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第2部 消えた志求磨
46 氷の少女
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階段をおりた先……鉄製のブ厚い扉だ。わたしとアルマで開ける。
中は……思ったより明るい。ここもたくさんの松明で照らされている。
やたらと寒い……。わたしの吐く息が白く見える。
いくつも石製の台座が並んでいる。上には何か乗っていたのだろうか。今は何もないが……。
空の台座の間をすり抜けながら進む。
いた、カーラさんとナギサ。こちらに背を向け、見上げている。
その視線の先には──。
ひときわ大きく、高い台座の上に……氷の柱? いや、あれは──氷の中に人が閉じ込められている。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《アイシクルフェンサー》イルネージュ・ソレル。
ハーフツインの銀髪。閉じた瞳、彫像のように白い肌……年はわたしより少し上くらいだろうか。
とびきりの美少女だ。わたしほどではないが。
ダダダダがあったということは願望者。でも普通の人型ではない。
背には氷でできたような6枚の翼。右手には剣……腕と一体化しているように見える。
「……来たわね、由佳ちゃん。一度はあっちに戻ったあなたを巻き込むようなことになって……ごめんなさい」
カーラさんが振り向き、いきなり謝ってきた。
いや、わたしがこっちに来たのは綾──志求磨を探すためなのに……。どうしてカーラさんが謝るんだ。
ナギサもバツが悪そうに頭をかきながら謝ってきた。
「その……ノレストでは悪かったな。僕もついカッとなって。お前をこっちに助っ人として呼べってカーラに言われてたのに……お前が華叉丸の兵をかばうから」
なんと。わたしがこっちにうまく転移できたのはカーラさんのおかげでもあったのか。
「わたしの力が必要ってことですか? でも、カーラさんがいればどんな問題でも解決するんじゃ……」
わたしの言葉にカーラさんは首を横に振る。
「いいえ……これを見たでしょう。この氷に閉じ込められている少女……正確にはその右手の剣。《凍獄魔剣》アイスブランドは以前、葉桜溢忌と戦った魔王なの」
この少女が? いや、あの右手の剣が? 魔王? 元勇者の、あの葉桜溢忌が戦ったって……ウソだろ。魔王はあの男が倒したと聞いていたが。
「カーラ……そこまでの記憶が戻ったのですね。あなたもわたくしも参加した、あの魔王討伐戦の頃まで」
ミリアムが安堵した表情で話しかける。だがここでもカーラさんはうつむきながら首を横に振る。
「ぼんやりとだけ……魔王と戦い、葉桜溢忌と戦い、わたしはそこで記憶を失った。詳しいところはまだ何も……」
「由佳さん、ここからはわたくしが説明します。この魔王と戦ったわたくしの仲間も同じように氷漬けにされてしまっていたのです。もう20年以上も経ちますが、その間誰もその状態を解除できなかった。彼らはここでそのイルネージュと同じように安置されていたのですが、突如それを解除できる人物が現れたのです」
ミリアムが願望者全書をペラペラとめくり、あるページで指を止めた。
「ノレスト領主、華叉丸。あの男が5人の願望者を復活させ、能力で自分の剣とした。あなたも見たことがあるでしょう。そして剣にされた人物は人に戻った状態でもヤツの言いなりになる……」
「そうなのか!? だったらショウも……!」
ノレストの森で華叉丸に剣に変えられてしまった。
人に戻れるとは聞いていたが、そんな言いなりになるなんて……。
ナギサが台座を叩きながら言った。
「ああ。そしてヤツの本命はこのイルネージュ。一度は僕が防いだが……ヤツはまたこの魔王の力を狙ってくるぞ。カーラ、もうすぐなんだな?」
「ええ。近くまで来ているわ。間違いない……誰か手引きした者がいるみたいね。とにかく由佳ちゃん達が間に合って助かった……あとの指揮はナギサくんとミリアムに任せるわ」
カーラさん……どこか調子が悪そうだ。少し記憶を取り戻したのと関係あるのだろうか。
ナギサとミリアムが話し合い、この地下室を防衛するための布陣の説明。
宮殿の入り口正面にはナギサ。総大将なのにあいかわらず最前線が好きだな……。
宮殿内部にはミリアム、アルマ。この地下へ続く通路にはさっきと同じくレオニードとクレイグ。
そしてこの最深部にはわたしとカーラさん。
ここは任せたぞ、と出口へ向かうナギサをわたしは慌てて呼び止めようとしたが……ああ、行ってしまった。
急な展開で伝えるのを忘れていた。宰相のカネツキ・ゴーンのことだ。あと、わたしの《断ち斬る者》の力のこと。
ナギサとの戦いのあと、急に使えなくなった。ナギサの奪の能力で奪い取られたと思ってたのだが……和解した今、すぐに返してくれそうなものだ。もしかしたら原因は他にあるのかも。
地下に残されたわたしとカーラさん。
わたしはそのことも相談しようと思ったが、どうにもカーラさんの様子がおかしい。
氷漬けのイルネージュを見上げては、何か物思いにふけっている。
カーラさんのこの表情……以前も見たことがある。
葉桜溢忌との戦いの時だ。深淵と呼ばれる何もない空間。
そこで眠りについている《女神》シエラ=イデアルを見ていた時と同じ顔をしている。
中は……思ったより明るい。ここもたくさんの松明で照らされている。
やたらと寒い……。わたしの吐く息が白く見える。
いくつも石製の台座が並んでいる。上には何か乗っていたのだろうか。今は何もないが……。
空の台座の間をすり抜けながら進む。
いた、カーラさんとナギサ。こちらに背を向け、見上げている。
その視線の先には──。
ひときわ大きく、高い台座の上に……氷の柱? いや、あれは──氷の中に人が閉じ込められている。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《アイシクルフェンサー》イルネージュ・ソレル。
ハーフツインの銀髪。閉じた瞳、彫像のように白い肌……年はわたしより少し上くらいだろうか。
とびきりの美少女だ。わたしほどではないが。
ダダダダがあったということは願望者。でも普通の人型ではない。
背には氷でできたような6枚の翼。右手には剣……腕と一体化しているように見える。
「……来たわね、由佳ちゃん。一度はあっちに戻ったあなたを巻き込むようなことになって……ごめんなさい」
カーラさんが振り向き、いきなり謝ってきた。
いや、わたしがこっちに来たのは綾──志求磨を探すためなのに……。どうしてカーラさんが謝るんだ。
ナギサもバツが悪そうに頭をかきながら謝ってきた。
「その……ノレストでは悪かったな。僕もついカッとなって。お前をこっちに助っ人として呼べってカーラに言われてたのに……お前が華叉丸の兵をかばうから」
なんと。わたしがこっちにうまく転移できたのはカーラさんのおかげでもあったのか。
「わたしの力が必要ってことですか? でも、カーラさんがいればどんな問題でも解決するんじゃ……」
わたしの言葉にカーラさんは首を横に振る。
「いいえ……これを見たでしょう。この氷に閉じ込められている少女……正確にはその右手の剣。《凍獄魔剣》アイスブランドは以前、葉桜溢忌と戦った魔王なの」
この少女が? いや、あの右手の剣が? 魔王? 元勇者の、あの葉桜溢忌が戦ったって……ウソだろ。魔王はあの男が倒したと聞いていたが。
「カーラ……そこまでの記憶が戻ったのですね。あなたもわたくしも参加した、あの魔王討伐戦の頃まで」
ミリアムが安堵した表情で話しかける。だがここでもカーラさんはうつむきながら首を横に振る。
「ぼんやりとだけ……魔王と戦い、葉桜溢忌と戦い、わたしはそこで記憶を失った。詳しいところはまだ何も……」
「由佳さん、ここからはわたくしが説明します。この魔王と戦ったわたくしの仲間も同じように氷漬けにされてしまっていたのです。もう20年以上も経ちますが、その間誰もその状態を解除できなかった。彼らはここでそのイルネージュと同じように安置されていたのですが、突如それを解除できる人物が現れたのです」
ミリアムが願望者全書をペラペラとめくり、あるページで指を止めた。
「ノレスト領主、華叉丸。あの男が5人の願望者を復活させ、能力で自分の剣とした。あなたも見たことがあるでしょう。そして剣にされた人物は人に戻った状態でもヤツの言いなりになる……」
「そうなのか!? だったらショウも……!」
ノレストの森で華叉丸に剣に変えられてしまった。
人に戻れるとは聞いていたが、そんな言いなりになるなんて……。
ナギサが台座を叩きながら言った。
「ああ。そしてヤツの本命はこのイルネージュ。一度は僕が防いだが……ヤツはまたこの魔王の力を狙ってくるぞ。カーラ、もうすぐなんだな?」
「ええ。近くまで来ているわ。間違いない……誰か手引きした者がいるみたいね。とにかく由佳ちゃん達が間に合って助かった……あとの指揮はナギサくんとミリアムに任せるわ」
カーラさん……どこか調子が悪そうだ。少し記憶を取り戻したのと関係あるのだろうか。
ナギサとミリアムが話し合い、この地下室を防衛するための布陣の説明。
宮殿の入り口正面にはナギサ。総大将なのにあいかわらず最前線が好きだな……。
宮殿内部にはミリアム、アルマ。この地下へ続く通路にはさっきと同じくレオニードとクレイグ。
そしてこの最深部にはわたしとカーラさん。
ここは任せたぞ、と出口へ向かうナギサをわたしは慌てて呼び止めようとしたが……ああ、行ってしまった。
急な展開で伝えるのを忘れていた。宰相のカネツキ・ゴーンのことだ。あと、わたしの《断ち斬る者》の力のこと。
ナギサとの戦いのあと、急に使えなくなった。ナギサの奪の能力で奪い取られたと思ってたのだが……和解した今、すぐに返してくれそうなものだ。もしかしたら原因は他にあるのかも。
地下に残されたわたしとカーラさん。
わたしはそのことも相談しようと思ったが、どうにもカーラさんの様子がおかしい。
氷漬けのイルネージュを見上げては、何か物思いにふけっている。
カーラさんのこの表情……以前も見たことがある。
葉桜溢忌との戦いの時だ。深淵と呼ばれる何もない空間。
そこで眠りについている《女神》シエラ=イデアルを見ていた時と同じ顔をしている。
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