異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

108 エピローグ

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 高2の春、いつもの通学途中。
 バス停のベンチに座りながらショートカットのよく似合う少女あやが話しかけてくる。

 振ってくる話題はアイドルやら女優やらの恋愛話──ではない。
 ついこの前まで転移していた異世界。シエラ=イデアルについての話題だ。
 
 綾は度々、あちらに行ったり来たりしている。行くときはナギサに喚んでもらい、戻るときは自らの消失ロストの力を利用しているのだ。

 器用なことをするもんだ、と思う。
 あちらとこちらでは時間の流れが違うからむやみやたらに行くもんじゃない、と忠告するのだが、この活発な少女はわたしの言うことを聞かない。

 シエラ=イデアルでは《覇王》の後継者としてナギサが正式にその存在を公表。
 しかし、王として君臨するのは辞退している。あくまで領主たちをまとめる盟主という立場に収まっているという。自分はまだその器ではないと。

《アライグマッスル》御手洗剛志は相変わらず世界中を回り、魔物退治の他に独自のヒーローショーを開いているそうだ。子供たちになかなかの人気で、その隣には《レッサーパンダラー》間宮京一の姿もあったという。

 セプティミアは元のベルフォレ地方の領主に返り咲いた。以前のような悪政をしないという条件付きで。今頃は優雅に城のバルコニーでサイラスにワインを注いでもらっているだろう。

 レオニードはギルドの仕事が忙しいようだ。世界の危機は去ったとはいえ、魔物はまだまだ多い。護衛やら討伐の依頼が途絶えることはない。   
 新しくクレイグを雇ったと聞いた。戦闘狂のイカれガンマンにはぴったりの職場だ。

 ショウは再び姿を消したという。また修行の旅か。まあ、また強敵が現れれば呼ばなくても勝手にあらわれるだろう。

 日之影宵子は、自ら志願してナギサの軍に配属されたという。意外に思うが、葉桜溢忌軍の残党狩り。それに参加してあの美少年、楊を探すのが目的らしい。それに付き合わされるビノッコが憐れでならない……。

 ミリアムはいち政務官としてナギサに仕えることになった。願望者デザイアとしての能力はカーラさんに封印してもらい、その頭脳を遺憾なく発揮しているという。

 カーラさんはセペノイアの街で怪我人を治療したり、街や村に結界を張ったりといつもの生活に戻ったようだ。決して政治などの表舞台には出てこない。
 しかし、あの《女神》シエラ=イデアルにはたまに会いに行っているようだった。

 一通りみんなの話を聞けてわたしは安心した。わたしに会いたがってるとも、聞いた。
 わたしだって会いたい。でも、次に行ったら──戻れなくなる気がする。
 
 今の姿……ボサボサの髪、死んだように虚ろな目、陰気な猫背。あの世界での美少女とはかけ離れている。
 もう一度あの姿になれたら、本当に戻りたいなんて思わないかも。志求磨……綾みたいに気軽に行ったり来たりなんて出来ない。
 これが、わたしの本当の姿なんだ。願望は願望に過ぎない。
 もう現実から目をそらさないんだ。
 身体の中で黒由佳が何か言った気がした。
 胸を押さえながら、うん、と頷く。
 
 あれ、そういえばあとひとり、重要な人間のその後を聞いていない。

「アルマは? その後、あのもにょっ娘は」

 元の世界に帰ると言ったとき、いつまでも泣きじゃくってわたしを困らせていた。
 たしかナギサの軍所属になる予定だとは聞いていたが……。

「うん、その事なんだけど……」

 綾は急に表情を曇らせる。
 なんだ、何かあったのか、あのもにょっ娘に。

 深刻な顔で黙り込む綾。わたしも怖くてそれ以上なかなか聞けない。
 そうこうしている間にバスが到着。プシュー、と音を立てて乗降口のドアが開いた。
 
 開いたと同時に誰かが突進。みぞおちに頭からぶつかり、うごっ、とわたしは呻き声をあげる。

 ぶつかってきたのは──前髪を目の上で揃えた小学一年生くらいの少女。涙目でわたしを見上げている。

 あっ、とわたしは驚いた。
 初対面のはずだけど知っている。くりくりした瞳、抱きついた感触、もにょっとした雰囲気──この子はまさか。

「あはは、分かった? そう、その子はアルマ。《アサシン》アルマ・イルハム」

 まさか、本当に……リアルではこんなに小さな子供だったなんて。

「どうして、ここにアルマが……」

 ぎゅうう、と抱きつかれながら綾を見る。わたしの親友は申し訳なさそうに、舌をペロッと出して謝った。

「ゴメン……この前、会った時にどうしても付いてくるって……それで断り切れなくて」

「え? ……ええ~っ!」

 これ、どうすればいいのだろうか。
 アルマはもう離れないといった感じで、わたしの制服を掴んでいる。そんなまっすぐなキラキラした目でわたしを見ないでくれ。というか、よくわたしだと分かったな。

「仕方ない……なんとかごまかしてわたしの家に連れて帰ろう。これからは一緒だ」

 アルマの表情がパアッ、と明るくなる。

「あり……がと……由佳、大好き……」

 あとはもにょもにょと何言ってるかわからなかったが、わたしはその頭を撫でながらわたしもだ、と言った。

 とりあえずバスに乗り込む。一番後ろの席にアルマを挟んでわたしと綾、三人で座った。そして顔を見合わせて笑った。

 うん、やっぱり……なんだか他のみんなにも会いたくなった。
 いつかまた行こう。自分の願望が叶う異世界──シエラ=イデアルへ。



 異世界の剣聖女子 第1部 剣聖 羽鳴由佳 完
 
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