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第2部 消えた志求磨
52 もうひとつの大事な
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名刀変化。鞘と柄が常磐色に変化。
打刀──名刀臥竜。
低く、重心を前に置いた居合いの構え。
前後から敵が迫るのを静かに待つ。何人同時に仕掛けようと関係ない。間合いに入れば強力なカウンターを喰らわせる。
「むっ、いかん! 退け、ショウ!」
危険を察知したのか、華叉丸が呼びかけるが──遅い。ショウはすでに宙へ飛び上がり連続蹴りのモーション。
「跳虎連脚!」
間合いに入った。蹴りを繰り出すショウの動きがスローモーションに見える。
抜刀──。刀が生み出す竜巻のようなパワーにショウの身体は巻き込まれ、回転しながら上昇。天井に激しく打ちつけられた。
わたしの意思ではもう止められない。
バチイッ、と納刀──深く、低く。
落下してくるショウ。眼前にきたとき2度目の抜刀。
雷の音とともにショウが吹っ飛ぶ。
台座をいくつも破壊し、その瓦礫に埋もれて姿が見えなくなった。
二段抜刀、逆鱗双破──。
願望の力を相当使ったが、仕方がない。もう少しで志求磨を取り返せるんだ。
華叉丸は技に巻き込むことができなかったが、わたしのほうが志求磨の剣に近い。
名刀変化を解除。わたしはよろけながらなんとか走り出した。
「なんという凄まじい技か。《断ち斬る者》にならずともあのような力を持つとは。やはり由佳殿は放っておけぬ存在」
華叉丸が背後に迫りながら何か言っている。関係ない。ばっ、と飛びついたわたしの手には志求磨の剣。
ついに……手に入れた。取り戻したんだ、わたしの──親友。
「……宝剣招来ッ!」
華叉丸の声。振り向くと、ヤツの背からまた1本の刀が飛び出してくる。
半分に折れているが……あの黒い刀身、どこか見覚えがある。
華叉丸はその折れた刀で踏み込みながら刺突。
わたしは志求磨の剣をかばいながら左の逆手で刀を半分抜いて防御。
ガキィッ、と刃同士が触れた瞬間、わたしの全身にビビビッと軽く電気が走ったような感覚。
「これはっ……!? お前、その刀……」
「気付かれたか? そう、由佳殿。我とはじめて出会った時を覚えておられるか。ノレストでそなたは《断ち斬る者》の状態だった。我はあの時、そなたを剣に変化させるつもりだった」
ノレストでナギサと戦った時のことだ。そうだ、わたしはナギサの攻撃で弾かれてうしろへ跳んで……それを受け止めたのが華叉丸だった。それでわたしの《断ち斬る者》の状態が解除されて──。
「我の剣人一如の能力は間違いなく発動した。だがそなたは剣に変化しなかった。代わりに手に入れたのはこの黒い刀だ」
わたしの身代わりに……。それでわたしは《断ち斬る者》に変われなくなったのか。じゃあ、やっぱりその黒い刀は……。
「黒由佳……なのか。もうひとりのわたし。葉桜溢忌との戦いで死んで願望の欠片になった……」
愕然とするわたしに、華叉丸は答えずに斬りかかる。
それはかわしたが、鋭い前蹴りに腹を貫かれ、わたしは前のめりに。
それでも志求磨の剣は放さない。華叉丸に柄で殴られ、わたしは床に両手をつく。
ギリイッ、と志求磨の剣を持っている右手を踏みつけられた。
痛みにうめき、睨みつけるわたしに華叉丸はひどく冷めたような声。
「その剣はもう我のものだ。そなたでは使いこなすことはできない。返してもらおうか」
「ちがうっ! 志求磨は、綾はわたしの大事な友達だ! その黒い刀もっ! 黒由佳はわたし自身で、わたしの願望で──」
涙がぼろぼろとこぼれる。悔しい。なんでコイツ……わたしの大事なものばかり……。
「フ……ならばこの刀は返そう。どうせ使い道のない出来損ないのハンパな刀だ。我にはふさわしくない」
華叉丸はそう言ってわたしの右手に折れた黒の刃を突き立てた。
「──あああっ! うあァッッ!」
激痛、熱さ。流れ出る真っ赤な血。
華叉丸はわたしの血で染まった志求磨の剣を拾いあげる。
「そこでおとなしく見ているがいい。我が魔王の力を手に入れるのを」
華叉丸は氷に閉じ込められた少女、イルネージュへ近づき、跳躍。
白銀に輝く志求磨の剣で斬りつける。
少女を覆っていたブ厚い氷はガラスが砕けるように割れ散った。志求磨の剣は華叉丸の背中へと戻り、倒れこむ少女を華叉丸はふわりと抱き抱える。
腕の中の少女は目覚めない。華叉丸の両手が紫色に妖しく光り出す。
少女イルネージュが同じように紫色に光り、ぐにぐにと粘土のように変化。たちまち1本の美しい剣へと姿を変えた。
イルネージュの右手に同化していた剣……アイスブランドと同じ形だ。それを恍惚とした表情で眺め、華叉丸は歓喜の声を上げた。
「フフ……フハハハハハ! ついに! ついに手に入れたぞ、魔王の力……なんという美しさだ。この力をもって我はこの世界に変革をもたらす」
「ぐうぅっ!」
右手を貫いている刀を引き抜く。魔王は……イルネージュはヤツの手に渡ってしまったが、まだ負けたわけじゃない。
それに志求磨を取り返すまではどうなろうと……手や足をもがれようと諦めるわけにはいかない。
打刀──名刀臥竜。
低く、重心を前に置いた居合いの構え。
前後から敵が迫るのを静かに待つ。何人同時に仕掛けようと関係ない。間合いに入れば強力なカウンターを喰らわせる。
「むっ、いかん! 退け、ショウ!」
危険を察知したのか、華叉丸が呼びかけるが──遅い。ショウはすでに宙へ飛び上がり連続蹴りのモーション。
「跳虎連脚!」
間合いに入った。蹴りを繰り出すショウの動きがスローモーションに見える。
抜刀──。刀が生み出す竜巻のようなパワーにショウの身体は巻き込まれ、回転しながら上昇。天井に激しく打ちつけられた。
わたしの意思ではもう止められない。
バチイッ、と納刀──深く、低く。
落下してくるショウ。眼前にきたとき2度目の抜刀。
雷の音とともにショウが吹っ飛ぶ。
台座をいくつも破壊し、その瓦礫に埋もれて姿が見えなくなった。
二段抜刀、逆鱗双破──。
願望の力を相当使ったが、仕方がない。もう少しで志求磨を取り返せるんだ。
華叉丸は技に巻き込むことができなかったが、わたしのほうが志求磨の剣に近い。
名刀変化を解除。わたしはよろけながらなんとか走り出した。
「なんという凄まじい技か。《断ち斬る者》にならずともあのような力を持つとは。やはり由佳殿は放っておけぬ存在」
華叉丸が背後に迫りながら何か言っている。関係ない。ばっ、と飛びついたわたしの手には志求磨の剣。
ついに……手に入れた。取り戻したんだ、わたしの──親友。
「……宝剣招来ッ!」
華叉丸の声。振り向くと、ヤツの背からまた1本の刀が飛び出してくる。
半分に折れているが……あの黒い刀身、どこか見覚えがある。
華叉丸はその折れた刀で踏み込みながら刺突。
わたしは志求磨の剣をかばいながら左の逆手で刀を半分抜いて防御。
ガキィッ、と刃同士が触れた瞬間、わたしの全身にビビビッと軽く電気が走ったような感覚。
「これはっ……!? お前、その刀……」
「気付かれたか? そう、由佳殿。我とはじめて出会った時を覚えておられるか。ノレストでそなたは《断ち斬る者》の状態だった。我はあの時、そなたを剣に変化させるつもりだった」
ノレストでナギサと戦った時のことだ。そうだ、わたしはナギサの攻撃で弾かれてうしろへ跳んで……それを受け止めたのが華叉丸だった。それでわたしの《断ち斬る者》の状態が解除されて──。
「我の剣人一如の能力は間違いなく発動した。だがそなたは剣に変化しなかった。代わりに手に入れたのはこの黒い刀だ」
わたしの身代わりに……。それでわたしは《断ち斬る者》に変われなくなったのか。じゃあ、やっぱりその黒い刀は……。
「黒由佳……なのか。もうひとりのわたし。葉桜溢忌との戦いで死んで願望の欠片になった……」
愕然とするわたしに、華叉丸は答えずに斬りかかる。
それはかわしたが、鋭い前蹴りに腹を貫かれ、わたしは前のめりに。
それでも志求磨の剣は放さない。華叉丸に柄で殴られ、わたしは床に両手をつく。
ギリイッ、と志求磨の剣を持っている右手を踏みつけられた。
痛みにうめき、睨みつけるわたしに華叉丸はひどく冷めたような声。
「その剣はもう我のものだ。そなたでは使いこなすことはできない。返してもらおうか」
「ちがうっ! 志求磨は、綾はわたしの大事な友達だ! その黒い刀もっ! 黒由佳はわたし自身で、わたしの願望で──」
涙がぼろぼろとこぼれる。悔しい。なんでコイツ……わたしの大事なものばかり……。
「フ……ならばこの刀は返そう。どうせ使い道のない出来損ないのハンパな刀だ。我にはふさわしくない」
華叉丸はそう言ってわたしの右手に折れた黒の刃を突き立てた。
「──あああっ! うあァッッ!」
激痛、熱さ。流れ出る真っ赤な血。
華叉丸はわたしの血で染まった志求磨の剣を拾いあげる。
「そこでおとなしく見ているがいい。我が魔王の力を手に入れるのを」
華叉丸は氷に閉じ込められた少女、イルネージュへ近づき、跳躍。
白銀に輝く志求磨の剣で斬りつける。
少女を覆っていたブ厚い氷はガラスが砕けるように割れ散った。志求磨の剣は華叉丸の背中へと戻り、倒れこむ少女を華叉丸はふわりと抱き抱える。
腕の中の少女は目覚めない。華叉丸の両手が紫色に妖しく光り出す。
少女イルネージュが同じように紫色に光り、ぐにぐにと粘土のように変化。たちまち1本の美しい剣へと姿を変えた。
イルネージュの右手に同化していた剣……アイスブランドと同じ形だ。それを恍惚とした表情で眺め、華叉丸は歓喜の声を上げた。
「フフ……フハハハハハ! ついに! ついに手に入れたぞ、魔王の力……なんという美しさだ。この力をもって我はこの世界に変革をもたらす」
「ぐうぅっ!」
右手を貫いている刀を引き抜く。魔王は……イルネージュはヤツの手に渡ってしまったが、まだ負けたわけじゃない。
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