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第1部 剣聖 羽鳴由佳
93 新旧ヒーロー対決、再び
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「キ、キミは、なんという……」
床にはまった右足を抜きながら、日之影宵子はプルプルと震えている。
楊はバッと顔を隠し、背を見せた。あらら、逃げる気なのか。ダメージ自体はないのに。
「あ、ダメだ! 待って!」
宵子の高速タックル。おそろしい速さだ。
楊に後ろから組み付く。楊はジタバタと暴れるが、興奮した宵子が力任せに押さえつける。格闘は素人のはずなのに……火事場のクソ力、いや、火事場のショタ力か。
忍び装束のような格好をしている楊。頭にはまだ頭巾を被っていたが、そのドタバタで外れた。
ゆるふわの黒髪が露になるが、それ以上に驚いたのは──。
ピョコンと頭の上に現れた可愛らしい猫耳。おう、これは反則だ。
「ケ、ケモッ、ミミッ……!」
宵子は白目を剥き、鼻血をドバッ、と出した。楊はその隙にはなれる。
部屋の奥に扉が現れた。そこへ一目散に駆け込み、姿を消した。
部屋には静寂が訪れる……。ワイヤーに縛られたわたしと黒由佳。鼻血をダラダラ流し、気を失った日之影宵子。
あれ、これは勝ったということでいいのか……。
しばらく時間が過ぎて、気がついた宵子にワイヤーを切ってもらう。
まだ鼻血がボタボタ垂れているが……出血多量で死ぬぞ。
「ああ、あんな美少年、見たことない。しかもカワイイ猫耳つきなんて。あ~、たまらん。どないしよ、わたし、どないしよ!」
「……そんな事よりどうするんだ。カプセルを取り戻す前に逃げられてしまった」
わたしが責めると、日之影宵子は鼻栓をしながらへへへと笑う。
「心配ご無用。さっき抱きついたときにちょろまかしといた」
白衣のポケットから卵型のカプセルを取り出し、わたしへ投げてよこす。
なんとも抜け目ない。これでとりあえずひとり取り戻したことになる。
さっそく底のスイッチを押してみる。カプセルから飛び出した小さな影が徐々に大きくなり──。
現れたのは、黒い革ジャンにジーパン、レザーグローブに白いマフラーの昭和感満載の中年。
「やった! お姉さま、大ハズレ~ッ!」
黒由佳が茶化したように叫ぶ。
こらこら。思ってても、そんなことを言ってはいけない。
オケラだってアメンボだって、暑苦しいアライグマ男だって一生懸命、生きているのだ。
「ぬう、わたしとしたことが……! 敵に捕まっていたのを、キミたちが助けてくれたのだな」
御手洗剛志がくやしそうに拳をグググと握りしめる。
「ここは敵の組織本部だな。よし、力を合わせて首領を倒そう。わたしがいればもう安心だ」
いや、アンタの能力はかえって邪魔なんだが。
まあ、変身していなければ発動しないか……。
楊が逃げ込んだ扉に入る。そこから先はまた白く長い通路。
わたしたち四人がしばらく進むと、また扉。入ったらどうせまた消えるんだろ。
扉の先の部屋。
薄暗い……。天井や壁にはパイプ、床には配線のコードが張り巡らせてある。ゴツい装置が両脇にならべられ、時折火花が散っている。
何かの工場っぽい。綾と一緒に見てまわった社会科見学を思い出した。
楊のいた部屋と同じぐらいの広さなのだろうが、その薄暗さと雑然とした様子でだいぶ狭く感じる。
ズシャッ、と奥から現れた男。
ブランド物のシャツとパンツ。今どきのおしゃれなブラウンの短髪。爽やかなイケメン笑顔。
手には自立型レッサーパンダスマホ、嵐太くん。
《レッサーパンダラー》間宮京一だ。
「アンタら、ほんとにバカだな。追いつめたつもりか知らないが、わざわざ敵の本拠地まで乗り込んでくるなんてよ。全滅フラグ全開だぜ、マジで」
軽い調子でパンツのポケットに片手を突っ込んだまま、ハハハ、と笑った。
「間宮京一……。今からでも遅くはない。その力は正義のために、弱き者のために使う力。先輩ヒーローとしての最後の忠告だ。これ以上、悪の組織に力を貸すのをヤメるんだ」
御手洗剛志が前に出てきて熱く語る。
間宮京一はピピピ、と嵐太くんを操作。
「アンタは知らねえからさ。あの人の恐ろしさを。俺はこれ以上、失敗は許されない」
そして装着、と呟いて左腕のホルダーに嵐太くんを差し込んだ。
御手洗剛志もラクーンマスクを取り出し、叫ぶ。
「愚か者! 目を覚まさせてやる! そおおぉぅうおおおーーちゃっっく!」
ふたりのヒーローが変身。同時に走り、拳をぶつけた。
「キミたち、手助けは無用だ! わたしがひとりで戦い、この未熟者にわからせてやる! 正義の力というものを」
手助けするもなにも、アンタの能力でこの場はダメージ無効だ。もうどうしようもない。
それより、その男を倒さないと扉が現れず先に進めないんだが……。
「ラクーンパンチ!」
《アライグマッスル》渾身のパンチ。《レッサーパンダラー》はクロスカウンター気味に打ち返す。
「むうっ、やるな!」
よろめく《アライグマッスル》。今度はジャンプしてから叫んだ。
「くらえ、ラクーンキック!」
必殺の飛び蹴り。だがこれもヒョイとかわされ、至近距離から《レッサーパンダラー》の銃弾をババババ、と浴びた。
「ぐはあっ、おのれっ!」
特撮効果の火花がバチバチっ、と飛んでいるが、ダメージはない。この勝負、どうやって決着をつけるつもりだ?
床にはまった右足を抜きながら、日之影宵子はプルプルと震えている。
楊はバッと顔を隠し、背を見せた。あらら、逃げる気なのか。ダメージ自体はないのに。
「あ、ダメだ! 待って!」
宵子の高速タックル。おそろしい速さだ。
楊に後ろから組み付く。楊はジタバタと暴れるが、興奮した宵子が力任せに押さえつける。格闘は素人のはずなのに……火事場のクソ力、いや、火事場のショタ力か。
忍び装束のような格好をしている楊。頭にはまだ頭巾を被っていたが、そのドタバタで外れた。
ゆるふわの黒髪が露になるが、それ以上に驚いたのは──。
ピョコンと頭の上に現れた可愛らしい猫耳。おう、これは反則だ。
「ケ、ケモッ、ミミッ……!」
宵子は白目を剥き、鼻血をドバッ、と出した。楊はその隙にはなれる。
部屋の奥に扉が現れた。そこへ一目散に駆け込み、姿を消した。
部屋には静寂が訪れる……。ワイヤーに縛られたわたしと黒由佳。鼻血をダラダラ流し、気を失った日之影宵子。
あれ、これは勝ったということでいいのか……。
しばらく時間が過ぎて、気がついた宵子にワイヤーを切ってもらう。
まだ鼻血がボタボタ垂れているが……出血多量で死ぬぞ。
「ああ、あんな美少年、見たことない。しかもカワイイ猫耳つきなんて。あ~、たまらん。どないしよ、わたし、どないしよ!」
「……そんな事よりどうするんだ。カプセルを取り戻す前に逃げられてしまった」
わたしが責めると、日之影宵子は鼻栓をしながらへへへと笑う。
「心配ご無用。さっき抱きついたときにちょろまかしといた」
白衣のポケットから卵型のカプセルを取り出し、わたしへ投げてよこす。
なんとも抜け目ない。これでとりあえずひとり取り戻したことになる。
さっそく底のスイッチを押してみる。カプセルから飛び出した小さな影が徐々に大きくなり──。
現れたのは、黒い革ジャンにジーパン、レザーグローブに白いマフラーの昭和感満載の中年。
「やった! お姉さま、大ハズレ~ッ!」
黒由佳が茶化したように叫ぶ。
こらこら。思ってても、そんなことを言ってはいけない。
オケラだってアメンボだって、暑苦しいアライグマ男だって一生懸命、生きているのだ。
「ぬう、わたしとしたことが……! 敵に捕まっていたのを、キミたちが助けてくれたのだな」
御手洗剛志がくやしそうに拳をグググと握りしめる。
「ここは敵の組織本部だな。よし、力を合わせて首領を倒そう。わたしがいればもう安心だ」
いや、アンタの能力はかえって邪魔なんだが。
まあ、変身していなければ発動しないか……。
楊が逃げ込んだ扉に入る。そこから先はまた白く長い通路。
わたしたち四人がしばらく進むと、また扉。入ったらどうせまた消えるんだろ。
扉の先の部屋。
薄暗い……。天井や壁にはパイプ、床には配線のコードが張り巡らせてある。ゴツい装置が両脇にならべられ、時折火花が散っている。
何かの工場っぽい。綾と一緒に見てまわった社会科見学を思い出した。
楊のいた部屋と同じぐらいの広さなのだろうが、その薄暗さと雑然とした様子でだいぶ狭く感じる。
ズシャッ、と奥から現れた男。
ブランド物のシャツとパンツ。今どきのおしゃれなブラウンの短髪。爽やかなイケメン笑顔。
手には自立型レッサーパンダスマホ、嵐太くん。
《レッサーパンダラー》間宮京一だ。
「アンタら、ほんとにバカだな。追いつめたつもりか知らないが、わざわざ敵の本拠地まで乗り込んでくるなんてよ。全滅フラグ全開だぜ、マジで」
軽い調子でパンツのポケットに片手を突っ込んだまま、ハハハ、と笑った。
「間宮京一……。今からでも遅くはない。その力は正義のために、弱き者のために使う力。先輩ヒーローとしての最後の忠告だ。これ以上、悪の組織に力を貸すのをヤメるんだ」
御手洗剛志が前に出てきて熱く語る。
間宮京一はピピピ、と嵐太くんを操作。
「アンタは知らねえからさ。あの人の恐ろしさを。俺はこれ以上、失敗は許されない」
そして装着、と呟いて左腕のホルダーに嵐太くんを差し込んだ。
御手洗剛志もラクーンマスクを取り出し、叫ぶ。
「愚か者! 目を覚まさせてやる! そおおぉぅうおおおーーちゃっっく!」
ふたりのヒーローが変身。同時に走り、拳をぶつけた。
「キミたち、手助けは無用だ! わたしがひとりで戦い、この未熟者にわからせてやる! 正義の力というものを」
手助けするもなにも、アンタの能力でこの場はダメージ無効だ。もうどうしようもない。
それより、その男を倒さないと扉が現れず先に進めないんだが……。
「ラクーンパンチ!」
《アライグマッスル》渾身のパンチ。《レッサーパンダラー》はクロスカウンター気味に打ち返す。
「むうっ、やるな!」
よろめく《アライグマッスル》。今度はジャンプしてから叫んだ。
「くらえ、ラクーンキック!」
必殺の飛び蹴り。だがこれもヒョイとかわされ、至近距離から《レッサーパンダラー》の銃弾をババババ、と浴びた。
「ぐはあっ、おのれっ!」
特撮効果の火花がバチバチっ、と飛んでいるが、ダメージはない。この勝負、どうやって決着をつけるつもりだ?
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