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第2部 消えた志求磨
58 ワルキリギリスの夜
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上見こむらという少女……。歳は14、5ぐらいか。どこか影のある雰囲気。
待っていたとはどういうことだろうか。
わたしは上のほうから無言で見下ろす。
「……警戒しなくていいわ。あなたがここに来ることは分かっていた。そしてこれから起きることも。あなたはこの先、わたしと一緒に戦わなくてはならない。あのワルキリギリスの夜と」
なんだと……ワルキリ……いや、ここは聞かなかったことにしておこう。ヤベー予感しかしない。
「いや、わたしは先を急ぐから。悪いけど……」
斜面を下り、そそくさと脇を走り抜けていく。
「待って! ……あなたに伝えておかないといけない事がある。あなたに言葉巧みに近づき、魔法少女にさせようとする者がいるわ。でも決して耳を貸してはいけない。お願い、約束して……」
腕を掴み、さっきまでのクールな表情が一変。今にも泣き出しそうな顔をしている。
わたしはそれを振りほどいて走り出した。
いきなり初めて会った相手に何言ってるんだ。さっきの白い動物の願望者といい、どうにも調子狂う。
ようやく森を抜けた。
ここまで来たらもうカーラさんの念話は届かないようだ。
しかし方角も間違っていないようだし、ここからはわたしだけでも大丈夫。
少し先に集落が見える。あそこで休憩しつつ、アムールの情報を集めてみるか。
集落はいくつもテントが集まった遊牧民っぽい感じのものだった。
人々もゆったりとした白い服装。シエラ=イデアルの現地人でもあまり見かけない格好だ。
このあたりだと願望者はめずらしいかもしれない。嫌がられるかな、と少し遠慮がちに近付くと、むこうの方からわらわらとこっちに向かってきた。
「あ、あんた願望者だよな。頼みたいことがある」
代表者らしい年配の男性がそう切り出した。
こんなときに依頼……。野盗か魔物退治か。はっきりいってそんなことしてる場合じゃないが。
「放牧していた羊たちがみんな消えちまった。探しに行ったヤツらも戻ってこねえ。こんなこと……はじめてだ。とんでもねえデカさの魔物を見たって噂もある。アンタの力を貸してくれないか」
「悪いけど、あまり長居はできないんだ。わたしはアムールの領地に用があって……。そのあとからじゃダメかな……」
そう言うと、人々は落胆したような表情。仕方ないじゃないか。こっちは世界の命運がかかっているかもしれないんだ。
年配の男のうしろからトコトコと5歳くらいの女の子が出てきた。
わたしに近付き、袖をぐっと握ってきた。
「お父ちゃんが戻ってこないの……。お姉ちゃん、スゴく強いんでしょ? お父ちゃんを探してくれないの?」
むぐぐ……卑怯なり。こんな小さな子供が潤んだ瞳でお願いしてきたら……。いや、それでもわたしは心を鬼にして行かねばならない。なにせわたしの両肩には世界の命運が──。
翌日──なだらかな丘陵に囲まれた盆地。その中央でわたしは仏頂面で立っていた。
結局断り切れなかった……。こうなったら仕方がない。魔物だろうがなんだろうが、さっさと倒すだけだ。
遊牧民たちの話によるとこの辺りで間違いないようだ。その魔物が現れるまで待ってないといけないのか。
「……もうすぐ現れるわ。ヤツが。由佳、油断しないで」
わたしは飛び上がりそうになるほど驚いた。
上見こむら……いつの間にわたしの背後に。
「あの丘から来る……ワルキリギリスの夜が。あなたはサポートに徹して。ヤツは……わたしが仕留める」
「放牧してた羊を襲った魔物のことだったのか、そのなんとかっていうヤツ……。なんでそこまでしてその魔物にこだわるんだ」
「あなたはヤツの恐ろしさを知らない。まだこの辺りは人が少ないから被害がたいした事ないけど……あれが大きな街に行けば大惨事に繋がるわ」
上見こむらが言い終わる前にズシン、ズシンと地を揺るがす足音。
来る──魔物が。
ギーッ、チョ、ギー、チョ、とこすれるような身の毛もよだつ不快音。
丘の上に現れたのは巨大なバッタ……いや、キリギリスだ。
「来た……あれがワルキリギリスの夜」
「キモ……ていうか、デカすぎ。うん、わたし近付きたくない」
このまえ戦った大猿の魔物よりさらにデカイ。たしかにこんなのが街を襲ったらとんでもないことになる。
ワルキリギリスが跳躍。あの巨体がブウンッ、と宙を舞う。なんてジャンプ力だ。
わたし達の目の前に着地。だがその場で轟音とともに爆発。飛び散る土砂に立ち込める土煙。これは一体……。
「あらかじめ対戦車地雷を仕掛けていたの。まだまだこれからよ」
バランスを崩し、倒れているワルキリギリスに向けて上見こむらはガシャアッ、と肩に担いだのは──うお、ゲームで見たことある。ロケットランチャーだ。
ボシュウゥッ、と弾頭が飛び、ワルキリギリスの横っ面に炸裂。派手な爆発が起きた。
上見こむらは発射後の武器を捨て、さらに盾から同じロケットランチャーを引きずり出す。
そして再び発射。それを5度も繰り返した。
この少女の能力……《クレイジーガンマン》クレイグと似ている。
この世界では銃器は認識の力が弱いので願望者にとっては扱いづらいはずだが……かなり使いこなしているようだ。
相当な実力者なのだろう。ともかく、この女コマンドーのおかげであっという間にカタがついた。
全然心配することなんてないじゃないかと言おうとしたとき、爆煙の中からギチギチギチと化物キリギリスの顔がぬうっと出てきた。
「ウソだろ、あんなの喰らって生きてるなんて……」
「ワルキリギリスの夜を甘く見ないで。こんな程度ではヤツは倒せない」
上見こむらは盾から無数の手榴弾を取り出した。
待っていたとはどういうことだろうか。
わたしは上のほうから無言で見下ろす。
「……警戒しなくていいわ。あなたがここに来ることは分かっていた。そしてこれから起きることも。あなたはこの先、わたしと一緒に戦わなくてはならない。あのワルキリギリスの夜と」
なんだと……ワルキリ……いや、ここは聞かなかったことにしておこう。ヤベー予感しかしない。
「いや、わたしは先を急ぐから。悪いけど……」
斜面を下り、そそくさと脇を走り抜けていく。
「待って! ……あなたに伝えておかないといけない事がある。あなたに言葉巧みに近づき、魔法少女にさせようとする者がいるわ。でも決して耳を貸してはいけない。お願い、約束して……」
腕を掴み、さっきまでのクールな表情が一変。今にも泣き出しそうな顔をしている。
わたしはそれを振りほどいて走り出した。
いきなり初めて会った相手に何言ってるんだ。さっきの白い動物の願望者といい、どうにも調子狂う。
ようやく森を抜けた。
ここまで来たらもうカーラさんの念話は届かないようだ。
しかし方角も間違っていないようだし、ここからはわたしだけでも大丈夫。
少し先に集落が見える。あそこで休憩しつつ、アムールの情報を集めてみるか。
集落はいくつもテントが集まった遊牧民っぽい感じのものだった。
人々もゆったりとした白い服装。シエラ=イデアルの現地人でもあまり見かけない格好だ。
このあたりだと願望者はめずらしいかもしれない。嫌がられるかな、と少し遠慮がちに近付くと、むこうの方からわらわらとこっちに向かってきた。
「あ、あんた願望者だよな。頼みたいことがある」
代表者らしい年配の男性がそう切り出した。
こんなときに依頼……。野盗か魔物退治か。はっきりいってそんなことしてる場合じゃないが。
「放牧していた羊たちがみんな消えちまった。探しに行ったヤツらも戻ってこねえ。こんなこと……はじめてだ。とんでもねえデカさの魔物を見たって噂もある。アンタの力を貸してくれないか」
「悪いけど、あまり長居はできないんだ。わたしはアムールの領地に用があって……。そのあとからじゃダメかな……」
そう言うと、人々は落胆したような表情。仕方ないじゃないか。こっちは世界の命運がかかっているかもしれないんだ。
年配の男のうしろからトコトコと5歳くらいの女の子が出てきた。
わたしに近付き、袖をぐっと握ってきた。
「お父ちゃんが戻ってこないの……。お姉ちゃん、スゴく強いんでしょ? お父ちゃんを探してくれないの?」
むぐぐ……卑怯なり。こんな小さな子供が潤んだ瞳でお願いしてきたら……。いや、それでもわたしは心を鬼にして行かねばならない。なにせわたしの両肩には世界の命運が──。
翌日──なだらかな丘陵に囲まれた盆地。その中央でわたしは仏頂面で立っていた。
結局断り切れなかった……。こうなったら仕方がない。魔物だろうがなんだろうが、さっさと倒すだけだ。
遊牧民たちの話によるとこの辺りで間違いないようだ。その魔物が現れるまで待ってないといけないのか。
「……もうすぐ現れるわ。ヤツが。由佳、油断しないで」
わたしは飛び上がりそうになるほど驚いた。
上見こむら……いつの間にわたしの背後に。
「あの丘から来る……ワルキリギリスの夜が。あなたはサポートに徹して。ヤツは……わたしが仕留める」
「放牧してた羊を襲った魔物のことだったのか、そのなんとかっていうヤツ……。なんでそこまでしてその魔物にこだわるんだ」
「あなたはヤツの恐ろしさを知らない。まだこの辺りは人が少ないから被害がたいした事ないけど……あれが大きな街に行けば大惨事に繋がるわ」
上見こむらが言い終わる前にズシン、ズシンと地を揺るがす足音。
来る──魔物が。
ギーッ、チョ、ギー、チョ、とこすれるような身の毛もよだつ不快音。
丘の上に現れたのは巨大なバッタ……いや、キリギリスだ。
「来た……あれがワルキリギリスの夜」
「キモ……ていうか、デカすぎ。うん、わたし近付きたくない」
このまえ戦った大猿の魔物よりさらにデカイ。たしかにこんなのが街を襲ったらとんでもないことになる。
ワルキリギリスが跳躍。あの巨体がブウンッ、と宙を舞う。なんてジャンプ力だ。
わたし達の目の前に着地。だがその場で轟音とともに爆発。飛び散る土砂に立ち込める土煙。これは一体……。
「あらかじめ対戦車地雷を仕掛けていたの。まだまだこれからよ」
バランスを崩し、倒れているワルキリギリスに向けて上見こむらはガシャアッ、と肩に担いだのは──うお、ゲームで見たことある。ロケットランチャーだ。
ボシュウゥッ、と弾頭が飛び、ワルキリギリスの横っ面に炸裂。派手な爆発が起きた。
上見こむらは発射後の武器を捨て、さらに盾から同じロケットランチャーを引きずり出す。
そして再び発射。それを5度も繰り返した。
この少女の能力……《クレイジーガンマン》クレイグと似ている。
この世界では銃器は認識の力が弱いので願望者にとっては扱いづらいはずだが……かなり使いこなしているようだ。
相当な実力者なのだろう。ともかく、この女コマンドーのおかげであっという間にカタがついた。
全然心配することなんてないじゃないかと言おうとしたとき、爆煙の中からギチギチギチと化物キリギリスの顔がぬうっと出てきた。
「ウソだろ、あんなの喰らって生きてるなんて……」
「ワルキリギリスの夜を甘く見ないで。こんな程度ではヤツは倒せない」
上見こむらは盾から無数の手榴弾を取り出した。
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