異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

47 雷の鬼姫(ナギサ・ライト視点)

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 宮殿の外──敷地の入り口まで移動して僕は巨大斧を出現させ、肩に担ぐ。
 来る。紫色の神主姿の男──《宝剣男子》華叉丸かしゃまるだ。街のほうから堂々と歩いて向かってきている。

 関所や街の入り口をどうやって素通りしたか知らないが、いい度胸だ。
 ひとりしか姿が見えない。仲間がどこかに潜んでいるだろうが、関係ない。全部返り討ちにしてやる。

「おいっ! ヤツが近付いたら周りを囲め! 手を出す必要はないぞ。逃げ道を塞ぐためだ!」

 周りの兵にそう命じる。だが反応がない。動かない──。

「お前らっ──」

「カネツキが手を回しているのですよ、ナギサ公。すでに懐に敵がいるとも知らず、暢気のんきな」

 華叉丸──すでに間合いだ。いつの間に。

「っらあっっ!」

 巨大斧を横に薙ぐ。華叉丸はふわりと跳んでかわした。

「ここで決着をつけるのもよろしいが、先を急ぐもので失礼致す──宝剣招来ッ!」

 空中で華叉丸の背中から一振りの刀が飛び出す。
 それを掴み、華叉丸はさらに叫んだ。

「人に戻りて我に従え。剣還人化ッ!」

 ガカアッ、と空からいきなりの雷。
 華叉丸の刀に落ち、さらにこちらへ──。

「ぐううっ!」

 巨大斧を盾にして防ぐ。
 衝撃、轟音──なんとか耐えきった。
 バチ、バチバチッ、と目の前で音がしている。
 巨大斧を下ろして見てみると、そこにはひとりの女がヒザをつき、うつむいている。

 ひとつに束ねた黒髪に、真っ赤な戦国ふうの甲冑。腰には大小二振りの刀。女は顔をあげた。
 年は20代前半……なんと額から上向きに2本、角が生えている。僕の頭の中に文字が打ち込まれる。刻印だ。

《鬼姫》《雷公》千景ちかげ

 いや、こんなのに驚いている場合じゃない。まだ宙にいる華叉丸に向け、巨大斧を投げようとする。 

わしが目の前にいるというに、よそ見とはいい度胸よの」

 千景が動いた。太刀を抜き、斜め上に刺突。
 仰け反ってかわした。そのスキに華叉丸は僕を飛び越え、着地。宮殿に向かって走り出す。

「待てっ! お前を行かせるわけには──」

「小娘、舐めるのもたいがいにせよ。貴様の相手はこのわしじゃ」
 
 千景の斬撃──左腕の手甲ガントレットで受け止め、右手の巨大斧はいったん引っ込めた。

「僕は──男だっ!」

 右手を甲冑の隙間に突っ込み、強引に投げ。
 千景は受け身も取れず、背中から地面に叩きつけられる。
 
「ジャマをするなっ!」

 すぐに華叉丸のあとを追う。だが──とっさに前に転がった。
 ボヒュッ、と上を脇差が飛んでいく。千景が放ったものだ。あのまま走っていれば串刺しになっていた。

「ほう、よくかわしたな。小娘……いや、おのこじゃったな。そのナリで」

 千景は甲冑の泥をはたき落としながら笑った。美しい形の口からチラリと牙が見えた。

「……どうしてもジャマするなら死ぬことになるぞ。せっかく20年振りに甦ったってのに」

 この千景をはじめとする5人の願望者デザイア。ミリアムから大体のことは聞いている。

 葉桜溢忌はざくらいつきと共に魔王討伐戦に参加した戦士……作戦は失敗し、あの魔王イルネージュによって氷漬けにされていた。

 華叉丸はなんらかの方法で氷の封印を解き、千景と他の4人を甦らせて自分の剣に変化、従わせている。 
 つまりはあの少女……イルネージュを──魔王も同じように操ることができる。それだけはさせない。

 あの葉桜溢忌が倒すのをあきらめ、封印したというほどの力を持つ魔王。そんなものが悪用されたら──。

「勇ましいことよ。どれ、本気を出してみるか」

 千景は左手からビッ、と電撃を飛ばす。
 僕が狙いじゃない。さっき投げた脇差が吸い付くように千景の左手に戻った。

「──簡単には死ぬでないぞ? 久しぶりのいくさじゃからの」

 千景が顔の前で腕を振ると、鬼の面付きの兜がガシャンッ、と装着された。
 ドガアァッ、と再び突然の落雷。千景の身体がバリバリと稲妻をまとい、発光。

 ボッ、と突っ込んできた。速い! 巨大斧を出してなんとかガード。
 千景は構わず両手の刀を叩きつけてくる。
 なんて威力だ……この僕が力負けしている。ズザザザ、と後ずさりながら舌打ちする。

 ガカアッ、とまた落雷。千景の斬撃に合わせ、巨大斧に命中。僕の身体も雷撃をまともに受けてしまった。

「ぐっ、あああっっ!」

 激痛と熱さに巨大斧を落とす。すかさず二刀が頭上に閃く。だが──。

 左の手甲ガントレットで殴りつける。千景は刀を十字にして防いだ。これには驚いたようで、飛び退いて距離を取る。

「たまげたの……。あれを受けて反撃するとは」

「伊達に盟主を名乗ってるわけじゃないんでな……僕はこんなところで倒れるわけにはいかない」

「──面白い。ならば、これはどうじゃ」

 千景は太刀と脇差の柄をガシン、とくっつけて一本の武器に。それは形状を変えて両端に刃を持つ薙刀になった。

──跳躍。薙刀をギュラララッ、と回転させながら落下。

「っおおおおおっっ!」

 僕は巨大斧を拾い上げながらその場で一回転。迫ってくる千景めがけ、渾身の投擲──。
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