86 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
86 ソンブルの町
しおりを挟む
わたしが以前乗ったことある馬車は幌付きの荷馬車だったが……。
今回、セプティミアの用意したのは貴族が乗るような豪勢なものだった。
白いシートは本革だろうし、背もたれの上に付いてるゴテゴテした装飾は金製じゃないだろうか。
赤いベルベットのカーテン。アンティーク調のテーブルにグラス棚。
セプティミアと向かい合って座る。
ゴスロリ少女はさっそくワインを開けてグラスに注ぐ。
こんなチビッ子なのによくアルコール飲むな……まあ、リアルな年齢はたしか30代くらいの女だった。
セプティミアはこちらにもワインを勧めてくる。
わたしは断ったが、黒由佳は遠慮ナシにガブガブ飲みだした。
それよりも……徒歩より断然マシだが、しょせんは馬車。あのスポーツカーに比べればスピードはだいぶ劣るだろう。わたしは早く出発しないかと急かした。
「なに言ってるの。とっくに走り出しているわ。外を見てごらんなさい」
カーテンをめくり窓から外を見てみる。
ビュンビュンと荒野の景色が後ろに流れている。
はや……これ、時速なんキロ出てんだ……。
「驚いた? 揺れもまったく感じないでしょう。わたしの願望の力に畏れおののきなさい」
たしかに驚いた……これなら思ってたより、ずっと早く追いつけるかも。
成り行きで同行することになったが、これは助かる。油断はできないが、利用できる分にはトコトン使ってやろう。
わたしはシートに座り直し、むふふとほくそ笑んだ。
セプティミアもグラスを傾けながら笑っている。
黒由佳は……早くも顔が真っ赤で虚ろな目になっている。コイツ、大丈夫か?
しばらくすると、セプティミアが立ち上がった。
まだ到着には早すぎる。何かあったのだろうか。
「サイラスが何か見つけて止まったわ。一度降りてみましょう」
言われるままに馬車を降りてみる。サイラスがなにやら調べているようだが……わたしはあっ、と声をあげた。
赤茶色に黒のラインが走った、レッサーパンダ色のスポーツカー。
間違いない、こんな趣味の悪い車はこの世にひとつしかない。《レッサーパンダラー》間宮京一の車だ。
運転席に姿は見えない。おや、右の前輪が外れている……なるほど、走行中にトラブルが発生し、一時的にここに停めているのか。
これは志求磨たちを救出する絶好のチャンスだ。まだ遠くまでは行ってないだろう。
ガタガタガタッ、とスポーツカーが震えだした。
わたしは驚いて飛び退き、サイラスはセプティミアを背後にかばう。
ガタガタと震えながらスポーツカーはその形状を変化。なんとボロっちい牛車の荷台になった。
「あら、願望の力が切れたようね。やっぱりまだ遠くまで逃げていないわ。運がいいわね、《剣聖》」
セプティミアが彼方を指さす。
目を凝らすと、いくつかの建物が集まっているのが見えた。あれは──町か。
なるほど。間宮京一はあそこにいる可能性が高い。車のトラブルで、かわりになりそうなモノを調達しようとするはずだ。
「ちょうどいいわね。捜索がてら、あそこで休みましょう」
セプティミアの提案に賛同。馬車に再び乗り、町の近くまで移動した。
馬車を降りてからおお、と感嘆の声をあげた。
セペノイアほどではないが、けっこう賑やかな町だ。
日が暮れそうになっていたが、人々の往来は多い。
大きな街と街道の途中にある宿場町のようだ。旅人ふうの通行人が多い。
酒場や宿屋、商店の軒先に夜灯の明かりがともされる。
「まずは食事からよ。ああ、言っておくけど、旅費は別だから。わたしとサイラスはあそこの高級レストランにいくけど。アンタたちはどうするの」
このケチ……あんなところに入れるわけないじゃないか。
わたしと黒由佳はそこらの露店で済ませるほかない。が、黒由佳……ワインで悪酔いしたようだ。さっきまで赤かったのに、今度は真っ青。死にそうな顔をしている。
「わたし達は別なところで食べるから。あとでまた落ち合おう」
セプティミアにそう告げて、黒由佳に肩を貸しながらその場を離れた。
「おねえざみゃ……ウチ、気持ち悪い……もうダメ」
「酒なんて飲めないクセに無理するからだ。メシどころじゃないな。ちょっと待ってろ」
とりあえず近くの安宿へ。セプティミアはどうせ高級ホテルに泊まるとかいうだろう。
黒由佳に水を飲ませて部屋で休ませた。あとでまた様子を見に行こう。
町を探索し、間宮京一を探す。あたりはすっかり暗くなっていた。今日はもう無理か……。
酒場でも聞いてみたが、知っている者はいなかった。目立ちそうなものだが、願望者自体、この町ではめずらしくないそうだ。分かったのは、この町の名がソンブルだというくらい。
簡単に食事をすませ、さっきの安宿へ。
黒由佳はおとなしく横になっているようで安心した。
わたしもその隣のベッドで休むことにした。
どれくらいの時間が経っただろうか。
隣でウンウン唸っている声で目が覚めた。
黒由佳がシーツにくるまって頭痛をうったえている。
まったく世話のやける……。
わたしは宿の主に薬がないか聞きにいく。
その時だ、外からいきなり女の悲鳴──。
飛び出してみる。なんだ、道の真ん中で……ケンカか?
数人の人間が、ひとりの倒れた男に群がっているようだが……。
いや、様子がおかしい。倒れている男のケガは尋常じゃない。ヒドイ出血だ。
群がっている人間たちも、なんか血だらけに見える。
おいおい、なんか噛みついているように見えるが……。
群がっていた人間たち──わたしに気づいて振り向く。その顔……まるでハロウィン仮装のゾンビ顔そっくりだ。
口元を血で赤く染めながら、うなり声をあげ襲いかかってきた──!
今回、セプティミアの用意したのは貴族が乗るような豪勢なものだった。
白いシートは本革だろうし、背もたれの上に付いてるゴテゴテした装飾は金製じゃないだろうか。
赤いベルベットのカーテン。アンティーク調のテーブルにグラス棚。
セプティミアと向かい合って座る。
ゴスロリ少女はさっそくワインを開けてグラスに注ぐ。
こんなチビッ子なのによくアルコール飲むな……まあ、リアルな年齢はたしか30代くらいの女だった。
セプティミアはこちらにもワインを勧めてくる。
わたしは断ったが、黒由佳は遠慮ナシにガブガブ飲みだした。
それよりも……徒歩より断然マシだが、しょせんは馬車。あのスポーツカーに比べればスピードはだいぶ劣るだろう。わたしは早く出発しないかと急かした。
「なに言ってるの。とっくに走り出しているわ。外を見てごらんなさい」
カーテンをめくり窓から外を見てみる。
ビュンビュンと荒野の景色が後ろに流れている。
はや……これ、時速なんキロ出てんだ……。
「驚いた? 揺れもまったく感じないでしょう。わたしの願望の力に畏れおののきなさい」
たしかに驚いた……これなら思ってたより、ずっと早く追いつけるかも。
成り行きで同行することになったが、これは助かる。油断はできないが、利用できる分にはトコトン使ってやろう。
わたしはシートに座り直し、むふふとほくそ笑んだ。
セプティミアもグラスを傾けながら笑っている。
黒由佳は……早くも顔が真っ赤で虚ろな目になっている。コイツ、大丈夫か?
しばらくすると、セプティミアが立ち上がった。
まだ到着には早すぎる。何かあったのだろうか。
「サイラスが何か見つけて止まったわ。一度降りてみましょう」
言われるままに馬車を降りてみる。サイラスがなにやら調べているようだが……わたしはあっ、と声をあげた。
赤茶色に黒のラインが走った、レッサーパンダ色のスポーツカー。
間違いない、こんな趣味の悪い車はこの世にひとつしかない。《レッサーパンダラー》間宮京一の車だ。
運転席に姿は見えない。おや、右の前輪が外れている……なるほど、走行中にトラブルが発生し、一時的にここに停めているのか。
これは志求磨たちを救出する絶好のチャンスだ。まだ遠くまでは行ってないだろう。
ガタガタガタッ、とスポーツカーが震えだした。
わたしは驚いて飛び退き、サイラスはセプティミアを背後にかばう。
ガタガタと震えながらスポーツカーはその形状を変化。なんとボロっちい牛車の荷台になった。
「あら、願望の力が切れたようね。やっぱりまだ遠くまで逃げていないわ。運がいいわね、《剣聖》」
セプティミアが彼方を指さす。
目を凝らすと、いくつかの建物が集まっているのが見えた。あれは──町か。
なるほど。間宮京一はあそこにいる可能性が高い。車のトラブルで、かわりになりそうなモノを調達しようとするはずだ。
「ちょうどいいわね。捜索がてら、あそこで休みましょう」
セプティミアの提案に賛同。馬車に再び乗り、町の近くまで移動した。
馬車を降りてからおお、と感嘆の声をあげた。
セペノイアほどではないが、けっこう賑やかな町だ。
日が暮れそうになっていたが、人々の往来は多い。
大きな街と街道の途中にある宿場町のようだ。旅人ふうの通行人が多い。
酒場や宿屋、商店の軒先に夜灯の明かりがともされる。
「まずは食事からよ。ああ、言っておくけど、旅費は別だから。わたしとサイラスはあそこの高級レストランにいくけど。アンタたちはどうするの」
このケチ……あんなところに入れるわけないじゃないか。
わたしと黒由佳はそこらの露店で済ませるほかない。が、黒由佳……ワインで悪酔いしたようだ。さっきまで赤かったのに、今度は真っ青。死にそうな顔をしている。
「わたし達は別なところで食べるから。あとでまた落ち合おう」
セプティミアにそう告げて、黒由佳に肩を貸しながらその場を離れた。
「おねえざみゃ……ウチ、気持ち悪い……もうダメ」
「酒なんて飲めないクセに無理するからだ。メシどころじゃないな。ちょっと待ってろ」
とりあえず近くの安宿へ。セプティミアはどうせ高級ホテルに泊まるとかいうだろう。
黒由佳に水を飲ませて部屋で休ませた。あとでまた様子を見に行こう。
町を探索し、間宮京一を探す。あたりはすっかり暗くなっていた。今日はもう無理か……。
酒場でも聞いてみたが、知っている者はいなかった。目立ちそうなものだが、願望者自体、この町ではめずらしくないそうだ。分かったのは、この町の名がソンブルだというくらい。
簡単に食事をすませ、さっきの安宿へ。
黒由佳はおとなしく横になっているようで安心した。
わたしもその隣のベッドで休むことにした。
どれくらいの時間が経っただろうか。
隣でウンウン唸っている声で目が覚めた。
黒由佳がシーツにくるまって頭痛をうったえている。
まったく世話のやける……。
わたしは宿の主に薬がないか聞きにいく。
その時だ、外からいきなり女の悲鳴──。
飛び出してみる。なんだ、道の真ん中で……ケンカか?
数人の人間が、ひとりの倒れた男に群がっているようだが……。
いや、様子がおかしい。倒れている男のケガは尋常じゃない。ヒドイ出血だ。
群がっている人間たちも、なんか血だらけに見える。
おいおい、なんか噛みついているように見えるが……。
群がっていた人間たち──わたしに気づいて振り向く。その顔……まるでハロウィン仮装のゾンビ顔そっくりだ。
口元を血で赤く染めながら、うなり声をあげ襲いかかってきた──!
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる