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第2部 消えた志求磨
29 突然の別れ
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あれからさらに1時間経ったが楊は戻ってこない。
わたしとアルマはさすがに待ちきれずに席を立つ。
軽食屋を出るとすぐにアルマが袖を引っ張ってきた。
「由佳、止まって……見られてる」
「……敵か? どこに?」
周りは普通の通行人だけのように見える。願望者はいないようだ。
「あの路地から。姿は見えないけど。あたしが確かめてみる」
「待て、ひとりじゃ危険だ。わたしも行く」
通行人を素早く避けながら路地へと向かうアルマを慌てて追う。
雑貨屋と薬屋に挟まれた薄暗い路地。
ゴミが散乱している以外は特に何もない。だがアルマは路地の隅にナイフを放った。
キィンッ、とナイフは宙で弾かれた。わたしは目を疑う。その位置から影が実体を持ったかのようにひとりの男が姿を現した。
「たまげたな。俺の隠形をあっさりと見破るとは」
着流し姿、左目に眼帯の中年。わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれる。
《人斬り》伊能九十朗。
物騒な二つ名だ。手に持った杖の隙間からは刃が見えている。仕込み杖……わたしと同じ居合いを得意としているのか。
「お前もテンプルナイツのひとりか」
アルマの横に並び、刀の柄に手をかける。
《人斬り》伊能はいやいや、と人懐っこい笑い方で右手を振る。
「俺は楊の旧い友人さ。あの葉桜溢忌明を倒したっつー願望者を見てみたくてな。予想以上に美女揃いでいやはや眼福、眼福」
美女……当然だ。当たり前すぎて全然嬉しくない。むむ、それより楊の友人だと? 楊が戻ってこないことに何か関係があるのか。
わたしはにやけそうになるのを我慢しながら、再び質問しようとした時──隣のアルマが突進。二刀ダガーで伊能に斬りつけた。
「おっ! 危ねえっ」
仕込み杖を抜き、斬撃を防ぐ伊能。
アルマはなおも攻撃を仕掛ける。
「アルマ、待て! そいつ、楊がいない理由をなんか知ってそうだ!」
アルマにしてはめずらしい。いきなり攻撃するだなんて。
伊能の反撃をかわし、バク転で戻ってくるアルマ。
「アイツ……なんかイヤな感じがする。絶対悪者……」
「いや、待て。まずは楊の事を聞き出すんだ」
さらに突っ込もうとするアルマを制止し、わたしが質問する前に伊能が口を開いた。
「楊は戻ってこねぇよ。記憶も戻ったし、アンタらとの旅はここで終わり。あとは俺に任せときなよ。アイツは俺と行かなきゃなんねーんだ」
やはり楊が戻ってこないのはこの男の仕業か。じゃあ、やるべき事はひとつ。
ぶちのめして楊の居場所を聞き出す。美女と言ったことに免じて半殺し程度にしてやるか。
「いくぞっ」
今度はわたしが前に出る。
「おいおい、アイツは元々アンタらの敵だろ? なんでそんな──うおっ」
神速からの抜刀。伊能は刃の部分で受け、後ろへ跳ぶ。
わたしは納刀しながら距離を詰める。伊能も同じく納刀、居合いの構え。
同時に抜刀──刃同士がぶつかり、宙で火花が散る。
ビリビリと腕がしびれ、わたしと伊能はよろめく。
バッ、とアルマがわたしを飛び越えた。
投げナイフを3本放つ。伊能は不安定な体勢から2本は弾いたが、1本に左袖を壁へと縫いつけられた。
「やっべえ──」
好機。わたしは踏み込みながら刺突。アルマは空中から二刀ダガー回転斬り。これで決まった。
ガガガッ、と衝撃音。
だがわたしの刀もアルマのダガーも伊能に届いていない。
建物の屋上から飛び降りてきた何者かによってふたりの攻撃はいなされ、壁を抉っただけだ。
新たな敵──だがそれは。
「楊! なんでそいつを──」
助けるんだ。なんでわたしに武器を向けるんだ。
ヒュバババッ、と楊の繰り出す木の棒をかわしながらわたしとアルマは後退する。
楊は背中に伊能をかばいながら強い決意の眼差しを向けてくる。
「……僕はもう、お前たちとは行けない。記憶を取り戻したんだ。華叉丸様がお前たちに同行させたのは僕の記憶を呼び起こすため。僕はあの方と伊能さんに従う」
華叉丸……あの男も関わっていたのか。わたしの味方だと思っていたのに。でも一体、なんのために。こいつらの目的とは──。
「《剣聖》羽鳴由佳。お前さんはこの世界に戻ってくるべきじゃあなかった。元の世界で平穏に暮らしていれば巻き込まれずにすんだのによ。これからこの世界で起きる変革によ」
楊の背後で伊能がクククと笑う。
変革……? ムツカシイ言葉は解らないが、なんかよからぬ事に違いない。
わたしとアルマは伊能を攻撃したいが楊が刺すような殺気を飛ばし、立ちはだかる。
「このまま僕たちを行かせれば戦いはしない。だけど邪魔をするなら殺し合いになるぞ」
楊……本気だ。わたしとアルマは動けない。
楊と伊能は路地の反対側から足早に去っていく。
わたしとアルマもそこから飛び出したが──混雑する大通り。
ふたりの姿を見失ってしまった。
わたしとアルマはさすがに待ちきれずに席を立つ。
軽食屋を出るとすぐにアルマが袖を引っ張ってきた。
「由佳、止まって……見られてる」
「……敵か? どこに?」
周りは普通の通行人だけのように見える。願望者はいないようだ。
「あの路地から。姿は見えないけど。あたしが確かめてみる」
「待て、ひとりじゃ危険だ。わたしも行く」
通行人を素早く避けながら路地へと向かうアルマを慌てて追う。
雑貨屋と薬屋に挟まれた薄暗い路地。
ゴミが散乱している以外は特に何もない。だがアルマは路地の隅にナイフを放った。
キィンッ、とナイフは宙で弾かれた。わたしは目を疑う。その位置から影が実体を持ったかのようにひとりの男が姿を現した。
「たまげたな。俺の隠形をあっさりと見破るとは」
着流し姿、左目に眼帯の中年。わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれる。
《人斬り》伊能九十朗。
物騒な二つ名だ。手に持った杖の隙間からは刃が見えている。仕込み杖……わたしと同じ居合いを得意としているのか。
「お前もテンプルナイツのひとりか」
アルマの横に並び、刀の柄に手をかける。
《人斬り》伊能はいやいや、と人懐っこい笑い方で右手を振る。
「俺は楊の旧い友人さ。あの葉桜溢忌明を倒したっつー願望者を見てみたくてな。予想以上に美女揃いでいやはや眼福、眼福」
美女……当然だ。当たり前すぎて全然嬉しくない。むむ、それより楊の友人だと? 楊が戻ってこないことに何か関係があるのか。
わたしはにやけそうになるのを我慢しながら、再び質問しようとした時──隣のアルマが突進。二刀ダガーで伊能に斬りつけた。
「おっ! 危ねえっ」
仕込み杖を抜き、斬撃を防ぐ伊能。
アルマはなおも攻撃を仕掛ける。
「アルマ、待て! そいつ、楊がいない理由をなんか知ってそうだ!」
アルマにしてはめずらしい。いきなり攻撃するだなんて。
伊能の反撃をかわし、バク転で戻ってくるアルマ。
「アイツ……なんかイヤな感じがする。絶対悪者……」
「いや、待て。まずは楊の事を聞き出すんだ」
さらに突っ込もうとするアルマを制止し、わたしが質問する前に伊能が口を開いた。
「楊は戻ってこねぇよ。記憶も戻ったし、アンタらとの旅はここで終わり。あとは俺に任せときなよ。アイツは俺と行かなきゃなんねーんだ」
やはり楊が戻ってこないのはこの男の仕業か。じゃあ、やるべき事はひとつ。
ぶちのめして楊の居場所を聞き出す。美女と言ったことに免じて半殺し程度にしてやるか。
「いくぞっ」
今度はわたしが前に出る。
「おいおい、アイツは元々アンタらの敵だろ? なんでそんな──うおっ」
神速からの抜刀。伊能は刃の部分で受け、後ろへ跳ぶ。
わたしは納刀しながら距離を詰める。伊能も同じく納刀、居合いの構え。
同時に抜刀──刃同士がぶつかり、宙で火花が散る。
ビリビリと腕がしびれ、わたしと伊能はよろめく。
バッ、とアルマがわたしを飛び越えた。
投げナイフを3本放つ。伊能は不安定な体勢から2本は弾いたが、1本に左袖を壁へと縫いつけられた。
「やっべえ──」
好機。わたしは踏み込みながら刺突。アルマは空中から二刀ダガー回転斬り。これで決まった。
ガガガッ、と衝撃音。
だがわたしの刀もアルマのダガーも伊能に届いていない。
建物の屋上から飛び降りてきた何者かによってふたりの攻撃はいなされ、壁を抉っただけだ。
新たな敵──だがそれは。
「楊! なんでそいつを──」
助けるんだ。なんでわたしに武器を向けるんだ。
ヒュバババッ、と楊の繰り出す木の棒をかわしながらわたしとアルマは後退する。
楊は背中に伊能をかばいながら強い決意の眼差しを向けてくる。
「……僕はもう、お前たちとは行けない。記憶を取り戻したんだ。華叉丸様がお前たちに同行させたのは僕の記憶を呼び起こすため。僕はあの方と伊能さんに従う」
華叉丸……あの男も関わっていたのか。わたしの味方だと思っていたのに。でも一体、なんのために。こいつらの目的とは──。
「《剣聖》羽鳴由佳。お前さんはこの世界に戻ってくるべきじゃあなかった。元の世界で平穏に暮らしていれば巻き込まれずにすんだのによ。これからこの世界で起きる変革によ」
楊の背後で伊能がクククと笑う。
変革……? ムツカシイ言葉は解らないが、なんかよからぬ事に違いない。
わたしとアルマは伊能を攻撃したいが楊が刺すような殺気を飛ばし、立ちはだかる。
「このまま僕たちを行かせれば戦いはしない。だけど邪魔をするなら殺し合いになるぞ」
楊……本気だ。わたしとアルマは動けない。
楊と伊能は路地の反対側から足早に去っていく。
わたしとアルマもそこから飛び出したが──混雑する大通り。
ふたりの姿を見失ってしまった。
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