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第2部 消えた志求磨
62 御手洗剛志とタケノコ合唱団
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アンディ・マーガリーが片手を上げて合図。
演奏が始まった。観客がさらに騒ぎ出す。
アンディが歌うのはノリのいい、ロック調の曲。英語だからよく分かんないけどビールのCMで聞いたことある。
「……ねえ、ライブ始まっちゃったけど、どうするの?」
周りの観客にギュウギュウ押されながらアルマが聞いてくる。ナギサはかまうもんか、とそのまま前に進む。
「ライブなんて関係ない。あのアンディも華叉丸の協力者だって分かったからな。こんなのブチ壊してやる」
「おい、観客が大勢いるんだぞ。無茶するなよ」
「分かってる。狙いは願望者だけだ」
だがもうすぐステージ前というところでナギサの動きが止まった。
その背中にぶつかり、わたしがどうした? と聞こうとして、異変に気付く。
足が……これ以上進まない。
「由佳、お前もか。僕の足も根が張ったみたいに動かない。これは……多分、あのアンディの能力だ」
あのステージ上を飛びはねながら熱唱しているヒゲ男の……?
わたしやアルマはともかく、超越者のナギサまで……これはどういう事だろうか。
「くそ……イヤな感じがする。アイツの持ってるあのマイク……あれは葉桜溢忌の神器だ」
神器……葉桜溢忌の能力、神器錬精で作り出した道具。願望者の力を飛躍的に高めるものだが、それをあの男が持ってるとは。
「動けない……このままじゃ……あっ」
アルマが何かに気付いた。ステージ横でちらちらと動いている影……。あれは……目立つなぁ、おい。
《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉だ。あんな所で何やってんだ。
ドゥイーンの曲が終わった。やっとわたし達は動けるようになったが、やはり前に進もうとすると壁に遮られたように動けなくなる。
この辺りは完全にアンディ・マーガリーの願望の力が支配しているようだ。
仕方なく数歩下がったところで様子を見る。
ドゥイーンのメンバーはいったんステージから下がるようだ。代わりに中央に進んできたのは御手洗剛志と山中大吉。そのうしろには小学生ぐらいの子供たちが10人ほど並んでいる。
周りの観客たちがざわめき、こそこそと話している内容が聞こえてきた。
「今度の対バンの相手ってあれか? あれバンドじゃなくね? えっと、御手洗剛志とタケノコ合唱団……? なんじゃそりゃ」
ああ……なんかわたしが申し訳ない。というか恥ずかしい。
何をカン違いしているのか知らないが、なんであんなところでコンサートに参加してんだ。わざわざ現地の子供たちまで集めて。
御手洗剛志はスタンドマイクの前でババッ、とポーズを取り、ステージ隅にいるドゥイーンのメンバーを指差し、叫ぶ。
「かかったな、悪の軍団め……! この城に潜む巨悪を倒すためにバンドとして潜入したのに気付かないとはな。そして聞くがいい、貴様らの悪しき力を打ち消す正義の歌を……!」
なんと、あのアライグマ男は気付いていたのか。アンディ・マーガリーの能力を。
そしてその効果を打ち消す方法も知っているとは……なるほど、歌には歌というわけか。これはもしかしたらもしかするかもしれない。
「それではミュージックッ、スタートッッ! レッツゴー、アライグマッスル!」
レッツゴーアライグマッスルとはいわずと知れた子供向け特撮番組【アライグマッスル】のオープニング曲だが……こんなところでしかも主役本人の声で聞くことになるとは。
ズンチャカズンチャカと楽器もないのに音楽が空から降ってくる。
こんなときアイツの能力便利だな……。
力のパワーを溢れさせ おお我らのマッスルマッスル アライグマッスル
なみいる怪人打ち倒せ ラクーンパンチ ラクーンキック 今だ必殺アライグマッシャー
御手洗剛志はコブシをきかせながら大音量で歌いはじめる。身体を上下にグイングイン動かしながら。
山中大吉と子供たちのコーラス。子供たちのほうは若干引きぎみだな。無理もない。
観客たちは──あっけに取られている。
さっきと違ってシーンとしてて……こんなんであのドゥイーンのライブに勝つことなんてできるのか?
勝利をつかめアライグマッスル ああ明日のために 美しい自然を 動物たちを 弱き人々を守るのだ
あ、もうすぐ曲が終わる。御手洗剛志は拳を突き上げながら叫ぶ。
「そうだ、わたしがアライグマッスルだっ、ぜーーーーっっと!」
会場は静まり返ったままだ。
そういえば、アンディ・マーガリーの能力を破ることはできたのか……。
「……やっぱりダメ。ここから前には進めない」
アルマが首を横に振る。
なんだって……ステージ上の御手洗剛志を見てみる。
あのアライグマ男はふうーっ、と満足したような顔で汗を拭いている。
アイツ、ただ自分が気持ちよく歌いたかっただけじゃないのか……。
おや、なんかもめているみたいだぞ。山中大吉が文句言ってるみたいだ。
「ガウッ、次は俺が歌う番! 【奇怪痛快ガマゾン】を歌うっ!」
「ま、まてまて、大吉。まだエンディングテーマの【ララバイ、アライグマッスル。過ぎ去りし青春の日々】を歌ってないからな。これが終わってからだ」
「ズルいっ、約束がちがう!」
ああ、取っ組み合いのケンカがはじまったぞ。
ライブは一時中断。ステージ上のバカふたりは警備員につまみ出されていった。一体なんのために出てきたんだ……。
演奏が始まった。観客がさらに騒ぎ出す。
アンディが歌うのはノリのいい、ロック調の曲。英語だからよく分かんないけどビールのCMで聞いたことある。
「……ねえ、ライブ始まっちゃったけど、どうするの?」
周りの観客にギュウギュウ押されながらアルマが聞いてくる。ナギサはかまうもんか、とそのまま前に進む。
「ライブなんて関係ない。あのアンディも華叉丸の協力者だって分かったからな。こんなのブチ壊してやる」
「おい、観客が大勢いるんだぞ。無茶するなよ」
「分かってる。狙いは願望者だけだ」
だがもうすぐステージ前というところでナギサの動きが止まった。
その背中にぶつかり、わたしがどうした? と聞こうとして、異変に気付く。
足が……これ以上進まない。
「由佳、お前もか。僕の足も根が張ったみたいに動かない。これは……多分、あのアンディの能力だ」
あのステージ上を飛びはねながら熱唱しているヒゲ男の……?
わたしやアルマはともかく、超越者のナギサまで……これはどういう事だろうか。
「くそ……イヤな感じがする。アイツの持ってるあのマイク……あれは葉桜溢忌の神器だ」
神器……葉桜溢忌の能力、神器錬精で作り出した道具。願望者の力を飛躍的に高めるものだが、それをあの男が持ってるとは。
「動けない……このままじゃ……あっ」
アルマが何かに気付いた。ステージ横でちらちらと動いている影……。あれは……目立つなぁ、おい。
《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉だ。あんな所で何やってんだ。
ドゥイーンの曲が終わった。やっとわたし達は動けるようになったが、やはり前に進もうとすると壁に遮られたように動けなくなる。
この辺りは完全にアンディ・マーガリーの願望の力が支配しているようだ。
仕方なく数歩下がったところで様子を見る。
ドゥイーンのメンバーはいったんステージから下がるようだ。代わりに中央に進んできたのは御手洗剛志と山中大吉。そのうしろには小学生ぐらいの子供たちが10人ほど並んでいる。
周りの観客たちがざわめき、こそこそと話している内容が聞こえてきた。
「今度の対バンの相手ってあれか? あれバンドじゃなくね? えっと、御手洗剛志とタケノコ合唱団……? なんじゃそりゃ」
ああ……なんかわたしが申し訳ない。というか恥ずかしい。
何をカン違いしているのか知らないが、なんであんなところでコンサートに参加してんだ。わざわざ現地の子供たちまで集めて。
御手洗剛志はスタンドマイクの前でババッ、とポーズを取り、ステージ隅にいるドゥイーンのメンバーを指差し、叫ぶ。
「かかったな、悪の軍団め……! この城に潜む巨悪を倒すためにバンドとして潜入したのに気付かないとはな。そして聞くがいい、貴様らの悪しき力を打ち消す正義の歌を……!」
なんと、あのアライグマ男は気付いていたのか。アンディ・マーガリーの能力を。
そしてその効果を打ち消す方法も知っているとは……なるほど、歌には歌というわけか。これはもしかしたらもしかするかもしれない。
「それではミュージックッ、スタートッッ! レッツゴー、アライグマッスル!」
レッツゴーアライグマッスルとはいわずと知れた子供向け特撮番組【アライグマッスル】のオープニング曲だが……こんなところでしかも主役本人の声で聞くことになるとは。
ズンチャカズンチャカと楽器もないのに音楽が空から降ってくる。
こんなときアイツの能力便利だな……。
力のパワーを溢れさせ おお我らのマッスルマッスル アライグマッスル
なみいる怪人打ち倒せ ラクーンパンチ ラクーンキック 今だ必殺アライグマッシャー
御手洗剛志はコブシをきかせながら大音量で歌いはじめる。身体を上下にグイングイン動かしながら。
山中大吉と子供たちのコーラス。子供たちのほうは若干引きぎみだな。無理もない。
観客たちは──あっけに取られている。
さっきと違ってシーンとしてて……こんなんであのドゥイーンのライブに勝つことなんてできるのか?
勝利をつかめアライグマッスル ああ明日のために 美しい自然を 動物たちを 弱き人々を守るのだ
あ、もうすぐ曲が終わる。御手洗剛志は拳を突き上げながら叫ぶ。
「そうだ、わたしがアライグマッスルだっ、ぜーーーーっっと!」
会場は静まり返ったままだ。
そういえば、アンディ・マーガリーの能力を破ることはできたのか……。
「……やっぱりダメ。ここから前には進めない」
アルマが首を横に振る。
なんだって……ステージ上の御手洗剛志を見てみる。
あのアライグマ男はふうーっ、と満足したような顔で汗を拭いている。
アイツ、ただ自分が気持ちよく歌いたかっただけじゃないのか……。
おや、なんかもめているみたいだぞ。山中大吉が文句言ってるみたいだ。
「ガウッ、次は俺が歌う番! 【奇怪痛快ガマゾン】を歌うっ!」
「ま、まてまて、大吉。まだエンディングテーマの【ララバイ、アライグマッスル。過ぎ去りし青春の日々】を歌ってないからな。これが終わってからだ」
「ズルいっ、約束がちがう!」
ああ、取っ組み合いのケンカがはじまったぞ。
ライブは一時中断。ステージ上のバカふたりは警備員につまみ出されていった。一体なんのために出てきたんだ……。
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