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第1部 剣聖 羽鳴由佳
107 むき出しの世界
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わたしの叫びも空しく、志求磨やナギサたちは次々と攻撃を溢忌に加える。
だが、通じない。瞬く間に打ち倒され、吹き飛ばされる。
わたしの身体の痺れはまだ収まらない。歯噛みしながらこの状況を見ていることしかできない。
ぼんやりとしか思い出せないが、わたしはあと一歩のところまであの男を追い詰めていた。
だが、あの男──葉桜溢忌は時間すら操ったようだ。ダメージがない状態まで過去へ。
志求磨たちがまだ死んでいないのは嬉しいが、わたしの《断ち斬る者》は解除されている。
やはり勝てないのか。何をやっても。
仲間たちを蹴散らした溢忌。しかし何やら様子がおかしい。
志求磨たちは負傷したものの、命に関わるようなケガではない。今さらあの男が手加減する必要はないと思うのだが……。
「おか……しいっスね。時間は戻って、俺のダメージも無くなったはず……」
ガクン、と膝をつく。盾が砕け、剣が鞘ごと折れた。この異変にその場にいる一同が驚く。
宮殿の天井付近からカッ、とサファイアのように輝く青い球体が現れた。
球体の中心にはカーラさん。そして隣には……淡い乳白色の光を放つ、白いワンピースに長い赤髪の少女。うずくまり、眠っているようだが……。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《女神》《原初の願望者》《世界の根源》シエラ=イデアル。
この世界と同じ名の少女。いや、まてまて。わたしはすでにこの少女に出会っている。
そしてカーラさんにも再会している。しかし、会った場所はここではなかったような……。
「おいおいおいっ、そんなんを……むき出しの世界を深淵から連れてきてどうするつもりっスか!」
感情をあらわにした溢忌の声。なんだ、何をそんなに慌てているのか。
溢忌の胸に斜めに赤い筋が入り、出血。口からも血を吐き出している。
「溢忌……時間を戻してもムダよ。あなたはすでに斬られている。《断ち斬る者》に。彼女の剣は時空を裂き、因果すら断ち斬る」
「……そんなんはどうでもいいっスよ! 俺が聞いてんのは、その駄女神使って何をするかってことっス」
「わたしが無理に連れてきたわけじゃないわ。彼女の意思。あなたを止めにきたのよ」
「休眠期のそいつが……? はっ、嘘もたいがいにするっスよ」
「《女神》の勇者……あなたが斬られた事で、シエラも半覚醒状態になったの。嘘じゃないわ。そしてこの意味が分かるわね。あなたに力を与えたのは彼女。その力を彼女に返す時がきたの」
溢忌はそれを聞いて顔を歪ませる。また血を吐き、ズズ、ズ、と足を引きずりながら後退する。
ふわっ、と《女神》シエラが降り立った。
目は閉じたまま、夢遊病者のようにおぼつかない足取りで溢忌に近づく。
「いまさらっ、なんなんスかっ! ポンコツな駄女神のクセに、こんな時だけっ! 俺に、俺に近づくなあっっ!」
溢忌の左手からボンッ、と炎弾が飛んだ。
だがシエラの身体に当たると音も無く、吸収されるように消えた。
お互いに触れられる程の距離。溢忌はクソッ、と拳を打ち込んだ。
拳、そして腕はシエラの胸を貫い──いや、吸い込まれるようにして消えている。
「うおおおおおおっ!」
溢忌の咆哮。凄まじい願望の力を放っている。宮殿全体が立っていられないほどの揺れに襲われた。
「いけない、この世界ごと消そうとしている!」
カーラさんの声。
皆もどうにかしようとするが、揺れと溢忌の身体から発する圧力のようなもののせいで近づけない。
ただ、溢忌の目の前にいる少女だけは静かに佇んでいた。何事も無いように。
「元の世界も、この世界もいらねえっ! 俺を受け入れないんなら──俺の存在を否定するんならいらねえっ! ぶっ壊してやるっ!」
溢忌の叫び。溢忌の身体は崩壊し始めている。ボコン、ボコン、と穴が空き、そこから願望の力が光線のように放出された。
マズイ、本当にこのままでは世界が吹っ飛んでしまう。
痺れがようやく収まったわたしは、なんとか刀を支えにして立ち上がる。
ここから神速で接近しようと身構えた時だった。
目の前がカッ、と光った。眩しい、熱い。一瞬のうちに身体が吹き飛ばされ──。
真っ白な空間。果ての無い、無機質な風景。わたしは死んでしまったのか?
いや、わたしはここに来るのは初めてじゃない。
足元から声。見下ろすと、志求磨が頭を振りながら起き上がろうとしていた。
手を貸してやる。周りには他の仲間たちも起き上がろうとしていた。
「間に合ったわ。シエラが受け止めてくれた。全部……」
今度は上から声。カーラさんだ。空中に浮きながら、同じようにプカプカと浮かんでいる《女神》シエラ=イデアルに優しい眼差しを向けている。
「また完全に眠りに入ったわ。次に目覚めるのは何十年後か何百年後か……意外と数年後かもね」
カーラさんはわたしのいるところまで降りてくる。
「終わったんですか? わたしたち、勝ったんですか?」
いまだに実感が湧かない。葉桜溢忌が時間を操った影響か、記憶があやふやだ。
「ええ、世界の危機は回避出来たわ。溢忌を吸収した事で、彼女も落ち着いたみたい。しばらくは悪夢を見ることもないでしょう」
仲間たちが周りに集まってくる。
志求磨、アルマ。ナギサ、御手洗剛志。レオニード、ショウ。セプティミア、サイラス。日之影宵子、ビノッコ。クレイグ。
……黒由佳はいない。そこまで時間は遡らなかった……。
いや、わたしの中にいる。たしかにいる。わたしの中で好き勝手な事を喚いている。
少しだけ笑うことが出来た。
わたしは皆を見渡し、それから《女神》シエラ=イデアルを見上げて力強く言った。
「帰ろう、わたしたちが守った世界へ」
だが、通じない。瞬く間に打ち倒され、吹き飛ばされる。
わたしの身体の痺れはまだ収まらない。歯噛みしながらこの状況を見ていることしかできない。
ぼんやりとしか思い出せないが、わたしはあと一歩のところまであの男を追い詰めていた。
だが、あの男──葉桜溢忌は時間すら操ったようだ。ダメージがない状態まで過去へ。
志求磨たちがまだ死んでいないのは嬉しいが、わたしの《断ち斬る者》は解除されている。
やはり勝てないのか。何をやっても。
仲間たちを蹴散らした溢忌。しかし何やら様子がおかしい。
志求磨たちは負傷したものの、命に関わるようなケガではない。今さらあの男が手加減する必要はないと思うのだが……。
「おか……しいっスね。時間は戻って、俺のダメージも無くなったはず……」
ガクン、と膝をつく。盾が砕け、剣が鞘ごと折れた。この異変にその場にいる一同が驚く。
宮殿の天井付近からカッ、とサファイアのように輝く青い球体が現れた。
球体の中心にはカーラさん。そして隣には……淡い乳白色の光を放つ、白いワンピースに長い赤髪の少女。うずくまり、眠っているようだが……。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《女神》《原初の願望者》《世界の根源》シエラ=イデアル。
この世界と同じ名の少女。いや、まてまて。わたしはすでにこの少女に出会っている。
そしてカーラさんにも再会している。しかし、会った場所はここではなかったような……。
「おいおいおいっ、そんなんを……むき出しの世界を深淵から連れてきてどうするつもりっスか!」
感情をあらわにした溢忌の声。なんだ、何をそんなに慌てているのか。
溢忌の胸に斜めに赤い筋が入り、出血。口からも血を吐き出している。
「溢忌……時間を戻してもムダよ。あなたはすでに斬られている。《断ち斬る者》に。彼女の剣は時空を裂き、因果すら断ち斬る」
「……そんなんはどうでもいいっスよ! 俺が聞いてんのは、その駄女神使って何をするかってことっス」
「わたしが無理に連れてきたわけじゃないわ。彼女の意思。あなたを止めにきたのよ」
「休眠期のそいつが……? はっ、嘘もたいがいにするっスよ」
「《女神》の勇者……あなたが斬られた事で、シエラも半覚醒状態になったの。嘘じゃないわ。そしてこの意味が分かるわね。あなたに力を与えたのは彼女。その力を彼女に返す時がきたの」
溢忌はそれを聞いて顔を歪ませる。また血を吐き、ズズ、ズ、と足を引きずりながら後退する。
ふわっ、と《女神》シエラが降り立った。
目は閉じたまま、夢遊病者のようにおぼつかない足取りで溢忌に近づく。
「いまさらっ、なんなんスかっ! ポンコツな駄女神のクセに、こんな時だけっ! 俺に、俺に近づくなあっっ!」
溢忌の左手からボンッ、と炎弾が飛んだ。
だがシエラの身体に当たると音も無く、吸収されるように消えた。
お互いに触れられる程の距離。溢忌はクソッ、と拳を打ち込んだ。
拳、そして腕はシエラの胸を貫い──いや、吸い込まれるようにして消えている。
「うおおおおおおっ!」
溢忌の咆哮。凄まじい願望の力を放っている。宮殿全体が立っていられないほどの揺れに襲われた。
「いけない、この世界ごと消そうとしている!」
カーラさんの声。
皆もどうにかしようとするが、揺れと溢忌の身体から発する圧力のようなもののせいで近づけない。
ただ、溢忌の目の前にいる少女だけは静かに佇んでいた。何事も無いように。
「元の世界も、この世界もいらねえっ! 俺を受け入れないんなら──俺の存在を否定するんならいらねえっ! ぶっ壊してやるっ!」
溢忌の叫び。溢忌の身体は崩壊し始めている。ボコン、ボコン、と穴が空き、そこから願望の力が光線のように放出された。
マズイ、本当にこのままでは世界が吹っ飛んでしまう。
痺れがようやく収まったわたしは、なんとか刀を支えにして立ち上がる。
ここから神速で接近しようと身構えた時だった。
目の前がカッ、と光った。眩しい、熱い。一瞬のうちに身体が吹き飛ばされ──。
真っ白な空間。果ての無い、無機質な風景。わたしは死んでしまったのか?
いや、わたしはここに来るのは初めてじゃない。
足元から声。見下ろすと、志求磨が頭を振りながら起き上がろうとしていた。
手を貸してやる。周りには他の仲間たちも起き上がろうとしていた。
「間に合ったわ。シエラが受け止めてくれた。全部……」
今度は上から声。カーラさんだ。空中に浮きながら、同じようにプカプカと浮かんでいる《女神》シエラ=イデアルに優しい眼差しを向けている。
「また完全に眠りに入ったわ。次に目覚めるのは何十年後か何百年後か……意外と数年後かもね」
カーラさんはわたしのいるところまで降りてくる。
「終わったんですか? わたしたち、勝ったんですか?」
いまだに実感が湧かない。葉桜溢忌が時間を操った影響か、記憶があやふやだ。
「ええ、世界の危機は回避出来たわ。溢忌を吸収した事で、彼女も落ち着いたみたい。しばらくは悪夢を見ることもないでしょう」
仲間たちが周りに集まってくる。
志求磨、アルマ。ナギサ、御手洗剛志。レオニード、ショウ。セプティミア、サイラス。日之影宵子、ビノッコ。クレイグ。
……黒由佳はいない。そこまで時間は遡らなかった……。
いや、わたしの中にいる。たしかにいる。わたしの中で好き勝手な事を喚いている。
少しだけ笑うことが出来た。
わたしは皆を見渡し、それから《女神》シエラ=イデアルを見上げて力強く言った。
「帰ろう、わたしたちが守った世界へ」
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