異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
110 / 185
第2部 消えた志求磨

2 生徒指導

しおりを挟む
「由佳っ、早く起きないと本当に遅刻するよっ」

 母の声に飛び起きる。
 元の世界に戻って一週間目──。
 夜更かしで時代劇のDVDを見ていたせいなのだが……寝坊してしまった。

 どうしてもっと早く起こしてくれないのと母に文句垂れたが、何度も起こしたわよ、と素っ気ない返事。

 もう! 起こそうとして本人が起きていないなら起こしてないのと一緒だ。
 急いで髪の毛をセットし(すごい適当)着替えて、バッグを持って玄関へ。

 朝ごはんは抜くしかない。靴を履いて外へ出ようとしたときだった。
 制服の裾を引っ張られる。振り向くと、前髪を目の上で揃えた7歳くらいの女の子。
 
「アルマ、学校に遅れる。離してよ」

「……ダメ。あたしも一緒に行く。いつか連れてってくれるって約束してたもん……」
 
「あ~、でも今日じゃなくても……。また今度ね」

「……この前も同じこと言った……ウソつき」

 参った。このアルマ……こうやって言い出したらなかなか引かない頑固者だ。

 致し方なし──。わたしはアルマと手を繋いで出発。母がのんきな声でいってらっしゃ~いと見送る。
 まったく……放任主義というか、無関心というか。アルマを連れて帰ったときも、友人の妹をしばらく預かることになったとバレバレの嘘の説明で何もツッコんでこなかった。逆を言えばそれだけ信用されているということかな? いや、まさかな。

 そんな事を考えながらバス停まで。
 おや、ギリギリの時間にも関わらずあやがいない。

 スマホを見たが、遅れるとか休むとかの連絡はきていない。
 こちらから電話をかけてみるが……通じない。電源が切れているのか。いや、もしかしたら異世界に行っているのかも。

 異世界シエラ=イデアルにこちらの所持品は持ち込めない。
 あちらに行っている間、どういう仕組みか分からないが所持品は忽然と消える。
 以前も連絡が取れなかった事があったが、綾が異世界に行っている時だった。でも学校を休んでまで行くなんて事……今までなかった。

 ああ、考えているうちにバスが来てしまった。
 仕方なくアルマと一緒に乗る。帰りにでも家に寄ってみればいいか。



 学校に着いて、アルマと手を繋いだまま校門をくぐる。
 大勢の生徒にジロジロ見られるが、別に気にしない。
 アルマは目をキラキラと輝かせて飛び跳ねている。異世界でのアルマはあまり感情を表に出さなかったから、この反応はなんだか嬉しい。こんなことで喜んでくれるなんて。

 アルマは元の世界では本名があるはずなのだが、こちらに来てからその事を話そうとしないし、わたしも聞こうとは思わない。今まで通りアルマと呼んでいる。

 一時限目がもうすぐ始まる。自分の席へ座り、アルマはわたしのヒザの上に乗せた。
 教室に入った時から皆の視線が集まっているが──特に誰も話しかけてこない。もともと地味で空気みたいな存在のわたしだから都合がいい──じゃない。誰かツッコめよ……。

 それにしてもここ最近、みんなの様子がおかしいな……。身体の調子を崩す生徒がやたら多い。
 今もわたしとアルマを除く全員の顔色が悪い。
 ありゃ、またふたりの生徒が保健室に行ってしまった。

「あ~、羽鳴はなり

「はい、なんですか先生」

 いきなり担任の蛯原えびはらに呼ばれて驚いた。いつもならぶっきらぼうに返事するのだが、今日はアルマがいるので優等生ぶってみる。
 
「俺の気のせいかもしれんのだが……お前のヒザの上に小学一年生ぐらいの女の子が座っているように見えるが、それは……なんなんだ」

 おお、やっとアルマの存在に触れてくれた。
 しかし、なんて答えよう。友人とか親戚の子でごまかしても帰らせられそうだし……ここはアノ手でいくか。

「はあ、座敷わらしです」

 ざわざわっ、と教室内が騒がしくなる。
 蛯原は自分のこめかみを押さえながら再度聞いてきた。

「そうか、座敷わらしか……」

「はい、座敷わらしです」

 答えると、蛯原はひきつった顔であとは自習にすると言って教室を飛び出していった。なんだアイツ……。

 アルマが目をくりくりさせながら聞いてくる。

「ねぇ、由佳。座敷わらしって、なあに?」

「え、ああ、スゴくカワイイ女の子って意味だよ」



 放課後──担任の蛯原に、生徒指導室へ来るように言われた。

 げ、さすがにやりすぎたか……。まさか呼び出しをくらうとは。
 まあ、アルマを連れて来るのは今日一日だけですと適当に謝っておけばなんとかなるか。

 アルマひとりで教室に残しておくわけにもいかず、また手を繋いで生徒指導室まで。

 生徒指導室の中では中央の席に蛯原。その左右にもふたりの教師が座っていた。

「ふっ、羽鳴よ……俺も万全の用意をさせてもらった。これでアンチェインが来ようとポルターガイストが起きようとコワイもの無しだ。まずこちらの松中先生はな、柔道の達人で現役の頃はオリンピック代表候補にもなったことがあるのだ」

 蛯原はまず右にいる体育教師の松中を紹介。
 いや、いちいち言われなくても知ってるし。いつも丈の短いジャージ姿の中年で、授業中カワイイ女子生徒になにかと理由つけてボディタッチしようとする、セクハラすね毛ゴリラだ。
 松中はやにわに立ち上がり、スタスタと前に出てきてスパアン、スパアンッ、と前回り受け身を取る。う~ん、この狭い部屋の中で……うっとおしい。

「そしてこちらの佐保先生は、ご実家が有名な霊媒師の家系なのだ」

 左側の50代の女性教師を紹介。これは初耳だ。佐保先生はただの社会科の教師だと思っていた。たしかに授業の合間にスピリチュアルとか前世の話とかが多かった気がする……。

 佐保も立ち上がり、ふにゃらむにゃらと呪文を唱えながら部屋のあちこちへお札を貼り、バッ、バッ、と塩らしきものを撒き散らす。おい、ここの後の掃除、わたしはやらないからな……。

「さあ、羽鳴。俺の質問に正直に答えてもらおうか……」
 
 蛯原が勝ち誇ったような顔で言った。
 これは……ただの生徒指導ではない。一体何が始まろうとしているのか。

 

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...