異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

105 反撃

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「シッ!」

 至近距離からの太刀風。
 バチイッ、と溢忌に命中。
 威力が増している。ヤツを十数メートル先まで弾き飛ばした。

「カーラさん、大丈夫ですか」

 膝をついているカーラさんは咳き込みながら答えた。

「え、ええ。わたしは大……丈夫。由佳ちゃん、それより早く《断ち斬る者》に」

 それは分かっているが、わたしひとりで変化する方法が分からない。
 黒由佳の願望の欠片……わたしの身体の中にあるが、これをどうするのか。

「黒由佳ちゃんは元々あなた心の奥底にあった願望。あなた自身なのよ。受け入れて」

 わたしの願望……あの破天荒で凶悪で、○○○○な黒由佳に?……にわかには信じられない。

 黒由佳は最期に、わたしみたいになりたいと言っていた。
 わたしも黒由佳みたいになりたいと思っていたのか……まさか。

「考え事っスか。余裕っスね」
 
 葉桜溢忌が近づいてくる。
 納刀し、再び居合いの構え。

「シッ!」

 太刀風。立て続けに四発放った。
 溢忌は盾でゴゴゴガッ、と受けながら距離を詰める。

 上段から斬りつけるが、やはり盾でガインッ、と弾かれた。
 溢忌の右手が迫る。その五指がわたしの胸を貫く──前にバチイッ、と溢忌の動きが止まった。

 カーラさんが右の手の平を溢忌に向けている。
 グググ、と手を閉じようとすると溢忌の身体も締め付けられるように軋む音を立てる。

「由佳ちゃん、長くは持たないわ。早く……」

「いででで、カーラ。アンタ、矛盾してるっスよ。さっきの爆発で旧王都の人間大勢死んだっしょ? 俺を倒すためにやってるんなら、魔王倒すために殺しまくった俺と変わんねーっスよ」

「……どうかしら。決めつけるのはまだ早いと思うわ」

 ギシッ、ギシッ、と溢忌の身体がさらに締め付けられる。カーラの右手がぶるぶると震える。

 バシイッ、と破裂したような音。
 葉桜溢忌の身体からか──いや、ピピッ、とわたしの顔に何かが飛んできた。
 これは……血だ。カーラさんの。カーラさんの右手から鮮血が飛び散っている。

「無理しすぎっスよ。俺を力で抑え込もうとすればそうなるって分かってんでしょーに。前の戦いの影響で忘れっぽくなってるとは聞いてたっスけど、こりゃウケるっスね」

 呻きながらカーラさんがうずくまる。わたしは斬りかかるが弾かれ、さらに腹に盾の殴打。
 血をゴハッ、と吐いて膝をつく。

「あ~、終了っスね。さて、どちらから殺るか」

 溢忌は剣を抜き、剣先を向けながらど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な、と最後にカーラさんに狙いを定めた。 

 そのにやけ顔を見て、わたしの腹の底からゴッ、と脳天まで熱い何かが突き抜けた。
 ダダダダ、と頭の中に文字が打ち込まれる。
《剣聖》《断ち斬る者》羽鳴由佳。

 ボロッ、と髪に挿したかんざしが砕けて落ちる。それでも変化は解除されない。

 左目が燃えるように熱くなり、左腕、左足にゾゾゾ、と黒い紋様が浮かび上がる。溢忌に引き破られたブレザーと長衣も再生した。

「うううっ、ああっ!」

《断ち斬る者》に変化したのはいい──しかし、これは一番最初にヨハン相手に変化したときと同じだ。
 暴走──するっ!

 素手のまま掴みかかる。
 両手を交差させて溢忌の襟を掴み、ドンッ、と身体を一気に沈める。
 そこからブリッジ。
 受け身不可能な投げ技。溢忌は脳天から地面に激突。

 起き上がり、振り返る勢いでサッカーボールキック。
 溢忌の身体が面白いように空中へ飛んだ。
 
 そこから居合いの構え──抜刀。
 太刀風。一気に百以上もの飛ぶ斬撃が溢忌に命中。

 ボロ雑巾のようになった溢忌が落下していく。

 そこへ向かって走った。走りながら腰の鞘を抜く。願望の力を込めて黒い刀へ変化。

 二刀になったわたしは落下直前の溢忌の身体を捉えた。

 右の刺突から左の袈裟懸け。右の払いから左の斬り上げ。
 そこから怒涛の斬撃の嵐。数十、いや、数百ほども叩き込む。

 回転しながら蹴りで打ち上げ。溢忌がまた空中へ。それを追ってわたしも跳ぶ。
 
 溢忌よりもはるか上空へ。そこからボッ、と高速落下しながら二刀をぶちかます。
 ギュドオンッ、と地面に撃突する溢忌。
 まだだ。着地したわたしは二刀を地面に突き刺す。

「──むっ、ぬあああああっ!」

  願望の力を地面に浸透させる。地面には崩れた宮殿の瓦礫や破片が無数に散らばっている。  
 その中でも細長いものをすべて刀へと変化。

 数千、数万の刀。空中にブワアーーッ、と並ぶ。
 わたしがわけの分からない叫びを上げると一斉に溢忌のもとへ飛んだ。

 元の世界での工事現場。その何十倍もの騒音、地響き。
 ズガガガガ、ドカカカカ、と無数の刀が飛来し、溢忌のいるであろう地点に次々と突き刺さっていく。

 まだ──まだだ。わたしはさらに願望の力を込める。
 ゴゴゴゴッ、と地響き。わたしの願望の力は地中深く眠る岩盤へ。それを刀の形にして地上へ──。

 ボッゴオオオオン、と巨大な岩の刀が出現。その先端に葉桜溢忌が突き上げられている。

「ぐっ、ああっ! うああっ!」

 極限まで願望の力を使っている。
 わたしの耳や鼻から血がドロリと垂れた。

 いや、まだ──まだだ。まだいける。
 
 左の刀を鞘の形に戻し、腰に差す。そして納刀。
 居合いの構え。そこから練気。全身から天を衝くような願望のオーラが立ち昇る。

 一点集中。すべてを刀に──。
 つばと鞘の隙間から気の光が溢れ出る。眩しいほどに。

 抜刀──山を越えるようなバカでかい剣閃が放たれた。わたしは反動で吹っ飛ばされる。

 地面をギャリギャリ削りながら剣閃は巨大な岩の刀へ激突。凄まじい爆発が起き、さらにわたしは後方へ飛ばされた。
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