118 / 185
第2部 消えた志求磨
10 志求磨を探して
しおりを挟む
楊は華叉丸の前にひざまずく。
「お迎えにあがりました。砦からの部隊も近くまで来ています。ナギサ軍は森から引きあげていく様子」
「大儀であった……ふむ、状況によっては冷静に退く……やはりナギサ公は大したものだ」
華叉丸は扇子を優雅にあおいでいる。わたしは燕雀のフォームから戻り、ため息をついた。
「ひとまずは一息つけるってことか。こっちに来た早々、連戦続き……先が思いやられる」
森を抜けたところで、出迎えに来た砦の部隊と合流。
そのままナギサ軍の追撃を受けず、無事に砦までたどり着いた。
ナギサ軍は強引に攻め寄せてくる様子はなく、陣も引き払い、ノレストの領地から風のように去っていったとの事。
森から退いたのは一時的なもので、態勢を立て直したらまた攻めてくると思っていた。
これから砦で熾烈な攻防戦があるのか、と身構えていたのだが……わざわざナギサ自ら遠征までしているのに。本国で何かあったのだろうか。
「由佳殿。我は数日この砦に滞在してから居城に戻る予定だ。由佳殿もついてくるのであろう?」
たしかにいったんは身を寄せるつもりだったが……日数もかかるだろうし、志求磨の事が気がかりだ。ここまでの道中で華叉丸や楊に聞いてみたが、手がかりは得られなかった。
いや、待てよ……そういえば捕虜にしたテンプルナイツの橋本君。ナギサ旗下のアイツなら何か知っているかも。
わたしは華叉丸に頼みこんで、捕虜が閉じ込められている独房まで案内してもらう。
砦の地下にある薄暗い独房……願望者である橋本君の手と足には厳重に枷がはめられていた。
「橋本君、お前に聞きたいことがある」
「………………」
橋本君はムスっとして無言。森の中で絶叫していたのがウソのようにおとなしい。
「天塚志求磨という男の事なんだが……ナギサには会ってたはずなんだ。お前も旧王都で見たことくらいあるだろう」
「……フッ、知ってたとして、どうして僕がそんな事お前に教えなきゃいけないんだい」
やはり簡単に言いそうにない。捕虜の口を割るとなれば拷問とかしなきゃいけないのか。水責めとか鞭打ちとか……やだな。
「敵対している我らに僅かでも情報は漏らさぬだろう。まあ条件次第とは思うが」
華叉丸は扇子をバッ、と開いて鉄格子ごしにゴニョゴニョと橋本君にささやく。
橋本君の表情が変わった。急にこちらを向いて話し出す。
「《解放の騎士》天塚志求磨。ああ、知っているとも。最後に見たのは……半年以上前だったかな」
「ほ、本当かっ! 綾──志求磨はそれでどこにっ」
「落ち着くんだ。旧王都を出る時に仲間といるのを見た。ひとりは若いイケメンで、もうひとりがえらい目立つ中年だった。なんか昭和感満載の格好で子供たちにもえらい人気の……正義だなんだと騒がしいヤツだね」
もう誰のことかわかった。そんなヤツ、この異世界でもひとりしかいない。もうひとりの若い男は間宮京一のことだろう。
「そいつらはシエラ=イデアルの各都市を回ると言っていた。たしか戦災復興の手助けをするとか。葉桜溢忌軍の被害が多かった所を行ってみれば足取りがつかめるんじゃないかな」
志求磨があの特撮ヒーローコンビと一緒……めずらしい組み合わせだが、あのイケメン俳優、間宮京一のファンの綾なら喜んでついていきそうだ。それに暑苦しいアライグマ男のほうは恐ろしく目立つ。まだ一緒にいるなら、探すのは容易だろう。
「そこまで分かれば十分だ。華叉丸、わたしはすぐにでもここを発つ。できれば路銀を貸してほしいんだが」
「由佳殿は我が軍の恩人だ。貸すなどと言わず、必要なだけ用意する。荷駄隊も共に行かせよう」
「いや、ナギサと争ったからには目立ちたくないな。行くのはわたしひとりでいい」
「おい、必要な情報は話したぞ。約束を守れ」
橋本君が苛立ったように会話に割り込む。
約束、とは?
華叉丸はわかったと看守に命じ、独房の扉、そして橋本君の枷を全て外した。
「おい。まさか約束って、コイツを逃がすことなのか」
「うむ。由佳殿の知りたい情報と引き替えにな」
「そんな……わたしのためにこんな重要人物を。まだ敵の情報を引き出したり、交渉の切り札として使えるはずなのに」
「いや、テンプルナイツはあくまで危険な願望者を捕らえるための特務機関の戦士。国の重要な機密などは知らない。そやつを取り戻さず撤退したナギサ軍を見てもそれがよく分かるだろう」
そう言われた橋本君は複雑な表情をしたが、わたしの顔を見てニタリと不気味な笑みを浮かべた。
「《剣聖》羽鳴由佳……こうなった以上、お前の前にはテンプルナイツの刺客が次々と現れるだろう。僕と戦ったから分かるだろうが、僕たちは単純に力で勝てる相手じゃない……覚悟しておくんだな」
「お迎えにあがりました。砦からの部隊も近くまで来ています。ナギサ軍は森から引きあげていく様子」
「大儀であった……ふむ、状況によっては冷静に退く……やはりナギサ公は大したものだ」
華叉丸は扇子を優雅にあおいでいる。わたしは燕雀のフォームから戻り、ため息をついた。
「ひとまずは一息つけるってことか。こっちに来た早々、連戦続き……先が思いやられる」
森を抜けたところで、出迎えに来た砦の部隊と合流。
そのままナギサ軍の追撃を受けず、無事に砦までたどり着いた。
ナギサ軍は強引に攻め寄せてくる様子はなく、陣も引き払い、ノレストの領地から風のように去っていったとの事。
森から退いたのは一時的なもので、態勢を立て直したらまた攻めてくると思っていた。
これから砦で熾烈な攻防戦があるのか、と身構えていたのだが……わざわざナギサ自ら遠征までしているのに。本国で何かあったのだろうか。
「由佳殿。我は数日この砦に滞在してから居城に戻る予定だ。由佳殿もついてくるのであろう?」
たしかにいったんは身を寄せるつもりだったが……日数もかかるだろうし、志求磨の事が気がかりだ。ここまでの道中で華叉丸や楊に聞いてみたが、手がかりは得られなかった。
いや、待てよ……そういえば捕虜にしたテンプルナイツの橋本君。ナギサ旗下のアイツなら何か知っているかも。
わたしは華叉丸に頼みこんで、捕虜が閉じ込められている独房まで案内してもらう。
砦の地下にある薄暗い独房……願望者である橋本君の手と足には厳重に枷がはめられていた。
「橋本君、お前に聞きたいことがある」
「………………」
橋本君はムスっとして無言。森の中で絶叫していたのがウソのようにおとなしい。
「天塚志求磨という男の事なんだが……ナギサには会ってたはずなんだ。お前も旧王都で見たことくらいあるだろう」
「……フッ、知ってたとして、どうして僕がそんな事お前に教えなきゃいけないんだい」
やはり簡単に言いそうにない。捕虜の口を割るとなれば拷問とかしなきゃいけないのか。水責めとか鞭打ちとか……やだな。
「敵対している我らに僅かでも情報は漏らさぬだろう。まあ条件次第とは思うが」
華叉丸は扇子をバッ、と開いて鉄格子ごしにゴニョゴニョと橋本君にささやく。
橋本君の表情が変わった。急にこちらを向いて話し出す。
「《解放の騎士》天塚志求磨。ああ、知っているとも。最後に見たのは……半年以上前だったかな」
「ほ、本当かっ! 綾──志求磨はそれでどこにっ」
「落ち着くんだ。旧王都を出る時に仲間といるのを見た。ひとりは若いイケメンで、もうひとりがえらい目立つ中年だった。なんか昭和感満載の格好で子供たちにもえらい人気の……正義だなんだと騒がしいヤツだね」
もう誰のことかわかった。そんなヤツ、この異世界でもひとりしかいない。もうひとりの若い男は間宮京一のことだろう。
「そいつらはシエラ=イデアルの各都市を回ると言っていた。たしか戦災復興の手助けをするとか。葉桜溢忌軍の被害が多かった所を行ってみれば足取りがつかめるんじゃないかな」
志求磨があの特撮ヒーローコンビと一緒……めずらしい組み合わせだが、あのイケメン俳優、間宮京一のファンの綾なら喜んでついていきそうだ。それに暑苦しいアライグマ男のほうは恐ろしく目立つ。まだ一緒にいるなら、探すのは容易だろう。
「そこまで分かれば十分だ。華叉丸、わたしはすぐにでもここを発つ。できれば路銀を貸してほしいんだが」
「由佳殿は我が軍の恩人だ。貸すなどと言わず、必要なだけ用意する。荷駄隊も共に行かせよう」
「いや、ナギサと争ったからには目立ちたくないな。行くのはわたしひとりでいい」
「おい、必要な情報は話したぞ。約束を守れ」
橋本君が苛立ったように会話に割り込む。
約束、とは?
華叉丸はわかったと看守に命じ、独房の扉、そして橋本君の枷を全て外した。
「おい。まさか約束って、コイツを逃がすことなのか」
「うむ。由佳殿の知りたい情報と引き替えにな」
「そんな……わたしのためにこんな重要人物を。まだ敵の情報を引き出したり、交渉の切り札として使えるはずなのに」
「いや、テンプルナイツはあくまで危険な願望者を捕らえるための特務機関の戦士。国の重要な機密などは知らない。そやつを取り戻さず撤退したナギサ軍を見てもそれがよく分かるだろう」
そう言われた橋本君は複雑な表情をしたが、わたしの顔を見てニタリと不気味な笑みを浮かべた。
「《剣聖》羽鳴由佳……こうなった以上、お前の前にはテンプルナイツの刺客が次々と現れるだろう。僕と戦ったから分かるだろうが、僕たちは単純に力で勝てる相手じゃない……覚悟しておくんだな」
0
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる