異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

17 アライグマッスルは砕けない

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「バカ、わたしは味方だ! 敵はあっち!」

 わたしが怒鳴ると、御手洗剛志みたらいつよしは首を傾げる。

「ぬぬ、そうだったか! しかしあのようないたいけな少女が……いや、見た目で判断してはいけない。敵の魔造人間というわけだな」

「なんでもいいけど、この状況をどうにかしろ! わたしのピンチなんだ!」

 わたしはまだ写真を拾い集めながら叫ぶ。
《恥獄少女》天魔まいがふわりと袖を振った。

「《剣聖》の仲間? でも無駄ね、わたしの能力を破った者は誰ひとりとしていない……いっぺん、んでみる?」

「むっ、わたしの頭の中に……これはっ!」

 いかん、御手洗剛志も敵の術中に。
《アライグマッスル》に変身したとしても、この精神攻撃は無効化できないかもしれない。この相手とは相性が悪いぞ──。

 いや、御手洗剛志は平気な顔でバババッ、とポーズを取り直してカッコつけている。

「むう、少しクラクラしたが、どうという事はないぞっ! そんなものか、テンマコケッシー!」

 へんな名前を付けられた天魔まいが戸惑っている。

「バカな……わたしの術が効かない? 間違いなく術は発動しているのに……まさか、まさかこの男──羞恥心というものが存在しない!?」

 羞恥心……たしかにあの男には無いだろう。これは褒められたものではないが相手が悪いとしか言いようがない。

「わたしの能力で分かる……お前にはたしかに常人ならば発狂しかねないほどの恥ずかしい過去があるというのに……なんて精神力」

 天魔まいがその場に座り込んだ。御手洗剛志が勝ち誇ったようにワハハハと高らかに笑う。

「わたしの過去だと? 正義のための行動に恥や外聞など関係ない! まさに一点の曇りもない我が正義の歴史に恐れおののいたのだな!」

 もうここまでくると天魔まいのほうに同情してしまう。壁の映像も床に散らばった写真も消えた。
 
「わたしの負けよ……でも安心しないことね、《剣聖》羽鳴由佳はなりゆか。テンプルナイツにはまだまだ恐ろしい能力の使い手がいるわ」

 警備員のようなテンプルナイツ兵に両脇を抱えられ、出ていく天魔まい。あれ……あっさり撃退できた。というか、この中年の底無しのバカ加減に助けられた。

 アルマ、ヤン、ムスタファも無事に正気を取り戻した。

「お前は魔物討伐の依頼を受けて、1週間も何してたんだ」

「うむ……広い砂漠で方角が分からなく……いや、凶悪な魔物を追いかけるのについ夢中になっていたのだ。ヒーローとしての使命感がわたしを突き動かしてだな……」

 グググと拳を握りしめ、語る御手洗剛志。いや、そんなことよりもっと大事な事を聞かなければ。

志求磨しぐまは!? 一緒にいたんだろ!? 今どこにいるんだ!?」

 矢継ぎ早に質問。御手洗剛志は落ち着きたまえ、とカッコつけながら話しだした。

「志求磨君だな。ああ、旧王都を出てからはたしかに一緒に行動していた。だが1ヶ月ほどで別れたな。彼はセペノイアに用があるからといって」

 セペノイア……どこの領地にも属していない独立商業都市。
 志求磨が旧王都を出たのが半年前。御手洗剛志と別れたのがその1ヶ月後。それでも5ヶ月の間がある。もうセペノイアにはいないかもしれないが……いや、待てよ。セペノイアといえばカーラさんがいる。

「もっと早く気付けばよかった。カーラさんに聞けば志求磨の居場所くらい簡単に分かるはずだ」

《青の魔女》《奇跡の癒し手》《深淵の魔術師》カーラ・ヴィジェ=ルブラン。

 複数の二つ名を持つ超越者リミットブレイカーで、葉桜溢忌はざくらいつきが消滅した今、おそらくこの世界で最強の願望者デザイア
 今までも何回もわたし達の力になってくれた。
 今度だってきっと──。

「アルマ、楊。これからセペノイアに向かうぞ」
 
 アルマが頷き、楊も頭を押さえながらああ、と答えた。

「さっきの天魔まいの攻撃で僕の過去が少しだけ思い出せた……僕の過去はセペノイアにある。そこへ行けばもっと何か思い出せるかもしれない」

 楊の過去の事も分かるかもしれないなら、なおさらここでじっとしている理由はない。
 おや、そういえば間宮京一まみやきょういちの姿が見えない。元餓狼衆がろうしゅうのあの男も行動を共にしていたはずだ。 
 
 そのことを聞くと、御手洗剛志は遠い目になる。

「彼は……帰ったよ。その志求磨君に頼んで元の世界にね。いくつもの街をまわって復興やチャリティーに協力してくれた。多くの人にふれあい、感謝される中、彼は元の世界に帰ることを決断したのだろう。あちらでも頑張れるという自信をつけてね」

 キラリと御手洗剛志の目に光るものが見えた。わたしが興味なさそうにふーん、と返事をしたとたん御手洗剛志はババッ、とポーズを取る。なんだ、うっとうしい。

「だが! わたしが砂漠をさまよっている時、偶然新たな同士を見つけたのだ! 来いっ、山中大吉やまなかだいきちっ!」

 御手洗剛志が叫ぶと、入り口から顔を半分出してこちらをうかがっている男がひとり。

「大吉よ、怖がることはない。ここにいるのはわたしの味方だ。さあ、早く入ってくるのだ」
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