異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

12 サーブル領へ

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 翌朝──宿を出るときに主人がニヤニヤしながら話しかけてきた。

「昨晩はお楽しみでしたね。ずいぶんと激しかったご様子」

 なんの事か分からず口をぽかんと開けたが……はっ、と思い当たるのはヤンと狭い部屋の中でドタバタと追いかけっこしたことだ。

 なんか誤解されている。カーッ、と顔が熱くなった。
 柄に手をかける──楊がとっさにその手を押さえた。
 わわっ、とその手を払う。
 宿の主人が仲のよろしいことで、とまたいやらしく笑った。
 わたしはガンッ、とカウンターを蹴ってから外に飛び出した。楊も慌ててついてくる。
 
「なんか勘違いされたっ、あんまり近くを歩くなっ!」

 村の出口へ向かいながら楊に怒る。楊は小さくなってすまない、とうつむく。ムムム、こういったとき、志求磨しぐまなら言い返してくるのに。なんか調子が狂う。

「それで……とりあえず次の行き先は? どこだったっけ」

 このまま気まずい雰囲気になるのはイヤだ。昨夜のドタバタのあと少し行き先について話していたのだが、わたしは忘れたフリをして質問する。

「ここからだとサーブル領だ。あそこは葉桜溢忌はざくらいつきの被害にあった都市が多い。《アライグマッスル》御手洗剛志みたらいつよし一行も必ず訪れているはずだ」

 葉桜溢忌はざくらいつき……あの男自身は復活後に目立った動きはとっていなかったが、周辺の領地に女性や物資の要求をし、断られた場合には容赦ない略奪を軍におこなわせていた。

 サーブル領はその中でも最後まで葉桜溢忌に従わなかった為に被害が多かったらしい。
 
「すでにここからサーブルの領都まで行く隊商キャラバンに同行できるように手配している。あれなら目立たないだろう」

 隊商……なんか以前も同じ事があったな。王都に近づこうとして荷馬車に乗り込んで、それでアルマに見つかって……そういえばアルマはどうなったのだろう。
 こちらにうまく転移出来なかったのか、それともわたしとは別の場所に飛ばされてしまったのか。アルマの事も旅の途中で調べなければ。

 同行する予定の隊商は村の外で待機していた。
 願望者デザイアが一緒なのは嫌がるはずだが、それなりの報酬を渡してあるのか、楊が華叉丸かしゃまるの部下だからか。隊商の人達はわたしと楊を快く歓迎してくれた。

 隊商の規模は30人ほどの人間。しかし今回は荷馬車はない。荷を積んでいるのはすべてラクダだ。ズラ~ッと並んでいるが、これ100頭くらいいるんじゃないのか。
 その中のラクダに乗るよう勧められ、わたしはたじろぐ。

 この世界で馬くらいには乗ったことあるが、あまり得意ではないし、お尻が痛くなるので好きじゃない。
 楊を見ると颯爽とラクダにまたがっている。わたしも仕方なく座っているラクダにまたがった。

 ぐうん、と立ち上がった時の高さに驚いたが、ラクダの綱は隊商のひとりが引いてくれたのでわたしは乗っているだけでよかった。

 村を出発し、しばらく進むと石造りの長い壁が見えた。
 高さは2、3メートルほどだが横の長さは相当なものだ。どこまで続いてるのか分からない。

「この長城が国境だ。ここから南下してサーブルに向かう」

 楊が説明。なるほど、この壁は敵の侵入を防ぐためのものか。出入りする門の近くには屯所が設置してある。
 ナギサ軍はこの長城のどこかを破壊して侵入したのだろう。



 時折休憩をはさみながら南下。
 ノレストは森林や草地と緑の多い場所だったが、ノーブルは岩石や枯木だらけ。緑といえば背の低い雑草が数えるほど見当たらない。

「ここから先は本格的な砂だらけの砂漠になる。今日はあの岩陰で夜営だ」

 楊が指さす先にはビル5階建ぐらいの大きな岩山があった。隊商の人達はそこへラクダを誘導。簡易的なテントを張り、夜営の準備をはじめた。

 わたしは岩山の上に登り、盗賊や魔物が近付いていないか警戒する。
 幸い、それらしい姿は見かけなかった。
 
 焚き火を囲みながらワイワイと賑やかな夕食。
 料理のほうはパンにオリーブオイルを塗りたくったものや得体の知れない肉と野菜のスープ。豆で作ったコロッケ。見た目はアレだったが、味はなかなかだ。

 さて、夕食を終えて寝ようかと思ったが……今までの経験上、ここで寝てしまって良かったことなどひとつもない。必ず何かトラブルが起きる。

「最初の見張りはわたしがやるから」

 隊商のひとりにそう告げ、わたしは再び岩山の上へ。
 夜間だが月明かりで十分に周りは見える。
 毛布にくるみながら腰を下ろした。

「僕も付き合うよ」

 背後から楊の声。わたしは振り向かず、頷くしぐさで応えた。

 コイツ……この満天の星空に二人きりのシチュエーション……わたしを口説こうとしているな。見た目によらずプレイボーイなヤツ。
 否、これは美少女たるわたしの魅力のせいだ。
 もしかしたらわたしに付いてくるのも華叉丸かしゃまるが命じたんじゃなくて、自分から頼み込んだのかも。
 女性が苦手だというのもわたしを油断させるための嘘かもしれない。

 わたしは身を固くし、毛布の下で柄に手をかける。
 楊はわたしの横に座ると、温かそうな飲み物の入ったカップを差し出してきた。 

 
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