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第2部 消えた志求磨
69 女神シエラ=イデアル降臨(カーラ・ヴィジェ=ルブラン視点)
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空が昼間のように明るい。
宮殿のほう──この願望の力は。
「シエラ……あなたなの? あなたが
休眠期から目覚めたということは……」
魔王の力が完全に甦った。由佳ちゃんが華叉丸を止められなかったということになる。
「それにしてもこんないきなり……急すぎる。外部からの干渉があったとしか思えない」
「なんかヤバそうだね。ここはわたしに任せて行ってきなよ。アンタじゃないと解決できないんでしょ?」
《神医》日之影宵子が3人の治療の手を休めずに言ってきた。
ミリアム、レオニード、クレイグ。3人の治療は予想以上に難航している。
傷は治癒魔法をかけてもすぐに開く。
《断ち斬る者》に斬られた傷は日之影宵子の丁寧な手作業による治療のほうが効果的かもしれない。
「ごめんなさい、あとのことは頼むわね。わたしは宮殿のほうへ行ってくるから」
3人の治療は日之影宵子に任せ、わたしは診療所の外へ。
飛翔の魔法を用い、一気に宮殿まで。
街の人々や宮殿の兵士が何事かと外に出てきている。
空から宮殿の広場中央に向けて光の帯。
その中にはひとりの少女。ゆっくりと降りてくる。
歳は14ぐらい。腰以上ある長い赤髪に金色の瞳。シンプルな白いワンピースに裸足。
間違いない。《女神》《世界の根源》《原初の願望者》シエラ=イデアル。
葉桜溢忌の時とは違う。完全に目覚めている。
宮殿の広場にはたくさんの野次馬が集まってきた。
ふわりと降り立った少女に、人々は口々に噂する。
「あの子、空から降りてきたよな……まさか天女とか神様とか……」
「うちのジイさんがこの世界には《女神》がいるって言ってたけど、まさかな。ただの願望者じゃないのか」
「すごくキレイな子……。他の願望者とは雰囲気が違う」
空からの光はすうっと消えた。
辺りは暗くなるが、再び光。シエラに向けてスポットライトのようにパパパッと照らす。
シエラはワンピースの裾をつまみ、すっとお辞儀。
そして両手にジャカッと何かを取り出してニチャア、と笑う。あれは──マラカス?
「ミュージック、スタートォッ!」
シエラが叫び、歩きながらシャッ、シャッ、とマラカスを振りだした。
ズチャズチャズチャズチャ、とどこからともなくノリのいいラテン系の音楽が流れてくる。
その音楽に合わせてシエラはマラカスを振りながら大声で歌いだした。
「うっ、うっ、うっ、女神の復活! ホントに復活! 世界を救うために~。わたしは女神、カワイイ女神。万能な女神~っ」
お世辞にも上手いとは言えない音程の外れた歌声に奇妙なダンス。歌詞も適当っぽくて時々つっかえている。
「魔王が甦ったってことは~、世界の危機~。今までも勇者とともに世界を救った女神が活躍するで~あろう~。さてさて~、今のうちにひれ伏して崇めるなり貢ぎ物をするなり早い者勝ち~、女神の加護を得られるで~あろう~」
周囲をチラチラ見ながらシエラは反応を待っている。
野次馬の人々は……見飽きたのか、ぞろぞろと帰りだした。人騒がせなヤツだ、ただの目立ちがりな迷惑な願望者だった、とか文句を言いながら。
ぽつんと残されたシエラはマラカスを握ったままブルブル震えている。
「なんで……なんでいっつもシエラが《女神》って言っても誰も信じないんじゃーーっ! せっかく久しぶりに完全復活したってのに!」
マラカスを放り投げ、地面を転がりながら、あァァァんまりだァァアァと絶叫。
……あいかわらず覚醒したシエラは元気でテンション高くて、奔放。その姿に安心した。
シエラはわたしの姿に気付くと、起き上がって歓喜の声をあげた。
「お、おお~! カーラ! やっぱりシエラの復活に真っ先に駆けつけてくれるのはカーラだと信じてたよ」
笑顔で駆け寄ってくる。しかし突然その姿が消えた。目の前で。
「シエラ?」
呼びかけるが返事はない。
まさか……わたしが解呪の魔法をシエラのいた辺りにかけると、ぶわっと再び姿を現した。
現れたのはシエラだけじゃない。眼帯に着流し姿の男──《人斬り》伊能九十朗。
伊能はシエラの口をふさぎ、さらに剣の刃を首に押し当てている。
「おっと……動くなよ、カーラ。うかつに動くとこの駄女神の命はねえぞ」
伊能は手に持った剣に力を込める。
シエラの首すじからわずかな血が流れた。
「伊能……どうしてここに。あなたは華叉丸と行動を共にしていたはず」
「ほう……俺のことも思い出したのか。だったら話が早い。俺の本命はこっちだったってわけさ。その理由も分かるよな、今のアンタなら」
伊能九十朗……わたしがマスターだったギルド【ブルーデモンズ】の元副長。
世界の安定を目指すためだと葉桜溢忌をそそのかし、ブクリエの領主にまつりあげた。
だが方針の違いから仲違い。殺されたが、擬死というスキルを使って生き延びていた。
その後長い時を経て華叉丸に接近。天塚志求磨を捕らえ、その剣で魔王も手中に。
分からない……この男の目的。
そういえば伊能が持っている武器……いつもの仕込み杖じゃない。あの白銀の光を放つ剣は……。
「あ~、やっぱ20年前までか。それ以前のことは覚えてねーんだな。アンタはこの《女神》シエラ=イデアルを除けば最古の願望者のひとりだった。まさに神にも等しい存在だったんだよ」
「神……? わたしが?」
「ああ。この世界のあるべき姿を取り戻す。魔王の封印すら解いたこの剣なら可能だ。アンタが記憶を犠牲にして隔絶したもうひとつの世界──」
伊能はシエラを突き飛ばし、その心臓めがけて剣を突き出す。
あの剣──志求磨君の変化したもの。そしてあの光は消失の力。
この世界そのものであるシエラがその剣で貫かれたら──。
宮殿のほう──この願望の力は。
「シエラ……あなたなの? あなたが
休眠期から目覚めたということは……」
魔王の力が完全に甦った。由佳ちゃんが華叉丸を止められなかったということになる。
「それにしてもこんないきなり……急すぎる。外部からの干渉があったとしか思えない」
「なんかヤバそうだね。ここはわたしに任せて行ってきなよ。アンタじゃないと解決できないんでしょ?」
《神医》日之影宵子が3人の治療の手を休めずに言ってきた。
ミリアム、レオニード、クレイグ。3人の治療は予想以上に難航している。
傷は治癒魔法をかけてもすぐに開く。
《断ち斬る者》に斬られた傷は日之影宵子の丁寧な手作業による治療のほうが効果的かもしれない。
「ごめんなさい、あとのことは頼むわね。わたしは宮殿のほうへ行ってくるから」
3人の治療は日之影宵子に任せ、わたしは診療所の外へ。
飛翔の魔法を用い、一気に宮殿まで。
街の人々や宮殿の兵士が何事かと外に出てきている。
空から宮殿の広場中央に向けて光の帯。
その中にはひとりの少女。ゆっくりと降りてくる。
歳は14ぐらい。腰以上ある長い赤髪に金色の瞳。シンプルな白いワンピースに裸足。
間違いない。《女神》《世界の根源》《原初の願望者》シエラ=イデアル。
葉桜溢忌の時とは違う。完全に目覚めている。
宮殿の広場にはたくさんの野次馬が集まってきた。
ふわりと降り立った少女に、人々は口々に噂する。
「あの子、空から降りてきたよな……まさか天女とか神様とか……」
「うちのジイさんがこの世界には《女神》がいるって言ってたけど、まさかな。ただの願望者じゃないのか」
「すごくキレイな子……。他の願望者とは雰囲気が違う」
空からの光はすうっと消えた。
辺りは暗くなるが、再び光。シエラに向けてスポットライトのようにパパパッと照らす。
シエラはワンピースの裾をつまみ、すっとお辞儀。
そして両手にジャカッと何かを取り出してニチャア、と笑う。あれは──マラカス?
「ミュージック、スタートォッ!」
シエラが叫び、歩きながらシャッ、シャッ、とマラカスを振りだした。
ズチャズチャズチャズチャ、とどこからともなくノリのいいラテン系の音楽が流れてくる。
その音楽に合わせてシエラはマラカスを振りながら大声で歌いだした。
「うっ、うっ、うっ、女神の復活! ホントに復活! 世界を救うために~。わたしは女神、カワイイ女神。万能な女神~っ」
お世辞にも上手いとは言えない音程の外れた歌声に奇妙なダンス。歌詞も適当っぽくて時々つっかえている。
「魔王が甦ったってことは~、世界の危機~。今までも勇者とともに世界を救った女神が活躍するで~あろう~。さてさて~、今のうちにひれ伏して崇めるなり貢ぎ物をするなり早い者勝ち~、女神の加護を得られるで~あろう~」
周囲をチラチラ見ながらシエラは反応を待っている。
野次馬の人々は……見飽きたのか、ぞろぞろと帰りだした。人騒がせなヤツだ、ただの目立ちがりな迷惑な願望者だった、とか文句を言いながら。
ぽつんと残されたシエラはマラカスを握ったままブルブル震えている。
「なんで……なんでいっつもシエラが《女神》って言っても誰も信じないんじゃーーっ! せっかく久しぶりに完全復活したってのに!」
マラカスを放り投げ、地面を転がりながら、あァァァんまりだァァアァと絶叫。
……あいかわらず覚醒したシエラは元気でテンション高くて、奔放。その姿に安心した。
シエラはわたしの姿に気付くと、起き上がって歓喜の声をあげた。
「お、おお~! カーラ! やっぱりシエラの復活に真っ先に駆けつけてくれるのはカーラだと信じてたよ」
笑顔で駆け寄ってくる。しかし突然その姿が消えた。目の前で。
「シエラ?」
呼びかけるが返事はない。
まさか……わたしが解呪の魔法をシエラのいた辺りにかけると、ぶわっと再び姿を現した。
現れたのはシエラだけじゃない。眼帯に着流し姿の男──《人斬り》伊能九十朗。
伊能はシエラの口をふさぎ、さらに剣の刃を首に押し当てている。
「おっと……動くなよ、カーラ。うかつに動くとこの駄女神の命はねえぞ」
伊能は手に持った剣に力を込める。
シエラの首すじからわずかな血が流れた。
「伊能……どうしてここに。あなたは華叉丸と行動を共にしていたはず」
「ほう……俺のことも思い出したのか。だったら話が早い。俺の本命はこっちだったってわけさ。その理由も分かるよな、今のアンタなら」
伊能九十朗……わたしがマスターだったギルド【ブルーデモンズ】の元副長。
世界の安定を目指すためだと葉桜溢忌をそそのかし、ブクリエの領主にまつりあげた。
だが方針の違いから仲違い。殺されたが、擬死というスキルを使って生き延びていた。
その後長い時を経て華叉丸に接近。天塚志求磨を捕らえ、その剣で魔王も手中に。
分からない……この男の目的。
そういえば伊能が持っている武器……いつもの仕込み杖じゃない。あの白銀の光を放つ剣は……。
「あ~、やっぱ20年前までか。それ以前のことは覚えてねーんだな。アンタはこの《女神》シエラ=イデアルを除けば最古の願望者のひとりだった。まさに神にも等しい存在だったんだよ」
「神……? わたしが?」
「ああ。この世界のあるべき姿を取り戻す。魔王の封印すら解いたこの剣なら可能だ。アンタが記憶を犠牲にして隔絶したもうひとつの世界──」
伊能はシエラを突き飛ばし、その心臓めがけて剣を突き出す。
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この世界そのものであるシエラがその剣で貫かれたら──。
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