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第2部 消えた志求磨
13 砂漠の魔物
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わたしは刀の柄から手を離してカップを受け取る。
ふむ、中身は紅茶か。楊が飲むのを見届けてからわたしもふうふうと冷ましてから口をつける。
「《剣聖》……実は、お前について行くと華叉丸様にお願いしたのは僕のほうなんだ」
ぼそぼそとしゃべりだす楊。なんと。わたしの予想通りではないか。やはりこの男……美少女のわたし目的でついてきたのか。
「僕が長い間、葉桜溢忌に操られていたのは知っているだろう。その間の記憶はぼんやりだけどある……お前の事を覚えていたように。だけどそれ以前の事はまったく覚えていない。僕はこの旅をしながら調べたいんだ。僕が何者で、僕が何をしてきたかを」
わたしの志求磨探しを手伝いつつ、自分の過去を調べようとしているのか。
別にそれは構わない。こっちだって隊商を紹介してもらえたし、これからもいろいろ世話になることがあるだろう。
わたしが無言のままでいると、楊はガバッ、とその場で土下座をした。
「操られていたとはいえ──すまない。2年前の戦いではお前達に相当な迷惑をかけてしまった。それなのに、《剣聖》……いや、羽鳴由佳。お前は僕を恨むどころか戦場で助けてくれた」
「いや、前の戦いのことはもう過ぎたことだし。助けたのも偶然だって。そんな大げさな……」
やはり調子が狂う。
見た目の年齢は志求磨と同じくらいなのに、真面目というか堅苦しいというか。
志求磨だったら皮肉言ったり、からかったり……わたしも言い返してギャーギャー騒いでたはずだ。
その後もぽつりぽつりと話をしながら時間が過ぎていった。
わたし達が見張っている間は何も起きなかった。交代し、テントで寝ている間も大丈夫だったようだ。
ただひとつ不思議なのは、わたしだけ朝になったらみんなと離れた場所にテントごと移動していたことだ。
みんなに聞いてみたが苦笑いするだけで答えない。これはあれだな。どうやらわたしの隠しスキル、殺人的イビキが発動してしまったようだ。
さらに南下していくと本格的な砂漠地帯に。
岩山すら見かけない。砂、砂丘、砂……。
まだ午前中なのにジリジリと熱気が地面から伝わる。
「暑い~。目的地に着くまでにわたし干からびてしまう~」
日除けのローブから顔を出して楊に愚痴る。
楊はラクダを近づけてきて水筒を渡してきた。
「普通、願望者は願望の力で体温調節できるはずだけど……苦手なのか?」
むむ、なんか前にも同じ事があった気がする。
隊商の人達は普通の人間だが、暑さには慣れているようだ。わたしだけがこの気温にあえいでいる。
「わたしは……いや、できることはできるんだけど。そんな事に願望の力を無駄遣いしないんだ。いつ敵が襲ってきてもいいように力を温存しているんだ」
「なるほど。さすが《剣聖》だ。常に戦いに備えているその精神力……僕も見習わないと」
わたしの負け惜しみをまともに信じているようだ。
なんかコイツにならいかがわしい壺とか高くで売りつけられそう。
そんな事を考えていると、痛ましいラクダの鳴き声が聞こえてきた。
へえ、ラクダってあんな鳴き声なんだと感心している場合ではなかった。
緊迫した状況──隊商の人達が叫んで駆けつけていく。最後尾のラクダの下半身が砂地に引きずりこまれている。
「あれは──魔物だっ!」
楊はラクダを飛び降り、救出へ向かう。わたしも慌ててそのあとに続く。
魔物の姿はここからは確認できない。砂の中から襲ってきたのだろう。ラクダは前足で踏ん張っているが──ダメだ、隊商の人達が掴む前に完全に引きずり込まれてしまった。
「気を付けろっ、また来るぞっ!」
楊が叫んだのと同時に隊商のひとりがボッ、と砂の中に引っ張られる。
悲鳴をあげる隊商の男。楊は跳躍、空中からボボボボッ、と木製の棒で男の周りを突いた。
ギャアアッ、と砂の中から飛び出したのはミミズの化け物みたいなキモい魔物。頭部の先に鋭い牙が並んだ円型の口。
「サンドワームだ! みんな動くな! ヤツらは砂上を動く音を感知して襲ってくる!」
おお、RPGなんかで見たことある魔物だ。大きさは人間の大人ほどだが……楊はサンドワームにトドメを刺し、辺りを警戒。
隊商の人達も指示通り動かない。ラクダもよく調教されているのか、全頭その場に座りこんだ。
だが、このまま動かないままではらちがあかない。おそらくこの砂の中ではまだたくさんの魔物が潜んでいるのだろう。楊は何か考えがあるのか。
「羽鳴由佳っ! 援護を頼む!」
そう言って楊はダダッ、と砂上を走り出した。
そんなことをしたら魔物が──楊の足元からボボボッ、と数体のサンドワームが飛び出してくる。
「シッ!」
太刀風を連続で放つ。
飛ぶ斬撃が命中した魔物たちは体液をまき散らしながら吹っ飛んだ。
ボボボッ、とわたしの周囲にもサンドワームが出現。
納刀──再び太刀風を放とうとしたが、その前に魔物たちの動きが止まった。
よく見れば頭部に竹串が突き刺さっている。楊が放ったものか。
動けない魔物たちを斬り、トドメを刺した。
これでもう安心か。いや、グラグラと地面が揺れている。ザザザザとわたしの周りの砂地が大きく抉れて落下──。
これは……アリ地獄のような穴の真ん中にいる。足が膝のあたりまで砂に埋まって、さらにズズズと引きずり込まれていく。これは──マズイぞ。
ふむ、中身は紅茶か。楊が飲むのを見届けてからわたしもふうふうと冷ましてから口をつける。
「《剣聖》……実は、お前について行くと華叉丸様にお願いしたのは僕のほうなんだ」
ぼそぼそとしゃべりだす楊。なんと。わたしの予想通りではないか。やはりこの男……美少女のわたし目的でついてきたのか。
「僕が長い間、葉桜溢忌に操られていたのは知っているだろう。その間の記憶はぼんやりだけどある……お前の事を覚えていたように。だけどそれ以前の事はまったく覚えていない。僕はこの旅をしながら調べたいんだ。僕が何者で、僕が何をしてきたかを」
わたしの志求磨探しを手伝いつつ、自分の過去を調べようとしているのか。
別にそれは構わない。こっちだって隊商を紹介してもらえたし、これからもいろいろ世話になることがあるだろう。
わたしが無言のままでいると、楊はガバッ、とその場で土下座をした。
「操られていたとはいえ──すまない。2年前の戦いではお前達に相当な迷惑をかけてしまった。それなのに、《剣聖》……いや、羽鳴由佳。お前は僕を恨むどころか戦場で助けてくれた」
「いや、前の戦いのことはもう過ぎたことだし。助けたのも偶然だって。そんな大げさな……」
やはり調子が狂う。
見た目の年齢は志求磨と同じくらいなのに、真面目というか堅苦しいというか。
志求磨だったら皮肉言ったり、からかったり……わたしも言い返してギャーギャー騒いでたはずだ。
その後もぽつりぽつりと話をしながら時間が過ぎていった。
わたし達が見張っている間は何も起きなかった。交代し、テントで寝ている間も大丈夫だったようだ。
ただひとつ不思議なのは、わたしだけ朝になったらみんなと離れた場所にテントごと移動していたことだ。
みんなに聞いてみたが苦笑いするだけで答えない。これはあれだな。どうやらわたしの隠しスキル、殺人的イビキが発動してしまったようだ。
さらに南下していくと本格的な砂漠地帯に。
岩山すら見かけない。砂、砂丘、砂……。
まだ午前中なのにジリジリと熱気が地面から伝わる。
「暑い~。目的地に着くまでにわたし干からびてしまう~」
日除けのローブから顔を出して楊に愚痴る。
楊はラクダを近づけてきて水筒を渡してきた。
「普通、願望者は願望の力で体温調節できるはずだけど……苦手なのか?」
むむ、なんか前にも同じ事があった気がする。
隊商の人達は普通の人間だが、暑さには慣れているようだ。わたしだけがこの気温にあえいでいる。
「わたしは……いや、できることはできるんだけど。そんな事に願望の力を無駄遣いしないんだ。いつ敵が襲ってきてもいいように力を温存しているんだ」
「なるほど。さすが《剣聖》だ。常に戦いに備えているその精神力……僕も見習わないと」
わたしの負け惜しみをまともに信じているようだ。
なんかコイツにならいかがわしい壺とか高くで売りつけられそう。
そんな事を考えていると、痛ましいラクダの鳴き声が聞こえてきた。
へえ、ラクダってあんな鳴き声なんだと感心している場合ではなかった。
緊迫した状況──隊商の人達が叫んで駆けつけていく。最後尾のラクダの下半身が砂地に引きずりこまれている。
「あれは──魔物だっ!」
楊はラクダを飛び降り、救出へ向かう。わたしも慌ててそのあとに続く。
魔物の姿はここからは確認できない。砂の中から襲ってきたのだろう。ラクダは前足で踏ん張っているが──ダメだ、隊商の人達が掴む前に完全に引きずり込まれてしまった。
「気を付けろっ、また来るぞっ!」
楊が叫んだのと同時に隊商のひとりがボッ、と砂の中に引っ張られる。
悲鳴をあげる隊商の男。楊は跳躍、空中からボボボボッ、と木製の棒で男の周りを突いた。
ギャアアッ、と砂の中から飛び出したのはミミズの化け物みたいなキモい魔物。頭部の先に鋭い牙が並んだ円型の口。
「サンドワームだ! みんな動くな! ヤツらは砂上を動く音を感知して襲ってくる!」
おお、RPGなんかで見たことある魔物だ。大きさは人間の大人ほどだが……楊はサンドワームにトドメを刺し、辺りを警戒。
隊商の人達も指示通り動かない。ラクダもよく調教されているのか、全頭その場に座りこんだ。
だが、このまま動かないままではらちがあかない。おそらくこの砂の中ではまだたくさんの魔物が潜んでいるのだろう。楊は何か考えがあるのか。
「羽鳴由佳っ! 援護を頼む!」
そう言って楊はダダッ、と砂上を走り出した。
そんなことをしたら魔物が──楊の足元からボボボッ、と数体のサンドワームが飛び出してくる。
「シッ!」
太刀風を連続で放つ。
飛ぶ斬撃が命中した魔物たちは体液をまき散らしながら吹っ飛んだ。
ボボボッ、とわたしの周囲にもサンドワームが出現。
納刀──再び太刀風を放とうとしたが、その前に魔物たちの動きが止まった。
よく見れば頭部に竹串が突き刺さっている。楊が放ったものか。
動けない魔物たちを斬り、トドメを刺した。
これでもう安心か。いや、グラグラと地面が揺れている。ザザザザとわたしの周りの砂地が大きく抉れて落下──。
これは……アリ地獄のような穴の真ん中にいる。足が膝のあたりまで砂に埋まって、さらにズズズと引きずり込まれていく。これは──マズイぞ。
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