異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

2 生徒指導

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「由佳っ、早く起きないと本当に遅刻するよっ」

 母の声に飛び起きる。
 元の世界に戻って一週間目──。
 夜更かしで時代劇のDVDを見ていたせいなのだが……寝坊してしまった。

 どうしてもっと早く起こしてくれないのと母に文句垂れたが、何度も起こしたわよ、と素っ気ない返事。

 もう! 起こそうとして本人が起きていないなら起こしてないのと一緒だ。
 急いで髪の毛をセットし(すごい適当)着替えて、バッグを持って玄関へ。

 朝ごはんは抜くしかない。靴を履いて外へ出ようとしたときだった。
 制服の裾を引っ張られる。振り向くと、前髪を目の上で揃えた7歳くらいの女の子。
 
「アルマ、学校に遅れる。離してよ」

「……ダメ。あたしも一緒に行く。いつか連れてってくれるって約束してたもん……」
 
「あ~、でも今日じゃなくても……。また今度ね」

「……この前も同じこと言った……ウソつき」

 参った。このアルマ……こうやって言い出したらなかなか引かない頑固者だ。

 致し方なし──。わたしはアルマと手を繋いで出発。母がのんきな声でいってらっしゃ~いと見送る。
 まったく……放任主義というか、無関心というか。アルマを連れて帰ったときも、友人の妹をしばらく預かることになったとバレバレの嘘の説明で何もツッコんでこなかった。逆を言えばそれだけ信用されているということかな? いや、まさかな。

 そんな事を考えながらバス停まで。
 おや、ギリギリの時間にも関わらずあやがいない。

 スマホを見たが、遅れるとか休むとかの連絡はきていない。
 こちらから電話をかけてみるが……通じない。電源が切れているのか。いや、もしかしたら異世界に行っているのかも。

 異世界シエラ=イデアルにこちらの所持品は持ち込めない。
 あちらに行っている間、どういう仕組みか分からないが所持品は忽然と消える。
 以前も連絡が取れなかった事があったが、綾が異世界に行っている時だった。でも学校を休んでまで行くなんて事……今までなかった。

 ああ、考えているうちにバスが来てしまった。
 仕方なくアルマと一緒に乗る。帰りにでも家に寄ってみればいいか。



 学校に着いて、アルマと手を繋いだまま校門をくぐる。
 大勢の生徒にジロジロ見られるが、別に気にしない。
 アルマは目をキラキラと輝かせて飛び跳ねている。異世界でのアルマはあまり感情を表に出さなかったから、この反応はなんだか嬉しい。こんなことで喜んでくれるなんて。

 アルマは元の世界では本名があるはずなのだが、こちらに来てからその事を話そうとしないし、わたしも聞こうとは思わない。今まで通りアルマと呼んでいる。

 一時限目がもうすぐ始まる。自分の席へ座り、アルマはわたしのヒザの上に乗せた。
 教室に入った時から皆の視線が集まっているが──特に誰も話しかけてこない。もともと地味で空気みたいな存在のわたしだから都合がいい──じゃない。誰かツッコめよ……。

 それにしてもここ最近、みんなの様子がおかしいな……。身体の調子を崩す生徒がやたら多い。
 今もわたしとアルマを除く全員の顔色が悪い。
 ありゃ、またふたりの生徒が保健室に行ってしまった。

「あ~、羽鳴はなり

「はい、なんですか先生」

 いきなり担任の蛯原えびはらに呼ばれて驚いた。いつもならぶっきらぼうに返事するのだが、今日はアルマがいるので優等生ぶってみる。
 
「俺の気のせいかもしれんのだが……お前のヒザの上に小学一年生ぐらいの女の子が座っているように見えるが、それは……なんなんだ」

 おお、やっとアルマの存在に触れてくれた。
 しかし、なんて答えよう。友人とか親戚の子でごまかしても帰らせられそうだし……ここはアノ手でいくか。

「はあ、座敷わらしです」

 ざわざわっ、と教室内が騒がしくなる。
 蛯原は自分のこめかみを押さえながら再度聞いてきた。

「そうか、座敷わらしか……」

「はい、座敷わらしです」

 答えると、蛯原はひきつった顔であとは自習にすると言って教室を飛び出していった。なんだアイツ……。

 アルマが目をくりくりさせながら聞いてくる。

「ねぇ、由佳。座敷わらしって、なあに?」

「え、ああ、スゴくカワイイ女の子って意味だよ」



 放課後──担任の蛯原に、生徒指導室へ来るように言われた。

 げ、さすがにやりすぎたか……。まさか呼び出しをくらうとは。
 まあ、アルマを連れて来るのは今日一日だけですと適当に謝っておけばなんとかなるか。

 アルマひとりで教室に残しておくわけにもいかず、また手を繋いで生徒指導室まで。

 生徒指導室の中では中央の席に蛯原。その左右にもふたりの教師が座っていた。

「ふっ、羽鳴よ……俺も万全の用意をさせてもらった。これでアンチェインが来ようとポルターガイストが起きようとコワイもの無しだ。まずこちらの松中先生はな、柔道の達人で現役の頃はオリンピック代表候補にもなったことがあるのだ」

 蛯原はまず右にいる体育教師の松中を紹介。
 いや、いちいち言われなくても知ってるし。いつも丈の短いジャージ姿の中年で、授業中カワイイ女子生徒になにかと理由つけてボディタッチしようとする、セクハラすね毛ゴリラだ。
 松中はやにわに立ち上がり、スタスタと前に出てきてスパアン、スパアンッ、と前回り受け身を取る。う~ん、この狭い部屋の中で……うっとおしい。

「そしてこちらの佐保先生は、ご実家が有名な霊媒師の家系なのだ」

 左側の50代の女性教師を紹介。これは初耳だ。佐保先生はただの社会科の教師だと思っていた。たしかに授業の合間にスピリチュアルとか前世の話とかが多かった気がする……。

 佐保も立ち上がり、ふにゃらむにゃらと呪文を唱えながら部屋のあちこちへお札を貼り、バッ、バッ、と塩らしきものを撒き散らす。おい、ここの後の掃除、わたしはやらないからな……。

「さあ、羽鳴。俺の質問に正直に答えてもらおうか……」
 
 蛯原が勝ち誇ったような顔で言った。
 これは……ただの生徒指導ではない。一体何が始まろうとしているのか。

 

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