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第2部 消えた志求磨
68 由佳の怒り
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華叉丸と城の最上部で対峙。
ヤツの剣はほとんど出払っている状態。
伊能と楊の姿が見えないのが気になる。どこかに潜んでいるかもしれない。
「伊能と楊はここにはおらぬ。我とそなたのジャマをする者はいない。今のところはな」
華叉丸はそう言って背中から一振りの剣を取り出し、床に突き刺した。
あれは……たしか《拳聖》ショウが変化したものだ。人に戻して戦わせないつもりか。
「この凍獄魔剣アイスブランドさえあればあとは不要……どちらにしろ由佳殿には勝ち目はない」
「だったら志求磨も元に戻して返せ。もう人質にする必要もないだろ」
「……いや、それはできぬ。あの者は今……」
今、なんだ。わたしは華叉丸の口が開くのを見つめる。
だが華叉丸はその先を語らない。コイツ……ふざけるな。
「どちらにしろお前を倒せば志求磨は戻ってくる。覚悟しろ」
柄に手をかけ、願望の力を高めた。華叉丸はフフフ、とカンに触る笑い方。
「《断ち斬る者》に変化しなくてもよいのか? そのままで我に勝てるとでも?」
華叉丸の言うとおりだ。相手は超越者。しかも魔王の剣まで持っている。
まだ完全に目覚めているわけじゃなさそうだが、離れていてもあの剣がヤバいというのは感覚でわかる。
《断ち斬る者》……たしかにあの状態なら勝てるかもしれない。でも前回のような暴走状態になったら……。
考えたくない。今度こそアルマたちに取り返しのつかないことをしてしまいそうだ。この華叉丸を目の前に、もうわたしは冷静さを失いつつあるのが何よりも怖い。
「このままで戦う。それでもわたしは負けない!」
「ならば参られよ。身をもってこの剣の恐ろしさを味わうがいい」
「シッ!」
──抜刀。刀から衝撃波を飛ばす技、太刀風。
バシイッ、とアイスブランドで弾かれた。だがそれは想定済み。
神速──床を滑るように移動。その間に納刀、接近しての抜刀。
「むっ!」
ガキッ、とこの直接攻撃も防がれた。だがわたしは即座に名刀変化。
脇差──名刀燕雀。
飛剣の技で低い位置から刀を飛ばす。
ゴッ、とこれは華叉丸の腹へまともに入った。
ヤツの身体が浮く。さらに飛剣。
空中で刀が舞い、ドガガガガッ、と華叉丸に連撃。
「ぬううううっ!」
服の下に着込んでいる甲冑に守られているな。
ある程度ダメージは与えているようだが。
ここでさらに名刀変化。
大太刀──鋼牙。
浮いたヤツめがけ、上段から振り下ろす。
まともに入った。ドキャッ、と床に叩きつけられ華叉丸はバウンド。また宙に浮いた。
「ぐうっ、おのれっ」
華叉丸はわたしの追撃を防ごうと無理な体勢から剣を突き出してきた。しかし。
「しまっ──」
わたしはすでに納刀し、名刀変化していた。
打刀──名刀臥竜。
カウンターの居合いの一撃が華叉丸を打ち上げる。そして落下してくる間にわたしは再び納刀。グウゥッ、と溜めるように身体をひねる。
眼前まで落ちてきた時に2度目の抜刀。
雷の音とともにヤツは吹っ飛んで城壁に叩きつけられた。
華叉丸の上半身がダランと城の外側に落ちかけている。まさか死んではいないだろうが、意識は無いのかもしれない。
憎い相手だがこのまま城の上から落ちるのを見ているわけにはいかない。
わたしは名刀変化を解除し、ヤツに駆け足で近付いた。
「なるほど……怒りの力というわけか。そなたの潜在的な強さには本当に感心させられる」
ぐうん、と上半身をもたげて華叉丸が言った。
わたしは急ブレーキ。
そんなバカな……飛剣に斬壊、逆鱗双破。3つのフォーム技をまともに受けて動けるだと……?
「驚くことではない。このアイスブランドの加護によってダメージが軽減されているだけのこと。この剣は……魔王はすでに完全に目覚めている」
「なんだと……」
「我がなんのためにこの地に来たと思う? この剣を目覚めさせるには願望の力が必要。そしてその方法は歌によって力を注入させるのが最も効果的であったのだ」
「歌……まさか」
「そう、そなたらの仲間の歌も利用させてもらった。皮肉なものよな。我を追いつめるつもりが、逆に手助けをしてしまうとはな」
華叉丸の身体がフワリと浮き、白い波動がゴッ、と放たれた。
ヤツを中心に城が凍りついていく。
これが……魔王の、アイスブランドの力。
「理解できたか、由佳殿。世界を統べることができるのはこのような力だ。いかなる願望者、魔物であれこの力の前には無力。シエラ=イデアルの統治者はナギサ公ではない。《覇王》の意志を継ぐのは我こそがふさわしい」
「ちがうっ、お前は《覇王》のことなんてなんにも分かってない。あの男はたしかに強かったし、強引でいい加減なところもあったけど……この世界に来た願望者のことを本当に考えていた。元の世界ではじき出されたヤツらの居場所を作ってやりたいって。後継者にナギサを選んだのも息子だからじゃない。ナギサは──」
まだ統治者としては頼りないかもしれない。でも各地の領主の方針を尊重しているし、民衆の支持も高いと聞いている。
「分かっておらぬのはそなたのほうだ、由佳殿。領主も民衆も新たに力を持つ者が現れればそちらへなびく。この不安定な世界、シエラ=イデアルならなおさらのこと。そして──」
華叉丸はこちらに背を向けた。
遠い夜空の向こうを眺めている。あっちは……旧王都の方角だ。
なんだ……なんかあっちの空が明るくなってる気がする。
「魔王の力が完全に目覚めたということはそれを阻止しようとする存在も降臨するということ。そなたも見たことがあるのだろう。《女神》シエラ=イデアルの姿を」
ヤツの剣はほとんど出払っている状態。
伊能と楊の姿が見えないのが気になる。どこかに潜んでいるかもしれない。
「伊能と楊はここにはおらぬ。我とそなたのジャマをする者はいない。今のところはな」
華叉丸はそう言って背中から一振りの剣を取り出し、床に突き刺した。
あれは……たしか《拳聖》ショウが変化したものだ。人に戻して戦わせないつもりか。
「この凍獄魔剣アイスブランドさえあればあとは不要……どちらにしろ由佳殿には勝ち目はない」
「だったら志求磨も元に戻して返せ。もう人質にする必要もないだろ」
「……いや、それはできぬ。あの者は今……」
今、なんだ。わたしは華叉丸の口が開くのを見つめる。
だが華叉丸はその先を語らない。コイツ……ふざけるな。
「どちらにしろお前を倒せば志求磨は戻ってくる。覚悟しろ」
柄に手をかけ、願望の力を高めた。華叉丸はフフフ、とカンに触る笑い方。
「《断ち斬る者》に変化しなくてもよいのか? そのままで我に勝てるとでも?」
華叉丸の言うとおりだ。相手は超越者。しかも魔王の剣まで持っている。
まだ完全に目覚めているわけじゃなさそうだが、離れていてもあの剣がヤバいというのは感覚でわかる。
《断ち斬る者》……たしかにあの状態なら勝てるかもしれない。でも前回のような暴走状態になったら……。
考えたくない。今度こそアルマたちに取り返しのつかないことをしてしまいそうだ。この華叉丸を目の前に、もうわたしは冷静さを失いつつあるのが何よりも怖い。
「このままで戦う。それでもわたしは負けない!」
「ならば参られよ。身をもってこの剣の恐ろしさを味わうがいい」
「シッ!」
──抜刀。刀から衝撃波を飛ばす技、太刀風。
バシイッ、とアイスブランドで弾かれた。だがそれは想定済み。
神速──床を滑るように移動。その間に納刀、接近しての抜刀。
「むっ!」
ガキッ、とこの直接攻撃も防がれた。だがわたしは即座に名刀変化。
脇差──名刀燕雀。
飛剣の技で低い位置から刀を飛ばす。
ゴッ、とこれは華叉丸の腹へまともに入った。
ヤツの身体が浮く。さらに飛剣。
空中で刀が舞い、ドガガガガッ、と華叉丸に連撃。
「ぬううううっ!」
服の下に着込んでいる甲冑に守られているな。
ある程度ダメージは与えているようだが。
ここでさらに名刀変化。
大太刀──鋼牙。
浮いたヤツめがけ、上段から振り下ろす。
まともに入った。ドキャッ、と床に叩きつけられ華叉丸はバウンド。また宙に浮いた。
「ぐうっ、おのれっ」
華叉丸はわたしの追撃を防ごうと無理な体勢から剣を突き出してきた。しかし。
「しまっ──」
わたしはすでに納刀し、名刀変化していた。
打刀──名刀臥竜。
カウンターの居合いの一撃が華叉丸を打ち上げる。そして落下してくる間にわたしは再び納刀。グウゥッ、と溜めるように身体をひねる。
眼前まで落ちてきた時に2度目の抜刀。
雷の音とともにヤツは吹っ飛んで城壁に叩きつけられた。
華叉丸の上半身がダランと城の外側に落ちかけている。まさか死んではいないだろうが、意識は無いのかもしれない。
憎い相手だがこのまま城の上から落ちるのを見ているわけにはいかない。
わたしは名刀変化を解除し、ヤツに駆け足で近付いた。
「なるほど……怒りの力というわけか。そなたの潜在的な強さには本当に感心させられる」
ぐうん、と上半身をもたげて華叉丸が言った。
わたしは急ブレーキ。
そんなバカな……飛剣に斬壊、逆鱗双破。3つのフォーム技をまともに受けて動けるだと……?
「驚くことではない。このアイスブランドの加護によってダメージが軽減されているだけのこと。この剣は……魔王はすでに完全に目覚めている」
「なんだと……」
「我がなんのためにこの地に来たと思う? この剣を目覚めさせるには願望の力が必要。そしてその方法は歌によって力を注入させるのが最も効果的であったのだ」
「歌……まさか」
「そう、そなたらの仲間の歌も利用させてもらった。皮肉なものよな。我を追いつめるつもりが、逆に手助けをしてしまうとはな」
華叉丸の身体がフワリと浮き、白い波動がゴッ、と放たれた。
ヤツを中心に城が凍りついていく。
これが……魔王の、アイスブランドの力。
「理解できたか、由佳殿。世界を統べることができるのはこのような力だ。いかなる願望者、魔物であれこの力の前には無力。シエラ=イデアルの統治者はナギサ公ではない。《覇王》の意志を継ぐのは我こそがふさわしい」
「ちがうっ、お前は《覇王》のことなんてなんにも分かってない。あの男はたしかに強かったし、強引でいい加減なところもあったけど……この世界に来た願望者のことを本当に考えていた。元の世界ではじき出されたヤツらの居場所を作ってやりたいって。後継者にナギサを選んだのも息子だからじゃない。ナギサは──」
まだ統治者としては頼りないかもしれない。でも各地の領主の方針を尊重しているし、民衆の支持も高いと聞いている。
「分かっておらぬのはそなたのほうだ、由佳殿。領主も民衆も新たに力を持つ者が現れればそちらへなびく。この不安定な世界、シエラ=イデアルならなおさらのこと。そして──」
華叉丸はこちらに背を向けた。
遠い夜空の向こうを眺めている。あっちは……旧王都の方角だ。
なんだ……なんかあっちの空が明るくなってる気がする。
「魔王の力が完全に目覚めたということはそれを阻止しようとする存在も降臨するということ。そなたも見たことがあるのだろう。《女神》シエラ=イデアルの姿を」
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