異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

11 狭い部屋の中で……

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 砦を出る時に華叉丸かしゃまるが門まで見送りにきてくれた。
 
「由佳殿、くれぐれも気を付けられよ。橋本君の言っていたように、道中手強い刺客に狙われる可能性がある」

「大丈夫だって。前からひとり旅には慣れているし。魔物なんかも余裕で撃退してたし」

「いや、御身にもしものことがあってはいけない。ここは我が腹心、楊永順ヤンヨンシュンを同行させよう」

 華叉丸のうしろにはすでに楊が控えていた。
 すっ、と頭を下げてきたのでわたしも反射的に頭を下げる。
 うむむ、たしかに腕が立つのは認めるが……前回、何度も戦った相手だからな。なんか複雑だ。



 わたしは断りきれず、楊を同行して砦を出発。
 森を抜け、ノレストの国境付近へ。
 まず近くの村で泊まり、そこから国の外へ出る予定だ。
 村は小さなもので、ナギサ軍には無視されていたようで被害はなかったようだ。

「良かった。ここは戦争に巻き込まれなかったようだな」

 部屋で荷物を下ろしながら椅子に腰かける。
 冷静を装っているが……わたしは緊張している。
 なんの因果か同室である。あの楊と。他に部屋が空いてないからしょうがないとはいえ……。

 楊も落ち着かない様子だ。そうですね、と返事したものの、座りもせず部屋の中をウロウロしている。
 おい、こっちがますます緊張するじゃないか。くそお、知り合ったばかりの頃の志求磨しぐまとも泊まったことあるが、アイツはそんなウブな仕草は見せなかったぞ。当たり前だが。

「……あ~、お前は……楊はその、あれだ。以前は葉桜溢忌はざくらいつきに操られてたって言ってたな。それ以前は何をしてたんだ?」

 沈黙に耐えかね、わたしは楊に質問する。

「……それが、記憶が曖昧なんだ。操られていた期間が長かったからかも。どこかの領主や組織に仕えていた気もするし……思い出そうとしたら頭が……」

 頭を抱える楊。わたしは慌てる。

「ああ、ゴメンゴメン。無理に思い出さなくていいから」
 
 簡単な食事を済ませ、これからの行き先をテーブルを囲んで話し合う。
 そういえばコイツ、飯を食うときも口元の布を外さなかったな……隙間から器用に食べ物を入れていたが。

「おい、わたしは素顔を知ってるんだから、顔を隠す必要ないだろ。頭巾はいいけど、その布は外してよ。表情が分からない」

「べ、別に表情なんて知る必要ないだろ。このままでも話はできる」

 ふぅむ、この慌てよう……素顔は猫耳の生えた美少年だというのは知っている。あの顔はたしかに目立つから外で隠すのはまだ分かる。
 だがこの部屋の中でまで隠す必要はない。コイツ、なんかやましいことでもあるのか。

「な、なんだよ……どうする気だ」

 わたしがジリジリと近付くので、楊が怯えたように後ずさる。

「なんかお前、秘密があるな……これから旅をする仲なのに隠し事はよくないな」

「な、ないっ、隠し事なんて──うわっ」

 神速で接近。ビュオッ、と顔の布に触れたが奪い取るまではいかなかった。
 さすがに素早い。だがこの狭い部屋の中。逃げ場は無いぞ。

「観念しろっ」

 わたしが飛びかかると楊はバッ、と壁に張りつく。ヤモリかコイツは。
 
 さらに飛びかかる。楊は壁から床へ移動。わたしは壁を蹴ってその頭上へ。
 手を伸ばす。楊は転がってかわした。まだだ、着地点からさらに跳んだ。
 身体をつかんだ、と思ったらいつの間にか椅子とすり替わっていた。

 ぬぬぬ、とわたしはムキになり、名刀変化フォームチェンジ。刀の鞘と柄の部分が青藍色に。
 名刀燕雀えんじゃく。スピード重視の脇差だ。

 ババババッ、と壁や天井を移動する楊を追い回す。
 指の先が衣服に触れるようになってきた。もう少しでつかまえられる。
 たまらず楊はガッ、と壁を強く蹴り、出口の扉へ。そのまま外へ飛び出す気か。
 わたしはすでに手を打っていた。
 ギュンッ、と宙を飛ぶ刀に行く手を遮られ戸惑う楊。燕雀のフォームの技、飛剣だ。

 今だ──うしろから顔の布を剥ぎ取った。
 顔を覆い、うずくまる楊。
 むむ、ちらと素顔を見たが以前と変わらぬ美少年ぶり。
 琥珀色の瞳に白い肌。幼いが整った顔立ち。

「なんだ、別に変わったところないじゃないか」

 ヒュンッ、と刀が飛んできて鞘に納まる。
 燕雀のフォームから元に戻り、楊の様子をうかがう。

 どうした? 震えている……具合が悪いのか?
 鞘でツンツンとつついてみる。
 楊は震えながら顔を上げた。耳まで真っ赤だ。

「か、返してくれ。僕はっ、女の人の前では顔が隠れてないとダメなんだっ」

 あらら……ウソを言っているようには見えないな。
 そういえば日之影宵子ひのかげしょうこに仮面を取られたときも顔を真っ赤にして逃げ出していた。

「あ~、なんかゴメン。どんな人にも苦手なモノってあるよね。わたしはなんだろ、辛い食べ物がダメかな」

 フォローになってないが、えへへと笑って布を返す。
 それをバッと奪い取り、口元を隠す楊。涙目でこちらを恨めしそうに睨む。なんかわたしがイジメたみたいじゃないか。

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