異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
120 / 185
第2部 消えた志求磨

12 サーブル領へ

しおりを挟む
 翌朝──宿を出るときに主人がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「昨晩はお楽しみでしたね。ずいぶんと激しかったご様子」

 なんの事か分からず口をぽかんと開けたが……はっ、と思い当たるのはヤンと狭い部屋の中でドタバタと追いかけっこしたことだ。

 なんか誤解されている。カーッ、と顔が熱くなった。
 柄に手をかける──楊がとっさにその手を押さえた。
 わわっ、とその手を払う。
 宿の主人が仲のよろしいことで、とまたいやらしく笑った。
 わたしはガンッ、とカウンターを蹴ってから外に飛び出した。楊も慌ててついてくる。
 
「なんか勘違いされたっ、あんまり近くを歩くなっ!」

 村の出口へ向かいながら楊に怒る。楊は小さくなってすまない、とうつむく。ムムム、こういったとき、志求磨しぐまなら言い返してくるのに。なんか調子が狂う。

「それで……とりあえず次の行き先は? どこだったっけ」

 このまま気まずい雰囲気になるのはイヤだ。昨夜のドタバタのあと少し行き先について話していたのだが、わたしは忘れたフリをして質問する。

「ここからだとサーブル領だ。あそこは葉桜溢忌はざくらいつきの被害にあった都市が多い。《アライグマッスル》御手洗剛志みたらいつよし一行も必ず訪れているはずだ」

 葉桜溢忌はざくらいつき……あの男自身は復活後に目立った動きはとっていなかったが、周辺の領地に女性や物資の要求をし、断られた場合には容赦ない略奪を軍におこなわせていた。

 サーブル領はその中でも最後まで葉桜溢忌に従わなかった為に被害が多かったらしい。
 
「すでにここからサーブルの領都まで行く隊商キャラバンに同行できるように手配している。あれなら目立たないだろう」

 隊商……なんか以前も同じ事があったな。王都に近づこうとして荷馬車に乗り込んで、それでアルマに見つかって……そういえばアルマはどうなったのだろう。
 こちらにうまく転移出来なかったのか、それともわたしとは別の場所に飛ばされてしまったのか。アルマの事も旅の途中で調べなければ。

 同行する予定の隊商は村の外で待機していた。
 願望者デザイアが一緒なのは嫌がるはずだが、それなりの報酬を渡してあるのか、楊が華叉丸かしゃまるの部下だからか。隊商の人達はわたしと楊を快く歓迎してくれた。

 隊商の規模は30人ほどの人間。しかし今回は荷馬車はない。荷を積んでいるのはすべてラクダだ。ズラ~ッと並んでいるが、これ100頭くらいいるんじゃないのか。
 その中のラクダに乗るよう勧められ、わたしはたじろぐ。

 この世界で馬くらいには乗ったことあるが、あまり得意ではないし、お尻が痛くなるので好きじゃない。
 楊を見ると颯爽とラクダにまたがっている。わたしも仕方なく座っているラクダにまたがった。

 ぐうん、と立ち上がった時の高さに驚いたが、ラクダの綱は隊商のひとりが引いてくれたのでわたしは乗っているだけでよかった。

 村を出発し、しばらく進むと石造りの長い壁が見えた。
 高さは2、3メートルほどだが横の長さは相当なものだ。どこまで続いてるのか分からない。

「この長城が国境だ。ここから南下してサーブルに向かう」

 楊が説明。なるほど、この壁は敵の侵入を防ぐためのものか。出入りする門の近くには屯所が設置してある。
 ナギサ軍はこの長城のどこかを破壊して侵入したのだろう。



 時折休憩をはさみながら南下。
 ノレストは森林や草地と緑の多い場所だったが、ノーブルは岩石や枯木だらけ。緑といえば背の低い雑草が数えるほど見当たらない。

「ここから先は本格的な砂だらけの砂漠になる。今日はあの岩陰で夜営だ」

 楊が指さす先にはビル5階建ぐらいの大きな岩山があった。隊商の人達はそこへラクダを誘導。簡易的なテントを張り、夜営の準備をはじめた。

 わたしは岩山の上に登り、盗賊や魔物が近付いていないか警戒する。
 幸い、それらしい姿は見かけなかった。
 
 焚き火を囲みながらワイワイと賑やかな夕食。
 料理のほうはパンにオリーブオイルを塗りたくったものや得体の知れない肉と野菜のスープ。豆で作ったコロッケ。見た目はアレだったが、味はなかなかだ。

 さて、夕食を終えて寝ようかと思ったが……今までの経験上、ここで寝てしまって良かったことなどひとつもない。必ず何かトラブルが起きる。

「最初の見張りはわたしがやるから」

 隊商のひとりにそう告げ、わたしは再び岩山の上へ。
 夜間だが月明かりで十分に周りは見える。
 毛布にくるみながら腰を下ろした。

「僕も付き合うよ」

 背後から楊の声。わたしは振り向かず、頷くしぐさで応えた。

 コイツ……この満天の星空に二人きりのシチュエーション……わたしを口説こうとしているな。見た目によらずプレイボーイなヤツ。
 否、これは美少女たるわたしの魅力のせいだ。
 もしかしたらわたしに付いてくるのも華叉丸かしゃまるが命じたんじゃなくて、自分から頼み込んだのかも。
 女性が苦手だというのもわたしを油断させるための嘘かもしれない。

 わたしは身を固くし、毛布の下で柄に手をかける。
 楊はわたしの横に座ると、温かそうな飲み物の入ったカップを差し出してきた。 

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ

処理中です...