異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
177 / 185
第2部 消えた志求磨

69 女神シエラ=イデアル降臨(カーラ・ヴィジェ=ルブラン視点)

しおりを挟む
 空が昼間のように明るい。
 宮殿のほう──この願望の力は。

「シエラ……あなたなの? あなたが
休眠期から目覚めたということは……」

 魔王の力が完全に甦った。由佳ちゃんが華叉丸かしゃまるを止められなかったということになる。
 
「それにしてもこんないきなり……急すぎる。外部からの干渉があったとしか思えない」

「なんかヤバそうだね。ここはわたしに任せて行ってきなよ。アンタじゃないと解決できないんでしょ?」

《神医》日之影宵子が3人の治療の手を休めずに言ってきた。

 ミリアム、レオニード、クレイグ。3人の治療は予想以上に難航している。
 傷は治癒魔法をかけてもすぐに開く。
《断ち斬る者》に斬られた傷は日之影宵子の丁寧な手作業による治療のほうが効果的かもしれない。

「ごめんなさい、あとのことは頼むわね。わたしは宮殿のほうへ行ってくるから」

 3人の治療は日之影宵子に任せ、わたしは診療所の外へ。

 飛翔の魔法を用い、一気に宮殿まで。
 街の人々や宮殿の兵士が何事かと外に出てきている。

 空から宮殿の広場中央に向けて光の帯。
 その中にはひとりの少女。ゆっくりと降りてくる。

 歳は14ぐらい。腰以上ある長い赤髪に金色の瞳。シンプルな白いワンピースに裸足。
 間違いない。《女神》《世界の根源》《原初の願望者》シエラ=イデアル。

 葉桜溢忌の時とは違う。完全に目覚めている。
 宮殿の広場にはたくさんの野次馬が集まってきた。

 ふわりと降り立った少女に、人々は口々に噂する。

「あの子、空から降りてきたよな……まさか天女とか神様とか……」

「うちのジイさんがこの世界には《女神》がいるって言ってたけど、まさかな。ただの願望者デザイアじゃないのか」

「すごくキレイな子……。他の願望者デザイアとは雰囲気が違う」

 空からの光はすうっと消えた。
 辺りは暗くなるが、再び光。シエラに向けてスポットライトのようにパパパッと照らす。

 シエラはワンピースの裾をつまみ、すっとお辞儀。
 そして両手にジャカッと何かを取り出してニチャア、と笑う。あれは──マラカス?

「ミュージック、スタートォッ!」

 シエラが叫び、歩きながらシャッ、シャッ、とマラカスを振りだした。

 ズチャズチャズチャズチャ、とどこからともなくノリのいいラテン系の音楽が流れてくる。
 その音楽に合わせてシエラはマラカスを振りながら大声で歌いだした。

「うっ、うっ、うっ、女神の復活! ホントに復活! 世界を救うために~。わたしは女神、カワイイ女神。万能な女神~っ」

 お世辞にも上手いとは言えない音程の外れた歌声に奇妙なダンス。歌詞も適当っぽくて時々つっかえている。

「魔王が甦ったってことは~、世界の危機~。今までも勇者とともに世界を救った女神が活躍するで~あろう~。さてさて~、今のうちにひれ伏して崇めるなり貢ぎ物をするなり早い者勝ち~、女神の加護を得られるで~あろう~」

 周囲をチラチラ見ながらシエラは反応を待っている。
 野次馬の人々は……見飽きたのか、ぞろぞろと帰りだした。人騒がせなヤツだ、ただの目立ちがりな迷惑な願望者だった、とか文句を言いながら。

 ぽつんと残されたシエラはマラカスを握ったままブルブル震えている。

「なんで……なんでいっつもシエラが《女神》って言っても誰も信じないんじゃーーっ! せっかく久しぶりに完全復活したってのに!」

 マラカスを放り投げ、地面を転がりながら、あァァァんまりだァァアァと絶叫。

……あいかわらず覚醒したシエラは元気でテンション高くて、奔放。その姿に安心した。

 シエラはわたしの姿に気付くと、起き上がって歓喜の声をあげた。

「お、おお~! カーラ! やっぱりシエラの復活に真っ先に駆けつけてくれるのはカーラだと信じてたよ」
 
 笑顔で駆け寄ってくる。しかし突然その姿が消えた。目の前で。

「シエラ?」

 呼びかけるが返事はない。

 まさか……わたしが解呪ディスペルの魔法をシエラのいた辺りにかけると、ぶわっと再び姿を現した。
 現れたのはシエラだけじゃない。眼帯に着流し姿の男──《人斬り》伊能九十朗いのうくじゅうろう

 伊能はシエラの口をふさぎ、さらに剣の刃を首に押し当てている。

「おっと……動くなよ、カーラ。うかつに動くとこの駄女神の命はねえぞ」

 伊能は手に持った剣に力を込める。
 シエラの首すじからわずかな血が流れた。
 
「伊能……どうしてここに。あなたは華叉丸と行動を共にしていたはず」

「ほう……俺のことも思い出したのか。だったら話が早い。俺の本命はこっちだったってわけさ。その理由も分かるよな、今のアンタなら」

 伊能九十朗……わたしがマスターだったギルド【ブルーデモンズ】の元副長。
 世界の安定を目指すためだと葉桜溢忌をそそのかし、ブクリエの領主にまつりあげた。
 
 だが方針の違いから仲違い。殺されたが、擬死というスキルを使って生き延びていた。

 その後長い時を経て華叉丸に接近。天塚志求磨あまつかしぐまを捕らえ、その剣で魔王も手中に。

 分からない……この男の目的。
 そういえば伊能が持っている武器……いつもの仕込み杖じゃない。あの白銀の光を放つ剣は……。

「あ~、やっぱ20年前までか。それ以前のことは覚えてねーんだな。アンタはこの《女神》シエラ=イデアルを除けば最古の願望者デザイアのひとりだった。まさに神にも等しい存在だったんだよ」
 
「神……? わたしが?」

「ああ。この世界のあるべき姿を取り戻す。魔王の封印すら解いたこの剣なら可能だ。アンタが記憶を犠牲にして隔絶したもうひとつの世界──」

 伊能はシエラを突き飛ばし、その心臓めがけて剣を突き出す。
 あの剣──志求磨君の変化したもの。そしてあの光は消失ロストの力。

 この世界そのものであるシエラがその剣で貫かれたら──。

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...