異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

61 伝説のロックバンド、ドゥイーン

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 バチバチと燃え、崩れるワルキリギリスを見て上見あげみこむらは気が抜けたようにその場に座りこんだ。

 アルマとナギサがすぐに駆け寄ってくる。
 
「由佳、良かった……間にあった。由佳に危険が迫ってるって、カーラが早めに起こしてくれたの」

 アルマがわたしの手を握りながら涙ぐんでいる。大げさだ。たしかにピンチだったけど、上見こむらが協力してくれたし……。

 おや、その上見こむらの姿が見えない。いつの間にか姿を消している……。まだいろいろと聞きたいことがあったのに。
 あの憎たらしいミュウべいもいなくなってるな。今度会ったら覚えとけよ。わたしはこう見えて根に持つタイプなのだ。

「早めに動けるようになったのはいいけど、その分あちこち痛むな。それにしても由佳、お前なんて格好してるんだ」

 ナギサの指摘にハッとする。
 しまった……見られてしまった。あのミュウべいの奸計にはめられたこの魔法少女もどきの姿を。

「いや、これにはわけがあって……。しばらく時間が経てば元に戻るらしいんだけど。あ、この姿のことは忘れて。見なかったことにして」

「ううん……あたしは好き。由佳、かわいい」

 アルマはそう言ってくれるが……どう見てもこれはわたしの黒歴史がまた1ページだろ。

 おーい、と複数の人間が呼びかける声。
 見ると、丘の上から遊牧民の衣装を着た男たちが駆け寄ってきた。

 羊を探しに行って行方知れずになっていた男たちのようだ。
 羊たちは大半がワルキリギリスにやられてしまっていたが、男たちは洞窟に逃げ隠れて無事だったらしい。
 あの小さな女の子の父親もいる。ひとまずはほっとした。

 遊牧民たちはまだ休んでいけとすすめてくれたが、わたし達は先を急ぐことにした。
 思わぬところで時間をくってしまった。華叉丸かしゃまるはまだアトールにいるだろうか。

 距離自体はそう遠くない。半日も歩けばアトールの領都に着くようだ。

 遊牧民たちと別れ、さらに東へ。
 道中、何度か魔物の襲撃に遭遇。その頃にはわたしも《剣聖》の姿に戻っていたので問題なく撃退。だがナギサは首を傾げている。

「おかしい……この辺りは前に視察で来たことあるけど、こんなに魔物が出る場所じゃなかった。しかもコイツは上級魔物だ。さっきのキリギリスの化物といい、何かヘンだ」

 自ら倒したデカイ牛の魔物を見下ろしながら考え込んでいる。いや、気のせいだろう。願望者デザイア3人かたまっているわけだし。
 たしかに超級魔物が出現するのもめずらしいことだが……多分、《覇王》が過去に討ちもらしたヤツなんだろう。

 気にしない、気にしない、とナギサに言い、わたし達はさらに歩く。
 なんとか日暮れ前にはアトールに到着。意外にもすんなりと領地内に入ることができた。

「アトールはもともと争いとは無縁の芸術や学問を尊ぶ領地。人の出入りには厳しくない」

 なるほど……たしかに領都に向かう人々も楽器やら画材、書物を持ってる者が多い。
 配備されている兵士もほんとに最低限。華叉丸のノレスト領と仲良しならわたし達の妨害をしてもおかしくないのに。

「夜になるけど構わない。このまま領都、そして城に突入するぞ」

 息巻くナギサは先頭に立ち、ズンズンあるいていく。
 アトールの領都。暗くなったが人々の往来は多い。なんだろう、この賑わい……。
 あちこちに出店が出てるし、見上げればヒモに吊るされた色とりどりのランタンが飾られている。

「おい、なんの騒ぎだ、これは」

 ナギサが通行人のひとりをつかまえて聞いてみる。その通行人もパレードに出るような派手な衣装を着ている。

「知らないのか? 領主のアンディ・マーガリー様が華叉丸様を招いてコンサートを開くんだよ。アンディ様の歌を聞きにあちこちから人が集まってこの騒ぎさ」

 コンサートだと……。いや、華叉丸はまだこのアトールにいるのか。
 何を考えている……。

「好都合だ。アトールの城でヤツを追い詰める。由佳、アルマ、油断するなよ」

 おいおい、何も考えなしに突っ込んでいくつもりか。
 追い詰めるのはいいが、ヤツには強力な願望者デザイアの剣たちがいるし、志求磨しぐまも捕まったまま。完全でないとはいえ、魔王の力さえ持っている。

 すぐには動かないとわかっているなら、ここはカーラさんを待ったほうがいい……と、ダメだ。血走った目のナギサは早足で人混みの中を進んでいく。

「いた! あの野郎、堂々とあんな所に……ナメやがって」

 アトールの城。たくさんの篝火に囲まれた城門の前におおがかりなライブのステージ会場が造られている。
 ステージ上にはドラムセットやらピアノ、どでかいスピーカー。多分願望者デザイアが出したものだろう。

だがナギサの目にそれは映っていない。城壁の上、テラス部分で優雅に見下ろしている男を睨みつけている。

 華叉丸だ。その姿を見るとナギサじゃなくてもカッとなる。
 わたしの歩く速度も速くなる。観客を押し退けながら前へ前へ。

 ワアアア、と急に歓声があがった。周りの観客が跳びはね、その動きにもみくちゃにされる。
 なんだ、何をそんなに興奮している──。
 ステージの上を見てみる。スポットライトに照らされた4人の男たち。何かのバンドのメンバーらしいが……。

 その中央にいる男──短髪に口ヒゲ。白いタンクトップで豪快に胸毛が飛び出している。
 わたしの頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。

《伝説のロックバンド、ドゥイーンのボーカル》アンディ・マーガリー。

 


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