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第2部 消えた志求磨
57 僕と契約して
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東へ──。
街道を東に向けて進む。アトールは大きな領地ではない。
葉桜溢忌の侵攻時は距離が近いため、真っ先に標的にされたが、あっさりと降伏したために被害はほとんどなかったらしい。
カーラさんの念話の説明は続く。
アトール領主のアンディ・マーガリーも争いを好まない性格で、アトールの領都では音楽や芸術の文化が盛んだという。
そんなところで何の用があるのか。
華叉丸という男──あいかわらず行動が読めない。
ともかくそこで態勢を整えてからノレストへ戻るつもりなのかもしれない。
わたしは目的地へ向けてひたすら歩き続けた。
半日かけて移動。さすがに疲れ、小さな宿場町で一泊。早朝、そこからさらに東へ。
この辺になるとカーラさんの念話も途切れ途切れになってきた。距離的に限界が近いのか。
華叉丸はすでにアトールの領地内に入っているらしい。まだそこにいるうちに追いつきたい。
道中、旅の商人たちの噂話で街道筋からは外れるが、アトールまでの近道があると聞いた。
森の中を抜けなければならないようだ。魔物が出るので普通の旅人は利用しないらしいが……。
わたしは迷わずその近道のほうへ足を向けた。
魔物なんかは慣れっこだ。とにかく今は時間が惜しい。
獣道、とまではいかないが細く、整備されていない道が森の中に続いている。
ベルフォレの幻魔の森やノレストの森ほど鬱蒼とはしてない。
パキパキと落ちた枯れ枝を踏みながら先へ進む。
ザザッ、と右手の茂みから物音。
さっそくおでましか。わたしは刀の柄に手をかけ、身構える。
「あっ、まってまって。僕は敵じゃないよ」
茂みから人の声。なんだ、魔物じゃないのかと気を緩める。
いや、待て。野盗の類かもしれない。わたしは低く落とした声でゆっくり出てこいと言った。
茂みからそろりそろりと出てきたのは──なんと動物である。
猫? いや、ウサギか? 大きさは子犬くらいで赤い目をした、よく分からん白い動物……。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《魔法の使者》ミュウべい。
コイツ……願望者なのか。
たまに人外の願望者に出くわすことはあるが。こんなちっさいサイズで四本足のヤツは初めてかもしれない。
「キミは羽鳴由佳だね? いきなり驚かせてゴメン。僕はキミの味方だよ」
なんかコワ……。口動いてないのに声が聞こえるもの。
わたしは警戒を解かず、質問する。
「どうしてわたしの事を知っている? あ、ダダダダで分かるか。いや、一体なんの用だ。わたしは急いでるんだ」
「キミは有名人だからね。かつて葉桜溢忌を倒し、この世界を救った美しい英雄じゃないか。そして今度もこの世界のために戦おうとしている」
ふうむ、なかなかみどころのあるヤツではある。
敵ではなさそうだ。わたしは柄から手を離し、話を聞いてみることにした。
「噂ではキミは今、たったひとりで強大な敵に立ち向かおうとしているそうじゃないか。いくらキミが強くてもそれは無謀だよ。だから僕はキミの力になってあげたいんだ」
わたしの力に……? そりゃあ、今はひとりでも仲間が欲しいところではあるが。
こんなちっこい正体不明の生物が戦力になるのか。
「由佳、よく聞いて。僕と契約すればキミは魔法少女になることができる。そうすればあの華叉丸だって倒せる力を手に入れることができるんだよ」
「えっ……魔法少女? わたしが? 力はたしかに欲しいけど、どうかな……」
《断ち斬る者》の力は取り戻してある。でもあの暴走……あんなのをまた引き起こすわけにはいかない。
新しい力を安全に手に入れられるのは歓迎だが……魔法少女ってキラキラ~とステッキ振り回して変身してフリフリのスカートで……。わたし、年齢的にギリアウトな気がする。ていうかそんな姿を見られるくらいなら死んだほうがマシだ。
「あ~、気持ちは嬉しいけど、やっぱいいや。魔法少女はちょっとムリ。いろんな意味で」
「……そう。でも気が変わったらいつでも僕を呼んで。すぐに駆けつけるから。キミが望みさえすればすぐに魔法少女になれるよ」
ミュウべいはそう言って茂みの中へ。姿を消した。
なんだったんだ、アイツ……。
結局ムダな時間を過ごしてしまった。
わたしは森の中を走る。こんなところさっさと抜けてアトールへ向かわないと。
ちょっとした斜面があった。そこを登り、反対側へ下りようとしたときだった。
バサササッ、と頭上から音。わたしを飛び越え、下の開けた場所へ下りていく。
げ……コイツは蛾の魔物だ。デカくて気持ち悪い。
よく見れば下のほうにたくさん群がっている。マジでキモいのだが、一体なんに集まっているのか。
突然、蛾の集団がバカアッ、と爆発した。
羽や胴体、頭部の破片が飛び散る。
無事な個体もいるが、すぐにキュドドッ、と下からの光る軌跡に貫かれて落下。
あれは……銃撃だ。他の残った蛾たちもすぐに撃ち落とされた。
わたしが見下ろす森の開けた場所……。
中央でガシャッ、とマシンガンのレバーを引く少女がひとり。
《時を操る少女》上見こむら。
わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。
少女は長い黒髪に学校の制服のような格好。
左腕に小振りな円形の盾。
その盾の陰にマシンガンを突っ込むような仕草。なんと手品みたいに消えてしまった。
上見こむらはわたしを見上げながら長い黒髪をかき上げた。
「羽鳴由佳……待っていたわ」
街道を東に向けて進む。アトールは大きな領地ではない。
葉桜溢忌の侵攻時は距離が近いため、真っ先に標的にされたが、あっさりと降伏したために被害はほとんどなかったらしい。
カーラさんの念話の説明は続く。
アトール領主のアンディ・マーガリーも争いを好まない性格で、アトールの領都では音楽や芸術の文化が盛んだという。
そんなところで何の用があるのか。
華叉丸という男──あいかわらず行動が読めない。
ともかくそこで態勢を整えてからノレストへ戻るつもりなのかもしれない。
わたしは目的地へ向けてひたすら歩き続けた。
半日かけて移動。さすがに疲れ、小さな宿場町で一泊。早朝、そこからさらに東へ。
この辺になるとカーラさんの念話も途切れ途切れになってきた。距離的に限界が近いのか。
華叉丸はすでにアトールの領地内に入っているらしい。まだそこにいるうちに追いつきたい。
道中、旅の商人たちの噂話で街道筋からは外れるが、アトールまでの近道があると聞いた。
森の中を抜けなければならないようだ。魔物が出るので普通の旅人は利用しないらしいが……。
わたしは迷わずその近道のほうへ足を向けた。
魔物なんかは慣れっこだ。とにかく今は時間が惜しい。
獣道、とまではいかないが細く、整備されていない道が森の中に続いている。
ベルフォレの幻魔の森やノレストの森ほど鬱蒼とはしてない。
パキパキと落ちた枯れ枝を踏みながら先へ進む。
ザザッ、と右手の茂みから物音。
さっそくおでましか。わたしは刀の柄に手をかけ、身構える。
「あっ、まってまって。僕は敵じゃないよ」
茂みから人の声。なんだ、魔物じゃないのかと気を緩める。
いや、待て。野盗の類かもしれない。わたしは低く落とした声でゆっくり出てこいと言った。
茂みからそろりそろりと出てきたのは──なんと動物である。
猫? いや、ウサギか? 大きさは子犬くらいで赤い目をした、よく分からん白い動物……。
わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《魔法の使者》ミュウべい。
コイツ……願望者なのか。
たまに人外の願望者に出くわすことはあるが。こんなちっさいサイズで四本足のヤツは初めてかもしれない。
「キミは羽鳴由佳だね? いきなり驚かせてゴメン。僕はキミの味方だよ」
なんかコワ……。口動いてないのに声が聞こえるもの。
わたしは警戒を解かず、質問する。
「どうしてわたしの事を知っている? あ、ダダダダで分かるか。いや、一体なんの用だ。わたしは急いでるんだ」
「キミは有名人だからね。かつて葉桜溢忌を倒し、この世界を救った美しい英雄じゃないか。そして今度もこの世界のために戦おうとしている」
ふうむ、なかなかみどころのあるヤツではある。
敵ではなさそうだ。わたしは柄から手を離し、話を聞いてみることにした。
「噂ではキミは今、たったひとりで強大な敵に立ち向かおうとしているそうじゃないか。いくらキミが強くてもそれは無謀だよ。だから僕はキミの力になってあげたいんだ」
わたしの力に……? そりゃあ、今はひとりでも仲間が欲しいところではあるが。
こんなちっこい正体不明の生物が戦力になるのか。
「由佳、よく聞いて。僕と契約すればキミは魔法少女になることができる。そうすればあの華叉丸だって倒せる力を手に入れることができるんだよ」
「えっ……魔法少女? わたしが? 力はたしかに欲しいけど、どうかな……」
《断ち斬る者》の力は取り戻してある。でもあの暴走……あんなのをまた引き起こすわけにはいかない。
新しい力を安全に手に入れられるのは歓迎だが……魔法少女ってキラキラ~とステッキ振り回して変身してフリフリのスカートで……。わたし、年齢的にギリアウトな気がする。ていうかそんな姿を見られるくらいなら死んだほうがマシだ。
「あ~、気持ちは嬉しいけど、やっぱいいや。魔法少女はちょっとムリ。いろんな意味で」
「……そう。でも気が変わったらいつでも僕を呼んで。すぐに駆けつけるから。キミが望みさえすればすぐに魔法少女になれるよ」
ミュウべいはそう言って茂みの中へ。姿を消した。
なんだったんだ、アイツ……。
結局ムダな時間を過ごしてしまった。
わたしは森の中を走る。こんなところさっさと抜けてアトールへ向かわないと。
ちょっとした斜面があった。そこを登り、反対側へ下りようとしたときだった。
バサササッ、と頭上から音。わたしを飛び越え、下の開けた場所へ下りていく。
げ……コイツは蛾の魔物だ。デカくて気持ち悪い。
よく見れば下のほうにたくさん群がっている。マジでキモいのだが、一体なんに集まっているのか。
突然、蛾の集団がバカアッ、と爆発した。
羽や胴体、頭部の破片が飛び散る。
無事な個体もいるが、すぐにキュドドッ、と下からの光る軌跡に貫かれて落下。
あれは……銃撃だ。他の残った蛾たちもすぐに撃ち落とされた。
わたしが見下ろす森の開けた場所……。
中央でガシャッ、とマシンガンのレバーを引く少女がひとり。
《時を操る少女》上見こむら。
わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。
少女は長い黒髪に学校の制服のような格好。
左腕に小振りな円形の盾。
その盾の陰にマシンガンを突っ込むような仕草。なんと手品みたいに消えてしまった。
上見こむらはわたしを見上げながら長い黒髪をかき上げた。
「羽鳴由佳……待っていたわ」
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