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第1部 剣聖 羽鳴由佳
85 奪還作戦
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セプティミアのナイフ。だがそれがわたしに届くことはない。
空中に浮いた刀がまだ残っていた。
その一本が飛来し、ナイフを打ち落とす。
「あっ!」
悲鳴を上げ、歌も中断。
わたしはすかさず立ち上がり、軽く峰打ちでセプティミアの肩を叩いた。
勝負はついた。今度はセプティミアがぐるぐる巻き、猿ぐつわになる番だ。
恨めしそうな目でわたしを見ているが……さて、これからどうしたものか。
おっと、簪を挿したままだった。
外すとわたしの姿は元に戻り、簪からは黒い霧が飛び出して人の形──黒由佳になった。
黒曜石の色から銀色に戻った簪を再び髪に挿す。
いったい、どういう仕組みなのか。以前は制御できなくて、変化が戻った後も気を失ってしまったはずだが。
「このガキんちょ、さっきはよくもやったなあ~」
黒由佳が二刀を出し、縛られたセプティミアに刃を向ける。
わたしはヤメろ、とそれを止める。
どういったいきさつで二人が出会い、黒由佳がどんな目に遭ったかは分からないが……今はそんな事をしている場合ではない。
「志求磨たちがさらわれた。黒由佳、救出するのに手を貸せ」
イヤとは言わせない。こっちは借金まで肩代わりしてやったのだ。それぐらい、このバカにも分かるだろう。
黒由佳はええ~、と面倒くさそうな顔をしたが、渋々いいよ、と返事をした。どうせヒマだしと付け加えて。
《レッサーパンダラー》間宮京一の向かった先は分かっている。
葉桜溢忌のいる旧王都だ。距離はたいした事ないが、なにせ相手は車だ。
希望があるとすれば、この世界に認識されにくい、現代の乗り物だという点。
相当な願望の力が必要だろう。それが旧王都まで持続するとは思えない。どこかで必ず休息するはずだ。
問題はわたし達が徒歩だという点。
いくら相手が休息するといっても、これでは遅すぎる。
もごもご、むがむがとセプティミアが何かを訴えている。
放っとこうとも思ったが、なんだかかわいそうにも思えて猿ぐつわを外してやることにした。
わたしって、なんて優しいんだ。優しいうえに美少女なんて今さらながら完璧すぎる……。
自分で感動を覚えながら、慎重に猿ぐつわを外す。黒由佳には歌を警戒するよう伝えている。
セプティミアは噛みつきそうな猫みたいな顔をしていたが、いきなり歌いだしたりはしなかった。
「お困りのようね、《剣聖》。アイツらを追うのに、手を貸してやってもいいわよ」
意外な申し出。わたしに恨みがあるはずなのに。
どうにも怪しいと疑っていると、セプティミアはもっともらしい動機を語りだした。
「アンタに恨みがあるのはたしか。そして天塚志求磨にも。だけどその敵に捕まってたんじゃ、わたしは復讐が果たせないじゃない? だから、その敵から助け出すまでは手を貸してやろうって言ってるの」
本当だろうか? その場しのぎのデタラメを言ってるのではないか?
「わたしなら乗り物だって用意できるわ。信用しないんなら別にいいけど」
黒由佳と顔を見合せる。まあ、ダメ元で試してみるのもアリか……。
このまま放置するのも気がひけるし、何かあったらまた黒由佳と協力して倒せばいい。
ロープも解いてやると、首と肩を回しながらセプティミアは立ち上がった。
「まずはサイラスを復活させるから」
目を閉じてすう、と息を吸い込む。
手にしたマイクに向け、声を発した。
「うわあ……」
思わず溜め息が出た。
さっきは戦いの途中だったから、あまり意識してなかったが……まるで天使の歌声だ。
癒し系のバラード。BGMも控えめで繊細なピアノの音色。
ヤバ……これひとりで聞いていたら泣いてしまうかも。
わたしがサイラスを撃破したあたり。なにやら破片がゴロゴロと転がり集まって、積み重なっていく。
粘土細工の無機質でゴツゴツした感じだったが、次第に丸みを帯び、色が浮かび上がる。
気づいたときには長身のイケメン執事、サイラスが復活していた。
何事もなかったように側に来て跪くサイラス。セプティミアの差し出した手に軽く口づけをする。
「サイラス、馬車を用意して」
「はっ、かしこまりました」
サイラスが懐から取り出したのは──小さな模型だ。馬と客車。黒由佳がぶふっ、と吹き出す。
「まさか、こんなちっこいのに乗れっての? お姉さま、アレ呼ばなきゃダメだ、ドラ○もん呼ばなきゃ」
たしかに……こんなんでは、スモー○ライトでわたし達が小さくなるか、ビッ○ライトでこの模型をでっかくしないと乗りようがない……。いや、どちらにしろ作り物の馬では走りもしない。
「バカね、わたしが超越者になったのを忘れたの? 見ておきなさい」
セプティミアはそう言って馬車の模型に手をかざす。
願望の力が込められた模型はみるみる大きくなり、馬も命が吹き込まれたようにいなないた。
「さあ、乗りなさい。さっそく追うわよ」
呆気に取られたわたしと黒由佳。
セプティミアは先に客車に乗り込み、サイラスは御者台に座る。
「し、失礼しま~す」
わたしと黒由佳はおそるおそる客車に乗り込んだ。
空中に浮いた刀がまだ残っていた。
その一本が飛来し、ナイフを打ち落とす。
「あっ!」
悲鳴を上げ、歌も中断。
わたしはすかさず立ち上がり、軽く峰打ちでセプティミアの肩を叩いた。
勝負はついた。今度はセプティミアがぐるぐる巻き、猿ぐつわになる番だ。
恨めしそうな目でわたしを見ているが……さて、これからどうしたものか。
おっと、簪を挿したままだった。
外すとわたしの姿は元に戻り、簪からは黒い霧が飛び出して人の形──黒由佳になった。
黒曜石の色から銀色に戻った簪を再び髪に挿す。
いったい、どういう仕組みなのか。以前は制御できなくて、変化が戻った後も気を失ってしまったはずだが。
「このガキんちょ、さっきはよくもやったなあ~」
黒由佳が二刀を出し、縛られたセプティミアに刃を向ける。
わたしはヤメろ、とそれを止める。
どういったいきさつで二人が出会い、黒由佳がどんな目に遭ったかは分からないが……今はそんな事をしている場合ではない。
「志求磨たちがさらわれた。黒由佳、救出するのに手を貸せ」
イヤとは言わせない。こっちは借金まで肩代わりしてやったのだ。それぐらい、このバカにも分かるだろう。
黒由佳はええ~、と面倒くさそうな顔をしたが、渋々いいよ、と返事をした。どうせヒマだしと付け加えて。
《レッサーパンダラー》間宮京一の向かった先は分かっている。
葉桜溢忌のいる旧王都だ。距離はたいした事ないが、なにせ相手は車だ。
希望があるとすれば、この世界に認識されにくい、現代の乗り物だという点。
相当な願望の力が必要だろう。それが旧王都まで持続するとは思えない。どこかで必ず休息するはずだ。
問題はわたし達が徒歩だという点。
いくら相手が休息するといっても、これでは遅すぎる。
もごもご、むがむがとセプティミアが何かを訴えている。
放っとこうとも思ったが、なんだかかわいそうにも思えて猿ぐつわを外してやることにした。
わたしって、なんて優しいんだ。優しいうえに美少女なんて今さらながら完璧すぎる……。
自分で感動を覚えながら、慎重に猿ぐつわを外す。黒由佳には歌を警戒するよう伝えている。
セプティミアは噛みつきそうな猫みたいな顔をしていたが、いきなり歌いだしたりはしなかった。
「お困りのようね、《剣聖》。アイツらを追うのに、手を貸してやってもいいわよ」
意外な申し出。わたしに恨みがあるはずなのに。
どうにも怪しいと疑っていると、セプティミアはもっともらしい動機を語りだした。
「アンタに恨みがあるのはたしか。そして天塚志求磨にも。だけどその敵に捕まってたんじゃ、わたしは復讐が果たせないじゃない? だから、その敵から助け出すまでは手を貸してやろうって言ってるの」
本当だろうか? その場しのぎのデタラメを言ってるのではないか?
「わたしなら乗り物だって用意できるわ。信用しないんなら別にいいけど」
黒由佳と顔を見合せる。まあ、ダメ元で試してみるのもアリか……。
このまま放置するのも気がひけるし、何かあったらまた黒由佳と協力して倒せばいい。
ロープも解いてやると、首と肩を回しながらセプティミアは立ち上がった。
「まずはサイラスを復活させるから」
目を閉じてすう、と息を吸い込む。
手にしたマイクに向け、声を発した。
「うわあ……」
思わず溜め息が出た。
さっきは戦いの途中だったから、あまり意識してなかったが……まるで天使の歌声だ。
癒し系のバラード。BGMも控えめで繊細なピアノの音色。
ヤバ……これひとりで聞いていたら泣いてしまうかも。
わたしがサイラスを撃破したあたり。なにやら破片がゴロゴロと転がり集まって、積み重なっていく。
粘土細工の無機質でゴツゴツした感じだったが、次第に丸みを帯び、色が浮かび上がる。
気づいたときには長身のイケメン執事、サイラスが復活していた。
何事もなかったように側に来て跪くサイラス。セプティミアの差し出した手に軽く口づけをする。
「サイラス、馬車を用意して」
「はっ、かしこまりました」
サイラスが懐から取り出したのは──小さな模型だ。馬と客車。黒由佳がぶふっ、と吹き出す。
「まさか、こんなちっこいのに乗れっての? お姉さま、アレ呼ばなきゃダメだ、ドラ○もん呼ばなきゃ」
たしかに……こんなんでは、スモー○ライトでわたし達が小さくなるか、ビッ○ライトでこの模型をでっかくしないと乗りようがない……。いや、どちらにしろ作り物の馬では走りもしない。
「バカね、わたしが超越者になったのを忘れたの? 見ておきなさい」
セプティミアはそう言って馬車の模型に手をかざす。
願望の力が込められた模型はみるみる大きくなり、馬も命が吹き込まれたようにいなないた。
「さあ、乗りなさい。さっそく追うわよ」
呆気に取られたわたしと黒由佳。
セプティミアは先に客車に乗り込み、サイラスは御者台に座る。
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わたしと黒由佳はおそるおそる客車に乗り込んだ。
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