異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

10 志求磨を探して

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 ヤン華叉丸かしゃまるの前にひざまずく。

「お迎えにあがりました。砦からの部隊も近くまで来ています。ナギサ軍は森から引きあげていく様子」

「大儀であった……ふむ、状況によっては冷静に退く……やはりナギサ公は大したものだ」

 華叉丸は扇子を優雅にあおいでいる。わたしは燕雀のフォームから戻り、ため息をついた。

「ひとまずは一息つけるってことか。こっちに来た早々、連戦続き……先が思いやられる」
 


 森を抜けたところで、出迎えに来た砦の部隊と合流。
 そのままナギサ軍の追撃を受けず、無事に砦までたどり着いた。 
 
 ナギサ軍は強引に攻め寄せてくる様子はなく、陣も引き払い、ノレストの領地から風のように去っていったとの事。
 森から退いたのは一時的なもので、態勢を立て直したらまた攻めてくると思っていた。
 これから砦で熾烈な攻防戦があるのか、と身構えていたのだが……わざわざナギサ自ら遠征までしているのに。本国で何かあったのだろうか。

「由佳殿。我は数日この砦に滞在してから居城に戻る予定だ。由佳殿もついてくるのであろう?」

 たしかにいったんは身を寄せるつもりだったが……日数もかかるだろうし、志求磨しぐまの事が気がかりだ。ここまでの道中で華叉丸や楊に聞いてみたが、手がかりは得られなかった。
 いや、待てよ……そういえば捕虜にしたテンプルナイツの橋本君。ナギサ旗下のアイツなら何か知っているかも。

 わたしは華叉丸に頼みこんで、捕虜が閉じ込められている独房まで案内してもらう。

 砦の地下にある薄暗い独房……願望者デザイアである橋本君の手と足には厳重に枷がはめられていた。

「橋本君、お前に聞きたいことがある」

「………………」

 橋本君はムスっとして無言。森の中で絶叫していたのがウソのようにおとなしい。

天塚志求磨あまつかしぐまという男の事なんだが……ナギサには会ってたはずなんだ。お前も旧王都で見たことくらいあるだろう」

「……フッ、知ってたとして、どうして僕がそんな事お前に教えなきゃいけないんだい」

 やはり簡単に言いそうにない。捕虜の口を割るとなれば拷問とかしなきゃいけないのか。水責めとか鞭打ちとか……やだな。

「敵対している我らに僅かでも情報は漏らさぬだろう。まあ条件次第とは思うが」

 華叉丸は扇子をバッ、と開いて鉄格子ごしにゴニョゴニョと橋本君にささやく。
 橋本君の表情が変わった。急にこちらを向いて話し出す。

「《解放の騎士》天塚志求磨。ああ、知っているとも。最後に見たのは……半年以上前だったかな」

「ほ、本当かっ! 綾──志求磨はそれでどこにっ」

「落ち着くんだ。旧王都を出る時に仲間といるのを見た。ひとりは若いイケメンで、もうひとりがえらい目立つ中年だった。なんか昭和感満載の格好で子供たちにもえらい人気の……正義だなんだと騒がしいヤツだね」

 もう誰のことかわかった。そんなヤツ、この異世界でもひとりしかいない。もうひとりの若い男は間宮京一まみやきょういちのことだろう。
 
「そいつらはシエラ=イデアルの各都市を回ると言っていた。たしか戦災復興の手助けをするとか。葉桜溢忌はざくらいつき軍の被害が多かった所を行ってみれば足取りがつかめるんじゃないかな」

 志求磨があの特撮ヒーローコンビと一緒……めずらしい組み合わせだが、あのイケメン俳優、間宮京一のファンの綾なら喜んでついていきそうだ。それに暑苦しいアライグマ男のほうは恐ろしく目立つ。まだ一緒にいるなら、探すのは容易だろう。

「そこまで分かれば十分だ。華叉丸、わたしはすぐにでもここを発つ。できれば路銀を貸してほしいんだが」

「由佳殿は我が軍の恩人だ。貸すなどと言わず、必要なだけ用意する。荷駄隊にだたいも共に行かせよう」

「いや、ナギサと争ったからには目立ちたくないな。行くのはわたしひとりでいい」

「おい、必要な情報は話したぞ。約束を守れ」

 橋本君が苛立ったように会話に割り込む。
 約束、とは?
 華叉丸はわかったと看守に命じ、独房の扉、そして橋本君の枷を全て外した。 

「おい。まさか約束って、コイツを逃がすことなのか」

「うむ。由佳殿の知りたい情報と引き替えにな」

「そんな……わたしのためにこんな重要人物を。まだ敵の情報を引き出したり、交渉の切り札として使えるはずなのに」

「いや、テンプルナイツはあくまで危険な願望者デザイアを捕らえるための特務機関の戦士。国の重要な機密などは知らない。そやつを取り戻さず撤退したナギサ軍を見てもそれがよく分かるだろう」

 そう言われた橋本君は複雑な表情をしたが、わたしの顔を見てニタリと不気味な笑みを浮かべた。

「《剣聖》羽鳴由佳はなりゆか……こうなった以上、お前の前にはテンプルナイツの刺客が次々と現れるだろう。僕と戦ったから分かるだろうが、僕たちは単純に力で勝てる相手じゃない……覚悟しておくんだな」
 

 
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