゾンビの頭が吹っ飛んでいた。
パァン、パァン、と音が続くたびにゾンビどもは頭部を損傷し、バタバタ倒れていく。
これは銃弾による攻撃。わたしは振り返って見上げると、二階の窓から身を乗り出した男が銃を構えている。暗くてよく見えないが……仲間か?
わたしは素早く三角飛びの要領で壁を蹴り、その二階の窓へ。中に入るのに男が手を貸してくれた。
お互い部屋の明かりで顔を確認し、あっ、と叫んだ。
重ったるいコートにレザーハット。彫りの深い、無精髭の中年──。
《クレイジーガンマン》クレイグ・オルブライト。
こいつもセプティミアと同じく以前、志求磨に消失されたはずだ。ナギサの召喚で、こいつまで巻き込んでしまったのか。
「誰かと思えば……クソサムライ女か。お前だとわかってたら、まとめて撃ち殺したのによ」
機嫌が悪そうにクルクルと拳銃をまわし、ズボッと腰のホルスターにぶち込む。
こっちだって同じだ。こんなイカれガンマンだと分かっていたら二階に上がらなかった。
ドンドンドンッ、と部屋のドアが乱暴に叩かれる。ゾンビどもが打ち破ろうとしている。
クレイグは不敵に笑いながら自分の背に手をまわす。
「クソ女。お前の始末は後回しだ。俺のジャマだけはするなよ」
ズッ、と取り出したのはショットガン。ドアに向けてパガアッ、と撃った。
ドア向こうのゾンビ数体がぐちゃぐちゃに吹き飛ぶ。
うえ、やめてよ。その人たち、元はこの町の住人じゃないのか?
「願望者の能力で間違いねえな。抵抗力のねえ一般人をゾンビに変える能力か」
そんな恐ろしい能力が……餓狼衆の仕業だろうか。
む、そういえば、黒由佳やセプティミアは無事だろうか。
「仲間の無事を確認してくる」
わたしはそう言って部屋から出て階段を降りようとしたが……だめだ、下からゾンビたちがうぞうぞと登ってきている。
部屋に戻り、窓から下を覗く。
ここから飛び降りてもだめだ。建物自体、ゾンビと化した町の住人に囲まれている。
「この現象を起こしている願望者を殺るしかねえな。おい、どいてろ」
クレイグは階段を降りながらドォンッ、ドォンッ、と散弾をぶっぱなしてゾンビたちを蹴散らす。
こういう多人数を相手にするとき、銃はやはり頼りになる。わたしも太刀風で援護したいが、敵が元人間だと思うとやはりためらってしまう。
クレイグはショットガンで吹っ飛ばしながら外までの進路を確保した。
弾切れになり、ショットガンを投げ捨てる。
腰のホルスターから二丁の回転式拳銃を抜いた。
撃ちながら走る。銃弾は的確にゾンビどもの頭部を破壊した。
「おい、ぼさっとするな。ついてこい」
「ついてこいって、敵の居場所が分かるのか」
「こういう集団を支配して操るヤツってのはな、町全体を見渡せる高い場所にいるもんだ。この町にあるだろう、そんな建物が」
はて、そんなのあったっけ。わたしが首をかしげていると、クレイグの怒鳴り声。
「はやく来いっ! 死体どもの仲間に──」
怒鳴りながら途中で再装填。
片方の銃をホルスターに戻し、手の回転式拳銃の弾倉からバシャッ、と薬莢を排出。弾をコッコッコッ、と込め、ガシャッ、と弾倉を戻して──撃つ。
「──なりてえのかっ!」
もう片方の拳銃も同じように再装填。おそろしくなめらかで素早い動作。
しかし銃に詳しいわけではないが、どうせならもっと最新式のオートマチック拳銃を使えばいいのに。クレイグなりのこだわりがあるのだろうか。
群がるゾンビたちを倒しながら、目的の場所が見えた。あれは──鐘塔だ。寺院なんかにある、てっぺんに鐘をつるしてある塔。
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