異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

51 師弟

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 男の子のほう、ヒューゴが口を開いた。

「先生……ひどいですよ。20年も俺らを放っておくなんて。いくら願望者デザイアが不老だからっていっても限度がありますよ。なあ、ネヴィア」

 女の子のほう、ネヴィアが頷く。

「うん……ヒドイ。あんなにギルドで尽くしたのに。わたし達のこと忘れてひとりだけ平和に過ごしてたなんて」

 カーラさんは頭を押さえながら苦しそうに答える。

「ちがう、ちがうの……葉桜溢忌との戦いで記憶を失って……あなた達のことを思い出したのもごく最近なの。それに、あなた達の状態……永久凍獄コキュートスはわたしにもどうすることもできなかった」

 カーラさんのことを先生と呼んでいる。この双子はカーラさんと師弟関係だったのだろうか。 

 双子はじりじりと近づき、カーラさんは逆に後ずさる。

「……やめなさい。あなた達と戦うわけにはいかない。それ以上、近付かないで」

「近付かないでって、久しぶりに会えたのにあんまりでしょ、先生──」

「前みたいに褒めたり、頭撫でてくれないの? 先生……」

 双子は同時に仕掛けた。ヒューゴが左右の手に持っているのはトンファー。左のほうを振り下ろすと、ゴアッ、と炎の衝撃波が飛んだ。

「いけえっ、フレイムウェイブッ!」

 ネヴィアのほうは複数の白い霧状のモノがコオオオ、とカーラさんへ向かっていく。よく見ればそれはドクロの形をしていた。

「わたしのオバケたち……やっちゃえ!」

 カーラさんは杖の先を上げ、周りに魔法の防御壁を形成。双子の攻撃を防いだ。

「──くっ、やめなさいと言ってるでしょう」

 カーラさんは杖の石突きでコーンと床をつく。
 途端に双子はバチバチッと電撃に打たれたように身体を震わせ、動けなくなる。しかし──。

「痛い、痛いよ先生……やめてください」

「わたし達、なんにも悪くないのにっ。ヒドイ、痛いよう」

 双子が哀願するように叫ぶ。カーラさんがはっ、としたように術を解くと、ふたりはすぐに立ち上がる。

「ガトリングブラストォッッ!」

 ヒューゴが左右のトンファーの先から連続で火炎弾を放つ。ネヴィアの操る亡霊も後を追うようにカーラさんへ飛び込んでいく。

「カーラさんっ!」

 カーラさんの姿は爆煙に包まれて見えなくなった。くそ、カーラさんが手出ししないことをいいことに。
 あの双子をわたしがどうにかしないと──と思ったが、華叉丸がイルネージュのほうへ向かっていく。

 瞬時に判断。カーラさんは攻撃されたとはいえ、ダメージを負うことはないだろう。あの双子はあくまでおとり。止めるべきはこの男だ。

「華叉丸っ! その娘に近づくなっ!」

「フ……我を止めるつもりか。志求磨しぐまの剣がこちらにある限り、そなたは何も出来ぬ。そうであろう」

 白銀の剣をかざしながら華叉丸が冷笑する。そんなことはわかっている。
 ようは剣に触れずに華叉丸本体を叩けばいいのだろう。

 名刀変化フォームチェンジ。刀の長さが短くなり、鞘と柄が青藍色に変化。
 
 脇差──名刀燕雀えんじゃく

 刀を抜き、華叉丸に斬りかかる。
 志求磨の剣で防ごうとしているが、ブン、と振り下ろしたわたしの手から刀は消えていた。

 刀は飛剣の技で華叉丸の背後に回っていた。
 刀とわたしの挟み撃ち──華叉丸は飛剣はかわしたがわたしのヒジ打ちはかわせず、その胸に受ける。

「ぐはっ」

 大きくよろめく。志求磨の剣は放していない。その腕をブッタ斬ってでも返してもらうぞ。

 手元に戻ってきた刀をキャッチしつつ、下から斬り上げる。ヤツの装束の右袖を切り裂いた。

「ちいっ! 小癪な」

 身をひるがえし、華叉丸の反撃。だが燕雀のフォームから見れば遅い。

 わたしはすでに三角飛びの要領で台座から台座に移動。そこから刀を飛ばし、わたし自身もさらに跳ぶ。

 ガガガガガッ、と斬撃と打撃を同時に叩き込む。
 装束の下に着込んでいる防具に阻まれてたいしたダメージは与えていないが、わたしの目的は志求磨の剣だ。

 右腕への集中攻撃。ヤツはついに剣を手放した。志求磨の剣は床を滑り、氷の少女イルネージュの近くで止まった。
 
「志求磨っ!」
   
 剣のほうへ跳ぶ。わたしのほうが速い。ついに取り戻すことができる。あとは華叉丸をぶちのめして元の姿に戻すだけ──。

 あとわずかで手が触れるというところで、何かが飛んできた。1本の剣。志求磨とは別の剣だ。
 志求磨の剣を弾き飛ばしてその剣はカッ、と光る。

 わたしの目の前に現れたのは……ボロい武道着姿に短髪の男。《拳聖》ショウだ。ノレストの戦いで華叉丸に剣に変えられた……。

気翔拳きしょうけん!」

 至近距離からいきなりの気弾攻撃。跳躍してかわす。

「ショウッ! ジャマをするな! お前は操られて──」

「気翔拳っ! 気翔拳! 気しょうーっ、気翔拳!」

 ボボボボッ、と連続気弾攻撃。わたしは宙で身体をひねりながらかわす。
 着地点。ショウが突っ込んできた。背後からは華叉丸の気配。

 仕方がない……あのフォームを使うしかない。死んでも恨むなよ、ショウ。
 
 わたしは刀を戻し、納刀。願望の力を高めながらググッ、と低く構えた。
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