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第1部 剣聖 羽鳴由佳
106 繰り返される悲劇
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吹き飛ばされながらもわたしはなんとか体勢を整え、着地。
刀に寄りかかりながら見上げた。
岩でできた巨大な刀は跡形もなく消えていた。その下を見てみる。葉桜溢忌は……。
いた。仰向けに倒れている。この位置から状態は確認できないが、死なないまでもさすがに戦闘不能だろう。
トドメを……刺さなければ。わたしは刀を杖がわりにしながらフラフラと歩いた。
数メートル先まで近づいたところで、ヤツは起き上がった。垂直にグウン、と。キョンシーみたいに。
ウソだろ……あれだけの攻撃を受けて動けるなんて。
手足はちぎれかけ、首も不自然な方向に曲がっている。
しかし、その傷がわたしが見ている前でシュルルル、と塞がっていくのがはっきりと見えた。
「いっっってえ~っすね。こんなケガ、魔王ん時以来っスよ。チートスキルの身代わりと超再生なけりゃあ、ヤバかったっスよ」
溢忌は左の盾を指さす。盾はビシビシとヒビが入り、バガアッ、と砕け散った。
「ほれ、ぐずぐずしてると完全に再生しちまうっスよ。身代わりになりそうなモノはもうないし……今がチャンスっスよ」
「言われなくても……ここで決めてやるっ」
納刀し、居合いの構え。
膝がガクガクと震える。全身が痛みでまともに動けない。
ダメだ、限界を超えて願望の力を使い過ぎた。
暴走状態は収まっているが、このままでは勝ち目はない。
「ああ、アンタ居合いの達人なんスよね。俺のチートスキルとどっちが速いか勝負するっスか」
そう言って溢忌はコインを取り出す。
「こいつが地面に落ちた瞬間に同時に抜く。最終決着にふさわしい、カッコいい勝負のつけかたっスね」
コイツ……わたしがまともに動けないことを知っていて。
しかし普通に戦っても、このままでは──。
いいだろう、とわたしは頷いた。
最後の、最後の力を振り絞る。仮に勝てたとしても死ぬかもしれない。それでも……かまわない。
キィンッ、とコインが親指で弾かれた。コンマ数秒後、わたしの背中にドンッ、と熱い何かがぶつかった。
痛みはない。瞬間、身体に力がみなぎる。
カーラさんの力だ。振り返って確認はできないが、間違いない。これなら──。
コインが地面に落ちる。
バチンッ、と鍔鳴りの音。溢忌の紫電一閃とかいう、超高速の抜刀術。
一連の動作がまったく見えない。技というよりは……能力。
発動が終了したということは、わたしはすでに両断され、死んでいるかもしれない。
あまりの速さと鮮やかさに、まだ気づいていないだけかも……。
わたしは抜刀し、そのままの姿勢で固まっている。
葉桜溢忌が吐き出すように言った。
「なんっ……なんスか! これはっ……こんなことっ」
溢忌の足元。爆発で埋もれた土砂の中から二本の腕が伸びて膝のあたりにしがみついている。
ボゴッ、と頭も出てきた。コイツは──御手洗剛志。そういえばこの中年は深手を負っていたが、死んではいなかった。
カーラさんが一斉に仲間の亡骸を移動したときも、生きていたために対象外だったようだ。あの爆発で生きていたことには驚きだが……。
「首領め、このわたしを忘れるなよっ!」
身体が半分埋まった状態で御手洗剛志が叫ぶ。
溢忌はもはや聞いていない。しがみついている手を引き剥がしながら、ヨロヨロと後ずさる。
「まさか、こんなヤツらに……冗談じゃねえっスよ」
葉桜溢忌の剣が鞘ごとバキィッ、と砕けた。
そして、その身体もズズ、ズ、と斜めにズリ落ちて──。
わたしの抜刀のほうが速かった?
いや、カーラさんの力があったとしても、それはない。
鍔鳴りの音がしたとき、わたしの刀はまだ鞘から抜き終えていなかった。
これはやはり御手洗剛志のいきなりの出現のせいだ。
このイレギュラーな出来事が能力の不完全な発動に繋がったと考えられる。
地面にドサリ、と落ちる溢忌の上半身。再生も追いついていないようだ。いや、こんな状態でも油断はできない。今こそトドメを──。
バツンッ、とブレーカーが落ちたような音。
目の前が──周囲が真っ暗に。何も見えなくなった。
地面が急に無くなったような、身体が落ちていくような感覚。これは、何が起きている──。
薄暗い宮殿の中。葉桜溢忌が立ち上がる。腰に剣、左腕に盾が現れた。やっとまともに戦う気になったか。
さっきの電撃の影響でまだ身体が痺れているが、ダメージは少ない。
志求磨をはじめとする仲間たちが溢忌を取り囲む。
あの男、いくら強いといってもこのメンバー相手にどうするつもりだ。
ここでわたしはひどい違和感を覚える。なにか気持ち悪い……。この一度見たような、体験したような感覚。
「いやあ、ヤバかったっスね。緊急発動っスよ。チートスキル、時間跳躍。アンタの記憶、曖昧でしょうけど」
なんだ? わたしに言っているのか……? 言っている意味が分からないが。
志求磨たちが一斉に攻撃を仕掛ける。ここでわたしはハッ、と気づく。
ダメだ、いけない。ここから先の展開をわたしは知っている。
全滅。ヤツの圧倒的な力の前に。
わたしはやめろっ、と叫んだ──。
刀に寄りかかりながら見上げた。
岩でできた巨大な刀は跡形もなく消えていた。その下を見てみる。葉桜溢忌は……。
いた。仰向けに倒れている。この位置から状態は確認できないが、死なないまでもさすがに戦闘不能だろう。
トドメを……刺さなければ。わたしは刀を杖がわりにしながらフラフラと歩いた。
数メートル先まで近づいたところで、ヤツは起き上がった。垂直にグウン、と。キョンシーみたいに。
ウソだろ……あれだけの攻撃を受けて動けるなんて。
手足はちぎれかけ、首も不自然な方向に曲がっている。
しかし、その傷がわたしが見ている前でシュルルル、と塞がっていくのがはっきりと見えた。
「いっっってえ~っすね。こんなケガ、魔王ん時以来っスよ。チートスキルの身代わりと超再生なけりゃあ、ヤバかったっスよ」
溢忌は左の盾を指さす。盾はビシビシとヒビが入り、バガアッ、と砕け散った。
「ほれ、ぐずぐずしてると完全に再生しちまうっスよ。身代わりになりそうなモノはもうないし……今がチャンスっスよ」
「言われなくても……ここで決めてやるっ」
納刀し、居合いの構え。
膝がガクガクと震える。全身が痛みでまともに動けない。
ダメだ、限界を超えて願望の力を使い過ぎた。
暴走状態は収まっているが、このままでは勝ち目はない。
「ああ、アンタ居合いの達人なんスよね。俺のチートスキルとどっちが速いか勝負するっスか」
そう言って溢忌はコインを取り出す。
「こいつが地面に落ちた瞬間に同時に抜く。最終決着にふさわしい、カッコいい勝負のつけかたっスね」
コイツ……わたしがまともに動けないことを知っていて。
しかし普通に戦っても、このままでは──。
いいだろう、とわたしは頷いた。
最後の、最後の力を振り絞る。仮に勝てたとしても死ぬかもしれない。それでも……かまわない。
キィンッ、とコインが親指で弾かれた。コンマ数秒後、わたしの背中にドンッ、と熱い何かがぶつかった。
痛みはない。瞬間、身体に力がみなぎる。
カーラさんの力だ。振り返って確認はできないが、間違いない。これなら──。
コインが地面に落ちる。
バチンッ、と鍔鳴りの音。溢忌の紫電一閃とかいう、超高速の抜刀術。
一連の動作がまったく見えない。技というよりは……能力。
発動が終了したということは、わたしはすでに両断され、死んでいるかもしれない。
あまりの速さと鮮やかさに、まだ気づいていないだけかも……。
わたしは抜刀し、そのままの姿勢で固まっている。
葉桜溢忌が吐き出すように言った。
「なんっ……なんスか! これはっ……こんなことっ」
溢忌の足元。爆発で埋もれた土砂の中から二本の腕が伸びて膝のあたりにしがみついている。
ボゴッ、と頭も出てきた。コイツは──御手洗剛志。そういえばこの中年は深手を負っていたが、死んではいなかった。
カーラさんが一斉に仲間の亡骸を移動したときも、生きていたために対象外だったようだ。あの爆発で生きていたことには驚きだが……。
「首領め、このわたしを忘れるなよっ!」
身体が半分埋まった状態で御手洗剛志が叫ぶ。
溢忌はもはや聞いていない。しがみついている手を引き剥がしながら、ヨロヨロと後ずさる。
「まさか、こんなヤツらに……冗談じゃねえっスよ」
葉桜溢忌の剣が鞘ごとバキィッ、と砕けた。
そして、その身体もズズ、ズ、と斜めにズリ落ちて──。
わたしの抜刀のほうが速かった?
いや、カーラさんの力があったとしても、それはない。
鍔鳴りの音がしたとき、わたしの刀はまだ鞘から抜き終えていなかった。
これはやはり御手洗剛志のいきなりの出現のせいだ。
このイレギュラーな出来事が能力の不完全な発動に繋がったと考えられる。
地面にドサリ、と落ちる溢忌の上半身。再生も追いついていないようだ。いや、こんな状態でも油断はできない。今こそトドメを──。
バツンッ、とブレーカーが落ちたような音。
目の前が──周囲が真っ暗に。何も見えなくなった。
地面が急に無くなったような、身体が落ちていくような感覚。これは、何が起きている──。
薄暗い宮殿の中。葉桜溢忌が立ち上がる。腰に剣、左腕に盾が現れた。やっとまともに戦う気になったか。
さっきの電撃の影響でまだ身体が痺れているが、ダメージは少ない。
志求磨をはじめとする仲間たちが溢忌を取り囲む。
あの男、いくら強いといってもこのメンバー相手にどうするつもりだ。
ここでわたしはひどい違和感を覚える。なにか気持ち悪い……。この一度見たような、体験したような感覚。
「いやあ、ヤバかったっスね。緊急発動っスよ。チートスキル、時間跳躍。アンタの記憶、曖昧でしょうけど」
なんだ? わたしに言っているのか……? 言っている意味が分からないが。
志求磨たちが一斉に攻撃を仕掛ける。ここでわたしはハッ、と気づく。
ダメだ、いけない。ここから先の展開をわたしは知っている。
全滅。ヤツの圧倒的な力の前に。
わたしはやめろっ、と叫んだ──。
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